艦これ海上護衛戦   作:INtention

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鳳翔ってお艦ポジションが確立されていますけど、声は意外と若いんですよね。
若妻なのに昭和感が良いのでしょうか?

私の友人は鳳翔改二を待っているようですが、廃艦ぎりぎりの老朽艦を近代化改装する意義はあるんですかね?天山でやっとなのに次世代艦載機を運用出来るとは思えません。
マジレスするなと言われそうですが(笑)


第四話 主力の余裕

翌日、朝刊を読みながらコーヒーを飲んでいると部下が機密電を持って来た。かなり分厚い。

発令者は空白だ。しかし心当たりがあるのは渡辺しかない。昨日に電話してから来るまでがかなり早いので事前に調べていたのかもしれない。

部下が下がった後に機密電を開き、情報ファイルと照らし合わせて確認してみた。

案の定、発令者は渡辺だった。見事に依頼した通りの情報が揃っている。これは頼まれた鉄輸送は確実に決めなければならないな。

 

さて、その情報を元に護衛範囲を決めよう。

現在東アジア諸国は北はベーリング海、南はインドネシアの南までを勢力圏としている。東はミッドウェーとクェぜリン、ラバウルのラインまでは確保している。

だが前線は優勢と言った程度で安定性はない。しかも当初は団結の動きがあったが利害の関係で各国バラバラにシーレーンを守っている。

外洋に出て積極的に軍を出しているのは日本、中華人民共和国、ロシア連邦、オーストラリアの四カ国だ。他に外洋海軍を持っている韓国、台湾、フィリピンなどがあるが当初はアメリカ軍を当てにして積極的に動いていたものの、アメリカ軍の撤退を期に被害が増加して引きこもっている。

艦隊保存主義と言った所だがそもそも敵が脅威に思っているか分からないので効果はないだろう。日本もその一国だったが艦娘の実用化に成功したので制海権を取り戻している。

太平洋が横断出来ない今、貿易は全てインド洋経由となっている。北極海航路はロシアが独占しているため使えない。

なので主な航路はシンガポールから本土となる。

シンガポールには第二艦隊がいるので第二・第四水雷戦隊が使える。それらは南シナ海で交代して台湾にいる第三水雷戦隊が本土まで守る。

行き帰りと別の船団の往復をしてもらい、それぞれ二つの駆逐隊でローテーションする。

そして大規模攻勢中はトラックの第六戦隊と、佐世保の第五水雷戦隊。

最初から暇そうな第五第六を使えば良さそうなものだが、何か別の任務で忙しいかも知れない。しかもそれにそちらに頼ってしまうと精鋭の第一から第四を使う必要が無くなってしまい、第五・第六が使えなかった場合に支障が出てしまう。

 

「こんな概要でどうだ」

「良いと思います」

 

俺がまとめた概要を保科参謀長に見せた。抜けは無いようだ。

 

「じゃあこれを連合艦隊に出して終わりかな」

「いえ、各艦隊が受け取るとは限りません。私達とは同列機関ですから」

「えぇ…」

 

一体どこで意地を張っているのか。

何か非常に面倒くさい事になりそうだ。

 

「各艦隊に認可を求めた方が良いかと」

「分かった。なら手土産も必要だな」

「あった方が上手く事が進むかも知れない」

 

我が艦隊が出せるのは護衛に必要な艦娘の燃料や弾薬の申請を増やすだけだ。

それらを多めに出すしか手はない。

 

「何か他のカードが欲しい所ですね」

「まあ今回は我慢しよう。えっと関わるのは第一から第四艦隊かな」

「そうですね」

「場所は?」

 

保科は資料のページを繰って確認する。

 

「第一がここ横須賀、第二が呉、第三が佐世保、第四がトラックですね」

「バラバラだなぁ」

「艦娘の数が多いので分散させてます」

「なるほど。では第一へ行ってくる」

 

保科は頷いて部下にアポ取りをさせる。

 

「では私はこれを連合艦隊へ提出するために正式な文書にしておきます」

「よし」

「アポ取りました」

 

