──深夜。
川のほとりの村、リバーウッドの宿屋『スリーピング・ジャイアント』。
各部屋への入り口に繋がる広間。皆が寝静まり、火の立ち消えた暖炉の前を、黒衣の男が数人、足音を殺し歩く。
そして、一つの扉の前で足を止めた。
──ギィ、と先頭のアルトマーの男が軽く扉を開けると、後ろに向けてハンドサインのようなものを出し、コクリと頷く。そして……
ドゴォ!!という音と共に、先頭のアルトマーの男が扉ごと吹き飛んだ。
「な、なに⁉︎」
男たちは、驚愕の色に顔を染める。
縦に振り下ろされた鉄塊、それを手に取るのは、闇に溶けるような暗色のマントと重鎧を身に纏い、獰猛な笑みを浮かべる男──エドアードだ。
「なんだ、そろそろ来る頃かとは思ってたが。お前らだけか?」
長大な大剣を肩に担いで、エドアードが部屋から一歩外に出ると、男たちも気圧されたように、一歩、二歩と後ろに下がる。
そのあたりで、出入り口のところから、綺麗な金色の髪が顔を覗かせる。
「ほ、ほんとに来た……」
言われた通り、早めから眠っていたノアは、0時前にはエドアードに起こされていた。
夜襲の可能性を伝えられ、半信半疑ながらも、用心に越したことはないと早めに出発の準備を整えていたのだ。もしも安心して寝入っていれば、無事でなかったに違いない。
「でも、これどうするの?こんなに壊しちゃって、弁償しなくちゃ……」
「下がってろ。悪いと思うなら、お前の手持ちから出しとくんだな。カウンターに金貨の一枚でも置いときゃ、迷惑料としては十分だろ」
「もうっ!あなたって乱暴よ!」
その会話で、暗殺者達は我に帰ったようになる。
「貴様、その後ろの少女を引き渡せ。そうすれば命だけは助けてやる」
暗殺者らしい冷たい声で告げてくるが、エドアードは全く慌てることなく、彼らを一人一人指差しだした。
「1、2、3……いや、そこに伸びてるの含めて4人か」
「……?」
唐突なエドアードの行動に、男達は若干戸惑う。
「貴様、何を──」
「……いや、桁が、一つ二つ足りてねえんじゃないかって思ってな?」
空気が、途端に緊張を帯びる。
男達から、あからさまな殺気が噴き出したのだ。
「舐めるなよ、下等種が」
すぐさま、男達は短剣を抜いてエドアードに襲いかかる。得物が短く軽い分、数と俊敏さで上回るのだと言わんばかりに、三方から攻めかけた。
だが──彼らは見誤っていた。
ゴウッ!
再び鉄塊が振り回される。
「なっ──はや、」
「ヒッ──」
間抜けな声が出かけた瞬間、彼らは既に宙を舞っていた。
そう、彼らは見誤ったのだ。
エドアードの剣速は、彼らが接近し短剣を振り下ろすより、遥かに速かった。
「ゴフッ!!」
男達はキリモミしながら、床に叩きつけられた。
「こ、殺しちゃったの……?」
ノアは恐る恐る部屋から出てくると、男達の様子を伺う。
「……あ、生きてる」
男達はピクピクと痙攣していた。ところどころ変な風に曲がっていたが、息はあった。ノアは少しホッとする。エドアードは、最初と同じように、横っ
「じゃ、早く行きましょう!」
カウンターに金貨を一枚置いておくと、ノアはバックパックを背負って意気揚々と言った。
「いや、念のためこいつらは縛ってから行く」
「あ、そっか。目が覚めたら暴れるかもしれないものね」
エドアードはあたりを見回して、縄の代用になりそうなものを探し始めるが……
「その必要はないわ」
「──ッ!」
響いた声に、エドアード達は咄嗟に振り返る。暖炉の前に置かれた椅子に、腰掛けている者がいた。
「殺さないなんて、見た目と違って、ボウヤのように甘いのね」
金髪をキツめに後ろで纏めた女──デルフィンだ。いつからそこにいたのか、彼女は足を組んで、見下すようにエドアード達を見ていた。
やがて立ち上がると、腰に差した剣──反りの入った美術品のような曲刀──アカヴィリ刀を抜いて、二人の方へと歩いてくる。
エドアードは、警戒するように大剣を構え直す。おそらくは、デルフィンも先ほどの圧倒的な一撃を目にしているだろうが、少しも臆することなく歩みを進めてくる。そして──
「安心してちょうだい。敵対の意思はないわ」
ザクリと、刀を床に転がる男に突き刺して言った。ノアが小さな悲鳴を上げかけて飲み込む。
「こいつらは、殺しておかなきゃ何処までも追ってくるわ。一度敵対したのなら、恨みを買いたくないなんて甘えは捨てなさい」
