貧乏神の遠足   作:紅野生成

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29 妖も、怪談にびびる宵の口 

 すずのいった馬鹿という言葉は、明らかに高志に向けられていた。 

 だが当の高志には何の覚えもない。助けを求めるようにバッテンに目をやった。。

 腕を組みながら窓の外を見ているバッテンは、新参の客に背を向けたまま高志を横目でみて眉根を寄せる。

 

「川の水で、口をすすぐのを忘れたね?」

 

 バッテンの言葉にはっとして、口を開きかけて慌てて結ぶ。

 申し訳なさげに高志がうなずくと、バッテンは少し項垂れて息を吐いた。

 

「川の水を混ぜた泥で体の臭いは消せても、口をすすがなければ吐く息に籠もる人の臭いは消えないのだよ。妖は鼻が利く。漂うのが人の臭いなら尚のこと、ねぇ」

 

 すぐそこに溢れんばかりの川の水がみえるというのに、今更どうにもならない。

 高志は窓の縁に腕をかけ、顔を突き出して少しでも息が室内に入らないようにした。

 

「外に吐けば、さっきの一行に嗅ぎつけられるから、あまり意味はないと思うよ。前方に大蛇の口、後方には獅子の牙といったところかねぇ」

 

 どうしていいかわからなくなった高志は眉間に皺を寄せて口を尖らせて、細くゆっくり息を吐いてみた。

 

「だからね、そんなことをしても意味はないよ。目をまわして倒れられたらかえって面倒だからやめておくれよ」

 

 声を潜めるバッテンの口元は微笑んでいるが、伏せられた睫の奥で後方に向けられる視線は、背後にいて見えないすずと新参の客へと、意識が向いていることを物語っていた。

 

「兄さんは、人の子の肉を好むのか?」

 

 のんびりとした、すずの声が部屋に流れる。

 

「まさか! 考えただけでも怖気立つわい。人の子とは恐ろしいものぞ。理解できぬことはこの世から全て追い遣る。おれの棲みついていた荒れ寺にさえ、どこから聞きつけたのか、妙ちくりんな奴が来てな。一夜の内に札を貼りまくり、わしは長年の住み処を奪われたのだぞ。あぁ、憎や、面憎い」

 

「それは気の毒になぁ」

 

 さも同情した風に語尾を伸ばすすずの声には、たいがい何の感情も含まれていない。

 二人の会話に耳を澄ましながら、細々と息をつないでいた高志は、板張りの床を震わすほど低く野太い、面憎い、という一言に反応してさりげなく、隠れるようにバッテンの腕に寄り添った。

 

「暑苦しいから、無駄なことはやめなさいよ?」

 

 離れようとするバッテンの袖をがしりと掴むと、逃げようとした腕から力が抜け、高志に絡まれるままとなった。

 

「これが色香ただよう女性なら、喜んで腕もかすさ。でもね、死ぬか生きるか首の皮一枚の坊に添われても嬉しかないよ」

 

 言い返したくても口を利くことを禁じられている高志は、目だけでバッテンに抗議した。

 

「それにしても臭いぞ。誰か人の子から剥いだ着物でも羽織っているのか?」

 

 客の男の声に、もぞもぞと動いていた高志の動きがぴたりと止まる。

 

「そのことなんだが、兄さんには謝らなけりゃねぇ」

 

「なんぞ?」

 

 くすくすと、すずの笑いがする。

 

「実はわしの連れが、ここへ来るちょいと前に人の子と出くわしての。揉めたついでに、人の子の腕をガブリと噛んだ」

 

「人の子の腕を噛んだのか?」

 

「人の子に我らの姿など見えぬのだから、放っておけば良かったものを。血はさほどでなかったが、歯形はがっつり残っておるだろうな」

 

「なんと剛気な」

 

「剛気ではない。アホなのじゃ。みての通り、人の子の僅かな血に当てられて、口をきくのも辛い状態じゃ」

 

 おおっ、と男の声が響き、どたどたと板張りの床をぶち抜かんばかりの音をたて駆け寄ってくる気配がした。

 

