エルフと復讐者の旅   作:月野鹿之助

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第6話「スカイバウンド監視所」

 

「ありがとうございましたー!」

 

 結局、ノアはコートだけでなく靴や下着類、それを詰める小さなバックパックなどを購入した。

 

 金銭感覚が無いとは言ったものの、買った物を見れば少々高くとも一概に悪い買い物だったと言い切れないだろう。

 

 店を出て空を見ると、僅かに日が傾いてきていた。

 ……やはりそろそろ街を離れなければならない。

 エドアードにはやはりサルモールの追手が気になってしょうがなかった。

 

 エドアードは足早に店を後にしようとする。すると、

 

「あ、あの!」

 

 ノアが何か言いたげな様子でエドアードを呼び止めた。

 

「あの、まだ言ってなかったんだけど、さっきは……助けてくれてありがとう。本当に危ないところだったわ。もしエドアードが来なかったら私……」

 

 もしエドアードが来なければどうなっていたか。ノアにとって、そんなことは想像したくはないことだった。

 

 馬車の中に鎖で縛りつけられるだけならばまだ良かっただろう。だが、彼女を捕まえに来たあの兵士たちがしようとしていたことは……

 

 ノアはそういったことに明るくはない。しかし、自分が何をされようとしていたのかは女としての本能が知っていた。ノアは身震いし、震える腕をぎゅっと抱く。

 

「だから、貴方には最大限の感謝を捧げます」

 

 何処で習ってきたのか、ノアは気品のあるような作法でコートの裾を摘んで礼をする。

 

「……俺は別に───」

 

 

「いたぞ!!」

 

 エドアードがそれに答えようとした時、ガシャガシャと鎧の立てる音と共に怒号が響いた。サルモールに追いつかれたのだ。

 

「チッ……いくぞ!」

 

「キャッ!」

 

 エドアードは、ノアをひょいと担ぎ上げ走り始める。

 

「待て! 貴様ら!」

 

「待てと言われて待つ奴がいるか」

 

 サルモールが後ろで叫んでいたが、一切合切無視して遁走する。街中で戦うわけにはいかない。

 

「ちょっと! またその運び方なの!?」

 

 耳元でノアの抗議の声がキンキンとしているがエドアードはそれも無視する。人混みに紛れれば逃げ切るのはそう難しくないだろう。

 

「おのれ、もう逃がさんぞ!」

 

 しかし、雷撃がエドアードの側を掠めた。

 街中だというのに、サルモールは魔法を放ったのだ。

 

「……バカな奴らだ」

 

 だがエドアードは少しも慌てない。それどころか、しめたと言うようにニヤリと笑った。何故ならサルモールは自ら墓穴を掘ったのだから。

 

「てめえら、何してやがる!?」

 

 同じように魔法が掠めたらしい男が大声で叫んだ。

 

 ここは、スカイリム。サルモール大嫌いなノルド達の巣窟。そして戦争を求める荒くれども、血の気の多い傭兵が集まるヘルゲンの街。

 帝国軍の駐屯地とはいえ、喧嘩の口実があれば簡単に火はついてしまう。

 

「サルモールが街で魔法をぶっ放してやがるぞ!」

 

「人様の土地に来てまで調子に乗りやがって!!」

 

「な、なんだお前らは!? 邪魔をするな!」

 

 殺到し始めた荒くれ共に囲まれ、サルモール達が狼狽える。衛兵達もそれを面白そうに眺めていた。

 

 街中での魔法使用は基本的に違法行為だ。帝国兵達も普段から気に入らないサルモールに仕返しをするチャンスと、むしろこっそり荒くれどもの中に加わる者さえいる始末だ。

 

「おのれ、おのれ下等種共め! 貴様ら全員連行するぞ!!」

 

「てめえら殴れるなら安もんだぜ! だいたいてめえらは犯罪者だ! 臭い飯食べさせてやる!!」

 

