とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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必要悪/不必要善   22-2

 

 

Q.何があったのか、包み隠さず、須らく正直に答えなさい(吐きなさい)

 

A.転びました。

 

 

 ……1コール。

 

 

Q.そこにいるイカ――イカじゃないんだよ! インデックスなんだよ!――うるさい。似非シスターは誰ですか? 100文字以内で簡潔正確に答えなさい(吐きなさい)

 

A.転んで汚した私を病院まで運んで――いえ、救急車を呼んでくれまして……

 

 

Q.あんたこれ何か知ってる? 

 

A.えっと、テレビのリモコンに似てるけど、これ9番までしかないよ!?

 

 

 ……2コール。3コール。

 

 

Q.待ってください、今の3コール目はどうなんですか?

 

A.……4コール。

 

 

Q.あ、あの? 美琴さん、怒って――ます?

 

A.っ!? うっさい馬鹿!! 全件コール!!

 

 

 

 ある一人の少女から発信された一報は、瞬く間に学園都市を駆け抜ていった。

 

 そして、まず最初にやってきたのはいつかのように、身だしなみもそこそこ・息も絶え絶えな小萌。深音を見て安堵のため息をつき終わるなりお説教スタート。

 

 ついで、外から盛大なドリフトを決めてくる音が一台、二台と続き、三台目でなにやら大きな破砕音が聞こえ、木山、固法、黄泉川の順で病室へ突撃。小萌のお説教を受けている深音を見て同様に安堵――そして同様にお説教へ参加。

 

 

 そして、真打とでも言うのか。黒子のテレポートで跳んできた佐天と初春も参加。一気に男女の比率が崩壊。動けないという深音に、大量に釘を刺していく。

 

 

 

 そしてそれが、カエル医師がゴゴゴゴ、という効果音と共にやってくるまで2時間弱続き……美琴が結局何も聞き出せなかったと帰り道で気付いた……その翌日。

 

 

 

 

 

 

「……気のせいかい? 怪我した直後のほうが顔色がいい気がするんだが」

「分かっているならニヤニヤしながら聞かないでください」

 

 タバコを咥えたままにやつく不良神父と、今回ばかりは本気で抜け出してきた不良患者が密会していた。

 

 

「それで……彼女は?」

「昨日来ていただいた方にお預けしています。魔術、とのかかわりも無いはずですし、『家出少女』と聞いてなんだか喜んでました」

 

 ……それはどうなんだろう? とステイルは数秒考え、危険が無ければいいと割り切った。深音も同様の考えを持っていたらしく、ステイルの反応には苦笑を浮かべている。

 

 

「では、約束どおり……聞かせてもらえますか?」

「そのつもりだよ。聖人を唸らせる身体能力の持ち主とやりあうよりずっと建設的だ」

 

 

 短くなったタバコを燃やし尽くし――最後の紫煙を吐き出す。

 

 

「まず、僕と神裂――そして、インデックスは同じイギリス清教の、同じ組織の人間だ。必要悪(ネセサリウス)、対魔術師の戦闘部隊と考えてもらってかまわない」

「同僚、ということですか?」

「その認識で問題ないよ。まあもっとも、彼女はそれを知らない――いや、覚えていないけどね」

 

 

 ステイルは欄干に寄りかかり、皮肉気に笑みを浮かべながら空を仰ぐ。

 

 

「彼女は『完全記憶能力』……魔術ではなく、彼女自身の体質――とでも言えばいいのかな」

「一度見聞きしたことを絶対に忘れない――?」

 

 

 ステイルの独白に、深音は違和感を覚える。

 インデックスは、ステイルと神裂のことを覚えていない……つまり忘れていてるという。しかし真逆、インデックスは事象を忘れることのない完全記憶能力者だという。

 

 だが、口を挟みはしない。ステイルの言葉は、まだ終わっていないからだ。

 

 

「彼女の名の、由来とでもいえばいいのかな。禁書目録。……彼女の脳には、読むことはおろか所持することも、存在を口にすることさえ禁忌とされる10万3000冊もの膨大な魔術書が一語一句、違えることなく記録されている」

 

 

 深音が思い出したのは、彼女の魔法名。献身的な子羊は強者の知識を守る――ようやく合点がいく。

 彼女は正しく、『禁書目録』なのだと。

 

 

