彼女がモテないのは性格がダメダメだからでしょう   作:ラゼ

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蠱惑の序章

 最近、とみに思うことがある。私が記憶を持ちながら新しい生を受けたのには、何か意味があるのではないかと。なにせサイコメトリーちっくな能力まで持ち合わせているのだから、頭から否定は出来ないだろう。物語において非常に見栄えする、女子高生くらいの時期に何かが始まる可能性がある。こう……なんてーの? 聖杯的なものを奪い合う戦争に巻き込まれたり、ジュエルシード的なものを集める任務を帯びたり、願い事を叶える白い孵卵器が現れたり的な。

 

 私、花の女子高生じゃん? つまり今なにかしらの物語に関わってるかもしれないじゃん? そうすると、今まで能力を活用はしていても育ててこなかったのは間違いじゃないかと思い始めた今日このごろ。

 

 美少女で転生者で能力持ちとかこれ、もう主人公だって。葵ちゃん半端ないって。もしかしたら目の前に転移用の鏡とか出始めるんじゃないだろうか。ん? 何に影響されたんだって? いやいや、私そんな単純な人間じゃないから。ちょっとネット小説とか読み漁ってただけだから。

 

 さて、それで……そうそう、能力の話だった。現状私に出来ることと言えば、触れた者や物の記憶、残留思念を読み取るくらいのものだ。ちょっと無理すれば範囲を拡大できるけど、リスクありの産物なので軽々しく使用はできない。

 

 なので気軽に使えてリスクも少なく、かつカッコよくて私に相応しい能力とかが欲しい。サイコメトリーの進化系ってなんだろう。どっかのさとり様みたいに、誰かのトラウマを抉るような感じ? 『鏡写しの心傷(トラウマティック・ミラード)』なんてどうだろう……やっべ、めっちゃカッコいいわ。

 

 そうと決めたらさっそく修行だ。滝に打たれるか、瞑想でもするか――しかし私の能力は相手ありきだし、ここはもこっちに実験台になってもらおう。

 

「葵ちゃーん? おーい…」

「むむむ…」

 

 黒歴史はトラウマ扱いでいいのか? それ以外だと特に無いな……悲壮な過去とか運命の約束とか血の宿命とかも見当たらないし、もこっちは主人公になれそうもない。まぁトラウマじゃなくても、とりあえず記憶の逆流現象を起こせればそれでいいんだ。子供相手にカードゲームでイカサマしたり、ビルの屋上でラブホを覗き見したり、武器商人を目指していた過去を鮮明に思い出すがいい。いけっ、おりゃっ……ダメか。

 

「…ふぅ」

「『ふぅ』じゃねーよ。なにしてたの?」

「いえ、最近占い能力の強化を図っていまして」

「それって強化できるもんなの…?」

「わかりませんが、やらなければ一生わからないままですからね」

「ふーん……それで、どうだったの?」

「ええ、もこっちのオカズは基本的に――」

「おぉい!?」

 

 うおっ、襟元を掴まれた。口調もそうだけど、修学旅行終わりぐらいから遠慮が無くなってきたな。正直に言うと凄く嬉しい。ま、こっちも割とえげつないことしてるし、呼び方を『もこっち』に変えたのは転機にもなったのだろう。イベントをきっかけに気を許せるようになるなんて、ありがちではあるけど悪くない。

 

 しかし苦しいからそろそろ離すんだ。上着が上にずれておヘソがチラ見せ状態になってるから、このままでは男子達がこぞってトイレに行きかねない。君の真っ赤な顔は可愛いが、絵面的には私を虐めているように見えなくもないぞ。

 

 仕方ない、ここは主人公である私が『撫でポ』とやらを試してやろう。なんで急にそんなことをするんだって? いや、もこっちが朝っぱらから男子に『なでなで』してもらおうと意味不明な行動をしてたからさ。廊下でしゃがみ込んだり階段の手すりの下にポジショニングしたりと、はたから見れば変人そのものだろう。

 

 昨日やってたテレビの影響みたいだけど、単純すぎないか…? 結構リア充っぽくなってきたというのに、残念な行動というものは中々治らないようだ。ほれ、ポンポン。

 

「ぅえっ…!?」

「撫でてほしかったんでしょう? なでなでー」

「なべっ…!?」

 

