個性がイかれてるからおかしいのかイかれてるからおかしな個性なのか。
どっちにしろ大して変わらない転生した女がデク君をストーキングするハナシを勢いで書きたかったけど想像よりアレで無理だったのでさわりだけ。


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その個性、ヴィラン行き

 朧げではあるが死に方はそれはもう凄惨だったと記憶している。

 身代金目的の誘拐が発生した程度には家が金持ちで、しかし吹っかけられた大金を払えない家でもあった。きっとお優しい両親のことだから、わたし数人分の金を既に慈善団体に寄付していたのであろう。最後の電話越しに聞こえた両親の泣き疲れて枯れた声は忘れられない。持っている全てを売り払ってわたしを救おうとしたらしい。馬鹿だ。慎ましやかに生活していたのだから何を売っても十分な金にはなるまい。巨額の借金もすぐには出来ず、警察の調べも間に合わず。約束の時間に誰も来なかったと犯人は怒り、わたしでその鬱憤を晴らした。

 それから先は断片的にしか覚えていない。痛いし、苦しいし、救いのない暴力にわたしは耐えられなかった。一瞬か長時間かも分からないが、これでも頑張ったのだ。まあ、死人の話などどうでもいいと思うのでここらで切り上げよう。

 

 さて本題である。とうの昔に死んだはずなのに、生きている。それがわたしだ。もしや心残りから幽霊になったのではと自分を疑ったが、わたしは幽霊と違い生みの親がいた。

 

「わたし」が「わたし」でなく、別の人間として生きているものの記憶を保持していたと理解するのは生まれてから七年経ってからだった。ここで「わたし」は「わたし」との違い、世界そのものが違うということに気がついたのだが──そこらへんも詳しく説明することにしよう。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 ここではわたしは橋詩(きょうし)紫亜(しあ)と名付けられた。両親は打って変わって極貧生活らしく、生活のため犯罪に平気で手を染めるような人種だった。万引きされた衣服を着て、他人から掠め取った金で食べていた。両親は当然のようにわたしにも同じことをするように求めた。わたしを育てたのは誰かの不幸だ。そして幼いながらに生きるために沢山の不幸をばら撒いた。この頃は前の「わたし」は心の奥に寝ていたままだった。

 

 この世界では個性を好き勝手に使う悪い人間をヴィランと呼び、ヒーローという人間が正義の鉄槌を下す。

 個性(超能力)が日常にあるという物騒な世界だ。

 

 両親にも個性はあったが、強力なものでもない。母は静電気くらいの電気の発生と操作という小悪党にふさわしい個性で、よく機械系統を狂わせて万引きしていた。父は他人のものすごく強く思ってることをほんの少し分かる、賭博にしか使わない個性だ。両親と暮らしていた頃わたしはまだ個性が発現していなかった。

 

 

 

 わたしが小学生になった年から両親の仲がこじれだした。両親がヒーローに一度捕まり、なんとか刑務所行きは逃れたものの目をつけられて生活がますます困窮したのが始まりだった。両親は喧嘩が増えて、毎日のように物が空を飛んた。怒鳴り声でわたしは耳にたこができた。父は酒に溺れて暴力を振るった。酒がなくなるとどこかの賭博へ行き、その間母はわたしを押入れに隠して金を貢いでいる男を連れ込んだ。たまに母が貢がれる側もあった。

 

 

 わたしは両親と一緒に居たくなかったので寄り道ばかりして、もちろん小さな盗みもした。これは体に染み付いた習性だ。近所に住む野良猫によく盗んだ餌をやった。しなやかな体の黒猫がわたしによく懐いてくれた。心を許せるのは彼女だけ。わたしの家族は彼女だけだと本気で思っていた。

 

 わたしに訪れたわずかな異変はこの頃からだ。ある日黒猫がこつぜんと姿を消し、わたしは子供の行けるところをくまなく捜索した。三日目に、空き地の隅で横たわる彼女を見つけて思わず駆け寄った。死んでしまったのではと恐る恐る覗き込み、彼女の体をそっと撫でると彼女はニャアと鳴いた。わたしは今にも泣きそうな顔で彼女を抱きしめると、わたしの頭に浮かんできたものがあった。「窮屈だから離して」という思いだ。驚いて彼女を見ると、彼女はまたニャアと鳴き、わたしの頭に「撫でて」という感情が浮かんだ。彼女の思っていることがわたしに伝わっているのだと思った。これがわたしの個性だと素直に喜んだ。だが両親には一切言わなかった。

 

 彼女と意思疎通するのは容易かったが、一方で彼女以外では個性が発揮されなかった。だがそれをわたしは不満には思わなかった。仲がいい動物と心が通じあえる個性だと得意に思っていた。

 

 

 

 

 そして大きな異変が訪れた。

 それは真夜中だった。何かは分からなかったが、布団の衝撃と大きな音でわたしは目覚めた。両親の断末魔だと理解したのはしばらくの時間が必要だった。

 二つの死体を跨いで男が来た。普通なら恐怖に震える場面だ。だが、わたしは既知感を覚えた。懐かしい。

 