「その魔術書は脳のおよそ85%を占領して保管されている。彼女は残された15%で、生きなければならないんだよ。そして、その15%で記憶できるがおおよそ一年間――それを過ぎれば、脳に過剰な負荷が蓄積されていって、最悪は――とね」

 

 

 淡々としている声が感情を覆い隠している。しかし、ギリギリと音を立てて握り締められている欄干が、ステイルの怒り、憤りを見せていた。

 

 

「それじゃあ、インデックスさんは今まで……?」

 

「僕たちが出会う前は、誰がやってきたか知らない。でも僕たちが出会ってからは、僕たちが、彼女の記憶を―― 一年毎にリセットしている。『初めまして』からやり直すのさ。僕たちは彼女を、知っているのにね」

 

 

 喋りすぎている。ステイルはそう自覚している。

 それでも、口を閉ざそうとは不思議と思わなかった。

 

 

「楽しい思い出を、残そうとしたよ。写真を撮って、思い出の品をいくつもいくつも……」

 

 

 ――「ごめんね」。

 その言葉で、耐えられなくなったという。

 

 

「だから、僕は……僕たちは――彼女の敵として振舞おうと決めたんだよ。楽しい思い出は……失う時には、重すぎる」

 

 

 懐からタバコを取り出し、火をつける。

 

 

「彼女の……インデックスさんのその魔術書、のほうの記憶を消すことは?」

 

「それも、考えた。でも、それを行えば今度は僕等が狩られる側……イギリス清教だけの追撃だけで済むとは思えない。それに、魔術書は彼女自身にも少なからずリンクしていている。下手に手を出せば、命の危険もある」

 

 

 インデックスの命を守るために、記憶を消す。自分の手で、自分のことを忘れさせる。

 深音は自身の立場で、ステイルを自分に――そして、インデックスを美琴に置き換えて……その想像だけで、一気に心が冷え切っていくのを感じた。

 

 

「僕はね……前回、逃げ出したんだ。逃げ出して神裂に押し付けてしまったんだ。だから今回は僕がやる――」

 

 

 握りつぶさんばかりの手を解き――白く血の気のない手を、ただ見つめる。

 

 

「僕はね。あの子を守るためならなんだってやるって……決めてるんだ。……ずっと昔に誓ったんだよ。たとえあの子が全てを忘れてしまったとしても、僕は何一つ忘れず、彼女のために、生きて死ぬって……」

 

 

 守るためなら、喜んで憎まれ、そして恨まれよう。

 

 

 

「……御坂 深音。頼みがある」

「……なんでしょう」

 

 

「彼女の記憶限界まで、長くて四日ある。その兆候が出るまで……あの子に楽しい思い出を、短くても、幸せな時間を……」

「……わかりました。ですが、一つだけ聞いておきたいことがあります」

 

 

 深音の返答に感謝しようとして、問い返されるとは思っていなかったステイル。深音を見るが、深音はステイルを見てはいない。少し前の彼と同じように、欄干に身を預けて、顔を見せた朝日に目を細めていた。

 

 

「もし、インデックスさんが地獄という場所を歩いていくとしたら……貴方は、どうしますか?」

「ついていくよ。地獄の果てでも底へでも」

 

 

 間を置かない返答に、深音は何を思ったのだろう。

 小さく、分かりましたとだけ伝えて――その顔は静かに……何かを決意をしていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

「っ……」

 

 

 上着を羽織ろうとして、背中に走る痛みを再認識する。それでも執事服に身を固め、病室に備え付けられた姿身で、自分を確認する深音。

 

 ……ステイルの話を聞いて、全てを理解できた……わけではない。そもそも魔術という存在ですら、未だ信じがたい内容なのだ。だがそれでも、ステイルの覚悟と、信念を思い知ることが出来た。

 

 

 ……思い知ることが出来て、しかし深音が感じたのは同情や哀れみの類――ではない。

 

 

「……諦めない。それが御坂家の家訓、ですよね」

 

 

 自分の意思を言葉にして、再確認。

 ステイルたちがどんな手を尽くし、どんな手段を用いてきたか――深音には想像もできない。しかし、だからといって諦める理由にはなりえない。

 絶対安静に、と言われているが……安静にしている暇はない。

 

 

 

「また、美琴さんに怒られてしまいますね……」

 

 

 最後に苦笑を浮かべた自分の顔を眺め――深音は行動を開始する。

 

 