班員の呼びかけに頷くと俺は資料と制帽を抱えて部屋を出た。

第一艦隊司令部は同じ建物の中央にある。ノックをすると返事があった。

 

「失礼します。第七艦隊の者ですが」

「今こちらの司令長官は所要で出かけています。間もなく戻りますのでお待ち下さい」

 

物腰の丁寧な女性だ。スタイルが良すぎるし、格好が普通の制服ではない。艦娘の秘書艦だろうか。

思わずジッと見ているとその女性は目を逸らした。

 

「戦艦大和と言います。第一艦隊の旗艦をやっています」

「あぁ!これは失礼しました」

 

慌てて俺も名乗ると驚いた表情をした。

 

「司令長官様でしたか。ずいぶんとお若いですね」

「まあ色々ありまして」

「いやお待たせしました」

 

世間話をしていると司令長官が帰って来た。俺は思わず立ち上がる。

 

「座ったままで構わないですよ」

「はあ。では」

「お茶を出させましょう。大和」

「はい」

 

大和はすぐに紅茶セットを持ってきた。和風なイメージだったが紅茶とは意外であった。よく分からないが高そうな茶葉を使ってそうだ。

 

「第一艦隊司令長官をしております、吉賀です。第七艦隊の君が来るという事は駆逐隊でも借りに来たのかね」

「はい。南方航路を護衛して頂きたいと思います」

「具体的には?」

「台湾にいる第三水雷戦隊の第十一駆逐隊、第十九駆逐隊を交互に出してもらいます」

「それは構わないが今度の大規模攻勢でミッドウェーまで進出する予定があってな」

 

吉賀がそう切り出すのは分かっていたので動じずに返す。

 

「存じております」

「ほう」

「その間、北方の第五艦隊(5F)に貸してにいる一水戦か、佐世保にいる第三艦隊(3F)に掩護して貰います」

 

内情を知られている事に吉賀は驚いてるい様子だ。という事は吉賀も機密として情報が流れるのを阻止した一人だろう。

 

「そこまで考えているなら良いだろう。使うが良い。君には貸しがあるしな」

「いえ、これは通常の折衝に過ぎません。こんな事では釣り合いませんよ」

「それならば…そうだな。十九駆の代わりに十二駆でどうかね。古参だし練度も高い」

 

俺はすぐに頷かずに記憶を探る。確か第十二駆逐隊は特型の叢雲と…、ん?叢雲……だけじゃないか!危ない危ない。

事前に調べておいて良かった。

 

「申し訳ありませんが十一と十九でお願いします」

「十一、十二駆は特I型で揃っているぞ?」

「計画ではそうでしょうが十二駆は叢雲しか建造に成功していなかったかと思いますが」

 

吉賀の眉が動く。

 

「どうしてもかね」

「十二駆に軽巡川内を付けてくれれば考えます」

「川内さんは第三水雷戦隊の旗艦ですよ」

 

秘書艦の大和が確認するように言う。

 

「もちろん存じております」

 

俺は微笑みながら言った。顔に不安の綻び出ていないか心配だったが幸い気付かれていないようだ。大和を見るとたじろいで目を逸らされた。俺は大和に嫌われてるのかも知れない。

 

「厳しいねぇ。大和君」

「ええ、そうですねぇ」

 

初対面なのに女性に嫌われたらしい俺の心中も厳しいのだが。

 

「文句はそちらの三水戦司令部へお願いします」

「もう司令は飛ばしたよ」

「え」

 

今度はこちらが驚く番だった。

 

「あんなミスで大きな損害を出したのだ。当たり前だろう?」

「旗艦の川内さんは残念そうでしたけどね」

「そうですか」

「まあそういう事だ。こちらもミスしてはいそうですかでは終わらないのでね。もちろん、どうしようもない場合もある。だがあれは人災だからね。何、君がか気にする問題ではないさ」

「はあ…分かりました。では二つの駆逐隊の件よろしくお願いします」

「うむ」

 

吉賀は印鑑を突くと資料を大和に渡した。俺は控えを受け取り部屋を出た。

 

