※冬木大橋は出てきません。
──聖杯戦争。
願いを叶える『聖杯』を求める七人のマスターと、彼らの手によって召喚、契約された七騎の
その戦争の舞台である冬木の街、古い屋敷の地下室に二人の男が存在した。
一人はパーカーを着た白髪の男、床に倒れ込み、苦しそうに
もう一人は和服を着た老人。しかし周りに漂う雰囲気は人間のものではなかった。まるで、化け物のようである。
間桐雁夜。
今回で四度目となる聖杯戦争に参加するため、身体に刻印蟲を埋め込み、無理矢理急造の魔術師となり、令呪を得て
その結果、床で踠き苦しんでいるのだ。正規の方法で魔術師になっていないため、当然の結果とも言えるだろう。この様な無茶をした代償は、己の命であった。
彼が自分の命を捨ててまでして聖杯戦争に参加するのには訳があった。彼が愛した女性の娘が今、この間桐の家にいる。養子としてこの家に来てしまったのだ。雁夜が間桐の家を出なければこの様なことは起こらなかった。
聖杯を手に入れる事が出来れば、愛した女性の娘──桜を解放すると取引をした。その為に刻印蟲を身体に埋め込み、
間桐臓硯。
倒れ込む雁夜を楽しそうに見ている老人がそうである。実際は500年を生きる化け物であり、間桐家を支配する存在。そして、雁夜が聖杯戦争に参加するきっかけの元凶である。
「どうした? 英霊を召喚する前にくたばるつもりか? それならそれで手間が省けるのじゃがな」
臓硯は今回の聖杯戦争の結果などそもそも期待などしていない。聖杯を持ち帰ったら御の字、例え敗れようとも余興としか考えていないのである。雁夜の苦しみ足掻く姿を楽しむ事だけが目的であった。
そして雁夜は全身の至る所から血を吹き出しながら、英霊召喚を始めた。
雁夜の魔術師としての格は幼い頃から鍛錬を続けてきた者たちとは比べ物にならないくらい低い。その為、どれだけ優れたサーヴァントも弱小クラスまで陥ってしまう。
だから今回、狂戦士のクラスでサーヴァントを召喚する事にした。狂化で少しでもステータスを底上げする為である。
但し、デメリットもある。燃費が兎に角馬鹿にならないのだ。今までのバーサーカーの敗因が、マスターの魔力切れによるものであると言えば分かりやすいであろう。
無論、雁夜もその事は承知である。しかし少しでも勝ちの可能性を上げる為にはその方法しか思い浮かばなかった。
一人の少女の顔を思い浮かべながら、呪文を唱える。これがせめてもの償いになればと願い。
呪文を唱え終わると、魔方陣から辺り一面に光が放たれ、地下室を照らした。どうやら召喚は上手くいったようである。その事に雁夜は安堵し、臓硯は皺だらけの顔を歪ませ笑った。
しかし、二人とも異変に気付く事は出来なかった。召喚の途中、僅かな次元の歪みが生じていた事に。その歪みは召喚の儀式の影響でドンドン大きくなり儀式に干渉した。そして召喚は終了する──本来
「ここは何処だ? またどこか変な所に繋がっちまったのか?」
そこに現れたのは異様な大男であった。身体には日本風の赤い鎧を纏い、顔には歌舞伎における隈取の様な模様がある変わった風貌である。
手には槍を持っており、腰には日本刀の様なものを吊っていた。日本の英霊なのであろうか。
「……どういうことじゃ?」
雁夜は違和感に何一つ気付かずにいたが、臓硯は召喚されたサーヴァントに驚きを覚え、いくつか疑問を感じていた。
始めに、バーサーカーとして召喚された者がまともに言葉を発している事である。まあこれは狂化ランクが低ければありえるかもしれない。
次にその姿である。基本的に西洋の英霊しか召喚されない筈なのに、見るからに日本風の姿である。何か召喚に不備があったのであろうか。
そして、バーサーカーが放った第一声である。まるで何度も召喚された様な口ぶりである。冬木での聖杯戦争は全て目にしてきたが、この様な英霊は一度として見た覚えはなかった。
そんな事を考えているとバーサーカーが再び何か言い始めた。
「なんだお前らは? ん、なんか頭ん中に今、情報が入ってきてるな。聖杯戦争……マスター……願い……令呪……」
頭をウンウン振りながらブツブツと呟いている。召喚された時点で知っている筈の情報を持っていない事で流石の雁夜も何かおかしいと感じ始めた。
一通り理解したのか、ブツブツ言うのを止め、雁夜達の方に再び顔を向ける。
「そういうことか! つまり、オレの力を借りたいってコトだな!」