「……あっそ。じゃあ、覚悟はできてんのね?」

 

 

 開始、しようとしたのだが。病室の扉を開けたところですぐに行動停止を余儀なくされてしまった。

 

 

「み、美琴、さん? えっと、どうしてこちらに?」

「……いわなきゃわかんないの?」

 

 

 扉の前で、仁王立ちして睨み挙げてくる美琴――この怒り方は、深音は初めて見る。

 

 

「アンタの中じゃどれだけ把握してるかわかんないけどね、アンタを心配してる人って、結構いるのよ? 知らなかったでしょ?」

 

 

 ……どうやら、自分は責められているらしい。珍しく美琴が『冷静』に怒っている様をみて、深音はそう判断した。

 

 美琴を呼んだのは、カエル医師だろう。病院は彼のテリトリーだ。要注意の患者を監視する手配など簡単に出来るはずだ。

 

 そう考え至り、それでも苦笑している深音を見て……沸騰しかけた感情を深呼吸して何とか抑える―― そして、一歩距離をつめて、また睨み挙げる。腕一本、の伸ばせば容易に届く距離だ。

 

 

「……私さ。昨日、アンタのこと忘れてた。何か伝えようとしたことを忘れたとか、そういうのじゃ無くて――思い出とか、なにもかも無理矢理根こそぎ隠されてるみたいな……」

 

 見上げていた視線を外し、後ろめたいと感じているのか、少しの間視線をさまよわせる。それでも、その瞬間の、ゾッとしたあの恐怖にも似た感情は覚えているらしい。

 

 

「何があったの? 転んだとか見え見えの嘘しかつけないような事態ってなんなのよ!? あの子だってそう! 学園のバンクにない上に滞在証も入場記録もないとかどうなってんの!?」

 

 

 

 

 息を荒げた大声で、言いたいことは全部ぶちまけてから慌てて周りを確認する。病室前の、しかも夜が明けたばかりの未明だ。大声を張り上げていい場所ではない。

 

 ――幸い、誰かに聞こえるような事態にはならなかったようだが。

 

 

 

「……いったわよね、アンタが無茶するなら、私だって無茶してやるって」

「はい。覚えています。連続爆破事件のとき、ですね。『なら私はもっともっと無茶をしなければ』と答えました」

 

 そして、その後、なら自分はもっともっと無茶を、と水掛け論になり、深音が気絶して水に流れた、喧嘩といえば喧嘩だろう。

 

 

「なら、教えなさいよ。あんたがドンだけ無茶したか分からないと、無茶しようが無いんだから――それにね」

 

 深音の胸を、何時だったかの様に、叩く。

 深く、強く。心に刻めと伝えるように。

 

 

「学園都市のレベル5(最強)、なめんじゃないわよ? そんでもって思い出してよ。私はその、アンタの妹なんだから」

「はぁ……」

 

 

 深い、深いため息をつく深音に、むっと睨む美琴。

 

 

 

「……危ないかもしれませんよ?」

「アンタの傷みりゃ分かるわよ」

 

「……成功するかも分かりませんし、時間もありませんよ?」

「御坂家家訓、忘れてない? タイムリミット過ぎてたって知ったことじゃないわ」

 

 

「……他の人は、これ以上巻き込めませんよ?」

「……アンタと後で、一緒に謝るわよ」

 

 

 

 

 撃てば響く。そして、響くたびに、笑みが力強くなっていく。

 

 

「……地獄のような場所に行くという人に、付いてくるおつもりで?」

「それはごめんこうむるわよ」

 

 

 

 

 

 そして、今日になって間もないうちに、今日一番の笑顔を美琴は見せた。

 

 

「そんな地獄みたいな場所なんて、ぶっ壊せば良いだけでしょ? 簡単じゃない」

 

 

 

 深音が再びため息をつくが、それは決して、重いものではなかった。

 

 

 ……残された時間は、僅かに四日。

 

 

 学園都市最強の電撃姫と、その兄の、二人だけの戦いが……本日未明より、静かに始まった。




読了ありがとうございました。

 かなり、かなり悩みましたが、美琴も魔術に関わってもらうことにしました。

 
 あと、ついでにですが、境界線上のホライゾンでも二次小説を書き始めました。お暇なときの時間つぶしにでもしていただければ幸いです。

 誤字脱字・ご指摘などございましたらお願いします。
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