バレスタイン教官の一言により、ざわついていた紅い制服を着ていた生徒たちはとりあえずは平静を取り戻した。
「じゃ、落ち着いたところでみんな私についてきてね~」
・・・
旧校舎:ドライケルス大帝が「来たるべき日まで保存せよ」と言われた建物。
~トールズ士官学院・案内パンフレット~
・・・
俺たちが連れてこられたのは少々古ゆかしい建物だった。
確か、旧校舎だったはずだ。
―――なぜここに?
といったような雰囲気が他の生徒から漂ってくるが、俺はさっきの「特別オリエンテーリング」といった言葉からおそらくここはダンジョンではないかと予想を付けた。
特別オリエンテーリングは俺たちを篩にかけるためかもしれない。
そうであるとすれば、校門前で武器を回収された意図もわかる。
手慣れた武器がない状況でのサバイバル訓練。
確かに、力量を見極めるにはいい舞台だが・・・
俺、素手でもかなりイケる方なんだよなぁ。
それがこの訓練の失敗点だろうか?
おそらく教官はサブ武器を持たないのだろう。
主武器を盗られた、壊された場合用に師匠から近接格闘術も一通り習っているが、どうにもゼムリア大陸では武器を壊されたら終了みたいな風潮がある。
特にここエレボニア帝国ではそれが顕著である。
確かにアルゼイド流とかの「武器一つで叩き伏せる」といった戦い方は憧れるが、それは本当に一握りしかできないことである。
俺からしたら猟兵の戦い方の方がよっぽど好感が持てる。
どんな状況でも依頼を達成するために自らの命でさえも賭けるその姿には憧憬にも似た感情がある。
流石に猟兵にはなりたくないが。
◇
旧校舎の中は薄暗く、照明の類もないようで窓から差し込む陽の光で何とか見えるといったものだった。
大広間の奥にある舞台に上がった教師は
「――サラ・バレスタイン。今日から君達《Ⅶ組》の担任を務めさせてもらうわ。よろしくお願いするわね」
と宣言した。
「な、Ⅶ組……!?」
「そ、それに君達って……」
みなサラ教官の言葉に動揺し、それぞれが個々の意見を漏らす。
「ふむ……? 聞いていた話と違うな」
青い髪の少女が顎に手をあてそう呟く。
「あ、あの……サラ教官?
この学院の1学年のクラス数は5つだったと記憶していますが……。それも各自の身分や、出身に応じたクラス分けをしていると聞いたのですが…。」
眼鏡の女子が事前に聞いていたクラスの振り分け方についての違いを述べる。
そうなるとこのクラスは学院側から入学する生徒には事前に伝えられなかった。
ということになる。
その言葉を聞いてサラは頷いて肯定するが、逆に否定もする。
クラスがⅠ~Ⅴ組みしかなかったのは去年までの話であり、今年は新たに立ち上げられたため違うと。
その理由は
「君達、身分に関係なく選ばれた特科クラス――《Ⅶ組》が」
「特科クラス《Ⅶ組》……」
「み、身分に関係ないって本当なんですか?」
アリサがⅦ組についての事情を追求しようとするが
そこに激しく問い詰めるような声が響き渡る。
「――冗談じゃない!」
そう叫んだのは緑の髪の眼鏡である。
「身分に関係ない!? そんな話は聞いていませんよ!?」
マキアスは身振り手振りを交えてサラ教官に食って掛かる。
「えっと、たしか君は……」
「マキアス・レーグニッツです!」
サラ教官に自らの名前を名乗った後もマキアスは話続ける。
「それよりもサラ教官! 自分はとても納得しかねます! まさか貴族風情と一緒のクラスでやっていけって言うんですか!?」
「うーん、そう言われてもねぇ。同じ若者同士なんだからすぐに仲良くなれるんじゃない?」
「そ、そんなわけないでしょう!?」
サラは楽観的な意見をマキアスにいうが、マキアスは納得せずに首を左右に振って否定する。
