雪下視点
終わり、ましたね。それも会長さんが圧倒的に有利な状況を維持したままで。
私は、そんなことを思いながら試合を終えた二人を見ていた。
それにしても、土屋さんに会長さんのことを訊いてみたのですが……。
「……あいつのことは俺も知らない。今日初めて聞いたからデータがない」
ゆっくりとかぶりを振りながらそう答えられました。土屋さんでも手に入れられない情報があるんですね。
木下さんはAクラスの集団へ戻って行った。……Fクラス相手に惨敗を喫したわけですが、会長さんが異様な強さを誇っていたのは誰もが理解できたからでしょうか、ねぎらう空気が感じられました。
対して会長さんですが……学園長先生の方へ向かいましたね。何やら話しているようですが……と、どうやらそのまま会場から出てしまいました。
「ん? 雪下、どこへ行くつもりだい?」
後を追おうとしましたが、学園長先生に呼びとめられてしまいました。
「いえ、その……会長さんと少しお話をしたくて」
「ダメさね、あいつはこの先すぐに予定がある」
「そこを何とか」
「……諦めな」
なんでしょう、この取りつく島が全くない感じは。少し冷たい方ではありますが、ここまでばっさりな方ではなかったように思うのですが。
「頑張ってね姫路さん!」
「は、はい!」
どうやら、5戦目……姫路さんが出るみたいですね。そういえば、5戦するって話でしたっけ。
これが終わったら代表戦になりますし、きちんと見ていきましょう。
そう思いながらFクラスの中へ戻っていきました。
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「……学園長、俺も用がある。少し席を外したい」
「土屋……わかったさね。ただ、すぐに戻ってくるんだよ」
「……了解した」
「ああ、それと……須川に速く戻ってくるように伝えておくれ」
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姫路さんは負けてしまいました。相手は久保さんでしたか。
割といい試合をしていたのですが……まあ仕方ありませんね。
そして迎えた6戦目……代表戦。今回は試験召喚獣でのバトルではなく、別室での筆記問題です。
「それでは……はじめ!」
Fクラス代表の坂本さんと、Aクラス代表の桐嶋さんが問題を解く会場である視聴覚室の様子が、ディスプレイに映されています。
更に、そこに出されている問題も映されていきます。
「……もう始まってる」
「そのようだな」
そんな会話が聞こえたので、振り返るとそこには。
「須川さん……お帰りなさい」
「ああ、ただいま。にしても、やっぱこうなったか」
須川さんが戻ってきていました。と、ここで彼の言葉に引っ掛かりを覚えます。
「あの、やっぱりこうなったって……予想してたのですか?」
「ん?まあな。土屋に状況を聞いて、なんとなく流れはこうなるってのは」
隣りで土屋さんがうんうん、と頷いています。こちらに戻ってくる間にでも話したのでしょうか。
「さてさて。小学生レベルの日本史でどこまで食らいついていけるのか、だな」
……ん?
「あの、須川さん。小学生レベルって何のことですか?」
「ん? 何って……坂本と霧島の勝負のことだが?」
何言ってるんだって顔をしてるようにも見えますが……私は土屋さんと顔を見合わせてしまいました。
「須川さん、ディスプレイを見てもらえますか?」
「ディスプレイ?」
そう言って目を向けた彼の顔は。
私が想像した以上の驚き、いえ、驚愕という方が正しいでしょうか……そんな表情を浮かべました。
「これは……どういうことだ……?」
「確かに須川さんの言う通り、日本史ではありますが……」
一呼吸おいて、私は続けました。
「高校生レベルの、なんですよ」
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「三対二、一分けでAクラスの勝利です」
視聴覚室に駆け込んだ私たちFクラスに告げられる高橋先生の声が、若干安堵したように聴こえる。まあそれもそうでしょう。
Fクラスがここまで迫ってくるなんて考えてもいなかったのでしょうから。
あ、ちなみにこれでFクラスが勝っていたら、そのまま召喚獣でのバトルになる予定だったそうです。
「雄二、私の勝ち」
「……殺せ」
「良い覚悟だ、殺してやる!歯を食いしばれ!」
「吉井君、落ち着いてください!」
吉井さんだけでなく、他のFクラスメンバー……土屋さん、私、姫路さん、島田さん、須川さん、木下さんを除いたメンバーですが……が正座をする坂本さんを囲み始めました。あ、霧島さんは坂本さんに寄り添ってます。
理由としては、いいところまでもっていけたのに、締めの代表選で負けたから、でしょうね。
「おい待てお前ら」
須川さんが声をあげながら坂本さんの元へ歩み寄ります。