「人に齧り付くなど、狂気の沙汰ぞ」

 

 ぬっと覗き込んできた巨大な顔に、高志は今度こそひっ、と声を上げた。

 

「確かに吐く息が臭いぞ。人臭い。その泥は、人の血の毒気を抜く呪いか?」

 

 さざれ波模様が入った海老茶色の甚平の袖で鼻を覆いながら、男が目をしばたたかせる。

 高志は口を閉じたまま、何度もうなずいてみせた。

 

「もうすぐここへ着く連中なら話をきかせたら納得するだろうが、今宵はそれだけでは済まぬぞ」

 

 顔の半分も占めている、ぎょろりと丸い男の目は二つの眼球がくるくると別の方へまわり、けっして同じ方をみることがないらしい。

 見慣れていない高志には、けして気分の良いものとはいえなかった。

 

「兄さん、名は何という? わしはすずじゃ。アホウの名は坊で、ひょろっこいのはバッテンというものじゃよ」

 

「おれは、ぐるり目の籠目ぞ」

 

 よほど高志が物珍しいのか、忙しく目玉を回している。

 甚平の裾からでた二本の臑は、渦巻いた癖毛の黒毛にびっしりと覆われていた。

 目を合わせるのが恐ろしくて、ぐるぐるの臑毛をじっとみていた高志は、外がやたらと騒がしくなったのにつられて窓の外に目をやった。

 

 高志達を出迎えたときとは大違いで、店の者が総出で迎えの準備を進めている。

 入り口の両脇に、ずらりと並ぶ者達の手に持たれた提灯に、鮮やかな朱色の丸に塵の字が浮かぶ。

 

「なあ、泥まみれの坊よ。気休めでもこれを飲んでみろ。あれだけの人数が押し寄せて、この人臭さでは騒ぎになるぞ。いちいち説明するのも面倒くさかろ?」

 

 ぐるり目の籠目が懐から取り出したのは、見たことのない黄色い葉を丸めたものだった。

 

「屁垂れ花の葉でな、噛むと苦いがその臭いがまたすごい。人の臭いなど覆い隠してくれるぞ?」

 

 屁垂れ花という名だけで、すでに口に入れたくない。

 ほれ、というように肉厚で大きな手に葉を乗せ差し出す、ぐるり目の籠目とすずを高志は交互にみた。

 

「食っておけ」

 

 素っ気なく短いすずの言葉には『食わねば死ぬぞ?』という一言が、声を出さずに口先だけで付け加えられる。

 軽く頭を下げて葉を受け取ると、バッテンがすーっと高志の横から身を離した。

 心なし、すずも数歩後退ったように見える。

 不安な高志の心を掻き混ぜるように、大きな目玉が目の前でぐるぐると回る。

 

「良く噛むんだぞ。飲み込まずに、ほとんどなくなるまで噛め」

 

 こくこくと頷いて、高志は口の中に葉を放り込む。

 

「おえぇ!」

 

 高志が呻いたのと、薄情な連れの二人が飛び退いて、距離を開けたのは同時。

 

「我慢するんだぞ! ほれ噛め!」

 

 反射的に歯の隙間から飛び出た葉を、ぐるり目の籠目が突きだした太い指に押し戻される。

 苦い臭いで表現できるような代物ではなかった。

 肥溜めに浸かって、ニンニクとニラを含んだ息を吐きかけられても、ここまでは苦しくないだろう。

 

「うえぇっ!」

 

 吐き出しかけては太い指がそれを押し戻し、高志の絶叫が部屋の襖をびりびりと振動させた。

 

「もう飲み込んでもいいぞ」

 

 飲み込もうとしても、喉が完全に拒絶している。

 涙目で目を白黒させる高志の背を、小さな足が蹴り飛ばした。

 

 ごくり。

 

「往生際の悪い奴じゃ」

 

 蹴り飛ばされて板張りの床に転がった高志を見下ろすのは、着物の袖で口と鼻を完全に覆ったすずとバッテンだった。

 

