ある日の出来事。
地球と月と、女の子。

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バイバイ、さよなら。
でも、あなたと一緒なら。


たったひとつの冴えないやり方

20XX年、2月22日。

その日の朝のニュースは1つだけだった。

 

『今日の深夜24時ごろ、月が地球に衝突します。

『原因は各機関が調査中です。

『月が地球に衝突すれば、我々人類の死は避けられません。

『みなさん、最期の1日を安らかにお過ごしください。』

 

ニュースキャスターが淡々と読むその文章に、世界は混乱した。

狼藉し、禍乱が起き、雑駁とした。

狂い狂い狂い狂い狂った。

そうしていけるところまでいった世界は、

 

静寂を手に入れた。

 

人類400万年、哺乳類6500万年、生物38億年、地球46億年。

それらの歴史の中で最も静かな時間を地球は持った。

そう彼女は言った。

 

 

 

「ねぇ蓮子、そう思わない?」

「さすがに地球は言い過ぎじゃない?」

「まぁね。」

「知ってる?『死』ってね。受け入れるのは簡単なのよ。」

「世界の様子を見る限り、確かにそうらしいね。」

「『行けるところまで行き、然るべき場所で死ね。』」

「なにそれ?」

「フランスのことわざ。」

「格好いいね。」

「でしょう?

 その『行けるところ』っていうのは、もしかしたらここなのかもしれないね。」

「……そうかもね。」

 

 

 

かつてない静寂の中で人類は多くのことを知った。

自分たちが穢した自然がどれ程美しいかを。

自分たちが作ったものがどれ程穢れているのかを。

自分たちの穢れた精神が世界をどれだけ汚したのかを。

そして多くのことを思い出した。

目を閉じる恐怖。

眠る恐怖。

攻撃する術を持たない恐怖。

一人の恐怖。

闇の恐怖。

 

死の恐怖。

 

それら全てを受け入れて、世界は静まり返っている。

 

 

 

「でも私は、死ぬ前に月の裏側が見てみたかったな。」

「同感。」

「月の裏側を見るなんて宇宙に出るしか方法ないけどね。」

「そうだね。だから私たちはこれ以上生きていてもきっと月の裏側は見られないわ。」

「そうね。」

「だって私たち宇宙なんて行きたくないもんね。」

「うん。」

「矛盾してるなぁ。」

「憧れと恐怖は基本セットなのよ。」

「そうみたい。」

 

 

 

人類の多くは最期にしたいこと、死ぬ前にしたかったことを思い浮かべた。

それは時に欲に塗れていて、時に純粋すぎるほど澄んだものだった。

多すぎる欲と純粋すぎるものは紙一重で。

その間にあるのは単純な狂気だけ。

欲望を抑えられない愚かな人類。

エゴに塗れた愚かな人類。

穢れに汚れた愚かな人類。

争いの絶えることのなかった愚かな人類は今、狂気を鎹にして1つになった。

 

 

 

「今日で終わりだなんて信じられないな。」

「信じられなくても、事実よ。」

「こんなに静かなのに?」

「こんなに静かだからこそ、終わりは私たちに訪れるのよ。」

「結局、境界の正体、わかんなかったね。」

「わかっていることのほうがこの世には少ないわ。」

「確かに。」

「だから1つや2つのわからないことなんて放っておくほうが得策よ。」

「あぁ、もう日が傾いてきたわね。」

「蓮子、私とあなたももうすぐお別れね。」

「最期にあなたと居られるなら、別にいいわ。」

 

 

 

終わりを知った人類は探し始めた。

自分が最期に一緒にいたい人を。

恋人だったり、家族だったり、友人だったり。あるいはそれ以外。

2人の少女はどれだったのだろう。

人類というものは不思議なものだ。

一旦は死を覚悟しながら、いざその時が近づくと恐怖に慄く。

そして誰かの温もりを求める。

冷たくなる前に、最期に、熱を求める。

 

もう、太陽が落ちる。

 

 

 

「短い人生だったわ。」

「そうかしら?私は以外と長く感じたわよ。」

「自分で言うのもなんだけど、密度はそれなりにあったと思う。」

「私も。」

「だって……」

 

あなたと一緒にいられたから。

 

「ねぇ蓮子、あれを見て。」

「あれは?何?」

「きっと月の裏側よ。」

「なんていうか、その……。

 綺麗ね。」

「せっかく見られたのに感想がそれ?」

「笑わないでよ。それしか思いつかなかったんだもの。」

「蓮子らしいわ。」

「ねぇメリー。」

「何?」

「私たち、『行けるところ』まで来たのかな?」

「蓮子がそう思うなら来れたんでしょう。自分の人生所詮、最後は自己満足よ。」

「だったらここはきっと『然るべき場所』だよ。」

「私とあなたももうここでお別れね。」

「やっぱり最期はあなたと一緒でも、少し寂しいものね。」

「言えてる。」

 

 

 

20XX年、2月22日、24時。

月、復路に着く。

これから24時間かけ、定位置に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「依姫様、今回の実験で地上の人類の60パーセントが自ら死を選びました。こちら、報告書です。」

「どうも〜。案外そんなものなのねぇ。80パーセントくらいは行くと思ってたわ。」

「あの人間、マエリベリー・ハーンなのですが……。」

「死んだの?」

「えぇ。」

「そう……。それはちょっとだけ残念ね。まぁいいわ。死体は回収したの?」

「はい。冷凍保存をしています。」

「じゃあ蘇生して例の巫女のところにでも堕としといて。」

「良いのですか?」

「いいのよいいのよ。あの人間はただの私の個人的興味よ。死んじゃったならもうどうでもいいわ。」

「ついでに一緒にいたもう1人の死体も一応回収しておいたのですがどうしましょう。」

「何それ?どういう人間なの?」

「マエリベリー・ハーンの友人かと。」

「ただの友人ならいいわ。廃棄しておいて。」

「わかりました。」

 

 




初めましての人もそうじゃない人も初めまして。
フロワでございます。
読んでくれてありがとうございました。
個人的に蓮メリは最高に美しいと思ってます。
うふふふ。

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