エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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偽りの聖女編です。
本編はまだ、25しか進んでないんだなと改めて自分の遅筆ぶりを痛感しています。



偽りの聖女13

〈閑話〉ウサ耳島12

 

 積み込みは手早く行われた。

 接岸した埠頭を経由すると妨害に遭う可能性がある。そこでバモー商会倉庫の裏手に艀を着けて、そこから物資を運び出して本船との間を往復をさせる。

 陸の監視を縫う形で、ゲリラ的に積み込みが完了したのが午後四時。

 船乗りの呼称では16:00(いちろくまるまる)だ。

 

 乗組員総出で行った為、ニナも手伝ったが、操船訓練を受けておらず、子供であったのでどちらかと言えば邪魔者扱いされてしまった。

 リーミン曰く「お前は荷物を引き上げるにゃ」である。

 本船に横付けされた艀から、荷物を船倉へと運ぶ係である。

 大人と混じって働くが、当然ながら、子供なので運べる量はたかが知れている。

 

 隣で手伝うバモーの孫娘、アーモの様に背中に樽や小麦袋を括り付けて、一気に運ぶとかの芸当は無理で、小さな箱をうんしょうんしょと運ぶ、子供のままごと(まぁ、本当に子供なのだから仕方ない)レベルのお手伝いがせいぜいだ。

 

「いつか、あんな風に一人前になってやる」

 

 竿を操り、艀を自在に動かすポーリングを絶対に習ってやると心に誓う。

 船は出港準備を整えて、既に艫綱も解かれていた。

 補助の櫂が漕がれ、縮帆状態だが微速前進で港外へ向かいつつある。

 

「あはは、大丈夫。まだ若いから」

 

 そんな彼女にアーモが語りかけてくる。

 

「それにウサ耳族は操船に向いてるからね。人馬は船に向かないからなぁ」

「そうなのか?」

「安定性の問題よね」

 

 彼女は「ああ言う小舟は重心がね。どうしても高くなって危険なんだ。ある程度、サイズがある船ならそんなに危険じゃないんだけど」と呟く。

 艀の様な小艇に乗る時は立ち上がらず、膝を折り曲げないと危険なのだそうである。

 

「ご苦労。無事に積み込みは終わった」

 

 そこへボースンが現れて、報酬と契約書をアーモに渡す。

 西方ではほぼ確実。中原でも東方でも換金率の高い、信用のある銀行手形である。

 

「ジャイロック銀行の手形ですね。確かに」

「拙いな、太守の兵が嗅ぎ付けた様だ」

 

 舷側の方を振り向くと岸壁が騒がしくなっており、多数の衛兵が右往左往しているのが見える。

 アーモが「あちゃあ」と頭を抱えるのと同時に、ボースンの「増速!」の命令が響き渡った。漕ぐスピードが上がり、帆が張られて行く。

 

「済まんね。あんたを降ろすのは港外へ出た後になりそうだ」

「お気遣いなく。まずは門を突破するのが先でありましょう」

 

 港の入口にある侵入阻止用の鎖は外からの侵入を防ぐだけではなく、当然、港内に居る在泊船にも有効である。まだ、動く気配は無いが、もし降ろされてしまえば万事休すだ。

 

「吹けよ。【送風】」

 

 帆が風を捕らえた。いや、一人の女が正確には帆に風を与えているのである。

 セドナが甲板に立ち、風魔法によって帆へ力を与えた途端、グリューン・グリューンは今までとは比較にならぬ速度で突進を開始する。

 

「御館様」

「こんな時に船長室なんぞに篭もっては居られないだろ?」

 

 そのまま私掠船は門を越える。

 セドナは「はん」と鼻を鳴らした。門の阻止バリアーは降りる気配が無い。

 

「賢明な判断だね」

 

 間に合わないと見て阻止行動を中止したのだろう。ここで門を閉鎖してしまったら、完璧にグラン王国士族との争いになる。あの太守はいけ好かない奴だが、咄嗟の判断は的確だった。

 

「御館様」

「ラオ、港外に投錨する。油断するな、敵船は恐らく一両日中にやって来る」

「はっ」

 