「もう大丈夫だぞ。酒でも頼むか」

 

「よいな、酒か!」

 

 いつの間にやら意気投合したぐるりの籠目とすずは、連れだって酒を頼みに部屋をでていった。

 

「臭くて目眩がしそうだよ」

 

 顔を顰めてバッテンが、顔の前でひらひらと手を振った。

 

「飲み込んだぼくの身にもなってよ。人としての尊厳なんて、鼻くそ並みに縮んだね。これは薬? 毒薬? 日常で嗅いだら気絶する自信がある」

 

「だがね、人臭さは消えたよ。それと知っていれば微かに臭うが、顔でも付き合わせない限りまずわからないさ」

 

「ところで、普通に川辺の岩でうたた寝をしていただけなのに、こんな妙な世界に入り込んでしまったのはなぜかな?」

 

 高志の問いに、バッテンは困ったように首を傾げた。

 

「おまえにわかるように説明できるかどうか。おまえはね、辻にいたのだよ。二つの道が重なる辻にね。普段なら何ということはない場所だが、今宵は道が動くから」

 

 一定の場所にあってこその道ではないのかと、高志は腕を組む。

 

「あの場所に道はなかっただろ?」

 

 だから説明は難しいといったのだ、とバッテンは苦笑する。

 

「いいかい? あの川と、今目の前にある川は同じものだ。ただ、見ている角度が違うだけのこと。辻で道を乗り換えてしまったおまえには、この川が見えている、ただそれだけのことなのだよ」

 

 さっぱりわからない、というように唇を突き出すと、馬鹿だな、といってバッテンは高志の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「やめろよ、泥が落ちるだろ? 子供じゃあるまいし」

 

「いつまで経っても子供だよ。 わたしの中で、坊は小さな子供のままさ」

 

 それにね、とバッテンは川面を眺めながる。

 

「正直いって危なかったのだよ。あの男に感謝した方がいい。この旅籠屋に集まる客は誤魔化せても、今宵の夜行は欺けなかっただろうよ。まあ、今も安心とはいい難いが、人だとばれなければ、この旅籠屋の客に手を出す馬鹿はいないからねぇ」

 

 夜行とは何のことか聞こうと立ち上がると、階段から賑やかな声が上ってきた。

 

「楽しみぞ。夜行を見ながらの酒は最高ぞ」

 

 旅籠の隅々まで響きそうな大声。

 

「酒があれば、いつでも楽しいがな」

 

 酒という言葉が似つかわしくない童女の声。

 

 ぐるり目の籠目とすずのでこぼこコンビが、酒を担いで帰ってきた。

 

「おお、いい具合に臭いわ。宿の客が押し寄せる前に飲み込めてよかったぞな」

 

「いっている先から、お客が押し寄せてきたようだよ」

 

 窓の外を眺めるバッテンの横へいき、窓から身を乗り出して騒がしい外を見ると、人の居ない川面に向けて提灯を持ち立ち並ぶ店の者達が、深く頭を垂れていた。

 

「あれは何?」

 

 川上から水の流れに乗るように向かってくるのは、揺れる蝋燭の灯りほど小さな光。

 それが無数に川底を漂い、微妙に違う色を放ちながら、ゆっくりと旅籠屋の門前まで流れ着く。

 

「いらっしゃいませ」

 

 恭しい声の響きに、川面の所々で水しぶきが上がる。

 

「バッテンの目には今何が見えている? ぼくにはとても奇妙な光景がはっきりと見えているのだけれど。これが、あの苦い葉っぱのせいじゃないことを祈るよ」

 

「そう悲観的になるものではないよ。大丈夫さ、わたしの目にもちゃんと見えているよ」

 

 水の底を漂う灯りは、上がった水しぶきに出口を見つけたかのように浮かび上がる。

 そして徐々に大きくなる水しぶきから、せり上がるように現れたのは人の頭だった。それは肩から背へとだんだんに姿を現し、つま先まで水面にでると当たり前のように、頭を垂れた店の者達の間を歩いて、旅籠屋へと入っていく。