 

 

「お帰りなさいませ。どうでしたか」

「首尾よく行ったよ」

 

保科はホッとした様子だった。

 

「しかし第一艦隊はあくまで戦艦が主力。水雷戦隊は護衛ですからね」

「じゃあ一番問題なのは第二艦隊か」

「ええ」

 

一気に気が重くなる。だが後回しにしても仕方がない。

 

「呉へ行ってくる」

「畏まりました。今からですと遅くなるので明日の朝に会談でよろしいですか」

「そうだな」

 

横須賀から出て新幹線で広島へ向かう。

ヘリくらい出してくれても良いのだが、弱小司令部にお付のヘリなどない。

 

「まあグリーン車に乗れるだけマシか」

 

普段なら乗らないグリーン車で足を伸ばしながらそう考える。

 

 

 

広島から在来線に乗り換えて呉に着くとすでに日は暮れかかっていた。軍港として栄えていた呉の街だが戦後は衰退してきていた。しかし、戦いが始まってからは人が増えて活気が戻っている。

この前まで所属していた呉地方隊の建物入ろうとしたが、すでに終業時間を過ぎているので入れなかった。

敢えて正式な身分を明かさなかったが、本当の身分を言えば驚いて背筋を伸ばし、通して貰えたかも知れない。それとも連合艦隊所属なので追い返されただろうか。

そのまま海沿いに歩いていると呉鎮守府の建物が見えて来た。

いわゆる有名なドーム型の建物は横須賀鎮守府と違って既に記念館となっているため、グラウンド跡に建てられた方が現在の呉鎮守府だ。

到着の連絡だけすると、俺は外へ出た。まだ室内にいるだろうが残業させてまで要求するほど急いでいない。むしろ逆効果だ。

 

海沿いに歩いていると造船所を超えて潜水艦桟橋まで来ていた。

潜水艦桟橋にはかつての半分程しか接岸していない。ほとんどが哨戒中との事だが一体どれだけ生き残っているか。音信不通の同僚を想い俺はため息をついた。

 

「ため息をつく度に幸せは逃げますよ」

 

突然話しかけられ、驚いて周りを見渡す。すると段ボールを運んでいる少女が目に入った。

 

「君は…」

「将校さんか提督さんか分かりませんが一杯いかがです?」

 

少女が指差す方を見ると小さい建物が目に入った。小料理屋のようだ。こんな所に売店や酒保があったかと訝しんでいると、その少女は俺を気にせずに小料理屋へ向かって歩き出した。夕飯がまだだったのでそこで済ます事にした。

 

「重いだろう。俺が持つよ」

「いえ、悪いです」

 

彼女には拒否されたが無理やり箱を持つ。

 

「あ、ありがとうございます」

「なんの。こんな小さいのに親の手伝いか」

「いえ…」

 

少女は口籠ってしまった。小学生くらいなのに複雑な家庭事情を抱えているのかも知れない。これ以上の追求はよそう。

少女は店の扉を開けると俺を中に入れた。

 

「ただいま戻りました。お客様ですよ」

 

中には女将さんらしい女性一人と子供が四人いた。

 

「あらお帰りなさい。裏に置いといてくれる?」

「はい」

 

先程の少女が引っ込むと女将さんは俺の方を見る。

 

「それといらっしゃいませ。珍しいお客様だこと」

「ああ。初めて来るな」

 

席に着くとお茶を運んで来てくれた。

 

「でもここにいらしてるという事は海軍関係者、それも司令官クラスじゃないかしら」

 

若い女将さんだがいい観察眼をしている。

 

「まあそんなところだね。何か食事を頼む」

 

お茶を飲みながらそう答えると黙っていた後ろにいた先客達が騒ぎ始めた。

 

「見た事のない司令官ね」

「本当に司令官なのかしら」

「はわわ。失礼なのです」

 

先程の女の子と同じくらいだが言葉に容赦がない。馬鹿にされている気がするので言っておくことにした。

 

「これでも列記とした司令長官だぞ」

「本当に?」

「ああそうだ」

 