 ふはは、ほれほれ私の占いは凄かろう。もはや占いとかそういう次元じゃないけど、徐々に慣らしてきたおかげかこのぐらいなら違和感を覚えられることもない。慣れって怖いな。

 

 おやおや、羞恥で顔が歪んでらっしゃる。ふふふ……私が捻挫で休んでいた間に、やたらと他の女を誑かしていた報いを受けるがいい。リア充グループとそれなりに仲良くなっていたのは前からだが、僅か数日で二段階くらい進んでるのはいったい何事だよちくしょう。

 

 ネモとかはまぁ……何気に昔からもこっちのことを気にしてたから解らんでもない。入試の時の出会いが甘酸っぱい思い出になってたみたいだし、微妙に中二病な彼女のことだから『運命』とでも考えていたのだろう。きっかけがあれば仲良くなるのは理解できる。

 

 だけどお前、ユリちゃんやらおでこちゃんやら加藤さんとまでやたらと仲良くなってるのはなんなの? いや、解ってるんだ。理由が私にあるのは理解している。バスでの私とネモの会話――声優云々のあれだ――がおでこちゃんに聞かれていて、修学旅行が終わったあと二人がちょっとした喧嘩になったのは私が悪い。

 

 おでこちゃんにとっては『声優になる夢』を隠されていた悔しさだったり、自分が『夢を笑うような人間だと思われていた』のかと不安になったり、そんな複雑な感情が綯い交ぜになって爆発したんだろう。そこまではいい。しかしそれを訳わからん仲裁で仲直りさせた挙げ句、それが理由で加藤さんの好感度まで爆上げになったのはなんとなく許せん。

 

 怪我したせいでユリちゃんとマコマコの仲立ちの約束を果たせそうになかったから、その役割をもこっちにお願いしたのも私だ。でも途中までは私だって頑張ってたってのに、なんか成果を全部持っていかれた感。いや、ちゃんと感謝はしてもらえたよ? 『大谷さん()ありがとね』って。なんでもこっちが主で私が従みたいになってんのさ。

 

 そもそも私に気安く接し始めた癖に、加藤さんと話す時はやたらとデレデレしてるのも納得いかん。そりゃあ加藤さんが美少女だというのは私も認めるところだが、私は超絶美少女だぞ。敬って崇め奉りたまえよ。

 

 …とまあそんな事を考えながらもこっちの頭を撫でていたら、案の定彼女達が近付いてきた。ええい、今は私がもこっちと遊んでいるんだ。可愛い女子以外は帰りやがれ――あ、全員可愛かったわ。仕方ない、許してやろう。

 

「なにしてるの? 葵ちゃん」

「根本さん。ええ、もこっちが昨日見た『Lの法則』に影響されて頭を撫でてほしいそうですよ」

「ちょっ、なんでそこまで知って…!?」

「昨日の今日で頭を撫でてほしそうにしてたら、誰でも解ると思いますけど」

「あぐ…」

「妄想も程々にしておかないと、そのうち現実と区別がつかなくなりますよ。ただでさえ『学校を占拠したテロリストを撃退する』なんて夢想してるくらいですし」

「わぁぁっ!?」

 

 ははは、気にするな。日本人の一割くらいはそんな妄想くらいするものさ。まぁ女子はどっちかと言うとロマンティックに助けられる側の妄想が多いけどな。ころころと笑っているおでこちゃんとネモ、そしてよくわからない感じに微笑んでいる加藤さん。

 

 妄想をしない人種というのは、こういったネタがいまいち理解できないのだろう。つーかネモ、お前は同じ類の妄想をしてるだろう。あまり笑ってやるな。

 

「あはは、ほんとクロは馬鹿だなぁ」

「なんで学校にテロリスト?」

「い、いや…」

「常に最悪を想定して日常を過ごす――お見事です。感服いたしました」

「わぁ……さすが黒木さんね。もし本当にそんなことになったら守ってくれる?」

「…!? ひゃ、ひゃい…」

 

 むっ…! ごく自然にもこっちの頭を取られた。というか私のセリフは皮肉だから真に受けるんじゃないよ。ああ、ネモまでどさくさに紛れて撫でておる。なんなの? ちょっと休んだだけでこんなにリア充っぽくなりやがって。

