申し訳ないです。
俺たちが負けた試召戦争。それはこれまでの俺たちの生活を一変させた。
まず一番大きかったのは、クラス設備の降格……ではなく、担任が福原先生から鉄人に変わったことだ。
どうやら「鬼」の二つ名を持つほど厳しい教育をするらしい。……いや、らしいじゃなく、そうだけど。
俺が身をもってそれは知っているし。
「いくら学力が全てではないと言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。全てではないからと言って、ないがしろにしていいものじゃない」
これが鉄人が俺たちの担任になるという報告をする際に伝えてくれた言葉だ。
確かにその通りだと思う。学力が全てではない、というのは確かに俺もそうだと思うし、そうであってほしいとも思っている。
だが実際現在の世の中は学力が優先してみられる。進学、就職、果ては結婚だったり人生の岐路において必要な能力とされている。そのことはFクラスの中で一番理解しているのは俺だと思う。
何せ、一度目はそれで痛い目を見て、人生を失敗しているからな。
一般常識、というのも学力の一つではあると思うし、考え方を身に着けるという点においても必要になる。
俺にとって二度目の人生だとしても、やはり高校の勉強というものは難しい。
前世に比べたら遥かにマシにはなってるとはいえ、まだまだ精進が必要だ。
だから、鉄人が担任になったのは、ある意味喜んでいいのかもしれない。
「とりあえず明日から授業とは別に補修の時間を二時間設けてやろう」
……だ、大丈夫だ。毎日と聞いて若干心が折れそうだがなんとかなる。
それに、前世と同じならFクラスの大半がまともに補修に出ることはないだろうから、俺がより鉄人に頼れる機会を増やせたと思っておこう。
「ああそうだ須川。お前は別に無理に参加する必要はないぞ。というか来るな」
その一言にFクラスメンバーが振り向いた。
「どういうことだ鉄人!須川だけ参加しないでいいなんて!」
「そうだずるいぞ!」
そうだみんな、もっと言ってくれ!
「どういうことですか鉄人! そんな差別をするなんて!」
「いやお前は純粋に補修のあるなしに関わらず俺のところに来るだろうが。あと鉄人と呼ぶんじゃない」
鉄人の言葉で周りが静かになった気がするが気にしてはいけない。
「生徒によって対応を変えるなんてそれでも先生ですか!頭の中まで筋肉なんですか!」
「とか言っているが、どうせお前のことだから来るんだろうな……」
「当たり前じゃないですか。こっちとしては、これからもしっかりと見ていただくつもりなんですから」
鉄人は若干諦めたような顔をしているが、何、気にする必要はないだろう。
「で、今須川をうらやましいといったやつらはそうだな、なしにする代わりに毎日補修室で俺との個人レッスンがつくがどうする?」
『みんなと補修させてもらいます!』
うん、知ってた。
(((まあ絶対に抜け出してやるがな!!!)))
うん、それも知ってた。だってFクラスだもんな。
ちなみに戦後対談だが、設備の降格と三ヵ月の試召戦争禁止が言い渡された。
坂本がFクラスメンバーに囲まれていたが、俺と雪下で一掃。
『坂本と同じだけの点数がとれるのか?』
これだけで地に沈んだからすごく楽だった。吉井は構わず喉笛を引き裂こうとしていたが、タイミングよく霧島が介入。
「勝ったほうが言うことを聞く」
この権利を勝ち取った霧島は、坂本に交際を求めた。坂本は拒否していたが、それもむなしく引きずられていった。今からデートする、と霧島は言っていたが、どう見ても罪人を処刑台にしょっぴくような姿にしか見えなかったのは内緒だ。
吉井は吉井で、姫路と島田に迫られていた。どうやら財布がピンチなようだが……すまん、暴力なら介入できるが、そこの問題に関してはまだ未遂だし、俺には介入できねえわ。がんばれ。
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「さて、と」
戦争が終わり、クラス全員がいなくなったFクラス。俺はようやくそこから動く気になった。
戦争終了と同時に俺たちは設備を交換させられたため、さっきまで俺が座っていたのはゴザ、机は段ボールという「もはや勉強させる気ないだろ」という設備である。正直教育機関にこのことを言ってしまえば文月学園の存続は危ぶまれるのではないだろうか。
「まあ、これは予定通りだからいいんだがな」
ここから。ここからだ。劣悪な環境になったことでこのクラスは動いていく。清涼祭、強化合宿とイベントもあるし、ここからが正念場だ。
そう思いながら、廊下を歩いていると。
「なにが、予定通りなんですか?」
ぞくり、とした。
振り向けばそこには。
「雪下……?」
「ええ、で、予定通り、というのは?」
既に下校したと思っていた雪下が立っていた。
「予定通りは予定通りだ。俺の今日のスケジュールだよ」
「……そう、ですか」
じっと俺を見つめてくる雪下に負けじと目を合わせる俺。なんというか、ここで目をそらしたら負けな気がした。
「……とりあえずはそういうことにしておきましょう」
「とりあえずって酷い言われようだな。本当のことなのに」
嘘は言ってない。
「で、須川さんはこの後どうされるんですか?」
「いつも通り、鉄人のところに行くつもりだよ。戦争には負けちまったしな」
まあ一応やることはやったし、次の戦争に関しては三か月後だから焦る必要は本来はないのだが。
(清涼祭……あと一番は強化合宿か)
この二つに向けての地盤固めが目下の俺の目標だ。もちろん、これは誰にも伝えるわけにはいかないけど。
「あの、その……ですね。須川さん」
「ん?」
何やら落ち着かない様子の雪下に新鮮味を感じる。
「今日はみんな、遊びに行ったりしてるじゃないですか。なので、その、私も行きたいなって」
「? 行けばいいんじゃないか?」
「……わざと言ってます、それ?」
ジト目で睨まれた。なぜだ。
「じゃあこう言います。須川さんには私がこの近辺を知るために手伝ってもらいますね!」
「……学校内でのサポートだけじゃなかったか」
「そういうこともありますよ」
「ねえよ、それにさっきも言ったが鉄人のところに行くって言ったはずだが」
「ふむ、お前は相変わらず熱心だな。」
鉄人が あらわれた!
