この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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この素晴らしいダンジョンに転生を!

 

 

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      ☆

 

 

『カズマさん!!ねぇ!カズマさんったら起きて!!』

 

んー、なんだよー。まだ朝じゃないだろ?

 

『起きなさいってば!!』

 

ぶっ!?お、おま、殴ることないだろ!?

 

『時間がないの!あんたの転生についての事よ!』

 

あー?転生?

 

『そう!実は、そっちの世界でデストロイヤーと黒龍を倒したでしょ?そのおかげで、私の失敗…、ご、ごほんごほん。せ、世界に少しだけ平和が戻ったのよ!』

 

…おい、おまえいま何を言いかけた?

 

『し、失敗で凶暴なモンスターを転生させたとかじゃないわよ?そ、その尻拭いでカズマさんを続けて転生させたわけでもないからね?』

 

おいこらクソ女神。

 

『いやぁ!怒んないで!で、でも!私の失敗転生は何とか上にばれずに済みそうなの!』

 

知らねえよ!?

 

『ふふふ。だからね?今回のカズマさんの功績を讃えて、もう一度だけ別世界への転生をしてあげる!』

 

…え?

 

『今の世界よりも過ごしやすくて、堕落した生活を送れると保証するわ!!』

 

……。

 

『ちょ、聞いてるの!?時間がないんですけどー!!』

 

あ、ああ、聞いてるよ!

 

『それなら、すぐに準備してちょうだい!一応、そっちの世界に歪みを残さないようにしたいから、カズマさんの力は消しておくわね!!』

 

なに!?

 

『準備ができたら教えて!じゃあ!』

 

ちょ、お、おい!待てよ!アクアーーー!

 

 

 

 

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      ☆

 

 

 

 

相変わらずに賑やかなオラリオで、今日も武器を担いだ冒険者たちが俺の前を歩いていく。

やはり、向かう先にはバベルの塔があり、迷宮を隠すその建物は多くの冒険者を迎え入れた。

見慣れてしまった古臭い建物が並ぶ埃っぽい街並み。

色が少ない景観が、どこか無機質さを感じさせつつも、人々の活気にゆるやかな装いを見せている。

 

太陽がようやくてっぺんに登った。

 

少し早起きしたためか、今日は一日が長く感じる。

 

災厄とまで呼ばれた黒龍はもう倒されたと言うのに、この街は相変わらず血気盛んで物騒なまま。

 

ただ、そんな街もーーーー

 

 

「……悪くないよな」

 

 

ホコリっぽさを残す街並みを眺めながら、俺は溜息を吐く。

 

変わらねぇか。

たかが大きなドラゴンを倒したくらいじゃ。

 

 

「あ!こんにちは!カズマさん!」

 

「んー。ベルか。今日もダンジョンに行くのか?」

 

 

白い兎が声を掛けてきた。

少しだけ大きくなった身体には、初心者向けのフルアーマーを身に付けている。

 

 

「今日はディックスさんと訓練の日です!」

 

「ほー。ディックスのやつ、指南の真似事なんぞしてるのかよ」

 

「真似事じゃないですよ!ディックスさんは若い冒険者を集めて、ダンジョン勉強会を開いてくれてるんです!」

 

 

あの強面で若者に何を教えてんだか…。

まぁ、ゼノスの時にもその強面に汗水流して働いていたわけだが、ちょっと世界線が違いすぎない?

 

 

「あ!それじゃあ僕、時間なので!」

 

「ああ。頑張れよ」

 

「はい!」

 

 

元気の良い返事を述べると、ベルは手を振りながら駆け足で雑踏へと紛れていった。

いつだったかに見た、アイズに似た何かの正体は分からない。

だが、いつの日か、あんな子供に救いを頼る

事のない世界に生まれ変わってくれればと……。

まぁ、そんな世界になったらつまらねーか。

この街は少し血生臭いくらいが丁度良い。

 

なんて、知ったように世界の果てを想像してみながらベルの姿が見えなくなったことを確認する。

 

 

そんな時にーーー

 

 

「いつぞやの白い子供じゃない。カズマ、また変な事を吹き込んだの?」

 

「黙ってろよエロババァ。おまえこそ、また贅肉を蓄えたの?」

 

 

見る者を失望させる贅肉の神 フレイヤが、腕を組みながらもぐもぐとジャガ丸を口に頬張りながら現れた。

 

なに?この贅肉モンスターはなんで普通に下界を散歩してるの?