そんな光景をマキアスの横で見ていた金髪の青年が大きく鼻を鳴らす。
それに反応したマキアスはイラついた顔で青年にも食って掛かる。
「……君、何か文句でもあるのか?」
「別に。”平民風情”が騒がしいと思っただけだ」
「これはこれは……。どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度……さぞ名のある家柄と見受けるが?」
「ユーシス・アルバレア」
彼は体を向け少し挑発するような顔で
「”貴族風情”の名前ごとき、覚えてもらわなくても構わんが」
と憮然とした表情でそう言い放ったのだった。
ユーシスとマキアスの会話に場はまたもや騒然となる。
《アルバレア》は帝国東部のクロイツェン州を治めており、帝国貴族の爵位として最上級である”公爵”を冠していた。
つまりは、ユーシスは貴族の息子という立場となる。
またエレボニア帝国における最も家格の高いとされる四大名門の一つに数えられている、帝国に住む者ならば知らぬものなどいない、大貴族の中の大貴族と呼べる存在なのであった。
そんななか、異国人風である男子生徒は首をかしげており、白髪の少女と赤髪の青年は動じておらず、少女の方はあくびをしていたが。
「だ、だからどうした!? その大層な家名に誰もが怯むと思ったら大間違いだぞ!」
自分が予想していたものを遙かに上回るビッグネームに気勢を削がれながらマキアスは反論する。
あと一つのきっかけで破裂しそうな雰囲気が漂っていたが、
「はいはい、そこまで」
手を叩いて二人をそう諌めると、全員の意識がこちらへ向くのを確認し、サラは言う。
「色々あると思うけど、文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー」
「オリエンテーリング……それって一体、何なんですか?」
「そういう野外活動があるのは聞いたことがありますが……」
サラの言葉にエマとアリサが反応する。
リィンはその言葉に校門で武器を預けていたことを思い出す。
「もしかして……門の所で預けたものと関係が?」
「へぇ、いいカンしてるじゃない。」
そういうとサラはなぜか後ろに下がり、何かのボタンを押した。
「へっ!?」
「わ!?」
「きゃっ!?」
「何っ!?」
突然床が傾き急激な角度の変化に半数がバランスを崩し真っ暗な穴に落ちてゆく。
リィンは耐えようとするが徐々に力が抜け滑り落ちてしまう。
近くの金髪の少女をなんとか助けようと、手をのばし―――――――視界の端に天井にぶら下がる少女と傾いた床を蹴り上げて穴の外へ脱出する赤髪の青年を目撃した―――。
◇
ふぅ、危なかった・・・
樹海では敵の攻撃で地面が砕けて真っ逆さまとか日常茶飯事だったからいつのまにか、「足場が崩落したら即座に壁などを蹴って不利な状況から脱する」というスキルが身についていた。
運が悪けりゃ何十メートルも落っこちて瀕死とか何回もあったし。
自分と同様に落とし穴を回避した少女はワイヤーで天井の梁にくさびをひっかけていたがバレスタイン教官が投げナイフで落っことされて行った。
「タケル・グランセイバー」
バレスタイン教官がこちらに話しかけてきた。
「なんですか、バレスタイン教官?」
「はぁ、サラ教官でいいわよ・・・。あんた、アイツの弟子なんでしょ?」
「師匠の知り合いですか?」
「昔ね、何度か戦ったことがあるのよ」
「ところで、そろそろ行ってくれない?ちゃっちゃとオリエンテーリング開始したいのよ」
「・・・?落とし穴を回避するのが訓練じゃないんですか?」
「どう考えれば、そんな考えに思い至るか謎だけど、違うわよ」
「わかりました、では行ってきます」
俺は穴に飛び込んだ。
◇
「あれが世界樹の守り手ねぇ・・・確かに纏っている雰囲気が独特だけど」