「なぜエンカウントしたような表記をされたのか問い詰めてもいいか?」
「特に深い理由はないので気にしないでください」
そんな気分だっただけだから。決してうご〇せきぞうのようにムキムキだからとかそんな理由じゃないから。
「須川よ。今日も戦争があり、お前たちのクラスは負けた。それに対してやる気を新たにしてくれるのはいい。だが……」
そこで鉄人は一度雪下のほうに目をやった。
「今日くらいは無理せず、存分に遊ぶがいい」
「別に無理なんて……」
「そうか? いつも補修に来ているときのお前は、何かに追われているような形相をしているぞ」
「……えっ?」
やはり気づいてなかったか、とため息をつかれた。
「そ、そうです。私はまだ少ししか補修にご一緒させてもらってませんが……その、いつもあの時間になるとどこか力が入っているというか、無理をしているような気がして」
「……そんなことは『ある(あります)』あ、はい」
そんなタイミングを合わせないでもいいだろうに。
「須川、学力はおろそかにしていいものではないとは言ったのは覚えているな」
「ええ、だから今日も行こうと」
「だが、今のお前はその他の大事なものをおろそかにしようとしている。俺にはそう見えるな」
「…………」
「根を詰めすぎると何事もパフォーマンスは落ちてくる。勉強もそうだ」
鉄人はそこまで言ってから、ふっと優しい目になった。
「お前が何に追われているのかは知らん。だが、たまには力を抜いてもいいんじゃないか?」
「……別に、俺は」
「お前はFクラスだが、あいつらと違ってよく頑張っている。逆に心配になってくるんだ」
「…………」
「はぁ、わかった、ならこう言おう。今日の補修は校内にとどまらず存分に羽を伸ばしてくること。雪下と共にな」
「……わかりました」
「なに、お前のことだ。今日一日来なかったからと言って明日以降来ないわけではないだろう? 俺としては数日休んでもいいとすら思っているんだからな」
前世と現世の年齢を合わせると、鉄人よりも年を重ねてるはずなんだが、鉄人に諭されてしまっている。
その事実に少し悔しさを感じてしまっていた。
「じゃあ雪下。須川を頼んだぞ。間違っても勉強机に向かわせないようにな」
「大丈夫です。ここらの案内をお願いしようと思っているので」
「……そうか、じゃあ気を付けてな」
そう言い残し鉄人は去っていった。……くそ、ちょっとかっこいいじゃねえか。
「じゃあ行きましょうか、須川さん!」
「あ、ああ……ってなんで腕を組む」
「こうでもしないと須川さん、逃げちゃいそうですし」
「……別にそんなことはしないが」
ああ言われた手前、今日は雪下と一緒にいないと鉄人に何を言われるかわからないし。
「とりあえず逃げたりしないから離してくれ」
「……えー」
「なんでそんな不服そうな……Fクラスの連中に見つかるとめんどくさいのもあるんだよ」
「……仕方ないですね、わかりました」
腕から離れた雪下を連れ添って、俺は町へと向かっていった。
ちなみに一緒に行動している間に腕に何度もくっついてきてそのたびに離れてもらったのは余談だ。
次回から清涼祭予定。
ちなみに13.5巻をまだ読んでないので気づかないところで設定がおかしくなってしまってたりしたら申し訳ない。
相変わらず不定期投稿になるとは思いますがよろしくお願いします。