 

しかも、誰一人として神の存在を気にかけていないし。

 

 

「聞いてちょうだいカズマ。まじめな話よ」

 

「む?」

 

「とある都市から言い伝えられたと言う、()()()()()を、私は聞いてしまったの」

 

 

ゼロの伝説、と語るフレイヤは、ジャガ丸を飲み込みながら歩き出す。

付いて来なさいと言わんばりに背筋を伸ばし、ゆるりとした足取りでどこかの目的地へと向かった。

特に予定もない俺はその後を追う。

 

 

「曰く、その伝承によれば、万物の構造を根本から書き換える力があるとか…」

 

「構造…?」

 

「ええ。さぁ、着いたわ」

 

 

意外と近かった目的地。

そこが慣れ親しんだ酒場、豊穣の女主人であることに疑問を持つものの、俺はフレイヤの後に続き店内へと入る。

 

 

「しゅわしゅわと唐揚げを」

 

「…?」

 

 

そして、程なくして運ばれてきた品を見つめながら、フレイヤは勇ましくも蛮勇に、俺へ向かって伝承を唱えた。

 

 

「このしゅわしゅわは泡がパチパチして脂肪を燃焼させるからカロリーゼロなのよ!!!さらに!唐揚げに関しては高温で揚げているときにカロリーが減少しているからカロリーゼロ!!!!」

 

「ちょっとなに言ってるのか分からないです」

 

「むしゃむしゃー!あー美味しい!カロリーゼロだから気にしないで食べられるし!!」

 

 

時間を返せ。

なんだそのゼロ理論は。

てか、この世界にカロリーなんて言う概念があったことに驚きだわ。

 

 

「はふはふ。唐揚げは熱々に限るわね。ほら、カズマさんも食べなさいな。黒龍の討伐祝いよ」

 

「討伐祝いがしゅわしゅわと唐揚げかよ…。まぁ、悪くないが…」

 

「へへへ。最近の私は油物で胃をコーティングさせてからアルコールを流すことを主流としているわ」

 

「なにそれ壊滅的に不健康そう」

 

 

呆れながらも、その主流に俺も乗っかる。

フレイヤに言われなくても知っている。油物、アルコールは鉄板のコンビなわけだ。

 

ふと、しゅわしゅわを片手に慌てて唐揚げを頬張るフレイヤが、頬を赤く染めながら俺を見つめた。

 

 

「そういえば、カズマはこれからどうするの?」

 

 

あまりに唐突な質問。

これから?そんなもんしゅわしゅわで良い気分になるだけよぉぉ!

と、答えても良かったが、俺は素直に答えてみる。

 

 

「…わからん」

 

「私は心配しているの。貴重な飲み友達がいなくならないかって。だから真面目に答えなさい」

 

「…」

 

「私のモノになりなさいな。そうすれば、一生を100回繰り返すくらいの時間は退屈しないで済むわけよ」

 

「ふむ…。おまえに養ってもらうわけか…」

 

 

カロリーがゼロだとか、一生が100回だとか、どうにも会話の内容がアホに聞こえる。

ただ、言葉こそ稚拙だが、その申し出を口にした本人の顔はアルコールに負けることなく少しだけ真剣なものだった。

 

一息、俺は溜息を吐き捨てながらしゅわしゅわを傾ける。

 

 

「ぷはー。…ん、やっぱしゅわしゅわって美味しいわ。未成年の飲酒にとやかく言う奴もいねえし。…アホだが楽しい飲み仲間もいる」

 

「ちょっと!私はまじめな話をしてるのよ!」

 

「カロリーゼロが?」

 

「そっちじゃないわよ!」

 

 

バンっ!とテーブルを叩きながらも、フレイヤは片手に持ったしゅわしゅわを置かない。

 

 

「神様ってのは、ホイそれと他信者の勧誘をして良いもんなのか?」

 

「気に入れば魅了する。それが私のやり方よ」

 

「……たしかに、一定の熟女層には魅力があるかもしれんが」

 

「だ、だ、誰がムチムチでエロい団地住まいの美人熟女よ!?」

 

「言ってない…」

 

 

やはり、フレイヤは神様である。

ろくな会話に聞こえないが、コイツはコイツなりに俺の事を()()してくれているのだ。

 

さすがに、そこに気付かないほどバカじゃない。

 

むしろ察しは良い方だ。

 

だからこそ、その優しさと本音をさらけ出せるフレイヤには気を許してしまう。

 

 

「…おまえ、良い奴だよな。性奴隷のくせに」

 

「え、私ってまだあなたの性奴隷だったの?」

 

「うん。いやまじで、俺がそこいらに居るハーレム系異世界転生者だったら性欲の捌け口要員として迎え入れてるわ」

 

「ちょ、そんな卑猥な要員は嫌なのだけれど…」

 

「ま、その申し出は断るけど」

 

「えぇ!?なんで!?」

 

 

当たり前だろ。

なんで俺がフレイヤなんぞの子供にならないといけねぇんだ。

俺とフレイヤの主従関係?