 それからセドナは、ボースンの隣に居る人馬族に目をやる。

 

「バモーのお孫さんだね」

「アーモと言います。セドナ様の事は祖父よりいつもうかがっておりました」

 

 それを聞いて苦笑する妖精族の女。

 いつも自分に関して何を言っているのかは、敢えて尋ねまい。

 

「上陸させたいのは山々だけど、直ぐに日が沈む」

 

 まだ集落の近くだから危険度は低いが、夜の砂漠には何が出るのか判らない。

 夜間行軍の方が旅には向いてると言う事実があるにせよ、夜は人間よりも魔物や怪物の時間である。砂漠に生息する強力な魔物や、亡者の群れと鉢合わせなんて事は珍しくないのである。

 

「この時間は危ないから一晩滞在する方が安全だけど、希望はあるかい?」

「では、お言葉に甘えて泊めて頂けませんか」

「了解だ」

 

〈続く〉

 

 

〈エロエロンナ物語25〉

 

 グレスコ司教は語る。

 自分は大法官、バークトルの命を受け、聖女の行方を探していると。

 今からその内容を詳しく話すが、これは口外無用。と聖教会式の誓いを求め、マドカ達が同意したので語り出す。

 

「興味深いお話ですね」

「そうして、この国へ到着したのは掴んでおります」

 

 その内容は聖女が法国から抜け出し、船に乗って遭難した事。その後、私掠船に拾われて王都までやって来た事。しかし、その後の行方がぷっつりと途切れた事、等だ。

 

「この前の聖女騒動が起きる前まで、その消息は掴めず…ですか?」

「お恥ずかしいですが、その通りです」

 

 一時は死亡説も流れたが、巫女のお告げによると生存していると大法官は主張し、グレスコが送り込まれたのだという。

 

「再調査した所、聖女の行方を探ったこちらの間者は、ことごとく行方不明になっておりました」

「始末されたのですか?」

「はい。相手は『闇』と、恐らくルローラ家です」

「ルローラ?」

 

 マドカは首を傾げた。そして思い至る。あの眼鏡の士族はエロコ・ルローラと名乗っていた。

 グレスコは「調べました所、士族家ながら、恐ろしい家系だと判明しました」と語った。

 まず、古い。それこそ建国以来の大公家にも匹敵する家柄だが、目立たない。

 決して権勢を誇示したりはしない。だが強力な軍事を持つ辺境伯家と、商業的に強い影響力のある伯爵家とが親子の縁で結ばれており、侮ると酷い目に遭わされる。

 地位は低くとも、影の権力。厳然たる力を保持しており、王家他の古い有力家はそれを知っているらしく、決して手出しはしない。

 

「かの領地は密偵の墓場と称されておりまして、そこへ不用意に手を出した者達は討たれてしまったらしいのです」

「怖いわね」

「しかし、この度、王都で起こった聖女騒動までは隠蔽出来ず、我らの耳に入った次第」

 

 だが、その消息は再び、この教会で途切れてしまった。

 マドカは悩む。それが贋物で突然、消失してしまった事を告げるべきか、否か。

 聖教徒としての立場と、グラン王国民としての立場もある。

 特に『闇』の報復も恐ろしい。

 仮に自分一人であったなら気にもしないのだが、この教会とレオナとルイザ、二人の女司祭に関しては自信が持てないからだ。

 個人の武勇で全てを退けるのは可能である。しかし、護るべき者が出来てしまった場合、それを害する存在に対して対応は出来ないのだ。

 個人は所詮、個人でしかなく、護るべき対象を全て影響下には置けない。

 

「司教」

「何かな?」

「神に対して誓って貰えますか?」

 

 マドカは決断した。聖教会式の宣誓を取る事である。

 先程、マドカ達三人が承認した宣誓と同じ事をグレスコに求めたのである。これは今から話す内容は口外無用と司教に誓わせる事であった。

 すっと同僚二人に視線を投げると、自然にレオナとルイザが席を立った。レオナは音を立てないでドアに向かい、ルイザは窓の外を窺いながら、脚立を手に天井の羽目板を外す。

 

「うわっ」

 