「なんだ須川!邪魔するならお前も一緒に殺ってやる!」
「……ああ?」
……まずいですね、須川さんの声音が低くなってます。
「須川くん、そこをどいてくれないか。今から雄二にじっくりぼっきり負けた言い訳を聞かないといけないから」
「ほう……言いたいことはいくつかあるが、先に訊こう。吉井、Aクラス戦に負けた原因はなんだ」
「え、そりゃ雄二が負けたから」
「…………は?」
あ、これは本当にまずいですね。
「なるほど、坂本が負けたから。確かにそれによってFクラスはAクラスに最後の最後で勝てなかった。確かにそれはそうだな」
「でしょ? だからこれは当然のことで」
「ふざけんなよ」
思わずびくっとしてしまいました。私が言われたわけでもないのに。
坂本さんを囲んでいないメンバーも同様の反応をしていたので、どうやら私だけではないようです。
……この言いようのない恐怖を感じたのは。
「坂本のせい? 確かに坂本は負けたからそうかもしれない。だがな、それだけが本当に原因か?」
「当たり前だろ!現にこうやって俺たちは負けて」
「黙れ横溝」
ぎらっと一睨みすると、横溝さんはぐっと言葉を詰まらせました。
……いまさらですが、あそこにいるメンバーは何も感じていないのでしょうか。
「たとえば吉井、お前が勝ててたら結果は変わっていた……違うか?」
「吉井でなかったとしても、そうだな。姫路でもいい」
「もしくは雪下が引き分けずに勝ってても状況は違っただろうな」
私たちの方にも目を向け、淡々と言葉を紡ぐ彼の方を私は向くことはできませんでした。
だって、須川さんの言う通りだったから。
「だが、俺はそれを責めるつもりはない」
「えっ」と思わず小声をあげてしまいました。姫路さんも同じように須川さんを見ています。
他のみんなは……須川さんの雰囲気に呑まれており、声も出せないようです。
「だってそうだろう? 俺はこの試合で何ら関われていないんだから」
とうとうと、言葉を重ねていく。
「そもそもメンバーに選ばれないということは、力量が足りないということだろう? 今回の選抜はある種打倒なところだったのは俺も確認済みだ」
「じゃあ、私を選んだ理由は…?」
「雪下に関しては……まあギリギリで点数を把握できたから俺の代役として頼んだ。引き分けに関しては俺が離脱したから起きたようなものだし、そもそも勝てるかどうかも怪しいのを引き分けたんだ。文句なんてあるわけない」
そこで須川さんは「さて」とみんなを見回しました。
「ここまで言いたいことを言わせてもらったが……今回選ばれる力量もなく、指をくわえて見ることしかできなかったのに一丁前に文句を垂れる奴はいるか?」
しん、と静寂に包まれる瞬間、私は思わず身震いしました。
ここまで場を掌握できる学生がいるものなのだろうか、と。
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須川視点
さて、言いたいことを大体言えたな。黙らせることもできたようだし。
「坂本、そういやお前、昨日までは小学生レベルのを選ぶって言ってたよな?」
俺が不思議に思ったのは、代表戦での試合。前世では小学生レベルの日本史で勝負をし、惨敗を喫していたのだが。
「ああ、確かにそのつもりだったんだがな」
坂本は正座をやめ、立ち上がった。若干足がプルプルしてるのがどうにも恰好がつかない。
「お前に言われたことがどうしても頭を離れなくてな」
「俺が言ったこと……?」
何か言ったっけな。
「ああ、「結果は確かに大事だが、そこに至るまでの過程も重要だろ」ってやつだ」
「んなこと言ったっけな」
「まあ去年の話だしな」
ってことは、2周目に入ってから俺が言ったことか。前世は今回ほど関わってもなければ話すこともなかったからな。
「Aクラスとの勝負が決まってからずっとモヤモヤしててな。口では小学生レベルで戦うって言っていたが……ずっと悩んでた……。それに」
ここで一旦言葉を切った坂本はどこかスッキリした表情で言葉をつづけた。
「全力で、小細工なしで戦わずして、後悔したくなかったからな」
「……そうか」
俺の反応に坂本はニヤッとする。つられて俺もニヤッとしてしまう。
後悔のないように選択をした。
まあここまで聞いたら、「自分の好きなようにして負けやがって、やっぱりこいつのせいで負けたじゃねえか!」って声が聞こえてきてもおかしくはないところではあるのだが。
そんな声を上げる奴は、今この場にはいなかった。
まあ、当然だろう。
教科 日本史
Fクラス 坂本雄二 97点
Aクラス 霧島翔子 98点
負けたとはいえ、坂本がどれだけこの勝負のために全力を費やしたのかが結果に表れていたのだから。
実際大丈夫じゃありませんでした。試合数が原作より多くなってるところとか。
とりあえず次で一巻分が終わりの予定です。
後で読み返しておかしいと思ったら修正します……すみません。