 

「あんなに大勢いる中で、しゃべっても大丈夫かな?」

 

「多分な」

 

 いいかげんなすずの返事に舌を出し、高志は表の光景にすぐに視線を戻す。

 人の形をした者がほとんどだが、異様に小さい者や、手足が人のそれとは違う者も多かった。

 後からあとから水面はしぶきを上げ、見慣れぬ者たちがぞくぞくと姿を現していく。

 ちぐはぐなまでに色とりどりの着物や衣服を纏う姿は、闇夜の中で提灯の灯りにぼんやりと照らし出され、幻想的ですらあった。

 

「なんだろう、絵で見たことのあるチンドン屋を思い出した」

 

「彼らの前でそれをいったら、命の保証はしないよ? 一世一代の行楽だから、めいっぱいのお洒落をしているのだよ、あれでも」

 

 客を案内する声が飛び交い、廊下が一気に騒がしくなる。

 高志のいる相部屋にも、小さな男が三人入ってきた。

 いや、正確には小さな鬼が、というべきか。

 

 すずとぐるり目の籠目が、座り込んで互いの酒を注ぎ始めると、三人の小さな鬼は、そわそわした様子でちらちらと視線を送っている。

 小さいといってもその容貌は鬼。全身は浅黒く、つるりと丸められた頭からは四本の短い角が生えている。

 

「バッテン、小さくても顔が怖いね。顔の中央に向けて皺が寄っているだろ? そこから斜めにでかい目がつり上がっているから、ただただ恐ろしいよ」

 

「泥を塗りたくって顔面がひび割れている坊の方が、わたしは余程に恐ろしいと思うけれどねぇ」

 

 息を吸って吐くたびに、耐え難い臭いが鼻から抜けて胸がむかつく高志だったが、鬼達はいっこうに気にした風でもない。

 というよりすずの手元にある酒に心奪われて、臭いどころではないのかもしれないと高志は思った。

 見た目は恐ろしくても、間仕切られた屏風の向こうにいてくれるなら何の問題もないだろう。

 

「ちらちら見ていても、酒は呑めんぞ」

 

 正面切ってすずにいわれた鬼はよほどに驚いたのか、硬く尖った黒い爪の先まで、ピンと伸ばして固まった。

 

「安酒でよければ吞むか? このぐるり目の籠目がおごるぞ?」

 

 きょろきょろと互いを見合った鬼達は、緊張した面持ちで近寄り、酒の横に腰を下ろした。

 呼び寄せた二人を睨み付けたが、高志のことなど眼中にないらしい。

 

「吞むか?」

 

 すずが酒の入った湯吞みを渡すと、鬼達は一口でそれを吞み干した。

 

「上手い」

「うめぇ」

「美味である」

 

 口々にいって湯呑みを差し出して、二杯目をねだった。 

 

「いい吞みっぷりじゃ。おまえ達も吞め。さっさと来んか」

 

 やっと存在を思い出したのか、すずが高志とバッテンに声をかけ手招きした。

 いつの間にか部屋のあちらこちらで、客達が輪となって酒を吞みはじめていた。

 

「知らないうちにずいぶんと、相部屋の人数が増えているね」

 

「黒い霞となって窓から入ってきていたよ。わたしは気付いていたけれどねぇ」

 

 そんな気味の悪い話なら聞かなければ良かったと、高志はずずずっと音をたてて酒を吞んだ。

 

 酒を呑み続ける内に、酔いが回った鬼達の口も滑らかになってきた。

 

「何か面白い話でもないのか?」

「わっと驚くような話がいい」

「人の子がこのような酒の席でする、怪談というものはいかがかな」

 

 酔って黒くなった顔で、鬼達がいった。

 

 怪談をする場所が間違っていると思ったが、高志は黙って自分の酒に口を付ける。

 

「坊よ、以前にいっておったよなあ? 人の子が怪談話をしていた話をきいたと」

 