 不意にドアを勢いよく開けると、間抜けな声と一緒に司教の随行員が転びつつ入って来た。

 どうやら、扉に耳を付けて中の会話を盗み聞きしていたらしい。

 

「そっちは?」

 

 そいつをふん縛ってからのレオナの問いに、「流石にネズミは居なかったみたい」とのくぐもった答えが、天井裏に顔を突っ込んだルイザから返って来る。

 

「ガエル!」

「困りますね。こんな行為は」

 

 部下を叱責するグレスコ司教の声と、半ば呆れ顔のマドカの発言が重なる。

 

「他国人である我々を信用出来ないのも理解出来ますが…」

 

 とはレオナ。

 

「同じ聖教徒ではありませんか」

 

 とはルイザ。

 

「面目ない。教育がなっていなかった様だ」

 

 グレスコは謝ると部下に命じてふん縛られた男をつまみ出した。

 ついでに随行員全員を教会の外へと追い出す。「閣下」だの、「危険であります」だのの文句が上がるが「わしを怒らせたくないのなら、黙れ」の一言で沈黙した。

 

「で、誓いであったな。これから話す内容を口外するな。おおよそ、そう見当したのだが…」

「ご明察です」

「しかし、そうなると教会の仲間にもその内容を伝えられぬ話になる」

 

 つまり、話を聞いたとしても、その情報を仲間と共有出来ぬので意味が無い。死に体になるので意味が無いのでは無いか、との疑問だ。

 

「我々にも我々の利害、生活がありますからね。

 成る程、法国中央から見れば、このグレタ教会はちっぽけな小教会の一つに過ぎず、潰されたとしても何の痛痒も感じぬ存在なのかも知れません。

 しかし、我々はこの国で多大な努力をして、この街にこの教会を建てて、信徒を育ててきた歴史があります。それを中央の意向一つで、左右されたら堪らぬのです。

 ここで現地政府に逆らえば、どうなるかは火を見るより明らかですよね?」

 

 グレスコは黙って話を聞いているが、マドカの『闇』からの口止めを匂わせる。話すのはそれなりの外交的な手順が必要だとのニュアンスは伝わったらしい。

 

「よって、お話しするにしても教会組織が直接知りうる事柄は話せず、グレスコ司教個人に対して渡せる範囲内でしか無いのです」

「理解はした。司祭らに教徒として犠牲になれ、とは確かに強要は出来ぬ」

「それでも構わぬのであれば、神への誓いを宣誓した後でお話しします」

 

 神への宣誓は聖句の一つである。

 神へ「○○をするのを誓う」と宣誓し、その約束を違わぬ様に呪文をかけるのである。一種の呪いであり、神の御名に於いて誓った事に関しては、それを反故すると神罰が下る。

 途中で口が利けなくなる。くしゃみや咳が身体を襲う。最悪、死に至るなど神罰の効果は様々だが、それのどれもがろくでもない事は確かである。

 聖教会の巫女であれば、司祭級ならば大抵は会得している魔法であり、マドカは無論、レオナも使える聖句であった。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 非常ベル。

 伝声管から耳障りな魔鈴がじりじり鳴り、何かを警告しているわね。

 ベラドンナは「侵入者か」と呟いたわ。

 

「侵入者ですと?!」

 

 驚いた顔で問い質したのは禿の方。

 

「入口に張っていた罠に誰かが引っかかったようじゃ。

 安心せい。既に部下が迎撃に向かっておる」

「出来の悪いホムンクルスでは心許ないな」

 

 これは黒衣の帝国軍人。

 

「不安かや。ふむ、では我らも現場へ行く事にしようかの?」

「俺は構わん。貴様はどうする。バパップマン」

 

 若い将校は早くも腰の帯剣に手を掛けて、その鯉口を抜いたり入れたりしているわね。

 視線を逸らしてあたしの後ろに居るイブリンに目をやると、アイコンタクトが判ったのか、彼女はこくりと頷いたわ。

 禿の名前判明。あたしはバパップマンって聞き覚えは無いけど、やっぱりイブリンは知っているみたい。その禿(一々名前なんか呼んでやらない)は「置いていかないで下され」とか言って、先行する二人について行く。

 

「ふうっ」

 

