艦これ海上護衛戦   作:INtention

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二日続けての投稿です。
これくらい早く投稿出来れば良いのですが、そんなにスラスラ文章書けないです。何度も推敲しますし。(文章が直っているとは言っていない)


第二四話 襲撃者

翌日、部屋に行くと名取はスーツ姿で出てきた。何となく私服姿を想像していたが、誰も私服で来るとは言っていない。変な期待をした自分を恥じる事にした。最近の女性会社員がよく着るオフィスカジュアルでは無く、リクルートスーツのような黒いスーツだ。バッグだけはお洒落していたが、入院生活するには荷物が少なすぎる。

病院の裏口へ向かいながら聞いてみると、荷物は別で横須賀に送るそうだ。

 

急患用の出入り口には、白い普通のセダンが止まっていた。スーツの男が辺りを確認していたが、こちらに気が付くと、小走りで近付いて来た。

 

「お車の用意は出来ております!」

 

スーツを来てはいるが、髪が角刈りで姿勢が良過ぎるので、一目で隊員と分かる。

 

「後ろへどうぞ」

「ありがとう」

 

名取を先に乗せ、俺も隣へ乗り込む。

男は運転席に乗ると、すぐに車を発進させた。

 

「お二人を佐世保駅にお送り致します。一般の人と同じ特急に乗られると思いますが、くれぐれも気が付かれ無い様にして下さい」

「分かった」

 

厳しい口調に訝しみながらも頷いた。三日月と出張した事もあるが、ここまで厳重では無かった。

巡洋艦だからなのか。隣をちらりと見たが、名取は窓の外じっと見ていた。

 

佐世保駅に到着すると、用意していた切符で中に入り、博多行の"スーパーみどり"へ乗り込んだ。最後部に繋がっているグリーン車はあまり人気が無い。隠密の旅には丁度良さそうだ。

"スーパーみどり"は佐世保線を進み、武雄温泉から新鳥栖までは長崎新幹線と同じ線路を走るミニ新幹線だ。佐世保勤務の同期が便利だと評してしたが乗るのは初めてである。博多には昼頃に到着するとの事なので、それまでゆっくり出来るだろう。

 

車内では名取と取り留めの無い会話をしたりしていたが、時折辺りを見渡して落ち着きが無かった。何かを探している様な仕草を見せる。それとなく聞いても何も無いとしか言わなかった。

列車は武雄温泉を過ぎ、加速を始めた。明らかに早く流れる車窓を見ていると、名取が小声で俺を呼んだ。

 

「提督さん」

「何だ」

「やっぱりいます」

「いる?何が」

「こちらを観察している人が4人はいます」

「何だって?」

 

名取は口に指を当てて、大声を出さない様にジェスチャーすると、バッグから黒い物体を取り出した。

 

「え。これは…」

 

自衛軍支給の9mm拳銃ではない。種類は分からないが俺が持っている銃より弾の数が多そうだ。艦娘は武器を背負って戦うが、陸戦のイメージは無かった。

呆気に取られる俺を尻目に、名取はせっせと弾を込め始めた。先程までのおどおどした雰囲気は無い。銃口に消音器を取り付けると、小さく呟いた。

 

「提督は私がお守りします」

 

名取は拳銃を懐に仕舞うと、スマホを取り出し、何処かにメールをし始めた。

俺は固まっていた体を動かすと、上級将校に配られている拳銃を取り出し、ゆっくりと弾を薬室に送り込んだ。安全装備がかかっている事を確認してホルスターに戻す。まさか訓練以外で銃を使う機会が来るとは。普段は暴発しない様に、薬室に弾を送り込まないが、今回はそうも言っていられない様だ。

今日は呉に向かい、第二機動艦隊の大澤提督と会う予定である。無事に辿り着けるだろうか。

 

 

 

腕時計を見ていた名取が、突如降りると言い始めた。気分でも悪くなったのかと思ったが、どうやら不審者から逃げる様だ。半信半疑ながらも、兵器として生まれた名取の勘を信じる事にした。次の新幹線に乗ったとしても十分間に合うくらいの余裕はある。

網棚から鞄を下ろすと、二人でデッキへ向かった。

さり気なく周囲の乗客を見るが、サラリーマンと観光客ばかり。不審な人物かは判別出来なかった。

 

デッキへ出た所で、新鳥栖到着を告げるアナウンスが流れる。次の新幹線を調べようと、スマホを取り出していると、客室から二人の外国人観光客らしい男達が出てきた。二人は名取に目を向けると、話し掛けて来た。

 

「あなたは人間ですか?」

「え?な、何ですか」

 

いきなり人間かと聞くとはどういう状況だろうか。俺と名取は二人顔を見合わせて困惑していると、男は言葉を変えた。

 

「では質問を変える。お前、日本軍の兵器だろう」

「ち、違います」

 