 

 君がぼっちの時に散々お世話した私を捨てると言うのか? 利用されて、用済みになったらポイなんて……ああ、なんという悲劇だろうか。というような気持ちを込めてもこっちの脇腹を肘で突いておいたが、果たして伝わっているのだろうか。

 

「そういえば次って体育祭の種目決めだよね。葵ちゃんはどうするの?」

「私ですか? 特に何かしたい訳でもありませんし、適当に決めますよ」

「クロはー?」

「私は五十メートル走と障害物競走かな」

「露骨に楽なの選んだわね…」

「そういう岡田さんはどうするおつもりで?」

「もちろん五十メートル走と障害物競走だけど」

「あーちゃん…」

「明日香は?」

「うーん……私は借り物競争がいいかな」

 

 荻野先生のことだから、どうせくじ引きとかになる気もするけどな。いい意味でも悪い意味でも公明正大で平等な教師だし。しかし体育祭の種目か……大抵は無難にこなせる自信はあるが、できれば楽な競技がいいものだ。リレーとかに組み込まれて、なおかつ委員長ちゃんとかと一緒になると放課後に練習とかさせられかねん。熱血娘は嫌いじゃないが、面倒なものは面倒だ。

 

「そういえば応援合戦はどうする? 希望者だけだったよね」

「チアの格好でやるんでしたっけ」

「そうそう。女子はチアで男子は学ランだよ」

「私はパスかな」

「えー! なんで? 一緒にやろうよ、クロ!」

「葵はやるんでしょ?」

「んー……みんながやるんなら、ですかね」

「んじゃクロスケも参加ね」

「ふぁっ!?」

「一緒に頑張ろうね、黒木さん」

「あっ、ひゃい」

 

 しかしクロキチだったりクロスケだったり、おでこちゃんのもこっちに対する呼び名が安定しないな。まぁそれはともかくとして、チアガールか……できればやるより観戦したいものだ。パンのチラが乱舞する素晴らしい文化。見慣れてるだろって? いやいや、更衣室とかで見る下着とそういうのって全然違うから。衣装とチラに意味があるんだ。

 

 それはさておき、なし崩し的にもこっちの参加も決まったが大丈夫か? 運動神経は地味に良いから心配ないけど、ああいう表舞台に出るタイプの人間じゃないからなぁ。緊張しすぎてなにかやらかす未来しか見えない。

 

 ま、ミスったらフォローすればいいだけか。私の優しさと美しさが衆目に晒されることになるが、仕方ない。もこっちのために涙をのんで称賛されようじゃないか。それをきっかけに一年の子が『お姉さま~』とか言い出さないかな。つーかほんとにヅカっぽい関係って現実にあるの? こんなに美少女なのにそういうのが一切ないんだけど。

 

 それとももっと中性的な容姿じゃないとダメなんだろうか。でもせっかく伸ばした髪を切るのもな……女の子が好きではあるが、別に自分が男だって意識が強い訳じゃないんだよね。女としての自覚はあるけど、まぁそれとこれとは別ってやつだ。

 

 さて、そんなこんなで次の時限。体育祭の種目は無事くじ引きによって決まり、我らがもこっちは二人三脚と借り物競争に任命されていた。前者の方はともかく、借り物競争ってお題によっては恥かくから種目にしないでほしいよね。ああいうのに限って運営がノリだけで借り物を決めてたりするからな、ほんとに。

 

 そしてお昼休み。喧嘩仲裁のお礼として、おでこちゃんがもこっちにお昼を奢るという提案のもと学食へやってきた。友人同士が仲良くなるというのは素晴らしいことだが、なんとも言えないもどかしさも覚えるのは卑しい思考だろうか。有り体に言うと、私にも奢ってくれ。

 

 なんて、そんなはしたないことを言える筈もなく食券を買うために並ぶ。普段はお弁当だからなんか新鮮だな……よし、お蕎麦にしよう。そういえばうどんは関西の方が美味しいと思うけど、蕎麦はなんとなく関東の方が美味しい気がするよね。イメージの補正がかかってるだけかもしんないけど。

 