間違ってはいないのだが、いかんせん言葉が足りていない。狂化の影響はこういった方面に出ているのであろうか。何も訊ねていないのにまた何か言い始めた。
「オレの名はギルガメッシュ! お前らにバーサーカーのクラスで召喚された者だ! で、一体どっちがオレのマスターなんだ?」
その名を聞いて、二人の顔は驚きに包まれた。人類最古の王、それがギルガメッシュである。英霊としてはこれ以上とない当たりの部類になるであろう。雁夜はこの聖杯戦争、勝ち残る事が出来そうだと期待に胸を膨らませていたが、臓硯は訝しそうにバーサーカーを見ていた。それも当然である。最古の王が日本風の格好をしているのは明らかにおかしい。名を偽っているのではないかとも思い始めた。
そんな事も知らずに雁夜はバーサーカーに自分がマスターだと名乗った。
「俺がお前のマスターだ。これから共に聖杯戦争を戦っていくパートナーでもある。よろしく頼むぞ」
そう言ってバーサーカーに握手を求める。その手を力強く握るバーサーカー。雁夜の顔が握られた痛みで歪む。力加減が分かっていない様である。
「お前がマスターか! これからよろしくな! 所で名前はなんて言うんだ? マスターって呼ぶのは肩っ苦しくて好きじゃねえぜ!」
「雁夜、間桐雁夜だ」
「カリヤか! 変わった名前だな! 所でカリヤ、オレはあまり主従関係ってのは好きじゃない。昔、色々あったからな。
そこで相談だが、オレとカリヤの関係は対等なものとしてやっていかないか? お互い命を預け合うんだ。そういった関係の方が上手くやっていけると思わないか?」
バーサーカーが言うことも一理ある。関係が
「分かった。俺はお前に命令はしない。令呪も基本、使わない。但し、お前が危なくなっても撤退しようとしない時は令呪を使わせてもらうからな、バーサーカー」
「了解した。これでオレとお前は
雁夜とバーサーカーがいい関係を築いている所に邪魔者が入ってきた。間桐臓硯である。
「無駄話は終わったか? 済んだのならさっさと行動を始めろ。既に聖杯戦争は始まっておるのじゃぞ。まあ、その様な紛い物のサーヴァントで何処まで生き残れるか見ものじゃがな」
どうやら臓硯はバーサーカーの事を偽者だと判断している様だ。バーサーカーはそんな臓硯を嫌そうな目で見ている。雁夜の関係者であるのは間違いない。だから後の事は雁夜に任せ、己はその雁夜がとった行動に従うつもりであるようだ。
当の雁夜は臓硯を睨みながらも、何も言えずその場を後にしようとしていた。そんな雁夜に助言をするバーサーカー。
「あの偏屈な爺さんに言ってやれ。『必ず聖杯を持ち帰って吠え面かかせてやる』ッてな!」
バーサーカーに励まされ、雁夜は意を決して臓硯に言葉をぶつける。
「俺が聖杯を持ち帰ってきたら、しっかりと約束を守って貰うからな、爺」
「はっ、約束は約束だ。その時はちゃんと桜の解放はしてやる。最も、聖杯を持ち帰れればの話じゃがな。約束が意味を成すよう精々足掻く事だな」
そうして雁夜とバーサーカーは地下室を後にした。
「なあカリヤ、あの変な爺さんは一体何者なんだ? 人間って感じがしなかったぞ。オレの予想じゃ、ありゃあ人間辞めてんな」
屋敷の中を移動していると、そんな事を聞いてきた。中々勘の鋭いバーサーカーである。そんなバーサーカーに軽く説明する。
「アレの名前は間桐臓硯。この家──間桐家を支配する500年生きる妖怪だ。彼奴のお陰で桜ちゃんが此処に来てしまった……」
「やはり化け物だったか。あの爺さん見てると、何故かエクスデスを思い出しちまって落ち着かなかったぜ」
雁夜の耳に聞き慣れない人物の名が聞こえた。エクスデスとは一体何者かを聞いてみると──
「ありゃあ正真正銘の化け物だ。無の力っていう洒落にならない物を手に入れたヤツさ。うぅ、この話してると思い出してきた……。オレはアイツが今でも苦手なんだ!」
どうやらバーサーカーのトラウマらしい。あまり触れないでおこう。
「そういえばあまり顔色が良くないが、体が弱かったりするのか?」
バーサーカーが雁夜の体を心配してきた。どうせすぐにわかる事なのだ。今のうちに説明する事にした。
「俺の命は長くない。お前を召喚する為に無理をしたからな。今も刻印蟲が身体を蝕んでいる。でもいいんだ……コレは償いだから……」
バーサーカーは触れない方がいい話をふってしまった、何ともいえない顔をしていた。どうやら人情味溢れる人物であるようだ。
「…………そうか…………