そう言って、デルフィンは次々と暗殺者達にとどめを刺していく。その行為には全くの躊躇がない。
ノアは、それを忌避するように視線を逸らし目を瞑る。
「……あら、ホントに敵対するつもりはないんだけど?信じてもらえないのかしら?」
警戒を解かず、威圧感を放ち続けるエドアードに、デルフィンが言った。
「俺は、こいつらよりも、あんたが仕掛けてくると思ってたんだがな」
「酷い言い草ね?怪しいところがあったかしら?」
「ああ、宿屋のババアにしちゃ、鍛え過ぎだ」
「……それは迂闊だったわね。でも、鍛えるのをやめる訳にはいかないのだけど。どうするべきかしら?」
二人のやり取りに、ノアは困惑を示す。
「ど、どういうことなの?」
「お嬢ちゃん、あなたの騎士様は、私のことをサルモールあたりがスカイリムにばら撒いた、スパイか何かと勘違いしていたのよ? だから私がこいつらにトドメを刺してるのを見て、図りかねているの。……私が、本当は何者なのかをね」
そう言って、デルフィンはニヤリと獰猛に笑う。吹き出す威圧感は、先ほどの暗殺者などとは比べ物にならない。得体の知れない女だが、只者ではない、それだけは確かだった。
「──まあ、安心しなさい」
しかし、そこでデルフィンは、ふっと威圧感を消した。
「最初は私もあなた達を警戒していたのよ。でもこいつらに襲われるってことは、あなた達は私と
「それは──」
「ええ、私もこいつらに追われる身ってわけ。ここにいるのも、村に何かしようって訳でも、誰かの手先って訳でもなく、身を隠すのに都合が良かったってだけ。まあそれ以上は教えてあげる訳にはいかないけどね」
デルフィンは肩をすくめ言った。
さらに刀をしまったのを見て、エドアードもやっと剣を収めようとするが──。
「動くな!」
男の声が響く。
「キャッ!」
続いて、ノアが悲鳴を上げる。
二人が振り返ると、暗殺者──アルトマーの男が、ノアの首筋に短剣を突きつけていた。
「動くなよ……我々がここを出て行くまで、貴様らが一歩でも動けば、この娘の命はない!」
エドアードは舌打ちをつく。
あれはエドアードが最初に吹き飛ばした男だ。デルフィンがトドメを刺したようだったので安心していたが、どうも浅かったらしい。
「あら、これは、私はどうしたらいいのかしら?」
「……おい、お前」
しかし自らの不始末にも関わらず、デルフィンはどこ吹く風という感じで再び剣を抜いた。
「私としては、ここでこの男に逃げられる方が不味いのだけど?それともあなたが何とかしてくれるわけ?」
(──この女、まさか。)
エドアードは再びデルフィンに鋭い視線を向ける。デルフィンはそれも軽く流し、一歩前に出る。
「貴様!動くなと言っているだろうが!」
男が再びノアの首筋に強く短剣を突きつけるが、やはりデルフィンは止まらない。
(──こうなったら、一か八かやるしかない。逆上させると危ないが、こいつらは、そう簡単にノアを殺しはしないはずだ)
エドアードはそう考えを決め、行動に移そうとするが──。
そこで、状況が動いた。
「舐め、ないでよ!!」
「ぎ──!!」
ノアが思いっきり男の腕に噛み付いたのだ。男は堪らず声を上げる。同時に、すぐさまエドアードは駆ける。
「ぐっ!」
暗殺者はノアを振り解き、咄嗟にその手に魔法を込める。パチパチと火花が爆ぜる音──雷撃の魔法だ。
「──があっ!!」
だが、エドアードの方が早かった。
振り下ろされた大剣が、男の肩口に深く食い込む。
吹き出す血、しかし両断には至らない。すぐ傍らにいるノアが視界に入り、全力で振り切ることができなかったのだ。
「ぐ……ぶふっ!」
だが、その命を奪うには十分だった。
男は口から血を吹き出すと、ふらふらと後ずさりし始める。
「お……のれ」
その手の中の魔法は消えていなかった。
男は視界が霞む中、エドアードに向けて、最後っ屁とばかりに手をかざすが──
「がはっ!!」
そこで、再び大きく血を吹いた。
男の身体は力を失い、その瞳からは既に光が失われていた。そして、魔法が込められたままの手は大きく逸れて──
「──え?」
ノアの方に向けられた。
「っがああああ!!」
それを知覚した瞬間、エドアードが吠えた。メシメシと上腕筋が悲鳴をあげ、大剣は唸りを上げる。
ヴォッ!!!
