真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

26 / 454
07:呉/訪問者と罪③

 さて。

 奇跡的に傷が塞がり……といってもある程度だけど、ともかく塞がり、歩けるようになると、人というのは欲望に左右されるわけだ。

 たとえばほら、街に行きたいとか。

 親父に会いたいとか。

 そうなるとうずうずしてしまい、しかしやっぱり無断にはまずいよなと自室へ戻る。

 ただ宛がわれただけの部屋だから、自室って言っていいかは微妙なところだが。

 

「………」

 

 そこでは先ほどと同じ格好で眠る孫尚香の姿。

 ……一応、王の妹様の許可を得られれば、外出とかも許されるのではないでしょうか。

 なんて考えてしまう自分は、もうほんとただの阿呆なんだろう。

 勝手な行動で迷惑をかけておいて、それでもこんな行動を取りたがる。

 許可を得ようとするだけマシだ、なんてのは理由にはならないんだろうが───うん。

 

「孫尚香、孫尚香~?」

 

 訊くだけ訊いてみよう。だめなら諦める。

 そう決めて、俺は孫尚香に声をかけた。

 

……。

 

 結論。許可降りた。あっさり。

 なんかむにゃむにゃしてたけど、許されたよ。許した途端、すぐ寝ちゃったけど。

 え、えーと……いいんだよね? もう街に来ちゃってるけど、よかったんだよね?

 寝ぼけてたからそれは無しとか勘弁してくださいね?

 

「………」

 

 そんなわけで降りてきて歩く街は、以前より賑やかに見えた。

 活気付き、道をゆく民たちにも笑顔が絶えない。

 憑き物が落ちたみたいにすっきりした顔で、和気藹々と“日常の賑やかさ”を見せてくれていた。

 そんな賑やかさに、少しだけ心が救われる。

 

「……弱いなぁ、俺……」

 

 小さく呟くと、足は勝手に親父の居る料理屋へと向かった。

 ……いや、向かっていたんだが、ずんと目の前に割り込んできた姿によって足は止まった。

 目の前には………、……誰?

 

「その服……あんた、御遣いさんかい?」

 

 少し太り気味のおばさまが、俺をじろじろと見ながら笑顔で言う。

 笑顔には笑顔を。俺の不安を押し付ける必要なんてないから、笑顔で迎えた。

 そうして話が始まるうちに、自然な笑顔になっていってる俺は、どこの主婦……もとい、主夫なんだろうか。

 ご近所付き合いに敏感な奥様のように気軽に会話に乗り、気づけば満開の会話の花。

 

「そうそう、うちの人が貴方を殴ったとか言ってねぇ、後悔してたみたいで……」

「いえいいんです、俺も随分殴っちゃいましたし。それに殴りあった分、本気の会話が出来たと思いましたから」

「ああ、そうだねぇ……雪蓮ちゃんと話をするまで“俺は悪くねぇ”の一点張りだったあの人が、話し終えた途端によ? あの御遣いってやつにゃあ悪いことしたなぁ……なんて言うのよぉ~」

「そうなんですか、あっはっはっはっは」

「おっほっほっほっほ」

 

 あの……それって俺、直接的には関係なくないですか?

 なんて疑問を抱きつつも、こうやって構えもせずに話し掛けてくれることを嬉しく思っている自分が居た。

 

「……それに、うちの子のために泣いてくれたんでしょう? ありがとうねぇ、御遣いさん。貴方だって国の仲間を殺された辛さはあるでしょうに……」

「……いえ。かえって自分の意見ばっかり押し付けたみたいで」

「いいのよ、あの人にとっても私にとっても、いいきっかけになったと思うわ。忘れることなんて当然出来ないけど、あの子が目指したこの今を……私も笑顔で過ごしたいって思うから。それに気づかせてくれた分だけでも、私はいくらでも貴方に感謝したいの」

「おばさん……」

「あら。料理屋の旦那は親父で、私はおばさんなのかい? ほら、もっとあるだろう? 親しみやすい言葉がさ」

「え? あ、あの…………その。お……」

「お?」

「お……ふくろ」

「───、……」

 

 少しだけあった抵抗。

 本当なら、甘寧に“俺の親父達だ”って言った時点で、この街の人たちを家族と思おうと決めていた。

 しかし傷口が開いて部屋に閉じ込められたり、氣の鍛錬で気絶したりといろいろあって時間が空いてしまって、まあそのー……機会を逃したと言いますか、言いづらくなってたのに。