よし! オレの願いは決まったぜ! カリヤ、お前の身体を元通りの健康な身体に戻すことがオレの願いだ!」
その言葉に雁夜は驚いた。叶えたい願いがあるからこそ召喚されたのだ。そうやすやすと前からの願いを変えられるものではない。
「オレの最初の願いはとある男と一対一で戦う事だった……でもこれはいつか訪れるかもしれない。きっといつかな。しかし、お前の命を救う方法はオレにはこれしか思い浮かばなかった。ただそれだけだ」
「……ギルガメッシュ……」
「なに、気にするな。カリヤは一緒に戦っていく仲間だ。その
さあて、他のサーヴァントとやらにオレの力を見せつけてやらないとな!」
バーサーカーの心遣いに感謝しながら、雁夜は戦場へと向かい始めた。
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冬木市の倉庫場の奥、そこには三騎のサーヴァントが集まっていた。それぞれ、ランサー、セイバー、ライダーのクラスである。セイバーとランサーの一騎討ちにライダーが乱入したといったところである。
乱入したライダーは自分の真名を暴露するかと思いきや、セイバーとランサーに対して、軍門に下れと言う始末。サーヴァント達もマスター達も呆れていた。その中にライダーのマスターがいたのも言うまでもない事であろう。
当然、セイバーとランサーは断り、再び戦いが始まろうとした時、ライダーはこの剣戟に惹かれた者が自分だけではないと言い、叫んだ。
「おいこら! 他にもおるだろうが! 闇に紛れて覗き見している連中が!!!」
その叫びは最早怒号に近かった。
「聖杯に招かれし英霊ども、今ここに集うがいい!! なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れッ!!!」
ライダーの声が倉庫場全域に響き渡る。それと同時に二騎のサーヴァントが姿を表した。
一人は金色の鎧を纏った黄金のサーヴァント。街灯の上に立っている。
そしてもう一人は赤い鎧を纏ったいかにも武芸者といったサーヴァント。下水道に繋がっているだろうマンホールを吹き飛ばして出現した。
アサシンは既に敗北したと思われ、どちらもキャスターとは思えない。消去法で考えるとバーサーカーかアーチャーしか残らなかった。
黄金のサーヴァントは不機嫌そのもの、赤いサーヴァントはどこか嬉しそうであった。
「我を差し置「お前達に呼ばれるのを臭い下水道でずっと待っていたぞ!! もし誰も気付いてくれなかったらどうしようかと不安になっていたところだ!」……」
黄金のサーヴァントは、自分の言おうとした事を大声で搔き消した赤いサーヴァントを更に不機嫌な表情で睨んでいる。
他の者達はライダー以外全員、濃ゆいのがまた一人増えたとうんざりした顔をしていた。同じ扱いである筈のライダーは爆笑している。
「面白い奴だのう! どうだお主、余の配下にはならぬか?」
ライダーが早速配下への勧誘を始めていた。取り敢えず誰にでも声を掛けるのであろうか。そんなライダーの言葉に、赤いサーヴァントは機嫌が良さそうにしている。
「おい我の話を「オレに目を付けるたぁいい目持ってんな征服王イス……ん? なんだったか……まあいい! しかしオレ達は聖杯を持ち帰らなければならないんでな、また機会があれば誘ってくれや!」……チッ!」
またも自分の言葉を消され不機嫌を通り越して少し怒り気味の黄金。そんな彼にライダーがようやく話を振ってきた。
「先程は何かを言おうとしておったな。一体何を言おうとしておったのだ? バーサーカーだから余の言葉が通じておらぬかもしれんが、もし理解しておるのなら再び言ってみるがよい」
流石に自分がバーサーカーだと思われている事にはかなり頭に来たようである。声を大にして叫ぶ。
「ふざけるな! 我を差し置いて王を名乗っていると思えば、我がバーサーカーだと? そこにいる真っ赤な猿の方がバーサーカーだ、二度と我をバーサーカーと呼ぶな、雑種風情が」
そんな事を言っているアーチャーへ不満そうな顔をするバーサーカー。
「おいおい、流石に猿って呼ぶのはひでぇんじゃねえのか? オレにはギルガメッシュっていう素敵な名前があるんだぜ! 呼ぶんならそっちで呼んでくれよ」
バーサーカーが会話しているのにも驚いていたが、またしても真名を軽々とバラしていることに周りは呆れていた。ライダーはまたも大笑い。彼の中ではバーサーカーへの好感度はかなり上がっていた。
