魔法科転生NOCTURNE 作:人ちゅら
※「個人端末」と「情報端末」の違いについては、大雑把に前者がスマホ、後者がタブレット、くらいに考えてもらえば大体合ってるはずです。(携帯性は相当進化しているようですが)
通信回線が戻る。
それは静かな回復ではなかった。
持ち出した部活連の
複数のチャンネルが同時に復帰し、帯域を奪い合うように流れ込んでいた。
校内ネットワークは完全には整流されていない。
だが、沈黙していた世界に、再び情報が流れ始めたことだけは明白だった。
あなたは歩みを止めないまま、意識の一部を【マッパー】へ沈める。
これまで頼ってきたのは純粋なMAG分布の“点”だった。だが今、そこに監視カメラの映像が重なり、座標が補正される。曖昧だった位置が、壁や通路の情報と合わさることで一致していく。点は線になり、線は動線へと変わる。
ぼんやりとボヤケていた世界が、クリアな像になる。
接続完了。
講堂。
第一グラウンド。
各棟の廊下。
断片的だった戦場が、ひとつの戦域として再構成されていく。
グラウンドを見下ろすカメラの端に、学生でも教職員でもない人影が見切れている。某社自販機の業者らしい青い制服や、工事業者のような作業服を着ているが、手にしたアサルトライフルがそれを否定している。潜入用に用意したのだろうが、何らかの理由で制圧力を優先したのだろう。
講堂の映像が目を引いた。
生徒会役員は、生徒会長を中心にして講堂内の生徒たちを守ることにしたようだ。
パイプ椅子や演台を使ってバリケードを作り、大扉を封鎖する作業をしていた。
逆に通用口の扉を蹴破るようにして外へ飛び出す影は、
最後に追随した
彼らはそのまま外に出て、外部からの攻撃に備えている。
二人の動きは乱れていない。
むしろ、ガス弾による一時の混乱から即座に立て直している。
緊急事態にこれだけ対応できるというのは、それなりに訓練を積んでいるのだろう。
それに状況対応能力も高い。
正直なところ、魔法師の卵と言っても所詮は高校生だろうと思っていたが、これは評価を修正するべきだろう。
少なくとも現状で、講堂の防衛は任せておいても大丈夫そうだ。
思考を切り替えると同時に、後回しにしていた処理へ意識を向ける。
残存するECM設置ノード。
講堂周辺の主要ノードは既に潰したが、外周域の干渉が残っている。校内の通信は回復したが、校外への通信ができているかは分からない。ノイズ源を排除しておく必要がある。
シキガミに指示を飛ばす。
視覚を同期。
廊下の隅。
配電盤の裏。
換気ダクトの影。
これまでのものと違い、しっかり人目につかない位置に隠して設置された装置を次々と発見し、停止、回収。
抵抗はほぼ無い。
悪魔による妨害も、ここでは発生していない。
最後の一基を沈黙させる。
その瞬間、ノイズが一段階下がった。
通信が開通する。
あなたは意識を切り上げ、歩を早める。
向かう先は講堂。まずは十文字との合流、それから主戦場への接続を目指そう。
外廊下につながる角を曲がった瞬間、空気が変わった。
刺激臭。ガス弾の残滓がまだ漂っている。
狙いが外れて講堂内へ打ち込めなかったか、意図的にバラ撒かれたものかは分からないが、床には数名の生徒が倒れている。意識を失っているだけで致命傷は無いが、運の悪いことだ。
壁面には反撃を試みたのか、魔法の痕跡。
衝撃によるひび割れと、焼け焦げたような黒ずみ。
戦場の
講堂正面に出ると、視界の端で
薄い影。
肉体を持たない、
割られた回廊窓から講堂へ侵入しようとしたその瞬間、見えない壁に弾かれる。
空間が歪み、圧縮されたような抵抗。
次の瞬間、影は霧散、そのまま消失した。
原因はすぐに特定できた。
講堂全体を覆うほどの、巨大な【障壁】。
通常の防御魔法とは明らかに出力が違うそれには、強い
まだここに居るようだ。
早速成果を出したようだと、あなたは思わずニヤリと笑ってしまう。
この巨大な【障壁】の主、
彼の周囲だけ空気が重い。
意志の密度が違う。
内側にいる人間からは感じられないかも知れないが、外側から見ればはっきり“壁”として存在している。
【
その血に眠る
従来の現代魔法では、講堂の全てに【障壁】を展開しうる出力を得るには、相応に大きなCADが必要となる。
少なくとも携帯用CADでそれだけの出力を得られる魔法師は現存しない。
