原作のエンデヴァーと大分違います。気をつけて。
超展開ですが勘弁してください。更新遅れてごめんなさい。支部の方見てる方は薄々というかめちゃくちゃに気付いているでしょうがイラストにかまけてました。
感想評価いつも励みになってます。ありがとうございます。
緑谷のワン・フォー・オールとぶつかり合った白炎の余波が、未だ完全に霧散してはいなかった。
『緑谷出久!不死透也!超火力・超スピードの個性同士のぶつかり合いだ!!ハンパネエエーーー!!』
プレゼント・マイクの実況からも、闘いの初動からさ程――というより、殆ど一瞬しか時間は流れていないという事が分かる。白い少年との会話は、圧縮された体内時間の中で行われたものだったのだろう。
走馬灯と同じような理屈だろうか。
泥のように重い微睡みから覚めた様な感覚だった。
異様に頭が冴えている、というより、糞程最悪な状態から通常の状態に戻った、という方が正しいのだろう。自分自身の真実を知った俺は、この世界の支配下から完全に抜け出した。
そして同時に呆然とした。俺の中の少年の存在と、その彼が持つ危うさを知って。
「っ……!」
緑谷は明らかにこちらを警戒していた。それと同時に、戸惑っているようにも見える。――ワン・フォー・オールの暴走に、あいつ自身も困惑しているのだろう。
あいつが100パーセントで殴ってきたのは、俺が完全に無防備になった瞬間だった。緑谷が、人を殺めてしまえる力を考えなしに振るうような人間ではないことを、俺は知っている。
ならばそれは、他ならぬ世界からの干渉だろう。緑谷にこれ以上無理をさせる訳にはいかない。
「棄権します」
腕を上げ、審判であるミッドナイトにそう告げる。
スタジアムで、驚愕の声が爆発した。
「……何の用だ」
圧倒的な熱量を孕んでいるであろう炎が揺れている。灼熱を象徴する其れは、しかしこんなにも近しい場所にあるというのに、殆ど熱を感じさせない。
相変わらず馬鹿げた技術だ。完全に個性を己の一部として掌握し、炎の熱量だけをコントロールしている。いや、炎の輪郭だけを具現化させているのか。或いはそのどちらでもないのかもしれない。ただでさえ操ることが難しい炎を、ここまで完璧にコントロールできる男は、世界広しと言えども一人しか存在しないだろう。
この男こそが、この世界でも指折りの実力者にして俺の産みの親、史上最高のNo.2ヒーローと名高いエンデヴァーだった。
「焦凍。お前に言いたいことがある」
抑えてはいるのだろうが、それでもその覇気に気圧されそうになる。対面して実感出来る、絶望的な程の実力差。
ーー届かない。あまりにも遠い。その事実が俺の神経を逆撫でした。
「なんだ」
正面から相対する。産毛が逆立ち冷気が漏れるのを感じた。
数年ぶりに言葉を交わした実の親に向けたのは、紛れも無い憎しみであった。
許せるものか。母を病ませたこの男を。俺も家族も、ただの物としか認識していなかった奴のことを。
あの日俺に煮え湯を浴びせた母の顔が脳裏に焼き付く。燃え盛る憎悪の炎は、あの日の記憶をより鮮明に照らし出し、俺の古傷を疼かせた。
そんな男が、今更なんだと言うのか。
「すまなかった」
殺すぞ。
時間にして恐らくコンマ1秒にも満たない。瞬間冷凍された空気の槍が、エンデヴァーの首の薄皮のみを切り裂いて止まった。
あと数ミリでもずれていれば、氷はやつの頸動脈を引き裂いていただろう。
「ふざけるな……!」
個性発動の瞬間、他に触れ振り上げた腕をそのままに、俺はやつを睨みつける。
「ふざけるなよエンデヴァー!!」
怒号が己の鼓膜を震わせる。
「謝罪だと!?母を!家族を破壊したお前がか!」
「許せとは言わん」