そんな中、黄金のアーチャーはこめかみに青筋を浮かべていた。かなりご立腹のようである。
「何度も我の言葉を遮るかと思えば……しまいには我の名前を騙るだと? ふざけるのも大概にしろ、猿が。そのような不敬を働いて生きていられると思うな」
その言葉と同時にアーチャーの周りに二つの宝具が現れる。剣の形をしたものと槍の形をしたものだ。その剣先と穂先がバーサーカーへと向けられる。
「死をもってその不敬を償うがいい」
宝具二つが凄まじい勢いでバーサーカーに迫る。
「危ねっ!?」
それを横に移動して避けるバーサーカー。放たれた宝具は地面に直撃するやや否や、爆風をと共に砂塵を舞い散らした。
「良い武器持ってんじゃねえか。 飛ばすだけって使い方は勿体ねえな、オレが
バーサーカーが地面に突き刺さっている宝具二つを手に取る。周りにはただ握っているだけの様に見えるが、アーチャーは何をされたのかが分かった。その事に更に憤る。
「我の宝物を触れるだけでは飽き足らず、
バーサーカーの手に握られていた宝具はいつの間にか姿を消していた。
怒り狂ったアーチャーの背後に一斉に大量の宝具が出現した。剣、槍、斧、矢、様々な宝具が惜しみなく晒されていく。どれもこれもが至高の宝具である。それらの標準がバーサーカーへと向けられる。
「凄いもんいっぱい持ってんな。オレのコレクションも見せてやるから勝ったら全部、オレにくれよ!」
バーサーカーの両手に剣が二つ出現した。青い色をした両刃剣と少し変わった形をした片刃剣である。
「何一つ貴様にくれてやるものか。どこまで凌ぎきれるか我に見せてみろ!」
数多の宝具がバーサーカー目掛けて放たれた。避けるのは不可能であろう。
そんな状況にも関わらず、バーサーカーは堂々としていた。己の持つ片刃剣の方を一閃させる。
『
一筋の光の線が空間を走り──
ズレた空間に存在していた数多の宝具はバーサーカーの元へ飛んでくる勢いを失い、その場で落下していく。
アーチャーが足場としていた街灯も切断されており、やむなく地に足を着けようとしていた。
「ファファファ! エクスカリバーとやらのパワーをお前達に見せてやるぜ!」
先程の宝具の威力にも皆驚いていたが、バーサーカーの発言にも驚いた。真名は明らかにアーサー王のものでは無いのに、何故その聖剣を持っているのか。その場にいるマスター達は明らかに混乱していた。その中でも一番訳が分からないといった表情をしていたのがセイバーであった。
「何故バーサーカーがその宝具を? 一体どういう事だ!?」
アーチャーが地に足を着けると同時に、すぐ側まで距離を詰めていたバーサーカーが、残った両刃剣をアーチャーの首目掛けて振るおうとしていた。
『
アーチャーの首が薙がれた。誰もがアーチャーの敗北を確信した。しかし──
「なんだその玩具は。そんなもので我を倒せると思っていたのか、猿」
首に一撃を喰らったアーチャーは無傷であった。──いや、首筋に僅かな切り傷が付いている。どうやら薄皮一枚は切れた様だ。
「ありゃ! ば、ばかな! 最強の剣じゃないのかー!!」
周りも驚いていたが、宝具の持ち主が何故か一番焦っていた。その事にアーチャーを除くサーヴァント達は呆れ顔をしている。その間にバーサーカーから距離を取るアーチャー。どうやら接近戦は避けたいようだ。ある程度距離を取り、再び宝具を出現させようとしていたが──
「貴様ごときの諫言で、王たる我の昂りを鎮めろと? 大きくでたな、時臣……」
納得はいっていないようだが、闘気を消していく。どうやらもう戦う気は無くなったようである。そして、この場から立ち去ろうとしていた。
「雑種ども、次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い……だが」
バーサーカーを睨む。しかしその顔は格下を見るものではなく、
「貴様だけは別だ、猿。貴様は特別に我が全力の力で相手をしてやろう。その時まで精々力を蓄えておけ」
そのままアーチャーはその場から姿を消す。バーサーカーはその様子をただじっと見ていた。
「ありゃ……アーチャー……おいてけぼりはなしだぜー!」
どうやらバーサーカーは話の流れを理解していなかったらしい。
アーチャーとの大勝負を終えたバーサーカーに多くの視線が集まる。バーサーカーは周りの者達から話掛けられる前に行動を起こした。
「うっ! 急用を思い出したぜ!!」
ものすごい勢いでこの場から去っていってしまった。
続編決定!!