 多分、充分遠ざかったのを見計らい、あたし達は狭い物陰から身を這い出して息を吐く。

 警報はまだ鳴ってる。数秒鳴ると一時停止して、更に数秒鳴るってのがパターンみたい。多分、この機構は時計的な機械装置を介して作動してるわね。錬金術師としては参考になる。

 

「バパップマンは恐らく法国の法官です。

 ボリス・バパップマン。私も名前しか知りませんが、そんな名の司祭が居たのを覚えています」

 

 説明によると、巫女の権限を抑制して権力を奪取せんと企む法官派の一員だそうだ。名前しか知らないのは、あんまり中央近くに居た人じゃ無いからだそうな。

 名簿にあった名前をたまたま記憶していただけで、実は本人かどうかも判らないと言う。これがバパップマンとか言う特徴的な名以外なら、多分、『誰だ、それは?』的な扱いになってたんじゃないかしらね。

 

「入口とやらは、やっぱりあたし達の進んで来た進行方向とは逆みたいね」

 

 ロリ婆達の去った方向からの推測よ。私達もそっちへ向かうべきか、それとも?

 

「余りぐずぐずもしていられませんが、しかし、今の状況は情報収集には絶好の機会ですね」

「研究資料か。確かに豊富にありそうね」

 

 あたしは納得した。ここは研究室の一部らしい。でも、あたし達が隠れていたガラクタとかもそうだけど、この荒れ具合から見てメインの研究室では無いけどね。

 イブリンの偽者を作る理由。そしてそれを使った計画の全貌が掴めるかも知れない。

 

「例えば、これ、解読出来ますか?」

「書き損じの書類ね。どれどれ」

 

 差し出された丸められた紙くず。それに目を通してみる。

 ホムンクルスに関する記録だわね。几帳面に書いてあるけど、『上手く複製出来ぬ。No108、これは失敗作じゃ』の記述を最後にぐちゃぐちゃと汚い線が舞っているわ。

 え、108体もホムンクルス作ってるの?

 しかも、これ結構古びた紙だから、現在は何作目なのよ!

 

「…くらくらして来たわ」

 

 天才と言われただけある。一体を作るのに心血を注ぐと称されるホムンクルス製造。それを事も無げに百体以上造り上げているのに、あたしは眩暈を覚えた。

 

「読めるのですね。今、分析する時間がありません。適当に頂いて行きましょう」

「なら紙束じゃない、本になってるのが良いわね」

 

 あたしは適当に、多分、重要じゃないかと目星を付けた数点の資料を収集する。

 持ち運びに不便なのでガラクタの中から、使えそうな鞄を発見してそいつに詰める。色が紫色だったから、実は趣味じゃ無かったけど贅沢は言ってられません。

 形は腰に付けるヒップバッグタイプ(もしかしたら、馬用のサドルバッグなのかも知れないけど)で、これから逃避行をするのには丁度良かったし。

 

「誰か来ます!」

「えっ、待ってよ。今、準備中」

 

 イブリンが警告する。既に手には放置されてた魔法の杖らしき物を手に構えている。

 廊下をバタバタと走ってくる複数の足音。剣戟の音。こちらへと近づいてくるのが判るけど、こっちもこっちで、バッグを腰に結びつけている真っ最中なのよ。

 どうにか元のガラクタの置いてある場所へと戻ろうとした時、ばんっと乱暴に扉が開いた。

 中へ入ってきた小柄な影へ、イブリンが杖を振り下ろした。

 

「あがっ」

 

 その小さな影は、頭に一撃を食らって昏倒したわ。

 続いて入って来た奴にも連続して攻撃するけど、そっちは空振り。敵の細剣が受け止める。

 返す刀で反撃され、イブリンの腕にぱっと血が飛び散る。

 

「また、聖女様もどきか!」

 

 杖を取り落とした彼女へトドメの攻撃が入る寸前、あたしは叫んだわ。

 

「ユーリィ!」

 

〈続く〉




ようやくユーリィと合流。
でも、折角の味方も追い詰められている様で…?

次回は恐らく「風紗館のリオン」です。
次こそ完結だ。
リオンは暫くしたら、全てを繋げて統合予定です。
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