 ――おや? 智貴君がいる。つくづくよく会うな。つーかあの子お弁当じゃなかったっけ? もこっちが忘れ物のお弁当を渡してるの見たことあるし。あー……でも朝練のある部活やってる男子高校生が弁当一つで足りるわけないか。早弁してからの食堂とか当たり前とすら言える。おーい、こっち向けー。お、気付いた。

 

「ちっす」

「こんにちは、智貴君」

「だれだれ? もしかして噂の彼氏ー?」

「違いますよ。噂の黒木さんの弟です」

「クロスケの? ああ、そういえば前にそんなこと言ってたっけ」

「クロの弟君? こんにちはー、よろしくね」

「…!? …うっす」

 

 めっちゃ居心地悪そう。まぁ上級生の女子生徒に囲まれるとか、なんとも言えない気分になるよな。気持ちは解る。でもちょっと面白そうだから引き止めとこう。そろそろもこっちと加藤さんが戻ってくるだろうし、何より向こうの方にこみーの姿が見える。そしてその近くにセックルちゃんもいる。

 

 こみーと、こみーを智貴君の姉と勘違いしているセックルちゃん。智貴君ともこっち。ネモにおでこちゃんに加藤さんに私。全部揃ったらどうなるんだ? ちょっと面白そうすぎて興奮してきた。いったい何が始まるんです?

 

「あ! 何してんだお前!」

「…げ」

「知ってる人? 黒木さん」

「あ、えっと……うん、弟」

 

 とりあえず合流。姉の顔を見て露骨に嫌な表情をする智貴くんだが、それ以上に驚いてもいるようだ。変人で友達の少ない姉だと思っていたのに、取り巻く少女達はどう見てもリア充なんだから、さもありなん。

 

 もこっちもそれが解っているのか、ちょっと自慢げにしている風だ。『女に囲まれて勃起してんのか?』などと調子に乗りながら弟にセクハラをカマしている。そしてそれを聞いたおでこちゃんがピシリと固まって、視線を彷徨わせていた。うーん、あの見た目にして男性経験ゼロのウブなパイナップルちゃんだからな。可愛すぎてヤバイ。

 

「ひ、ひなぁ…」

「あ、あーちゃん……もう、クロ! もうちょっと場所考えてよ」

「まぁまぁ、もこっちもお姉ちゃんですから。思春期の弟くんに合わせる優しさってやつですよ」

 

 加藤さんが若干アレな表情をしていたのでフォローしておいた。まぁ下ネタとかあんまり好きじゃなさそうだもんな……だからって、一転して『黒木さんってほんとに優しい』みたいな表情はどうなんだオイ。今の言い訳だいぶ無理矢理だったぞ。

 

 そうこうしている内に、ようやくこみーが近くにやってきた。そして同時にセックルちゃんも寄ってきて、なんかもう色々と凄い感じになってる。いや、全部把握してるのは私だけだから主観でしかないけどさ。とりあえずこみーが嘘を貫き通せるのかが見ものである。姉弟が目の前にいるのに姉を騙るとか、面白すぎだろ。

 

「あ、あっ、ここ、こんにちは、智貴く――」

「あっ、黒木君のお姉さん」

「智貴く――!? と、智貴! 今日は食堂来てたんだ!?」

「…は、はぁ…?」

「ああん?」

 

 そのままいくんかい。言うに言えないのは理解できるが、他人事だけに面白い。くぅ……多少のリスクを背負ってでも、ここは範囲読心をするべきか。こんなに人の心が気になる瞬間って中々ないよ。ちょっともこっちに寄って――この辺りがギリギリか。猫の件もあって許容人数が大きくなったのは僥倖だったな。これが主人公補正ってやつだ。どれどれ…

 

(なんだこの人……こんな馴れ馴れしかったっけ?)

(あの小さい人、黒木くんに凄く近い。誰なんだろう……それに“あの人”もいる)

(ああああ! どうしよどうしよどうしよ! どうやったら切り抜けられる? なんであんな嘘ついちゃったんだ…!)