そしてアストラル体の悪魔に対する防御としても機能している。
【障壁】の効果が物質界を超えて、情報や精神といった概念の世界にまで及ぶようになったのだ。
これで後方くらいは任せられるか。
防衛側の戦力評価を修正しつつ、歩みを緩めて講堂へ。
あなたの接近に気付いたのか、十文字の視線がこちらに向けられる。
周囲の警戒は続けながら、巌の男は大きく頷いた。
こちらも識別は済んでいる。
負傷、状態異常などは無さそうだ。
「起きたか」
――ああ。
余計な前置きは省き、短い言葉で挨拶を終える。
もしかして笑いどころかな? とも思ったが、彼の表情にはそんな余裕は無さそうだ。
上着の内ポケットから、入るはずもないサイズのECM装置の残骸を取り出し、地面に投げ出す。
――通信妨害の正体だ。
十文字が一瞥して「電子戦か」と呟く。
やはり、こうしたことの理解は早いようだ。
――校内各所に分散設置されていた。
通信阻害と、おそらくは状況把握を妨げ、混乱させ、対応の遅延を狙ったのだろう。
これは計画的な攻撃行動だと、あなたは告げる。
「……だろうな」
短く頷く。
予想はしていたのだろうが、そこで言葉が止まった。
突然の事態に、迷っているようだ。
こちらから水を向ける必要が有るか。
――こちらはどういう状況だ?
「講堂への攻撃は制圧したが、まだ校内各所で小規模な衝突が続いている。生徒会は職員室との連絡を試みていたが、通信が回復したおかげで現在は講堂に待機。風紀委員は三年が首謀者と見られる
――
「役員は俺とお前しかいないからな。好きに動いて良い」
まあ、そうなるか。
それなら単独行動で……というのも悪くはないが、その前に情報共有をしておこう。
あなたは情報端末を取り出し、十文字にも見るように促す。
敷地内マップを呼び出すと、片目を閉じて情報を整理してゆく。
【マッパー】で得た生体分布に、監視カメラの映像。
ECMノード。侵入者の侵入経路。
そして現在の戦力配置。
それらを手際よく敷地内マップに
バラバラだった情報を、ひとつのモデルに収斂する。
十文字が「むぅ」と唸っているが、構わず作業を進める。
そうしてあなたが侵入者の進撃経路を図書館に向けた、ちょうどその時。
端末に緊急通信のポップアップ。部活連用の回線だ。
発信者は「風紀委員端末C」。
タップすると、声が聞こえてくる。
『――こちら
低い声。ノイズはほぼ無い。
通信状況は完全に回復したと考えて良さそうだ。
あなたが視線を送ると、十文字は頷き、自身のインカムで応答する。
「こちらも確認した。ECMだったようだな」
『そちらも把握していると思うが、敵の目標は図書館だ』
やはり。
司波の声は、あなたの推理を裏付けるものだった。
仮説が確信に変わる。
あなたが通話に割り込み、こちらの情報を共有しておく。
――こちらの情報とも合致する。侵入経路は外周搬入口。そこから分散侵入、
それだけ告げると、残りのやり取りは十文字に任せた。
あなたは責任者になりうる肩書がない。
『同意する。実習棟の
「そちらの戦力は」
『自分と
「最低限だな。
『はい』
「任せる。無理はするなよ」
『了解』
短いやり取りが終わると、インカムを外した十文字があなたに問うた。
「図書館が本命か」
――ほぼ確実に。
あなたはそう答えてから、その理由を説明する。
侵入者の装備から、暗殺や無差別殺戮、施設破壊などが目的とは考えづらいこと――実際に遭遇した生徒たちも殺されたりせず、反抗したものも無力化に止められている。
ECMで外部への通信手段を妨害したのは時間稼ぎの一環だ。永続的効果を狙うには機材も戦力配置も雑すぎるし、敵部隊からも無視されている。
なにより討論会の最中から既に普段よりも多くの人間が、何故か図書館に集まっていたのが異常なのだ。おそらくは行動開始後は彼らが図書館内の制圧、その後の作業を先行して時短を図っている。
結論として、図書館の情報資源を物理的に持ち出すことが目的だろうとあなたは考えた。
「なるほどな」
十文字は一瞬考え、インカムを付け直す。
「風紀委員を含め、戦力を回す。講堂の防衛は最低限で良い」
さすが、決断が早い。
大筋はそれでよいだろう。
だがもう一つ、視点が足りていない。
「もうひとつ?」
脱出経路だ。