 目の前の女性はそんな俺のおそるおそるとした言葉を、目を閉じてゆっくりと息を吸うようにして受け止めていく。

 

「……ああ、いい響きだねぇ……。御遣いさん、あんたの名前は?」

「え、あ、“あんた”って……いやいいんだけど……───ん……一刀。北郷一刀だ」

「そうかい……いい名前だねぇ。それじゃあこれからは一刀って呼ばせてもらうからね」

「え───と……?」

 

 な、なに? 何事? どんどんと話が進んでいって、なにもわかってない所為か状況についていけないんだが……?

 望んでいたことがころころと叶っていくような気分だ。

 しかも目の前の女性……おふくろとの話が終わるや、他の民までもが俺を囲み、「俺のことは父上と呼べ」と「母上と呼びなさい」とか、子供に「おまえはおれのおとうとだー!」と言われたり、もうなにがなんだか。

 

「ちょ、ちょっと待った! いったいなんなんだ? みんなして親とか弟だとかって」

「な~に言ってやがる、俺達のことを親って言い出したのはお前だろうが」

「へ? お、親父!?」

 

 他の人よりは多少は聞き慣れた声に振り向けば、頭に捻り鉢巻を巻いたおっさん。もとい親父。

 

「親父、店は?」

「お前が来ないから、連日ひーひー言いながらやってるよ。お前こそあれだ、その……よ。傷はもういいのか?」

 

 バツが悪そうに鼻先を掻きながら言う親父。

 そんな彼に頷き、もう平気だって言ってみせると、彼は安心したのか大きな溜め息を吐いたあとに笑顔を見せる。

 

「それで親父、これは……」

「おっと、そうだったな。よーするにあれだ、みんなお前にゃ感謝してるってこった」

「感謝?」

「おうよ。なにせ、カラ元気じゃなくて普通に笑って今を過ごせてるんだからな。前向きにさせたことへのありがたさだけでも感謝してえし、なによりよ……城の将たちがよく話を聞いてくれるようになったんだよ。以前までは恐れ多くて声をかけるのも怖かったんだがなぁ、今じゃ向こうから声をかけてきてくださる」

「へえ……」

 

 雪蓮はわかるけど、他の人たちがっていうのはちょっと想像がつかなかった。

 特に……言っちゃなんだけど、甘寧とかは。……マテ、甘寧?

 

「それってその……甘寧とかも……なのか?」

『───』

 

 あれ? なんか……甘寧の名前を出した途端、民の笑顔が凍りついたのですが……?

 

「い、いやぁ……それがよ? 甘将軍はよ、こう……仲謀様と一緒の時にしか見かけず、声をかけようにもよ……みょ~に警戒しててよぉ?」

「そうなのよぉ、一度服屋の旦那が声をかけたんだけどね? “───私に話しかけるな”って、鋭い睨みとともに言うもんだから、服屋さん腰抜かしちゃってねぇ」

「うーわー……」

 

 それは無理だ。

 俺でも怖いよそれ。

 

「え……じゃあ孫権は?」

「声をかけようとはするんだがなぁ……」

「甘将軍がなぁ……おやっさんがおめぇを刺したことが気になってんのか、仲謀様に声をかけることさえ許してくれねぇんだ。こう、孫権様の後ろから目を光らせてるっていうのか?」

「孫権の後ろから……?」

 

 孫権の後ろに常に存在し、話し掛けようとする者全てを鋭い眼光で射抜く赤き幻影……怖ッ! 怖いよそれ! 守護霊も走って逃げ出すよそんなの! 守護霊の立場ないじゃん! 居ればの話だけど!