制服から身分証を出す。肩章でも階級が分かるだろうが直接見せた方が早い。

 

「ほう。第七艦隊の司令長官じゃないか」

「えー!やっぱり偉い人じゃない!」

「も、もちろん分かっていたわ!アメリカ海軍よね!」

「司令長官さん。よろしくなのです」

「ああよろしく」

 

挨拶をすると四人は喋りながら店を出ていった。仲の良い女の子達だ。

最後の一人が出て行こうとしてふと振り返った。

 

「司令長官。姉さん達が失礼な振る舞いをしてしまったね」

 

静かな雰囲気の銀髪の少女だった。一番妹のようだがしっかりしている。

 

「そんな事ないさ。こちらこそ邪魔をしたな」

「ふふ。今後六駆を指揮する時はよろしく」

「ああ。…え?六駆だと」

 

銀髪少女は微笑むと行ってしまった。追いかける訳にもいかず顔をしかめていると、

 

「さっきのは第六駆逐隊ですよ」

 

女将さんは笑いながら教えてくれた。

まさか駆逐艦だとは思わなかった。確かに銀髪の日本人など見た事がない。染めるにしても幼すぎる。

思い出してみれば確かに海上で見た事があったかも知れない。

 

「そんなに驚く事ですか」

「いや、艦娘を指揮するのはこれが初めてでね。今まで護衛隊を指揮してたから見た事はあるんだがこんなに身近で…」

「普通の女の子みたい」

「そう。そうなんだよな」

「この店には将校さんも来るけど艦娘も結構来るのよ」

「へえ」

「第七艦隊には艦娘がいないんでしたね」

「ええ。出来たばかりなので。よくご存知ですね」

「提督や艦娘から色んな情報が集まるものですから」

 

信頼されているという事だろう。

しかし女将さんにしては若い。俺と同じくらいの年齢に見える。

違和感を感じて記憶を辿る。

店の位置、客、情報の多さから鑑みるにこの人は艦娘ではないか。そう思った時に店の看板と軽巡大淀の言葉が結びつく。

 

「何か閃きましたか」

 

顔に出ていたのだろう。女将さんが顔を覗き込む。

 

「もしかして貴方は鳳翔さんですか」

「ええそうですよ」

「やっぱり」

「今気付いたのですか」

 

鳳翔は呆れている。

 

「まさか空母が店をやっているとは思いませんよ」

「そうかも知れません」

「連合艦隊直属なのはそのためですか」

「いえ、これは趣味みたいなものです」

「趣味」

 

趣味でやっているにしては本格的だ。しかし趣味だけをしている艦娘など聞いたこと無い。私の思いを透かしたか鳳翔は付け足した。

 

「私の仕事は航空機パイロットの育成です」

「航空機?空軍向けですか」

「いいえ。艦娘用の艦載機です」

「なるほど。艦娘の母艦航空隊にも練度があるのですね」

「ええ。空母艦載機だけでなく水上偵察機も扱っています」

「それはすごい」

「水上機は瑞穂さん達にも手伝って貰っていますけど」

 

謙虚に言うが自信があるのだろう。

 

「そちらで忙しそうですが、どうして店を?」

「私も昔は前線にいましてね。今は後方にいますけど、仲間と一緒にいるのが懐かしくて」

「なるほど」

「私の話は終わりにしましょう。折角来て下さったのだから提督の話を聞きたいわ」

 

遠い目をしかけた鳳翔だがすぐに話を切った。自然にこちらの話に振る辺は流石と言ったところだろう。

 

「私ですか」

「ええ」

「そうですねぇ。私はご存知のように第七艦隊を指揮しているのですが、艦娘がいない。しかも任務が船団護衛という目立たない仕事ですからね。わざわざ艦隊司令部に出向いて駆逐隊を出して貰いに来たという訳です」

「船団護衛は大事じゃないですか」

「それは充分承知しています。つい最近まで護衛艦隊の第十二護衛隊を率いていましたし」

「じゃああの南シナ海海戦に」

「そうですね」

「だから貴方なのですね。連合艦隊(GF)司令部の方々が絶賛してましたよ」

 