「当たり前だ!!!」
許せるものか。お前だけは、何があっても許してはならないのだ。
「気付かされた」
「何の話だ!?」
「お前たちにしてしまった過ちを、まざまざと見せつけられた。
ーー不死透也という少年に」
あまりにも予想外の名前に、思考が止まった。
「お前の拠り所を奪い、傷つけ、暴力を振るい、否定し、詰り、縛り付けた。お前の母にも同じことをした」
苦痛に顔を歪めて吐露する。
「その事実を、痛みを、世界を憎むあの瞳に突きつけられた」
ーーお前は、目の前の“コレ”を産み出した存在と、同じことをしたのだと。
「許せとは言わん。だが焦凍、俺というくだらぬ愚物に復讐をする為に、お前の力を持て余すな」
「なに……!?」
「その炎は俺の力じゃない。お前の力だ
ーーオールマイトを超える最強のヒーローになれ、とはもう言わん。お前はお前の為に力を振るえ。何時までも俺とのしがらみに囚われるな」
炎の男は、背を向け、廊下を歩いて行く。
「後で、お前の母に会いに行ってやれ。お前の顔を見たがっていた」
そうして轟焦凍初めて気付く。オールマイトを超えるヒーローになれと言われたのは、一体何年前のことだっただろうか。無茶な訓練をすることがなくなったのは、一体いつからだったろう。
世俗に興味のないあの男が、たまの休日に、一体何処へ足を運んでいたのだろう。
エンデヴァーというヒーローの評価が、世間で変わり始めたあの頃からーー俺は囚われ続けていたのか。
過去のあいつに。
「俺は……」
拳を固く握り締める。
「どうすりゃいいんだよ……」
行き場を失った憤怒の炎は、凪いで消えた。
憎しみを向けるべき屑は、既に燃え尽きてしまっていたのだから。
「なぁオイ、どうしちまったんだよ不死!どっか具合でも悪ぃのかと思ったらピンピンしてるしよぉ!」
「緑谷の初撃にちびっただけだ」
「んなわけねぇだろ!?ってかお前なんかキャラ違くね!?」
上鳴の言葉をテキトーに返しつつ、指先で小さな炎を弄ぶ。
緑谷の身体にあれ以上の負荷を掛けるのは何としてでも避けたかった。力を十全に振るえない緑谷に無理をさせれば、それはあいつに確かなダメージとして返ってくる。
フルカウル100パーとかやりだしたら四肢粉々だしな。その状態で無理矢理向かってこられたりしたら本当に恐ろしい。
世界に敵視されるあの少年を滅ぼさなくては、俺に平穏は訪れず、常に世界から狙われることになる。件の少年はいずれ極悪人へと成長することが確約されており、世界を滅ぼしてしまうかもしれない。
そうは言えども、俺は彼を殺してしまいたいとは思えなかった。
だってあまりにも切ないだろう。同情せずにいられるか。せめて彼が、最初から極悪人であってらどれほど楽だったろうか。
眼下で行われている試合にも集中できず、上鳴にテキトーに返事を返し続けていると、ある時それがピタリと止んだ。
とうとう飽きたかと思っていると、視界の端がやけに眩しい。上鳴が放電でも始めたのかと、目を細めて光源の方を向くと、炎を携えた巨漢がこちらを見下ろしていた。
「エン……デヴァー……」
八百万が呆然、といった風に呟く。
「不死くん」
ハイ、と声を絞り出す。
燃ゆる双眸と目が合った。
「少しだけ、話をしないか」
「すまないな、学生の貴重な時間を割いてもらって」
「いえ」
超大物で大忙しであるあなたがそれを言うのか、と言いたくなるが、それをなんとか呑み込んだ。
通された部屋は、恐らくVIP用の観覧席だ。壁一面がガラスになっており、眼下では生徒たちの試合が行われている。
エンデヴァー。あの少年のーーもう一人の不死透也の、原点。