 

「ただ……最近見なくなったねえ」

「そうなんだよな。歩いているのは仲謀様だけだ」

「……? それってどういう……?」

「いや、俺達のほうが訊きてぇくれぇなんだけどよ」

 

 わからない、か……あとで誰かに訊いてみよう。

 

「他の人たちはどうなんだ? 冥琳とか祭さん……あ、えと、周瑜とか黄蓋さんとか、陸遜とか呂蒙とか周泰とか」

「公瑾様は以前から雪蓮ちゃんに引っ張ってこられてたから、そう構えることはねぇやなぁ」

「だなぁ」

 

 冥琳……苦労してたんだなぁ……。

 あの雪蓮に引っ張り回されるって、想像しただけでも疲れそうだし。

 

「伯言様や子明様や幼平様もよくお声をかけてくださる」

「そうそう、子明様の目は最初は怖いと感じたがなぁ」

「目が悪いんじゃあ仕方ないもんなぁ」

 

 民たちの間で、はっはっはと笑いが起こる。

 ……よかった、あれから呉のみんなも積極的に民と繋がりを持とうとしてくれてたのか。

 うん……民だけが、将だけが手を伸ばしても作り出せない明日がある。

 こうして民と将が手を繋ぎ合っていけば、もっともっとこの国も賑やかになるだろう。

 そのきっかけになれたなら、刺されたことだって無駄じゃない。

 

(けど…………まあ)

 

 甘寧のこと、なんとかしないと。

 このまま孫権と甘寧とが民の間でよく思われない時間が続いたら、手を伸ばしたくても伸ばせなくなってしまう。

 人と人との仲良くなるタイミングって、結構難しいしな……この時代だと特にだ。

 こうしてみんなが“繋がりを持とう”としている今こそがチャンスなのに、何故睨むのですか甘寧さん。

 それは……やっぱり、自分のしたことは死罪だって確信して、繋がりを持つだけ無駄だって思ってるから……なのか?

 

「あ、ところで一刀は知ってるかい? 今日、蜀から客人が来たんだよ。なんでもすごい人らしくてねぇ」

「そうなのか? おいらが聞いた話じゃ、可愛らしい子供だったらしいが」

「違うぜおめぇら、その方々はなんでも蜀の軍師様らしくてな、大変高名な方々なんだとよ」

「へぇえええ……たいへんなお方がいらっしゃったのねぇ……」

「お、おー……一刀? 俺達ゃなんにもしねぇほうがいいんだろうか」

「それとも食材掻き集めて、こう……なぁ?」

 

 民たちがそわそわとし始める。

 うん、それはそれとして俺が何を言うまでもなく、すっかり一刀って呼ばれているのが不思議だ。

 

(嬉しいからいいか)

 

 気にしないことにした。今はそれよりもだ。 

 

「歓迎するならモノで迎えるよりも、気持ちと言葉で迎えよう。滞在するのかもわからないけど、ここは通ると思うし。下手にモノで迎えると、相手も畏まっちゃうかもしれないからさ」

「そうか? んじゃあ誠心誠意、迎えてやるかいっ」

「次通るのが帰り道だったらどうするんだい? 帰る人を迎えるのかい?」

「う……んじゃあ送り出せってか?」

「まあまあ」

 

 難しい顔で話し合う親父とお袋をなだめて思考を回転させる。

 出た結論は……“なってみなけりゃわからない”だった。

 

「ん……滞在するのかもわからないし、帰るならそれらしい素振りも見せるよ。だから今はそんなに気にする事ないんじゃないかな」

「お……そっか、そうだよな。んじゃあ……っとと、そろそろ俺も戻らねぇと」

「そっか。じゃあ俺も一緒に。あ、お袋たちもあんまり考えすぎないで、自然の笑顔で迎えてあげればいいと思うから」

「そうかい?」

「お~っし笑顔なら任せとけっ」

「お前、笑顔を任せるって顔かぁ?」

「るせっ! ほっとけってんだ!」

「だっはっはっはっは!」

 

 また湧き起こる笑いに俺も笑いながら、親父と一緒に料理屋へ。

 そこはあの日以来賑わっているようで、卓の空きもない状態だった。

 こんな状況でよく話に混ざる気になれたな、親父よ……。

 

「おぉっ? 一刀! 一刀じゃねぇか!」

「傷はもういいのかー!?」

 

 で……俺の姿を見るや、あの日殴り合った人たちや、食べに来ていた客までもが俺を一刀と呼ぶ始末。

 俺はこんな状況にどういった態度で向かい合うべきなんだ?