鳳翔は俺を褒めているのだろうが、高官が酒を酌み交わしながら笑っている光景を想像したら怒りが沸いてきた。

 

「絶賛だと!?誰のせいで海戦が起こったのか分かってるのか」

「まあまあそう怒らないで下さい」

「あ、いや済まない。君達に非がないのは分かっていますし、怒っていませんよ。むしろ彼女らがいなければ俺はここにいませんから」

 

鳳翔を驚かせてしまったようだが、俺の釈明に微笑するとお酒を注いだ。

 

「しかし私が職に就いたからにはあんな想いはさせません。きちんと艦娘が配備されれば被害は防げます」

「大分艦娘の肩を持っていただいているのですね」

「ええ、そうかも知れませんね。しかし護衛艦は深海棲艦相手には出来ていません。対抗手段としては不十分です。それこそ八八艦隊みたいな規模になれば別ですが。その点艦娘はそれ用に出来て…、いや、相性が良いので戦力が釣り合いやすい」

「客観的判断という訳ですね」

「ええ。ヤツらを倒して平和にするためには手段は厭いません」

「手段ねぇ」

 

鳳翔は考え込んでしまった。少し気まずい雰囲気だ。何か失言しただろうか。お互いのことを話したし、今日は帰ろうか。

 

「そんなところです。今日はこのくらいにしておきます。お会計を」

「分かりました」

 

財布を出して現金で払う。上着を来て何気なく店内を見渡すと机の影に人影があった。

覗いてみると荷物運びをしていた幼い少女がしゃがんで隠れていた。

 

「なんだ。帰って来ないなと思ったらそこにいたのか」

「お話を聞いてしまいました」

「それは構わないよ。それほど軍機って程でもないし」

「そうですか」

 

少女はホッとした顔をした。

 

「じゃあ俺は帰るから。夜道に気をつけて」

 

扉を開けて出ようとした時、少女に呼び止められた。

彼女はこちらをじっと見つめてくる。しばらく見つめ合った後、少女は口を開いた。

 

「あの」

「ん?」

「私は()()に見えますか」

 

()()ではなく()()。予想外の言葉にどう返すか迷ったが、俺も馬鹿じゃない。彼女が求めている答えがなんとなく分かった。

 

「何って、女の子に見えるけども」

「本当ですか」

「でもここにいるって事は君も艦娘かな」

「正解です」

 

少女は微笑んだ。どうやら合っていたらしい。

俺は胸をなでおろす。心理戦は好きではない。何か悩んでいるのだろうか、そうでなければ気難しい性格なのだろう。

折角の機会なので名前でも聞いておこうか。駆逐艦なら今後指揮下に入るかも知れない。知っておいて損はないだろう。

 

「君の名前は…」

「私ですか?私は…睦月型駆逐艦三日月です」

 

三日月か。そういえば月の髪飾りがついている。

日本の駆逐艦は自然から採っている名称が多い。その中でも三日月とは風流だと思った。

 

「いい名前だ。覚えておこう。それで、君はどこの所属だい?」

 

所属を聞かれた三日月は鳳翔の顔をちらりと見てこう答えた。

 

「連合艦隊です」

「そうか。じゃあここに来れば会えるかな」

 

三日月は頷いた。好印象を持ってもらえればよいが…。

俺は彼女らに手を振って『鳳翔』を出た。

 

6駆の子と違って髪も黒いし人間かと思っていたが彼女も艦娘とは。確かにここは海軍の敷地なので一般の子供がいるはずはないのだが。

それにしても今夜は艦娘によく合う。横須賀にも実は大勢いるのだろうか。まだ着任したばかりなので旧米海軍エリアは一部しか行った事が無いが、実は大勢いるのかもしれない。

そして先程三日月は所属が連合艦隊と言っていた。つまり駆逐艦が連合艦隊附属にもいるという事だ。まだまだ知らない事だらけだな。

駆逐隊が所属しているのなら使うことになる可能性もある。今後のために調べてみよう。

 