そんなもんすでにハッキリしてるだろっての。

俺が飼い主でコイツが性奴隷。

その関係は譲れない。

てか、譲りたくない。

 

 

「そこだけは譲らないからな!?」

 

「くっ!もう知らないからね!?ホントに知らない!!カズマの為を思って言ってるのに!!私がカズマの為を思って言ってあげてるのにーー!!」

 

「おまえに心配される筋合いなんてねぇんだよボケ!!」

 

「ぼ、ボケじゃないわよ!ぅぅ、わ、私が、カズマの為に…、ぅ、た、ためにぃぃぃ〜〜、うわぁぁぁん!!」

 

 

泣き出すフレイヤ。

怒鳴り散らす俺。

 

いつもの光景である。

 

店員や客も、ヒューマンが神を泣かす光景に何も言うことはない。

 

これが日常なのだ。

 

いつもの日常なのだ。

 

何回も繰り返してきたこの日常は、武器やモンスターが蔓延る世界ですら変わらない。

 

何も変わらないんだ。

 

俺が居なくなろうと

 

この世界は変わらないーーー

 

 

 

 

 

で。

 

 

 

 

 

「またフレイヤと喧嘩して帰ってきたんか…」

 

「喧嘩じゃねえよ。一方的な蹂躙だ」

 

「神を蹂躙すな」

 

 

カロリーどころか生産性がゼロなフレイヤとの飲み会を終えた俺は、いつものように夜分遅くにホームへと帰宅した。

 

そして、玄関口に仁王立ちしていたロキに捕まり、今は神室でお説教の最中である。

 

 

「ようやるわ…。暇ならウチの手伝いでもしとけ言うてるやろ」

 

「暇じゃねえし?ぶらぶらしながら街の安全確認してたし?」

 

「アホか。よだれ垂らして女のケツを舐め回しながら歩く安全確認がどこにあんねん」

 

「よ、よだれとか垂らしてないんですけどー!?」

 

 

ロキは溜息を大げさに吐きながら椅子から立ち上がり、俺の背後へ歩くや背中に触れた。

 

ふと、首筋から腰元まで指でなぞりながら、少しだけ肩を落として曖昧に笑う。

 

 

「やっぱり何にも感じひんな…」

 

「いやいや、俺は少し感じたよ?おまえとは言え、女性に背中を触られるのは悪くないな」

 

「ナニに感じてんねん!…力の事や。ステータスもスキルも、何の力も感じひん」

 

「…そっか。…ま、何もしてないのに力が戻るなんて思ってないけどさ」

 

 

黒龍を倒してから1ヶ月。もはや毎晩のように行われるロキの確認は、今晩も失意に終えた。

 

あの日から綺麗さっぱりと消え去った眷属としての異能は、やはり俺の身体に戻る事はない。

 

それが黒龍を倒すべく失わなければいけなかった代償なのか。

それとも、黒龍を倒す為だけに与えられていた力なのか。

 

無論、あのバカ女神の仕業である事を。

 

ファルナを刻んだロキ本人にすら分からない。

 

 

「消えちまったもんは仕方ねえよ。戻る戻らないなんて、下手に期待するのも疲れるしよ。とりあえず、俺はしばらく隠居させてもらうわ」

 

「せやから、ウチの手伝いをしろや」

 

 

気が進まんなー、と表情に出してみると、ロキは小さく笑みを浮かべながら俺の頭を叩いた。

 

神室から見える月が真っ黄色に染まっている。

何の気なしに見た月が、こんなにも大きく丸かったことに驚いた。

 

 

「月明かりってのは、本当に明るいんだな」

 

「純文学やな」

 

「俺はラノベしか読まないよ。…さて、説教は終わりだろ?俺はそろそろ部屋に戻るわ」

 

「ん。……アイズなら中庭やで」

 

 

神室から出て行く間際に聞こえた声に、うるせぇよ、と悪態をつきながら、俺はポケットに手を突っ込み、中庭へと向かった。

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

月が綺麗ですね。と、何も知らなければ口に出してしまいそうな程に月が綺麗な夜だ。

 