 

「ああっ、親父達も元気そうでなによりだっ」

 

 考えるまでもないよな。

 諍いはあの時点で……みんなが無言でだろうがこの店に足を運んだ時点で終わったのだ。全てが許せるようになるにはまだまだ時間がかかるだろうが、今は精一杯努力してわかり合うべき時だ。

 だから俺は作り笑顔なんかじゃない素直な笑みで親父達にそう返すと、店の手伝いを開始する。なにか忘れているような……こう、すっきりしない気持ちを抱きながら。

 

……。

 

 と、そんなわけで仕事をしてどれくらい経った頃だろう。

 “朝早くから店を開けて大変だなー”なんてしみじみと思っていた俺に、突然の来客現る。

 

「いらっしゃ───あれ? 冥琳?」

 

 周公瑾殿である。

 何故か少し口の端をヒクつかせ、苛立った様子で店に入ってきた。

 俺は丁度開いた卓の膳を下げ、綺麗に拭いてから冥琳を促すのだが。

 

「お前は……。ここでいったいなにをしている」

 

 座った途端にそんなことを仰られた。

 

「なにって……仕事だぞ? いやぁ、楽しいよなぁ。俺が作ってるわけじゃないけどさ、自分が運んでいったものを食べてさ……誰かが美味しいって笑ってくれるのって、なんかこう……嬉しいよなぁ」

「そうではないだろう。北郷、傷はどうした」

「傷? あ、あー……忘れてた。や、不思議なんだけどさ、祭さんとの鍛錬で気絶してから、目が覚めると傷が随分塞がっててさ。もう殴ったりでもしないと痛まないくらいなんだ」

 

 そっかそっか、俺……軟禁状態だったんだっけ?

 孫尚香に許可を得て、街に出て親父たちと会ってからはそんなことも忘れてしまっていた。なにか忘れてるって思ったんだよ、そっかこれか。

 孫尚香が寝ぼけてて、許可のことを覚えてない可能性とかが引っかかってたんだ。

 

「そんなわけで親父の手伝いに来た」

「小蓮様が監視についていたはずだが?」

「孫尚香? 寝てたぞ、気持ちよさそうに。…………え? 孫尚香って監視役だったのか? 一応、孫尚香から外出の許可は貰ったんだけど……もしかして寝ぼけてたか?」

「~……あのお方は……」

 

 来て早々に頭が痛そうだった。

 うん、がんばれ冥琳。

 

「さてお客様。ここは料理屋ですので、注文をいただければと。こちら、採譜になります」

「………」

 

 差し出した採譜を無言で受け取る冥琳。

 ざっと目を通し、注文したのは……青椒肉絲と白飯。量は控えめで、とのこと。

 俺は採譜とともに注文を受け取り、親父に注文を通すと、再び冥琳の卓の傍へ。

 

「あのさ、諸葛亮と鳳統が来てるんだって?」

「ああ。北郷、お前に話があるらしい」

「俺に? なんで───ってそっか、学校のことでか」

「そうだ。だというのに客人を通してみれば、もぬけのからの部屋。城中探し回っても見つからず、兵に訊いてみれば好き勝手に歩き回り、街へと向かったというではないか」

「あー、そのぉ……まずかった……よな?」

「当たり前だっ!」

「うおっと!?」

 

 おっ……怒られた! そりゃそうだごめんなさい!

 それでも孫尚香には許可をもらったんだぞ!? 何度も何度も“本当にいい? 絶対? 怒られない?”って! そしたら“んもー! うるさーい!”って怒られたから!

 

「祭殿の話では、お前は氣の暴走で死にかけだったというのだ。三日三晩眠り続け、そんなお前に客人が来て。通してみれば部屋にはおらず、笑いながら料理屋で仕事……客観的に聞いた今、お前ならばどう思う」

「………」

 

 話だけ聞くと、そりゃあ心配にもなるな。

 そっか、死にかけだったのか俺。そんな俺が笑顔で仕事の手伝いをテキパキやってるのを見れば、口の端もヒクつくってもんだ。

 

「……ありがとう。心配してくれたんだよな」

「感謝の言葉を口にするよりも城に戻れ。今頃、小蓮様がお前を探し走り回っているだろう」

「うぐっ……」

 

 監視としては寝てしまうのは失敗だっただろう。

 起きてみれば俺は居なくて、任された自分だけがすいよすいよと寝床で寝てる。

 ……うん、気まずいよなぁ相当に。寝ぼけたままの許可とかも忘れていたら、さらに気まずい。覚えてても気まずい。つまり気まずい。

 