 

 

翌朝、予定通りに第二艦隊司令長官との折衝が行われた。

第二艦隊は呉鎮守府で一番大きなスペースを取っている部隊だ。来る途中に艦隊司令部の部屋を通ったが、スタッフが30人もいた。俺の第七艦隊は7人。明らかに待遇が違う。

おそらく新入りを威圧するために通したのだろうが、護衛艦を率いて実際に深海棲艦と戦った事がある俺にその程度の威圧は効かない。

むしろ大型モニターに艦隊位置などを映して指示を出すやり方など、参考になる点が多かった。帰ったら真似してみようか。

 

司令長官室は上質な家具が置かれており、威厳がある。

まあ段ボール箱が積まれている俺の部屋が異常なのだろうが。

 

第二艦隊の長官は既に部屋にいた。

俺が来ると応接ソファに座る。

 

「コーヒーでいいかい?」

「はい」

 

俺の答えを知っていたかのように女性がコーヒーを運んで来た。

この女性もモデルのように整っている。短い黒髪で豊かな体付きをしていて制服はかなり際どいが、俺が気になったのは彼女の目が赤かった事だ。

別に充血している訳ではなく、本当に虹彩が紅いのだ。

例にもよらず艦娘だろう。確か秘書艦は巡洋艦の高雄だったか。

二人が席に着いたので自己紹介をした。

 

「初めまして。第二艦隊司令長官の近堂です。彼女は秘書艦の高雄です」

「よろしくお願いします」

「どうも」

 

思っていたより温厚な人だ。

これは上手く行くかも知れない。

 

「ご存じのように第七艦隊は商船の海上護衛を任務としているのですが、護衛には現代艦だけでなく艦娘が必要です。これまでのように駆逐隊を護衛に出して頂ければなと思っております」

「ふむ」

 

金堂は渡した資料をパラパラとめくる。

彼の返答を待っていたが、なかなか顔を挙げない。

彼の代わりに隣の高雄が口を開いた。

 

「次の大規模作戦に支障がないようにして頂きたいですわ」

「もちろんです」

「出撃中は五、六水戦を使うとありますが、普段から彼女らではいけないのですか?」

 

やっぱり同じ所を突いてくる。俺はすぐに答えを返した。

 

「ご存じのように五、六水戦は睦月クラスが主力のため火力が劣っています」

「速度は早いですよ」

「高速貨物船でも20ノットがあれば充分です」

「そうですか」

「それに貴艦隊はシンガポールにいますから往復に便利でしょう」

 

艦隊位置まで把握されており、高雄は口撃に詰まった。これはいけるかも知れない、そう思った時、金堂が顔を上げて口を引いた。

 

「いいだろう」

「提督!」

「但し、出す駆逐隊は変えさせて貰おう」

「というと…」

「まずニ水戦は出さん」

「はぁ…」

 

俺は手元のファイルを確認する。

 

第二水雷戦隊

旗艦 能代

15駆 黒潮、親潮

16駆 初風、雪風、天津風、時津風

18駆 霰、霞、陽炎、不知火

附属 神通

 

となっている。駆逐艦は霞、霰を除いて最新の陽炎型が揃えられている。その2隻も戦力に遜色のない朝潮型。第十七駆逐隊が第十戦隊に転出しているが旗艦も対空、通信能力が最新の阿賀野型に代わったばかりで名実共に日本最強の水雷戦隊だろう。

艦娘となった今の姿で神通と能代の性能にどの程度差があるのかは分からないが。

 

「監督役の神通は艦隊決戦に向けて訓練をすべきという主張をしています」

「旗艦は能代では?」

「交代したばかりですから訓練などは神通が行っています」

「そうですか」

 

附属とはそういう事か。今後最前線を引退した神通がどこへ行くのか気になる所ではあるが、今のところニ水戦はまだ神通が持っていると見ていいだろう。

 

「ニ水戦の代わりに四水戦から出すよ」

「四水戦も突撃部隊では?」

「こちらの方が余裕がある」

 