(このコオロギ、なに人の弟に馴れ馴れしい呼び方してんだ? いつのまにか付き合ってたとかだったら冗談抜きで殺すぞ)

 

 …解除、と。予想に違わない、謎の人物相関図だわー。私はどう行動するべきなんだろうか? あんまりやりすぎて人間関係に罅を入れるのはちょっと性悪すぎるしな。いやまぁ、既にセックルちゃんとかにはタチの悪いことをしてるけど、あれはこみーのためを思ってしたことだし。

 

 うーん……よし、わからんちん。人間関係を修繕するのは得意だが、実のところ色恋沙汰に手を出したことはほとんどないんだ。無粋だし。一人を応援するくらいならともかく、ドラマみたいな三角関係四角関係に首突っ込んでも良いことなんてないだろうし。仕方ない、ここはいつも通りの私でいこう。

 

「智貴君、なんだかハーレム状態ですねぇ。どの娘が好みなんですか?」

「…っ!」

「――!?」

「や、別にそんなんじゃないんで」

 

 相変わらず枯れすぎだろお前。おい、後ろ後ろ。二人くらい発情してるぞ。なんで気付かないんだ? 既にこの場の全員気付いてるレベルの発情具合だ。恋バナ大好きな女子高生よろしく、ネモが目を輝かせている。加藤さんも微笑ましそうにしている。おでこちゃんはソワソワしている。

 

「弟君、葵ちゃんはどうなのー? 結構噂になってる気がするけど」

「いや、単にあね――コイツの友達ってだけなんで」

「むむ、それはちょっとひどい言い方では……でも、そうですね。智貴君は他に好きな人いますもんね。結婚したいくらいに」

「っ!?」

「――!?」

 

 こみー、ギリセーフ。智貴君が人前で『お姉ちゃん』とか『姉貴』と呼びたくなかったことに救われたな。表情が青くなったり赤くなったり白くなったりと忙しない。そして、そんな状況で爆弾を投げ込んでみた。『智貴君の好きな人』――ずばりもこっちである。

 

 嘘は言ってないよ? ただ現在か過去かを口にしていないだけだ。小さい頃はお姉ちゃん大好きっ子で『お姉ちゃん大好きー、結婚するー』って言ってたもんな。この前もこっちが、喜々としてその様子を映したビデオを見せてくれたのだ。

 

 そして私が意味ありげにもこっちを見ながらそんなことを言ったせいで、全員が姉弟を交互に見返す。もこっちは最近一緒にビデオを見ただけあって、私が智貴君をからかっているのに気付いたのだろう。ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを弟に向けている。ネモ達は『シスコン?』といった表情を向けている。まぁそれは間違っていない気もするけど。

 

「『お姉ちゃん大好きー』って言ってましたもんね。いやぁ、姉弟仲が良いのは素晴らしいことです」

「でも結婚は無理だからな。悪いな弟――ぐえっ!?」

「クローー!?」

 

 ああ、智貴君が見事なアイアンクローでもこっちを……まるでヤンキーちゃんを彷彿とさせる照れ隠しだ。おや? セックルちゃんがこみーに視線を向けている。ああ、そういえば今ので嘘がバレてしまったか――いや、まだ『姉二人と弟』という可能性が残されているな。どこまで食い下がれるか、見せてもらおうじゃないかこみー。

 

「えっと、あれ…? 黒木くんのお姉さんってこの人じゃ――」

「いっ、いや、あの、そのっ…!」

「はぁ? なにそれ?」

 

 もこっちがイラッとした顔でこみーに視線を向ける。まぁそうだろう。智貴君がシスコンかどうかはおいておくとしても、もこっちは結構ブラコンだからな。同族嫌悪に近い感情を抱いているこみーに対し、大事な弟の姉面などされては怒りもひとしおだろう。

 

 七人、都合十四の瞳に晒されてこみーが言葉を失う。青い顔で口をパクパクとさせている様は哀れを誘うな。特に智貴君に件の話がバレれば甚大なダメージを負うことだろう。何か起死回生の一手を期待していたが――まぁ即席でそんなことをさらっと思いつくのは天才だけだろう。私とか。仕方ない、助け舟でも出してやるか。

 

「あのですね、セックルちゃん。こみちゃんは――」

「セックルちゃん!?」

 

 やべっ!? 間違えた! セックルちゃんとしか呼んでなかったからついつい口に出してしまった。というか本名なんだっけこいつ。確か、確か……そうだ、井口朱里ちゃんだった。危ない危ない、失態を犯してしまうところだったぜ。