恐ろしい音と共に血が舞い、飛び散った。
続けて鉄塊が叩きつけられた床が砕け、木っ端が舞う。
「エ、エド……?」
ノアは尻餅をつきながらも、無事だった。
凄まじい一撃が、魔法ごとアルトマーの男を両断したのだ。
しかしノアの顔に浮かぶのは安堵の色などではない。
「はー、はー、はー」
大剣を床にめり込ませたまま、エドアードは肩で息をしていた。その顔は悪鬼羅刹のごとく恐ろしく、その
──パチ、パチ、パチ。
そこで、乾いた音が響く。
「お見事よ。甘いだけではないようね」
デルフィンが手を叩いてエドアードを褒めた。
エドアードは殺気を滾らせたままの眼光で、ギロリと彼女を睨みつける。
「……お前、俺を試したな?」
そう、デルフィンは意図的に一人だけトドメを刺さなかったのだ。
おそらくは、エドアードの実力がサルモールから逃げ切れるものかを量るために。
彼女がどんな理由でサルモールに追われているのかはともかく、自らの存在を知ったエドアードがすぐ捕まってしまうようなら、自らの身も危うくなるだろう。だから暗殺者にノアを人質に取らせ、その対応力を見ようとしたのだ。それでノアやエドアードが死んだとしても、彼女にデメリットはない。
「何のことかしら?……まあ、それなりにサルモールから逃げ回ってくれそうってことは、はっきりしたわね」
デルフィンは肩を竦めて言う。
エドアードは、より鋭く彼女を睨みつけ、場は一触即発の空気を呈するが──。
「お、おい、デルフィン?こりゃどういう状況だ……?サルモールの追っ手はやったのか?」
また、第三者がそこに現れた。店番の若い男、オーグナーだ。ランプを片手に奥から様子を伺うように出てきたのだ。
「オーグナー、引っ込んでいなさい」
「ひっ!そ、そこにいるのは、昼間の客か?……いや、待て。やっぱあんたには見覚えがあるぞ?」
デルフィンが鋭く言うが、
しかし、エドアードと目が合うと、オーグナーは何かに気がついたように、恐る恐る近づいてくる。
「……やっぱりだ!あんた、エドだ!エドアードだな⁉︎6年前に飛び出したっきりの!はは、なんてこった!エドが帰って来やがった!」
やがて、オーグナーは喜色めいたように声を上げると、エドアードに親しげにしだした。
「……どう言うことかしら?」
デルフィンが訝しむように二人を見る。
ノアも青い顔のまま困惑していた。
そこで、エドアードは、ふぅ、とため息をついた。急速に緊張感が抜けていく。
「……久しぶりだな、オーグナー。木こりの家の息子が、宿屋の店番なんてやってるとは思ってなかったぜ」
ーー
「この男が、ここの村人ですって?」
オーグナーの説明を受けたデルフィンが、訝しむような顔で言った。
「ああ、そうか。あんたは入れ違うようにこの村に来たから、知らないんだったな。こいつは6年前に旅に出たっきりだったんだ。しかし、昼間はフードを被ってたし、少し変わっててわからなかったんだ。でも、しっかり生きてたんだな!」
馴れ馴れしげな様子で喜ぶオーグナーに、エドアードは少しやりにくそうだったものの、拒絶はしなかった。この辺りが故郷だと聞いていたノアも、その態度を見て、ここがそうなのだと何となく納得した。
「……それで、何でお前がこの女の宿で店番なんてしてる?こいつが何者なのかわかってるやってるのか?」
「ああ、それは問題ないよ。俺が彼女に協力してるってだけだからな。宿屋を始めたのも、この村に来る奴を監視しやすいってからだ。詳しいことは言えない契約だが、悪い奴じゃないってのは保証する」
「……悪い奴じゃない、な。他の連中は知ってるのか?」
「何人かは知ってるよ。サルモールはみんな気に入らないからな、奴らに追われてるって奴には、みんな優しいもんさ」
ノアには、エドアードが訝しみつつも、オーグナーの言葉に少し安心したように見えた。やはり多少なりとも、故郷の心配はしているのだろうか。
「しかし、お前までサルモールに追われてるってのはどういうことだ?そんなエルフの子まで連れて」
「こいつがあいつらに追われてたのを、成り行きで助けたらこうなっただけだ」
「そうか、昔からお前は意外と面倒見が良かったもんな」
……面倒見が良い?