彼らが物理的になにか――おそらくは情報キューブ――を持ち出そうと考えるなら、当然、奪取した後で脱出しなければならない。だが通信が回復した現状、時間が経てば警察なり軍なりが介入することは確実だ。最低でも包囲されることは目に見えている。彼らは可能な限り素早く脱出する必要が有る。
だが現実的に、それを可能とする機動力を、彼らは一つしか持っていない。
「裏門か」
学校管理の監視カメラには権限がないので確証はないが、侵入者がそちらから入ってきたこと、門を開けて縦列で入ってきていることから、おそらく車両を使っていたことは、あなたの【マッパー】で確認している。
警備員が排除され、侵入者と思わしき点が複数残留している。
おそらくここが、もうひとつのノード。
作戦の
克人の表情がわずかに曇る。
手が足りない可能性。
現状でも既に、生徒の避難誘導、避難所である講堂の防衛、図書館の奪還。
加えてもう一つとなると、動員できる戦力が足りない。
魔法科高校は本来、実技指導のため一流の現代魔法師である教員が常駐し、更には毎年数名から十数名の有力魔法師の師弟が所属する。
純粋な戦力評価で言えば、小国の部隊程度なら単独で退ける力がある。とされる。
とはいえそれを実際に戦場に放り込んでよいかどうかは別問題だ。
自己防衛のため、必要に応じて個々で戦うのは良い。
避難のために障害となる敵を倒せというのは、この時代の価値観として正しい。
だが敵の作戦を挫くために危険に飛び込めと言えるか、生徒たちがそれに従う義理があるかといえば、そんなものは無い。
となると教職員に期待するしか無い。
生徒会側から要請を出してもらえば可能かもしれない。
克人はひとまず連絡を取ることにしたようだ。
インカムに手を当て、あなたの差し出した情報端末を見ながら、状況を説明している。
「……はい。はい。……ですが。……はい、分かりました」
通信を終えると、ふう。と大きく息を吐き出した。
緊張した、と言うより単に頭を使って疲れているのだろう。
「教員は先に図書館の制圧に向かうそうだ。狙いはオフラインで保管されている魔法大学の資料の可能性が高いと」
そんなところだろう。
「校長の判断で、警察への要請は遅らせるそうだ。代わりに契約している民間警備会社には通報済みで、現着は五分程度らしい。それまで足止めして欲しいそうだが……行ってくれるか?」
――ああ。
足止めの仕事自体は、そう難しくもない。
あなたにとっては手の内をどこまで伏せるか、の方が問題になる。
現状、悪魔憑きの説明しかしていない状態で
あるいは仲魔に先行させて、仲間割れをしているように見せかけた方がマシかも知れないが。
やりすぎても面倒なことになりそうだし、ここは穏便に対処することを考えよう。
「その案を採用する。図書館の制圧は、任せろ。司波たちも向かっているし、戦力は充分だ」
克人の言葉に、あなたは頷く。
役割は決まった。
かくして各戦線は有機的に接続され、効率的な運用が為されることになった。
残るのは、敵の急所だけだ。
「頼んだ」
――
十文字の声を背に、あなたは踵を返す。
講堂を離れる瞬間、戦場の圧が一段階軽くなる。
敷地内一杯に広がり、とっ散らかっていた戦線がすっきりとまとめられた。
思考は逆に研ぎ澄まされていく。
あなたの主戦場は、もうここではない。
敵作戦の急所へ。
業者搬入口へ向かいながら、あなたは最後に一度だけ【マッパー】を展開する。
校内の分布は安定している。
大規模な混乱は収束しつつある。
だが、外周――搬入口付近だけが、不自然に“薄い”。
意図的に人を排除している。
やはり、そこなのだ。
敵の退路。
勝負の一手。
あなたは速度を上げる。
流れは定まった。
次にやることは、単純だ。
――逃がさん。
感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]もチェックしてますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)
気付けば Fav が 5000+ に。
本当にありがとうございます。
原作で、襲撃犯って現代魔法のデータを情報キューブにコピーしてましたけど、あれって逃走経路まで確保してあったんですかね? 匂わせているものは有るんですが、確証は無かったので、その辺は色々と創作しています。