「連行できるもんならやってみやがれ! ストームクロークやホワイトランまで追って来れるんならなあ! あっちでも仕事口なんざいくらでもあるんだぜ!」

 

「スタァップ!! 貴様ら何を言っている! ストームクロークへの参加など許さんぞ!」

 

 エドアード達はその大喧騒に紛れ、さっさとヘルゲンの街を脱出した。

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

「どこもかしこもサルモールだらけか」

 

 ヘルゲンを飛び出したエドアード達はしばらく逃げ続けたものの、めぼしい道は全て塞がれてしまっていた。サルモールが手を回したのだろう。

 

(できればあの道は使いたくなかったんだが……いや、他に方法は──)

 

「ちょっと! そろそろ降ろしてよ!!」

 

 エドアードが悩んでいると、担ぎ上げられたノアが足をバタバタとさせて抗議を続けていた。

 

「いいから黙ってろ」

 

「ひゃあ!」

 

 パンッとエドアードがノアの尻を叩くとノアは変な声を出した。

 

「あ、ああ、あなた! レディーのお尻に、なんてことすんの!?」

 

 顔を真っ赤にして怒り出すが、エドアードは黙って考え込んだままだった。

 

 実のところ、この窮地を抜け出す方法は用意してあるのだ。そうでなければ例えノアが凍えたって、ヘルゲンになんて戻らずにエドアードは西の街を目指していただろう。

 

 だが、エドアードはどうしてもその方法を取りたくなかった。何故ならその抜け道は北へ抜けるためのものなのだから。

 

(……悩んでる暇はないか)

 

 エドアードはようやく決心をつけると、抗議を続けるノアを抱えたまま歩き出した。

 

「ちょっと! 聞いてるの!?」

 

「うるさい、サルモールに見つかるぞ」

 

「ひゃん!」

 

 あんまりうるさいので、エドアードがまた一つ尻を叩くとノアはまた変な声を上げた。

 そして、エドアードはヘルゲンの北に足を向けた。

 

 

 小さな塔に二人は身を隠した。中に人の気配は無いく、もう半ば崩れ荒れ果てているようだった。

 

「ホント、もうちょっとマシな運び方とかないのかしら。乱暴よ。横暴よ」

 

 そこでようやく地面に降ろされたノアがプンスカと抗議するが、エドアードはそれに反応しない。

 

「黙ってついてこい」

 

「……黙れ黙れって、あなたそればっかり」

 

 すっかり不機嫌になったノアを連れ、エドアードが奥に入っていくと、錠前で封印された扉の前で立ち止まった。

 

「中に入りたいの? でも、鍵がかかってるわ」

 

「見てろ」

 

 そう言ってエドアードは錠前をガチャガチャと弄り始める。ここの錠前を開けるのに鍵はいらない。ちょっとしたコツがあるのだ。それを、エドアードは知っている。

 

「……よし」

 

 ガチャリと音を立て、錠前が取れた。

 

「な、なんで?」

 

「……昔、ここには良く来ていたんだ」

 

「昔? ……あっ、待ってよ!」

 

 ノアが疑問符を浮かべるが、エドアードはそれを無視して中に入っていく。

 

 中は埃っぽくてかび臭くて、ノアは中に入るなり顔をしかめた。それに扉から差し込む明かり以外は真っ暗であったから、入り口の辺りから中に入るのを躊躇してしまう。

 

 しかしエドアードは慣れた様子で、どこに何があるかわかっているようにあたりを物色しだすと、棚からランタンを取り出した。

 カッカッと、懐から取り出した火打ち石を擦る音がしたと思ったら、すぐに暖かな明かりが灯った。

 

「さっさと閉めて閂を止めろ」

 

「わ、わかってるわよ」

 

 ノアが慌てて扉を閉めると、室内はランタンの灯りに照らされるのみで、より薄暗く不気味なふうになった。それにカビ臭さも一層増した気がする。

 

「ね、ねえ、ここでどうするつもり?」

 