変な人だと思っていたが、彼女が艦娘だと見抜いたのか。俺は危険を感じ、スマホを仕舞って彼女を後ろに下げようとした。

だが次の瞬間、男は拳銃を名取に向けていた。それに反応して名取もすばやく拳銃を向ける。銃を向け合う二人。俺も慌てて銃を引き抜く。

 

別動(ビェドン)!」

 

引き抜いた所で、もう一人に銃を向けられ、静止する。日本語では無かった気がするが、言いたい事は分かった。俺は拳銃を抜き、銃口を床に向けた状態で固まった。ゆっくり顔を動かして二人を見る。

 

「お前は深海(シェンハイ)と同類だ」

「どういう事ですか」

「とぼけるな!お前らの悪行に気が付かないとでも思ったか!」

「覚えがありません」

「黄海や南方で祖国が橋頭堡を築くのを阻止しているのは分かっている」

「阻止?どういう事だ」

 

言い掛かりも良い所だ。そんな被害妄想など誰が信じるものか。

 

「お前は祖国の背中から銃を向けたのだ!」

「し、知りません」

 

男はあれこれまくし立てるが、名取は否定を続ける。その後ろ姿からは先程の弱々しさは感じられない。

一向に応じない名取に、徐々に二人が苛立ちを募らせて行くのが分かった。キレられても困るのだが、止める方法が思い付かない。

こうしている間にも、新幹線は減速する。駅に到着してしまえば、乗り降りする乗客に気が付かれるだろう。ここは時間稼ぎが最善か?

 

「…祖国及び人類のため、お前達艦娘を国連に引き渡す必要がある」

「どうしてですか…」

「皆が苦しんでいる中で小日本だけが平和に暮しているのはおかしいと思わないか?力は平等であるべきだ。なぜ小日本だけが敵に対抗出来るのか、世界に知らしめる必要がある」

「ぼ、防衛戦略については防衛…いや国防省に言ってくれ」

「お前は黙っていろ。俺はこの女に言っている。この場で国連軍に降伏しろ!」

 

男は何かに取り憑かれた様に降伏を迫る。俺は相手を怒らせない様、努めて冷静に話し掛けた。

 

「君らが誰かは分からない。平和についても君らの言う通りかも知れない。だが俺達一般人では無く、政府か自衛軍に言ってくれないか。頼む」

「お前らのどこが一般人だ」

「…こ、降伏したら、どうなるんですか」

 

名取が恐る恐る聞くと、男はさも当然の様に答えた。

 

「国連安保理で審議されるまで、祖国へ来てもらう」

 

なるほど。その祖国とやらに技術移転を求めようとする魂胆だろうか。

艦娘の技術はトップシークレットだ。日米や欧州の一部など、限られた国しか開発に成功していないと聞く。その中で、艦娘部隊だけで通常戦力より上回る規模になるのは日本だけ。この戦争が始まるまでは海軍力を争っていた米中も、通常兵器の大消耗によって大きく版図を減らしている。艦娘という新兵器を導入しようとするのは当然かも知れない。

いや、今背景を考えても仕方が無い。銃を向けられているこの現状をどうにかしなければ。目だけで相方を見ると、名取は決意を込めた目で相手を睨んでいた。

 

「残念ですが、あなた達の要望を呑む事は出来ません」

「名取!?」

「愚かな選択だな。では死んでもらうしか無い」

 

名取の一言で交渉は決裂した。俺が考えた時間稼ぎ作戦も失敗だ。

交渉に応じない相手には用は無いのか、名取を狙っていた男が銃の引き金を引く。

銃声と共にドアの窓ガラスが砕け、名取の体が傾いた。

思わず声を上げようとしたが、撃った男の方が銃を落とし、肩を抑えて崩れた。

壁にもたれた格好で、名取はつぶやく。

 

「殺気が丸わかりです。相手が兵器である事を考えるべきでしたね」

 

窓ガラスは俺達の後ろでは無く、男の後ろにあったドアの物が割れている。

何が起きたか理解が追いつかずに固まる俺。名取は俺と同じく呆気に取られている別の男の腕を蹴り上げ、肘鉄を食らわせる。一歩遅れた銃撃は照準が逸れ、天井へ突き刺さった。足を払われた男はそのまま仰向けに倒れて動かなくなった。肘鉄がみぞおちに入ったのか、気を失っている。

 

「な、何が…」

 

拳銃を引き抜いた態勢から一歩も動けないまま、戦いは終わった。

銃声が聞こえたのか、車内から男二人がデッキに駆け込んで来た。

 

「どうした!?」

「撃たれたのか」

「自衛官さん。この人達に襲われました」

 

名取は男を見上げ、男達を自衛官と呼んだ。

 

「自衛官?」

「はい。警務官の方だと思います」

 

スーツ姿の二人は驚きを隠さない。

 

「なぜそれを」

「姿勢や目線など色々です」

「それだけで…?」

「私をつけて来てましたし、普通の人では無いと思いますが?」

「……」

 

図星の様だ。二人は目の前で血を流して倒れている人を優勢するためか、あっさりと警務官である事を明かした。

 