「親父ー! ごめん! 用事が出来たから戻るなー!」

 

 叫ぶと、「おー!」という声が返ってくる。それに頷くと、冥琳にもひと声かけてから走り出そうとして───

 

「……そういえばさ、冥琳が青椒肉絲って、ちょっと意外だったかも」

「ああ、なに。幼い日に口にする機会があっただけのことさ。今ではすっかり食べられなくなってしまってな。だから時折、こうして口にしたくなるのだ」

「…………?」

 

 よくわからないことを言われた気がした。

 意味を探ってみても答えは見つからず───結局、城へと急く気持ちに負けて、軽く挨拶をすると走り出した。

 

……。

 

 で、だ。

 

「あのー……なんでまた、俺は正座させられてるんでしょうか……」

「知らん、己の胸に問うてみるがよいわ」

 

 城に辿り着くや祭さんに捕まり、引きずられて辿り着くは自室の床。

 すちゃりと座らされた俺の前には祭さんが居て、その後ろには諸葛亮と鳳統が立っていた。

 

「胸に……、……無実を主張してるけど」

「ならばそんな胸など捨ててしまえ」

「死ぬよ!?」

 

 胸に訪ねてみても無罪を主張。そんな言葉もあっさり斬り捨てられた。が、今はこんなことをやってる場合じゃないよな。

 

「祭さん、正座をさせるよりもさ、そっちの二人が俺に用があるってことが重要なんじゃないかなぁ……」

「そもそもお主が脱走なぞ企てるからこんなことになったんじゃろう」

「脱走じゃなくて街に出てただけだって! 企ててることなんてなんにもないから! そもそも孫尚香の許可だって取ったし! 結局大絶賛寝ぼけてて許可のことも覚えてなかったけどさ! とにかく印象悪くするようなこと言わないでくれよ祭さん!」

 

 言いながら、ちらりと二人を見る。

 ……まるで他人の家に来たウサギのようにカタカタ震えている。

 いや、適材適所だと思うよ? 諸葛孔明と鳳士元って言えば、三国志を代表する軍師じゃないか。

 そんな二人が俺を訪ねてきただなんて、普通なら恐れ多いくらいなのに───どうしてこう、感激ではなく保護欲のようなものに駆られるんだろうなぁ……。

 

「二人とも、学校のことについて訊きに来たんだよね?」

「は、はい……はわわ……」

「そ、そうです……あわわ……」

「………」

「話になるのかの」

 

 言って、胸の下で腕を組んで、半眼のままフスーと鼻で溜め息を吐きながらのへの字口。はい祭さん、あまりハッキリ言わない。

 けど、こうしてはっきりと鳳統と顔合わせするのは赤壁以来になるのかな。

 あの時のほうがまだハキハキと喋っていた気がするんだが。

 あれか、軍師モードと通常モードがあるとかそんなのか?

 一度スイッチが切り替われば、目をキリっとさせて次から次へと勝利への道を論じてみせるとか……?

 

「……? ……?」

 

 いや……見つめてたら、物凄くビクビクしだしたのですが?

 こんな子が軍師で大丈夫なのかと言いたくなったが───

 

「………」

 

 うん。頼りないのは自分だって同じだし、彼女も帽子で顔を小さく隠してはいても、その目だけはずっと俺の目を見ていた。

 一方的な認識を押し付けるのは失礼だよな。

 

「ひとまず自己紹介からかな。俺は北郷一刀。よろしく、孔明さん、士元さん」

「はわぁ!? しょしょしょ……じゃなくって、姓が諸葛、名を亮で……えとえと……!」

「あわわぁあ……! お、おおおお落ち着いて朱里ちゃん……!」

「…………北郷。ほんに話になるのか?」

「聞かないでくださいお願いします」

 

 うーん……この二人もこんなにガチガチになることないのに。

 なにかリラックスさせる方法とかないかな…………あ、そうだ。

 

「二人とも、こんな話があるんだけど、聞いてくれるか?」

「ぇ……?」

「ぅ……?」

 

 困惑の声すらがか細い声で、聞き取るのもひと苦労である。

 そんな彼女の緊張をほぐすべく、俺は口を開いて───“桃太郎”をゆっくりと話して聞かせた。


 ▲ページの一番上に飛ぶ