 部屋の中を静かに見つめて動かないエドアードに、ノアはほんの少し不安を覚える。今更どうにかされるとも思っていないが、つい先ほど乱暴されかけた経験からか、こんな暗く狭い空間に男と二人きりという状況は妙にノアを緊張させた。

 

「……こっちだ」

 

 しばらく動かなかったエドアードは、そう言って更に奥へと入っていった。

 

 ノアは内心でホッと息を吐いていた。

 エドアードは多少ぶっきらぼうだが、そんな男ではない。わかっている。出会ってから間もないが、ノアも、もう最低限の信頼はしている。ただ……

 

 ノアは、ギュッと袖の辺りを握りしめ、嫌な思い出を頭の片隅に押し込んで、エドアードの後を追った。

 

 奥まで行くと、下へと降りる階段があった。木製でボロいが、ノアよりずっと重たいエドアードがスイスイと降りていくので大丈夫なのだろうと、その後を着いていく。

 下まで降りると、更に奥へと続く通路が現れた。

 

「ここはなんなの?」

 

「大昔に帝国軍に打ち捨てられた監視所だ」

 

 ノアの問いにエドアードがぶっきらぼうに答える。それじゃ説明不足だとノアが不満げな顔をしていると、説明を付け足される。

 

 どうやら入ってきた方とは対になる、もう一つの監視所が北側にあるようだ。ここはその地下を繋げるトンネルで、古代ノルド遺跡の遺構を利用して作られているらしい。

 

「なら、ここを進んでいけば北に抜けられるってことなのね?」

 

 そういうことだと、エドアードが首を縦に振る。しかしノアは何故エドアードがそんなことを知っているのかと疑問に思った。旅人のようなのに妙に地理に詳しい。いや、詳しすぎる。

 

「ねえ、エドはこの辺りに住んでたの?」

 

 トンネルの真っ暗な闇の中をランタンの灯りを頼りに進んでいる道中、ノアが質問する。

 

「……なんだ、そのエドってのは?」

 

 エドアードは別の部分に反応した。

 

「そう呼ぶってことにしたの」

 

 あっけらかんと言うノアに、エドアードは物凄く微妙な顔をする。気に入らなかったらしい。

 

「それより、やっぱりエドってこの辺りの出身なのよね? こんな抜け道のこと知ってるし、ノルドみたいだし」

 

 お返しとばかりに渋い顔をするエドアードを無視するノア。そんな図々しい態度に、エドアードは不満げな顔をして答える。

 

「……ガキの頃この辺りに住んでたことはあるだけだ。ここはその頃に来たことがある場所の一つだ」

 

「やっぱりここが故郷なんじゃない。最初から素直にそう答えればいいのよ」

 

「お前な──」

 

 すっかり生意気なノアに、エドアードはついに文句を言おうとするが。

 

「……待て。止まれ」

 

 そこで、ピタリと足を止めた。

 

「どうかしたの?」

 

「……人が立ち入った痕跡がある」

 

「え!?」

 

 地面には複数の足跡のようなものが残されていた。ノアの顔が強張る。

 

「ま、まさか、サルモールに先回りされたの?」

 

「バカか。それなら俺たちはとっくに袋の鼠だ」

 

「ば、バカってなによ!」

 

 しゃがみこんで地面を調べるエドアードの言い様に、ノアはホッとしたようにしたあとに今度は顔を赤くして怒った。

 

「……どちらにしろもう少し声を低くした方が良いだろうがな」

 

 大声をあげるノアを、エドアードはギロリと睨みつける。

 

「わ、わかってる……わよ」

 

 鋭い眼光に、きゅう、と萎んだような声を出してノアは黙り込んだ。……だがそれはどうも少し手遅れだったらしい。

 

「グルルグア」

 

「…………へ?」

 

 突如、暗闇の奥に青い光が灯った。

 ノアは背後に現れた人影を間抜けな声を出して見上げた。

 

「───ッ!!」

 