いや、月だけじゃない。

 

月の光と交わり合う彼女の金糸が綺麗なのだ。

 

黒龍が倒されても、ダンジョンの危険は変わらない。だが、少しくらい気を抜いてもいいのにと、額に汗を輝かせる姿に問いかけた。

 

もちろん、心の中で。

 

 

「よ、アイズ。なんか久しぶりだな」

 

「……カズマ」

 

 

剣技を止め、こちらを振り向くや一言だけ声に出して黙り込む。

俺に気を使ってか、それとも力を失った俺に興味が無いのか、この1ヶ月、頻繁にダンジョンへ潜っていたアイズの感情は分からない。

 

 

「あんまり無茶すんなよ?フィンやリヴェリアが心配してたぞ」

 

「…無茶は、してない…。だけど…」

 

「…?」

 

「…早く、強くなりたいから」

 

 

ああ、そう。

十分に強いと思うけど、それでも満足できないのか。

 

 

「そっか…」

 

「うん…」

 

 

アイズは俺から目を逸らしながら、剣を握る力を強めた。

 

ふと、月明かりが薄っすらと消える。

 

どうやら月が雲に隠れてしまったようだ。

 

まるで、アイズの心を隠すように、その分厚い雲は明かりを遮り、俺の心すらをも不安にさせた。

 

 

「…カズマ。あの日のこと、覚えてる?」

 

「あの日?」

 

「私がここで、カズマに弄ばれて地面にひれ伏した日…」

 

「誤解を招きそうな言い方だが、間違っちゃいないな」

 

 

あの日のこと、とアイズは言うが、俺とアイズが過ごしてきた日々は1冊の手帳では収まりきらない程になる。

 

その中から探す1ページ。

 

アイズが指すあの日が、ここで俺とアイズが戦った日の事だろう。

 

 

「約束、したよね?」

 

「約束…」

 

「私が勝ったら、カズマのことを教えてって」

 

「…。ああ、そんな約束したっけか」

 

 

今更、俺の何を聞きたいのか、アイズはようやく雲から顔を覗かせた月明かりを背に、その右手に持った剣を俺へ向けた。

 

 

「…私は、強くなる。カズマに勝てるくらい…」

 

「ん」

 

「カズマに勝って、カズマのことを全部知るの…」

 

「はは。全部知ってどうするんだよ?そもそも、おまえが知ったところで……」

 

 

知らなくちゃいけないのーーーー!

 

 

俺の言葉を遮るように、アイズの声が中庭に響いた。

その瞳からは強い光を感じる。

世界から俺を逃さないような。

 

ようやく目と目があった時に始めて気付かされる。

 

アイズの瞳はうっすらと涙を含んでいた。

 

 

「私は勝つ。勝って、カズマの全てを知ってあげるの。そして、教えてあげるの。カズマ自身が気付いてない、カズマの事を」

 

 

俺の知らない俺の事。

 

そんな事は一つも無い。

 

俺の事なら俺が全て知っている。

 

アイズが俺に教えようとしているのは、アイズが抱く俺への幻想だ。

 

 

私の英雄だと。

 

 

そもそも、戦ったところで結果は見えている。

力のない俺がアイズに勝てるわけがない。

 

 

「はは。やめようぜ?時間も遅いしさ、戦うのはまた今度に……」

 

「今度なんて、ない」

 

「っ。…おまえ、なにを…」

 

「カズマは、居なくなっちゃうから」

 

「……」

 

 

居なくなっちゃう。

その言葉には確信がこもっている。

大した直感だと、俺は思わず微笑んでしまった。

 

ただ、アイズが間違えてるとしたら。

 

居なくなるんじゃない。

 

俺がこの世界から消えるだけ。

 

モンスターは世界を蹂躙し続ける。

 

バベルが蓋をする地下の迷宮では、今日も誰かが血を流して戦っているだろう。

 

その誰かは冒険者と名乗り、蛮行としか思えない命懸けの戦いを繰り返す。

 

だが、蛮行を繰り返し、正統な力を宿し、武器を握りしめて、幾千の悲しみを経験した者達が、やがて英雄と呼ばれるのだ。

 

 

俺なんかじゃない。

 

やっぱりこの世界にはまだ英雄が必要だ。

 

俺みたいなチート能力者じゃなくて、アイズや、ベルのような、本当の光を輝かせるヤツらが。

 

この世界には必要なんだ。

 

 

「…居てもらわないと私が、困る」

 

「困らないよ。おまえは強いし」

 

「でもカズマより、弱い」

 

「…弱くないんだよ。俺の方が弱いんだ」

 

「弱くない…っ」

 

「弱いんだ」

 

「それなら、なんで……」

 

「……」

 

「私は、泣いてるの…?」

 

 

それはおまえが…。

 

弱いからだろ。

 

そういえば、俺は俺の存在価値をこの世界に残せるのか?