 

「失礼、井口さん。こみちゃんはですね――」

「失礼すぎでしょう!? なな、なんなんですかそのセッ……って!」

「ほほう……えっと、聞こえなかったのでもう一度いいですか? セ……なんですか?」

「…え……だからその、セ、セック……うぅ…」

「ほらほら、もっとしっかり発音してください」

「――大谷さん?」

「…っ!? ひゃいっ!」

 

 や、やべっ……虐めすぎたか? 加藤さんが真剣な顔をしてらっしゃる。つい変な声が出てしまった。普段怒らない人が怒ると恐いよね。

 

「何故この娘をセックスちゃんと呼んだの?」

「ぶっ…! そ、そんな直接的な表現してませんよ? セックルちゃんと呼んだだけです」

「セックル…?」

「そう、セックル」

「それはどういう意味なのかしら」

「まぁ、言ってしまえばセックスのことですね」

「ひ、ひなぁ…」

「あーちゃん!? 二人共、こんな公衆の面前でセッ……とか連呼しないで!」

 

 加藤さん唇からセックスセックスと言われると艶めかしいな。エロい。もこっちが興奮してしまうのも解るというものだ。

 

 ――ん!? いつのまにか智貴君がいない! あの野郎、逃げやがったな……ま、当人が居なければ言い訳に関してはどうにでもなるし、むしろ好都合か。本人以外になら恋情がバレても大した被害にはならないだろう。というか皆もう気付いてるしな。もこっちは前から知ってるし……知ってるからこそ彼女を嫌っているんだろうけど。

 

「まぁまぁ、とにかくですね。彼女は智貴君と玄関でセックスをしたい。こみちゃんも智貴君とセックスをしたい。それがあるからこそ私は井口さんをセックルちゃんと呼び、こみちゃんは一時の感情で姉を騙った……そういうことです」

「どういうこと!?」

 

 ふぅ、一件落着だな。加藤さんも納得してくれたようだし、そろそろ休み時間が心もとない。私はざる蕎麦だからいいけど、うどんの人とかのびのびで別の食べ物と化してないか? 死んだ目でうどんをすするおでこちゃん可愛い。俗に言うレイプ目ってやつだ。

 

 セックルちゃんの友達が帰りの遅い彼女を連れ戻し、離れて見に徹していたこみちゃんの友達が変態メガネを引きずっていく。伊藤さんだったかな? なんというか、強かなお人である。

 

 しかしあれだな。清楚で上品な、ちょっと寂しがり屋の女性だと思っていたが、中々どうして下なネタもいけるんだな加藤さん。いや、下ネタというよりも普通に『どうということのない単語』として見ているだけなのかな?

 

「はぁ……二人共、ちょっとはしたないよ。あーちゃんまだ戻ってこないし…」

「それは失礼しました」

「ふふ、ごめんね」

 

 女子高生なんだからむしろそっちが初心すぎない? 女子校とか淫語や猥談雨あられだぞ。ネモも大概エロ系に免疫ないよな。そもそも高校二年生の女子の処女率なんて既に高いとは言えないのに、可愛い娘が多いウチのグループはなんでこんななんだろう。まるでハーレム系漫画のご都合主義のようだ。

 

 はっ…! やはり私が思っていた通り、既に何かの物語の渦中なのでは? そして彼女達はヒロイン候補だから全員処女……くっ、いったい誰が主人公なんだ。清田か? それとも最近流行りの男の娘っぽいあいつか?

 

 転校生の男とか出てきたら要注意だな。きっと私はイレギュラーなアレでソレなコレだから、私が皆を守護らねばならぬ。周囲のカワイコちゃん達が一斉に誰かになびき始めたら、恐らくそやつが主人公だろう……ん? なんか心当たりがあるようなないような。

 

「葵ちゃん、口元にネギが…」

「へ? あっ……ん、ありがとうございます」

 

 しかし最近のもこっちは可愛いな。私のプロデュースもけして無駄ではなかったんだろうが、元々本質は後ろ向きな前向き人間だからね。リア充になってもおかしくはないだろう。なんだかちくちくとした視線を感じつつ、ハーレム主人公を警戒する麗らかな昼休みであった。




また時間かかっちゃってスマヌ。
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