 同時に跳ねるように立ち上がったエドアードが、背中の大剣に手をかけその影に向けて突進した。

 ブォッ!! と、解き放たれた鉄塊が、トンネルの湿った空気を薙ぐ。

 幅広の大剣はノアの頭の先を掠め、その背後の襲撃者に叩きつけられた。乾いた音と共にその胴体が千切れるように四散した。

 

「ひ、ぁ」

 

 ノアは腰が抜けたように、へなへなと足を震わせてその場にへたり込んだ。ギリギリで大惨事は耐えたが、ノアは股の間に、ほんの少し暖かいものを感じていた。しかし自分のすぐ背後には、鉄塊を叩き込まれ無残に飛び散ったもう一つの大惨事があることに思い至った。

 

「な、なに? こいつ?」

 

 ノアは慌てて振り返るが、背後には思ったようなものはなかった。エドアードが斬りはらった、ノアが人だと思っていた影は乾ききったミイラのような姿をしていた。落ち窪んだ眼窩、そこに嵌るものもない。

 どうやら先ほどの青い光の正体は、魔力で作り出された、失った眼球の代わりのようなものだったらしい。恐らく他の部位も同様か干からびきっているのだろう。

 おかげでこうして四散しても飛び散る中身もなかったのだ。

 

「こいつはドラウグルだ」

 

 狭いトンネル内で剣を振り回したせいで壁にめり込んでしまった剣を引き抜きながら言うエドアード。

 彼に言われてノアは初めてピンときた。昔、本で見たことがあったのだ。確か古代スカイリムを支配していた魔術師集団が、自分達の墓を死後にも守るようにと、配下の古代ノルドの死体に死霊術をかけて動くミイラを作ったと。

 

 でも、どうしてここにそんなものがいるのだろう? 

 ノアがそう疑問に思った時だった。暗闇の奥に、青い光が灯った。

 

 ──ああ、そうか。

 このトンネルに利用された古代ノルド遺跡というのは、このドラウグル達の墓の一部だったのだ。それが何かの弾みで起き上がって、このトンネルまで出てきてしまったのだ。

 

 ノアはようやくその考えに至ったが、どうやらそれもまた遅かったらしい。

 人魂のような青い光の群れが、次々と暗闇に浮かび上がった。

 

「どうも俺たちは、とっくの前に袋の鼠だったらしいな」

 

 不敵に笑い呟くエドアード。

 二人はいつの間にか、大量のドラウグルの群れに前後を挟まれていたのだ。軽く見積もっても12、3体はいるだろう。

 

「きゃっ!」

 

 もう今日何度目かわからないが、ノアはエドアードに担ぎ上げられる。また抗議の声を上げかけるが流石にそれはぐっと我慢した。

 エドアードの化け物じみた強さならば、きっとこの状況も切り抜けてしまうに違いない。しかしノアがいるために、まず包囲の突破を図ろうとしているのだ。

 

 案の定、包囲の薄い前方を狙ってエドアードは突進していった。片手で大剣を振り回し突破口をつくると、とても重い装備とそのついでに子供を一人担いでいるとは思えぬ速さでドラウグル達の隙間を駆け抜けていく。

 

「──ッ」

 

 しかし、そうも上手くはいかない。ドラウグルの中には武器を携帯している者もいたが──何より、魔術を使いこなす杖持ちドラウグルが邪魔になった。

 

 突如飛来した尖った氷柱を、剣を盾にするようにして防ぐ。その間にドラウグルの一体に外套の端を掴まれ足を止められた。

 

「ゲッ、ゲッ、ゲッ」

 

 ドラウグルにも感情はあるのか、エドアードを嘲笑うかのような声を出す。エドアードはチッと舌打ちをついてまた剣を一薙ぎしようとするが、やはりこの狭いトンネルに大剣は向かない。剣が壁につっかえその動きを止めると、そこを狙ってドラウグルが殺到してくる。

 

「──!?」

 

 しかしそこで、パシュンッ! と弦を打つような音が響いた。

 次の瞬間にはエドアードの外套を掴んでいたドラウグルの頭に、ちょうど吸い込まれるようにボルトが突き刺さった。

 