俺は再びファイルを見た。

 

第四水雷戦隊

旗艦 矢矧

2駆 村雨、夕立、春雨、五月雨

8駆 朝潮、大潮、満潮、荒潮

9駆 山雲、朝雲

24駆 海風、江風

附属 那珂

 

こちらも第四駆逐隊が空母直衛に抜けており、あまり変わらないのだが…。むしろ廉価版の駆逐隊が多いので戦力不足な気がする。

 

「訓練担当の那珂はCDを宣伝させてくれれば出すと言っています」

「CD?」

「那珂ちゃんはアイドルですからね」

「は?」

 

高雄は当然のように言うが、意味が分からない。金堂少将を見ると苦笑しているだけで何も言わなかった。

もしかすると艦娘の間では常識だったりするのだろうか…。

 

「分かりました。相談してみます」

「九駆、二十四駆を使いたまえ」

「両方共2隻なのですが…」

「こちらだって忙しいのだ。足りなければ六水戦くらいから借りれば良かろう」

「申請する燃料、弾薬を多めにするので二駆をお借り出来ませんか」

「ふむ…。それならば…」

「具体的には?」

 

承諾しかける近堂を高雄が制する。

 

「重油と弾薬を1.5倍出しましょう」

「魚雷もですか」

「ええ。白露型って酸素魚雷搭載出来ますよね?」

「もちろんです」

「では九三式を出します」

「それならば。二駆と二十四駆でどうでしょう」

「分かりました」

 

資料を書き換えて互いに印鑑を突く。

 

「それと…、月末のとある船団の護衛に艦隊を割いてもらいたいのですが」

 

ひと段落ついた所で俺は再度の金堂に相談をした。また何か言われるのかと思ったか近堂は眉を潜める。

 

「一度だけか?」

「ええ」

「何という船団だ」

「テ77船団です」

「至って普通だな」

「ええ。普通の鉄鉱石運搬船ですよ。でもこの船団の運行を知っているのは連合艦隊と一部の企業のみなんです」

「ん?」

「搭載される大量の鉄鉱石は全て軍事用です」

「それは珍しいのか」

「そうですね。帳簿には載らない鉄ですからね。海軍が好きに使える訳です」

「そんなだまし事が可能なのか」

「よく知りませんが今回は特別みたいです」

「ふうん」

「しかもこの船団は護衛艦隊も知らないのです」

「なぜだ」

「護衛艦の乗組員も含めて徹底的に関係者を減らすためではないかしら」

 

高雄の考えに俺は頷く。

 

「そうです。これを是非とも第二艦隊(2F)に守って貰いたい」

「提督。如何しますか」

 

金堂は考え込んだ。

 

「月末は大規模攻勢の後だ。艦娘にも休暇も必要だろう。そうだな…。第二水雷戦隊と第七戦隊を付けよう」

「あ、ありがとうございます…」

 

華のニ水戦に重巡最上型4隻。その最上型は改造で主砲を減らした代わりに水上機を運用出来るらしい。盤石過ぎる編成だが、先程と真逆の対応に呆れるしか無かった。

 

 

 

交渉が終わり、横須賀に電話を入れる。

すぐに参謀長の保科が出た。

 

「俺だ。二駆と二十四駆しか借りられ無かった」

「燃料増やしてもですか」

「限界だな」

「そうですか…。残りは五、六水戦に期待するしか無さそうですね」

「そうだな。次は佐世保か?」

「その件なのですが、トラックへ向かって下さい」

「第四艦隊からと言う事か」

「お願いします」

「岩国から特別便が飛ぶそうなのでそれに便乗して下さい」

「分かった」

 

この面倒なやりとりを後二回しなければならない。気が遠くなりそうだった。

 




今回選ばれたのは二駆と二十四駆です。深い意味は無いです。

ちなみにこの世界は山風がまだ登場していません。彼女が実装されたのは結構最近ですからね。
なおリアルの鎮守府では海風を持っていない模様。イベントで掘るのですが未だに出ません。なんでや。ゆるして。

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