ノアは、その言葉に激しい違和感を覚えた。確かに状況だけ見れば、自分はかなり面倒を見られているのだが……。しかし、やっぱりあのぶっきらぼうなエドアードに、面倒見が良いという言葉は全く似合わないような気がした。
「……とにかく、そういう訳だ。俺たちは先を急ぐから、もう行くぞ。サルモールは、全員俺に返り討ちにあったことにしとけば、お前らには迷惑はかからないだろう」
そのあたりで、エドアードが切り出した。デルフィンの正体などは気になるが、オーグナーにはある程度の信用があるようだし、彼が大丈夫と言う以上あとは任せるのが良いのだろう。
デルフィンもそれで文句はないという感じだった。
……しかし、やはりエドアードはやりにくそうで、旧交を温めることもなく、まるで早く立ち去りたいという風にも見えた。
「それは良いんだが、せめてダルさんやアルヴォアさんくらいには挨拶して行かないのか?」
「……ああ、また今度な」
オーグナーに呼び止められたが、エドアードは踵を返した姿勢のまま、少し間をおいて答えた。
その『今度』は、いつのことになるのだろう。
「サラちゃんや、爺さんのことは聞かないのか?」
「……」
「二人は、ホワイトランに引っ越してったよ。2年くらい前の話だ」
「……そうか」
エドアードの返事に、オーグナーは少しため息をつくと、一度カウンターの方に引っ込んで、取り出した何かをエドアード目掛けて放り投げた。
「ほら、お前んちの鍵だ。サラちゃんが俺に預けてったよ。お前がいつ帰って来ても良いようにってな」
それを綺麗に掴んだエドアードは、無言でそれを懐に収めた。
「これから行くんだろ?ホワイトランに。なら、サラちゃん達には会ってけよ?めちゃくちゃ綺麗になってるぜ」
「……考えとくよ」
そうして、エドアードは宿屋から出て行った。それ以上、後ろを省みることはなかった。
ノアは少し戸惑いながら、オーグナーの方にペコリと一礼をしてから、それに続いた。
ーー
二人は無言で、夜明け前の誰もいない村を歩いていた。村は静かで、先ほどの騒動で起き出してきた者はいないようだった。
ノアの頭の中では、色々なことがぐるぐると回っていた。
アルトマーの暗殺者を斬った時の、エドアードの恐ろしい顔。ここが彼の故郷ということ。デルフィンという謎に包まれた女のこと。
しかしノアには何故か、それら以上に、サラという人物のことが無性に気になった。
とても聞ける雰囲気ではなかったが。
やがて、エドアードは一軒の家の前で立ち止まった。
懐から先ほどの鍵を取り出すと、扉の鍵穴に挿した。
(……じゃあ、ここが、エドのおうちってこと?)
「何してるんだ。さっさと来い」
ノアが扉の前で立ち止まっていると、中に入っていったエドアードが、ぶっきらぼうに言った。
何故か少し緊張しつつ、ノアも続く。
中はごく普通の家屋という感じだった。大昔、ノアが母と暮らしていた家の雰囲気と似ていた。あれに比べれば、少しばかり広いが。
しかし、二人の他には誰の気配もしなかった。
綺麗に整頓されているくせ、少し埃臭いのは、まるでこの場所だけが、時が止まってしまっているようだった。
──家族はいないのだろうか?