「これは、き…君が撃ったのでは無いのか?」

 

警務官は肩が血で染まった観光客を指差して言う。名取が口を開く前に俺が叫んだ。

 

「いえ、襲われて私が彼と掴み合いをしている内にもう一人が撃ちました。私には当たらず、彼に当たったのです」

「では手に持っている9mm拳銃は何だ!?」

 

自衛官は今度は俺に質問して来る。

 

「それは…彼が倒れた後、咄嗟に取り出しましたが、撃つ前に彼女が倒してしまいまして」

「証拠はあるのか」

「証拠」

 

自衛官は俺の説明に眉を潜めた。

まずい。でまかせなので証拠は無い。だが、ここを切り抜けられなければ俺が撃った事になる。

俺が詰まっていると、名取が助け舟を出してくれた。

 

「彼が持ってる拳銃は1発も撃っていないはずです」

「そ、その通りです」

 

一応筋は通っている。二人は顔を見合わせ、考えを検討していた。

 

「調査のため、銃を押収しても?」

「問題ありません」

 

俺は警務官に拳銃を渡す。

 

「それと、この事を大事にして欲しく無いのですが」

「人が撃たれているのにか?」

「我が国の最重要機密である兵器が国内で国籍不明の武装勢力に殺されようとしたのですよ?何のためにつけて来たか知りませんが、あなた方が見張っていながら何も出来なかった事を報告しても構いません」

「……」

「数日で横須賀へ帰りますから、問い合わせは第七艦隊司令部へお願いします」

「…いいでしょう。分かりました」

 

納得はしていないだろうが、ここは勢いで押し切れた。撃たれた人を見て、動転しているのかも知れない。戦争中とは言え、本当に血を見た事がある人は少ないものだ。

強引な方法を採ったのは身元不明のまま逮捕されたくは無いからだ。国家機密の名取を警察に引き渡す訳にはいかない。

新幹線が停車し、扉が開くと先程の警務官の一人が飛び出して、駅員を呼ぶ。

平日昼間の新鳥栖駅は数人の乗客しかおらず、野次馬が寄ってくる事は無かった。

俺は名取を連れてホームへ降り立つ。

 

「これからどうするか…」

「間もなく反対側のホームに長崎行の新幹線が来ます。それに乗って下さい」

「長崎?」

「ええ。問題ありません」

 

銃撃事件が起きている時点で問題だが、不審者に気が付いて行動を起こした名取に従う事にした。

階段を登り降りして反対側のホームに来ると、上手い具合に長崎行の"かもめ"が滑り込んで来た。

新幹線の窓越しに反対側のホームを見ると、先程の"スーパーみどり"から担架に載せられた観光客が運ばれる所だった。罪悪感を感じるが、やらなければ死んでいたかも知れない。

 

俺達が乗り込んですぐに"かもめ"はすぐに発車した。自衛官の働きかは分からないが、全列車を止めるレベルでは無いと判断したようだ。窓ガラスが割れたドアの処置など、先程の列車が動き出すのはまだ時間がかかりそうだ。今は少しでも新鳥栖から離れたかったので、都合が良かった。

 

流れる車窓を眺めていると、気分が落ち着いて来た。頭も冷静になったのか、名取に助けてもらったお礼を言っていなかった事を思い出す。

 

「何とかなったな。さっきはありがとう。お陰で…」

 

黙って座っているかと思っていたら、名取は静かに涙を流していた。

思わず口を噤むと、俺に気が付いた名取が慌てて涙を拭ってから元気を見せた。

 

「な、何でしょう提督」

「ありがとう。君のお陰で助かったよ」

「いえ…無事で良かったです」

「まさか本当に付けられてるとは思わなかった」

「私もです…。いつかはこんな日が来るとは思ってましたけど…」

「え?」

「何でも…ありません」

「……」

 

銃撃戦で見せた凛々しい姿は心強かったが、涙を流す今の姿が本来の彼女なのだと思う。

彼女は先程、今日を予測していた様な発言をした。彼女がこれまでどのような任務を受けて来たかは分からないが、俺の様に正面から深海棲艦に立ち向かう戦歴では無かったのかも知れない。

彼女の提督としていつかは過去を知る機会があるはずだ。それまでは本人が口を開くまでは触れない事にした。

 

武雄温泉を過ぎても名取は足元を見つめていたため、元気を出して貰おうと思い、車内販売でアイスクリームを奢ったら「子供じゃないです」と怒られてしまった。

でも少し嬉しそうに食べていたので、買って良かったと思う。

やはり女の子には甘い物だな。それしか女の子への対処が分からないだけなのだが…。




仕事が忙しいのはともかく、休日についてはかなり艦これで埋まってました。
八景島瑞雲パラダイスに参加したり、春?イベを走ったり。改めて艦これというコンテンツは良いなと感じております。
その間小説はと言うと、バトルシーンが微妙だったので、何度も書き換えてました。バトルシーンって難しいですね。

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