原作でもNo.2ヒーローとして登場していたが、この世界での彼は更に高い名声を手に入れていた。“史上最高のNo.2”。それがこの男の呼び名だった。
オールマイトがいなければ、史上最高のヒーローの器だったと称される彼は、原作での彼よりも落ち着いているように思えた。
「……驚いたな。まるで悪意や狂気を感じられん。だがーー在るんだろう」
「……はい」
目を細めて問うエンデヴァーに、俺は少し間を空けて正直に答えた。彼は剥き出しの彼の悪意に触れた人間だ。どうせ誤魔化しは効かないだろう。
「君は何を目指す」
「ヒーローです」
エンデヴァーの問い掛けに、今度は即答した。
真実を知って尚、俺の目指すべきものは変わらない。多分、変えてはいけない。そんな想いに突き動かされた結果だった。
「そうか」
心底嬉しそうに、エンデヴァーは微笑みを浮かべた。
「私は君に救われた。どうしようもない罪を君は突きつけてくれた」
黙って彼の話を聞く。
「先程その罪に一区切りつけてきた所だ。償える罪ではないが、この罪によって産まれたモノは俺が責任を持たねばならん。……いや、家族なのだから、責任を持つのは当たり前か」
あいつの方は家族とは思ってくれてないのだろうがな、と自嘲気味に笑う。なんと言えばいいのか分からずひたすら黙っていた。
「ありがとう。そしてどうか、そのままヒーローへの道を突き進んでくれ。不死透也くん。すまないね、こんな訳の分からない自己満足に付き合わせて」
そう言ってエンデヴァーが背を向けたその時ーー部屋を、いや会場全体を、凄まじい殺気が襲った。
背を向けていたというのに、エンデヴァーは俺よりも速く反応し、行動に移る。
肩の炎から、一瞬だけ糸のようなものが飛び出す。それが超圧縮された炎のレーザーだと気がつくのは、その圧倒的な技量が産み出した成果を目の当たりにしてからだった。
レーザーが一瞬でガラスを焼き切りくり抜いた。そしてエンデヴァーは駆け出し、突き出した彼の腕が切断されたガラスに触れた途端、一瞬の超熱量が放出される。
小規模の爆発によりガラスを吹き飛ばしたエンデヴァーは、そのまま炎を操り空中へ躍り出る。そこでようやくガラスの外へと注意を向けた俺は、あまりの光景に思わず絶句した。
空がーー黒い。
黒霧のワープホールで、会場上空が覆い尽くされていた。
黒雲から、破壊の雨が降る。
数十にも上る数の脳無達が、会場の観客席へと降り注ぐ。
「俺たちの名は敵連合。反吐が出るヒーロー社会への、宣戦布告に来た」
翼の生えた脳無の上で、死柄木弔がそう告げる。隣に立つ潰れた顔の男は誰だ?
「チッ。先手は取られたか。まぁいいや、暴れろーーハイエンド」
明らかに他の脳無とは異質な雰囲気を纏った、巨大なガラスの突き刺さった脳無と、炎の男が激突する。
「来いよ不死透也。俺はお前を消さなきゃ前には進めないんだ」
かくしてそれは、魔王である不死透也に対する、世界からのカウンター。
英雄に選ばれたのは彼だったねと、何処からか幼い少年の声が聞こえてきた。
俺はもう、その幼い声の主を知っている。
此処に役者は集う。物語運命の歯車なんてものはとっくに狂っている。
“彼”が犯した罪を彼は知った。
“彼”が与えられた役目を彼は知った。
“彼”は自らの在り方を知った。
“彼”の意思や夢等意味が無く、“彼”の配役は世界によって決定付けられる。
英雄に選ばれたのは、果たしてどちらか。その答えを、“彼”はもう知っている。
だが再度世界は告げよう。
不死透也は悪である。
死柄木弔こそが、魔王を打倒する英雄であった。
今から寝ます皆さんどうかいい休日を。
最終章です。完結後のコメントは全部返させてください。
絶対完結させるマン。
凄い支離滅裂な文章書いてる自覚はあるんですが眠あのです