ふと、ノアはそんなことを思ったが、きっとぶっきらぼうなエドアードは、そんなことを聞いたところで答えてくれないのだろう。
エドアードは、いつかのようにこなれた感じで棚からランタンを取り出すと、火をつけた。
そのランタンを手に、エドアードは机の上を見る。伝言のような紙がいくつか置いてあった。
彼はそれを暫くジッと見つめ読んだ後、少し大事そうに懐へしまった。ノアは内容を覗きはしなかったものの、きっと、さっき言われていたサラという女性からの物だと察した。
(も、もしかして、奥さんとかかな?)
一瞬、そんな邪推をしたが、そこでふと気になることがあった。
(あれ?そういえば、エドって何歳なんだろう?)
そういえば、今まで気にして来なかったことだ。人間は長生きなエルフと違って、ある程度成長してしまえば、あとは年齢と見た目が比例する。つまり、エドアードも見た目通りと考えるべきなのだろうが──。
しかし、エドアードはその辺り凄く微妙なのだ。おそらく、30ということはないだろう。だが、目つきの険しさや、人を寄せ付けない風貌のせいか、少し老け……大人っぽくも見える。20くらいと言われれば驚くだろう。
「わっ、きゃ!」
そんなことを考えていると、2階に行っていたエドアードが戻って来て、バサリと、何かを投げて寄越してきた。
「これ……」
ペアルックというわけではないが、エドアードのと同じような、すっぽり身体を隠せるフード付きのローブだった。
「俺の……家族が、昔使ってたお古だ。やっぱりお前の格好は目立つから着とけ」
確かに、これなら風貌を隠すことができるし、コートの上から羽織っても違和感がないデザインだ。
「でも、いいの?」
「いいも何も、使う奴がいない物だから問題ない。他にもいる物があったら持って行け」
そう不機嫌に言うと、あちこちを物色して、バックパックに物を詰めていく。
ノアは何となくその行為に気が咎め、結局ローブ以外は、何も持って行くことはなく、エドアードの家を後にした。
ーー
エドアードの家を出ると、夜明けが近いのか、僅かに明るくなっていた。
「待ちなさい」
二人が村を後にしようとしたところで、女の声がエドアード達を呼び止めた。デルフィンだ。
「何の用だ」
エドアードが、少し警戒したように立ち止まる。
「あなたがサルモールの暗殺部隊を全滅させた以上、次はもっと大きな戦闘部隊を寄越して、あなた達を狙ってくるでしょうね。大きな街にいるうちは狙ってくることは少ないでしょうけど、ホワイトランを出たら気をつけなさい」
「……どういう風の吹き回しだ?」
まるで助言するようなデルフィンを、エドアードは睨みつける。
「別に?あなた達ができるだけ逃げ回ってくれた方が、私に目が向くことがなくなるでしょうからね」
「……ふん」
肩を竦めるデルフィンの横を通り抜けるように、エドアードは今度こそ村を後にしようとする。ノアも少し戸惑いつつ、それに続こうとするが……
「サルモールは、今、内部である勢力が台頭してきているせいで、少しごたついた状態にあるようね」
その言葉に、エドアードはピクリと反応して、足を止める。
「……ある勢力?」
「サルモール狂信派。
高慢なサルモールのエルフ共の中でも、さらに強硬にエルフ至上主義を掲げる一派よ。
その一派の司法高官が秘密裏にスカイリムへ何かを運んでいる、という情報が入ったのは一週間前。……そして、サルモールが一段と落ち着きを失ったのも、だいたいその直後」
──その運ばれていた『何か』とは、自分のことだ。
ノアは直感的にそう思った。しかしそんなことをわざわざ自分達に伝えてくるということは、このデルフィンという女も、そのことに気がついているということだ。いや、あるいは最初に自分達が宿を訪れた時から。
「……何であんたがそんなことを知ってる?」
「私には、独自の情報網があるってワケ。それに、これは餞別よ。次にあなた達に会える可能性は、まず少ないでしょうからね」
そう皮肉ると、デルフィンは村の方へと戻って行った。
エドアードはその背を見送ると、チッと舌打ちをついて、今度こそ踵を返した。ノアもそれに続いていく。
次の行き先は、ホワイトランの街だ。
※アカヴィリ刀とは、そのまま日本刀をイメージしてくれたら大丈夫です。タムリエル大陸の東にあるアカヴィル大陸に伝わる刀剣です。人は絶滅しているようですが、亜人種が跋扈しており、日本的東アジア的な文化が根ざしていたようです。
嫌いな人も多いでしょうが、デルフィンはそのうち再登場します。次からは新章になります。