「やった!」

 

 エドアードに担がれたノアが歓喜の声をあげる。

 いつの間にかエドアードの外套の中を漁っていたノアが、小型クロスボウを取り出して援護射撃したのだ。

 

「……よくやった」

 

 思わぬ援護により拘束を解かれたエドアードがぼそりと呟いた。思わぬ言葉に、ノアは少し得意になってエドアードを見るが──一瞬で興奮が凍りつく。

 

「よく、掴まってろ」

 

 エドアードは、犬歯を剥き出しにしていた。そして獰猛な笑みを浮かべていた。ドラウグルでさえその殺意殺気を感じ取ったのか、一瞬、怯んだように見えた。

 

「振り──落とされる、なよ」

 

 ノアはハッと我に返ると、咄嗟にその身体に強くしがみついた。

 そして、エドアードは大剣を両手で握り直す。

 

「お お お お お !!!」

 

 鉄塊が、振り回された。

 

 ゴウッ!! と鉄塊が竜巻のように回転すると、殺到するドラウグルが木っ端のように吹き飛ばされる。

 壁につっかえるだとかは、本気になったエドアードの前には意味を為さなかった。鉄塊は殆ど減速することなく、壁ごと叩き斬りながら嵐が吹き荒れる。

 

 ノアは必死にその身体にしがみついて耐える。吹き荒れる鉄塊の嵐が一回りもすると、7、8体が一気にその墓守りの役目を終えることとなった。

 

 そして───

 

 パラパラと、砂埃が天井から落ちてくる。

 エドアードの凄まじい一撃に、古いトンネルは耐え切れなかったのだ。

 

 やがて轟音を立てて、土砂がエドアードたちとドラウグル達とを隔てるように落ちてくる。

 

「お返しだ」

 

 エドアードは、回転が止まりフラフラと目を回すノアの手からクロスボウを奪うと、手早く次弾を装填してボルトを撃ち出した。

 ボルトは降り注ぐ土砂の隙間をすり抜ける見事な軌道を描くと、最後っ屁とばかりにエドアード達に狙いをつけていた杖持ちの頭へと突き刺さった。

 

 そして、ドラウグルの集団とエドアード達の間は、完全に隔てられた。

 

 

 

 

 ──ー

 

 

 

 

「危なかったけど、何とかなったわね! 私のおかげで!」

 

 崩落が落ち着いたあたりで、興奮の治らぬ様子のノアがドヤ顔で自らの手柄を誇り始めた。しかし、その足はまだ微妙にプルプルと震えていて全く格好はつかない。

 

「チビるのを我慢できるようになってから言うんだな」

 

「なっ──!?」

 

 上手く誤魔化せたとばかり思っていたノアは顔を真っ赤にさせる。怒りの抗議をしようとしたところで、ポンとエドアードに何かを放り投げられて慌てる。

 

「わ、わわっ」

 

 慌てて受け取ると、それは先ほどの小型クロスボウだった。

 

「自分の身は、自分で守るんだな」

 

 エドアードはそれだけ言った。

 彼としては護身の為に渡したに過ぎないが、ノアにしてみれば少し違ったらしい。何故だかほんの少し嬉しそうにはにかんで、預けられたクロスボウを抱きしめた。

 

「そういえば、良かったの? これ」

 

 そこで思い出したようにノアが言った。埋まってしまった道のことだ。エドアードにとって、ここは多少思い入れのある場所なのではと思ったのだ。

 

「良かったも何もない。それに、これでこの道から追跡されることもないんだ。

 ……さあ、さっさと行くぞ。この先をサルモールに塞がれたら、俺たちは今度こそ終わりだ」

 

 エドアードは崩れた道をしばらくジッと見つめると、やがてぶっきらぼうにそう言って、さっさと先を歩き始めた。

 しかし、ノアにはそのぶっきらぼうな表情はどこか寂し気に見えた。

 

 

 

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