アイズのためにと、俺はこの世界に存在し続ける理由を作れるのか?

 

いや、違う。こいつは強いんだ。

 

俺という英雄の虚像をも超える強さを、こいつは持っているのだ。

 

もう、やめようぜ…。

 

これ以上、俺にお別れを辛くさせないでくれ。

 

 

「…俺は転生者なんだ。他の世界から転生してきた。デストロイヤーや、黒龍を倒すためだとか、理由は何でもいいが、転生者の俺はこの世界に留まり続けることはできない」

 

 

もちろん、そんな決まりはない。

 

ただ、俺が居ない方が都合良い。

 

この世界にとって、本物の英雄が生まれるためには、俺はいちゃ駄目なんだ。

 

 

「…カズマ」

 

「この世界に俺は必要ない。これ以上、俺にーーーーーー

 

 

 

と、絶縁の言葉を口にする寸前に。

月明かりすらをも凌駕する一閃の光が俺の胸を貫いた。

 

その光はまだ弱々しく、それでも懸命に大きくなろうと在り続ける。

 

優しい色をまとって、ふわりと俺の心を暖めるように。

 

 

小さな小さな彼女の柔らかいーーーー

 

 

 

 

「カズマさん!私にはあなたが必要ですーーー!!」

 

 

 

 

ーーー声が。

 

表情が。

 

涙が。

 

俺の全てをその場から消える事を許さなかった。

 

 

「レフィーヤ…っ!お、おまえ、こんな遅い時間にどうしたんだよ!?だめだぞ!もう寝る時間だろ!」

 

「だって、だって!カズマさんが…、最近、一緒に居てくれないから…っ、わ、わたし…、嫌われちゃったのかと…」

 

「…っ!そ、そんなわけ…。そんなわけないだろ!!可愛い妹を嫌いになる兄ちゃんなんて居ないんだ!」

 

「ぅぅ、で、でも、いま、この世界にカズマさんは必要ないと、自分で…、もしかして、オラリオから出て行っちゃうのかなって……」

 

 

バカな子だ。

 

レフィーヤ、俺がおまえを残して消えるわけがないだろ?

 

言葉のあやってやつ。

 

いやほんと。

 

こんなに可愛くて優しい、小さな小さな妹を残して、俺がこの世界から消えるわけがない。

 

消えるわけがないんだ!!!

 

 

「おいで、レフィーヤ」

 

「ぁぅ…」

 

 

レフィーヤを抱っこしてあげながら、俺は片手で頭を撫でてあげる。

そのくすぐったそうに目を細める彼女の顔を見つめながら、俺はそっと笑いかけた。

 

 

「この体温も、その柔らかい言葉も、優しい香りも…、レフィーヤのすべてを俺が守ってやる」

 

「か、カズマしゃん…」

 

「はは。泣いてる…。いつも泣いてるなぁ、泣き虫レフィーヤは。ほんと、心配で放っておけないよ」

 

「ぅぅ、放って…、わ、私のことを放っておかないでください…。カズマさんは、私の英雄さまなんですからっ!!」

 

「あぁ。…そうだよ。俺はレフィーヤの英雄だ」

 

 

そうだ。

 

俺は英雄なんだ。

 

この世界で守るべきものを持つ。

 

それが俺の英雄としての在り方だ!!

 

 

「よーし。明日から英雄頑張っちゃうぞー!ほら、レフィーヤ。もう帰るよ。寝ないと大きくなれないぞ?」

 

「は、はい!!」

 

「………」

 

「おいアイズ。おまえも早く寝ろよな。汗臭いぞ!」

 

「ぁ…、はい…」

 

 

悪くねえよ。

 

この世界で英雄を続けるのも。

 

この笑顔を、俺は守り続ける。

 

そう決めるのに価値や理由なんていらないんだ。

 

レフィーヤさえ居れば!俺は無敵だ!!

 

 

 

「この素晴らしいダンジョンに転生を!!!」

 

 

 

endーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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