 すずの言葉に、高志は無言で目を剥いた。

 そんなことをいった覚えなどない。

 坊などと呼んだこともないくせに。だが、そんなことをいえば、すずに足蹴にされそうだった。

 

「聞かせろ、きっと楽しい。怪談とは怖ろしいものと聞いたぞ」

 

 酔って首まで赤くなった、ぐるりい目の籠目がいう。

 

「よし怪談話じゃ。アホウの話術で、どこまで酒の席が盛り上がるかのう?」

 

 高志がうんともすんとも言わないうちに、中央で灯していた行灯の灯が吹き消され、屏風で間仕切られたこちら側は、ずんと薄暗くなった。

 周りは騒がしいというのに、薄暗くなったここだけは川のせせらぎがやけに響いて、薄気味悪さを醸し出している。

 あんたら全員が生きる怪談話だろと、心の中で愚痴りながらも高志はぽつりぽつりと話しはじめた。

 

「月もない真夜中に、庭の厠に用をたしに行った男のはなしだ」

 

 怪談より怖ろしい面構えが、じっと高志に見入っている。

 怪談など大して知らない高志は、小学の時に友人からびびらされた話を、少しだけ昔風に変えて話をすることにした。短くてちょうどいい。

 

「厠でしゃがんでいると、どうにも尻にぬめぬめとした感触が走る。それはやがて男の背にまで伸びてきた。何ごとかと用も中途に腰を上げた男が見た先には、細く白い女の手がぬらりぬらりと飛び出ていた」

 

 こんな子供だましの話に、鬼だけでなくすずまでが真剣に耳を傾けている。

 

「その細い手がしゅるしゅると引っ込んだかと思うと、しんとした次の瞬間、黒髪をばさりと垂らした女の顔が……ドッカーン!」

 

 きえぇぇぇぇー! と重なり合った悲鳴が部屋に響きわたる。

 何事かと顔を覗かせる他の客の目をよそに、三人の鬼が走り回っていた。

 

「人とは何と怖ろしいことを!」

「人の子は、やはり恐ろしいぞ!」

「このような怖ろしい話、聞いたことがない」

 

 好き勝手に叫びながら走る鬼が、本気で怖がっているのだとわかると高志はなんだか可笑しくなった。

 黒く尖った爪をびんと伸ばして走る鬼達は、恐ろしい顔の目に涙をためている。

 

「ははは、恐がりすぎだよ」

 

 そういって横を見ると、すずが驚いて手を上げたまま固まり、バッテンにいたってはすずの横で耳を押さえて丸まっていた。

 

「おまえらまで止めろよ。嬉しいのを通り過ぎて、恥ずかしくなる」

 

 人と妖怪では、恐ろしいと思うポイントがずれているのだろうか。

 

「あんたらの方が余程おっかないよ。ねぇ、ぐるり目の籠目……えっ?」

 

 顔の半分を占める大きな目玉を白く向いて、ぐるり目の籠目が座ったまま気を失っていた。

 

「なんだろう、猛烈な後悔しか残らないや」

 

 呆れて高志は足を投げ出し、一人酒を注いでごくりと吞んだ。

 二杯目の酒を注いでも、まだ走り回る涙目の鬼と、気絶したり固まったまま動かない残りの三人に舌打ちする。

 

「妖が、幼稚な怪談話にびびるなっての」

 

 痺れを切らした高志は少しむくれて立ち上がると、気付け代わりに転がっている座布団で、全員の頭を打って回った。

 座布団でぶち飛ばされて、ようやっとみんながもぞもぞと動きだした、その時だった。

 

 ダーン

 

 突然鳴り響いた銅鑼の音に、高志はびくりと肩を跳ねあげた。

 窓から生ぬるい風が流れ込み、それは高志でも気付くほどの臭気を帯びている。

 騒がしかった相部屋は静まりかえり、風に吹き消されたように部屋の灯りは全て消えた。

 

 ダーン

 

 まだ暗がりになれない目をこすりながら、高志は二度目の銅鑼の音を聞いた。

 

 

 




今日も読んで下さって,ありがとうございました。
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