 すると男がこう言った。怖くないのかと。わたしは自然と言った。ほとんど無意識だ。今思えば、閉ざされた過去の扉が開こうとしていたんだろう。死ぬのは怖くないから大丈夫。でも痛いのは苦手かな。あなたは上手に殺してくれる? と。

 死の淵でわたしの奥の更に奥底から帰ってきてくれていた。これが別のわたしだと心が叫んで喜ぶ。嬉しくて嬉しくて──それでどっかがぶっ飛んだみたい。湧き上がる何かに身をまかせると、たまらなく満たされた。男はもうわたしを殺そうとはしていなかった。

 

 わたしはもうホントを捕まえた。もう自分を知ったのだ。長い間半分制限して生きてきたんだ。アホらしい。

 

 カラクリ人形を動かすみたいに指を踊らせると死んでいた両親の体が動きだした。わたしが口をパクパクと開けると、腹話術みたいに両親が喋り出す。血を口から垂らしながら、むすめにひどいことしないでと音を出した。

 

 それを聞いた男は今世紀で一番面白いものをを見たかのように大笑いした。

 

 

「ははははッ、げほっゲホっ! ひひっ! こいつはスゲェ! ゴミ掃除にきたつもりが宝石掘りあてちまうとは!」

 

 

 

 両親を殺されたいたいけな少女であるわたしは死体を動かすことを強要された。真夜中だというのに散在実験をした。後に男が、わたしの個性を死体とその残った脳機能の操作だと言った。

 

 父は頭を撃ち抜かれていたのでわたしが全てを動かす必要があったし、黒猫の彼女のように感情が頭に浮かぶことはなかった。母は胸を撃ち抜かれていたのでわたしが動かさなくても命令すれば動いてくれたし、わたしへの怨みがこもった言葉が届いた。さわがしいので感情の部分は動かさないようにした。

 

 つまり黒猫はあの日死んでいて、わたしが生きてるように動いてと無意識に命令していたのだ。考える部分も動かしっぱなしにしていたのだろう。

 

 わたしの個性が明らかになればなるほど男は笑みを深くした。

 そしてわたしはこの男に連れられて、順当に進むべきヴィランの道を歩み出した。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 猫が()()()()なってきた。匂いで察していたのだろう。彼女も今のままを望まず、安らかに眠りたいらしい。ある晴れた日に、わたしは個性の発動をやめた。唯一の家族を失った悲しみは覚悟の上だったにもかかわらず相当深かった。わたしの個性が暴走したそうだが、ここら辺の記憶はいまだに曖昧だ。ほどなくして付近の病院の霊安室から死体が逃げ出したというニュースが報道された。

 

 覚えている次の記憶は、男がわたしをぶん殴ったとき。もっとやれたのか、サボりやがって、とこぼしていた。ぶん殴ると言っても大した威力じゃない。訓練の一環としていちいち構ってくるが、わたしの両親がやったのはもっと痛かったし、前のわたしが受けた拳はもっと裂けるように身体中に響いた。そういうのも含めて上手いのだろう。きっと。でもわたしの個性じゃ使わないと思うんだけど。その言葉に男は、お前が使わずともお前の使う人形は使うんだよとのこと。なるほど。わたしの個性で動かした個性持ちは、生前のままにその個性を使える。脳が使えない場合、わたしが動かすのだから、肉体的な個性はわたしが動かしかたを知ってないと使えないわけだ。

 

 

 

 正気に戻った後わたしは、猫に似せたぬいぐるみを作った。幼児がお気に入りの人形を持ち歩くみたいにどこでも一緒に連れて行く。まるでバカみたいだけど、別に無愛想なヴィランが笑うわけじゃないし、好きにした。わたしの周りのヴィラン達は、仕事を通じてわたしの個性を知っているからか、全然ヴィランっぽく絡んでこない。それらしいのはわたしに構う男と、一度だけ会ったギランとかいう人。なんかその人の紹介で仕事が変わるんだって。どうでもいいけど。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 あれから数年経ち、「わたし」と「わたし」が安定してきた。記憶の整理もついてきて、ある夢が出来た。

 

 わたしはもう一人のわたしの記憶から、わたしがいる世界をある漫画の世界だとあたりをつけた。紙越しに覗くその世界はキラキラと夢が溢れていたのに、わたしが今見る世界はもう一人のわたしと変わらない残酷な世界だ。

 

 でも漫画のおーるまいとって、そういえばいた。両親を捕まえたヒーローだから確かだ。じゃあ主人公である彼もここに、この残酷な世界にいるんだろうか。もし実在したらと思うだけでわたしはときめきが止まらない。彼はこの残酷な世界の紛れも無い救世主だ。だって主人公だよ? 彼が全ての中心で、彼無しではこの世界は意味がない。彼こそがこの世界の全て。

 

 

 彼に会いたい。別に真人間になりたい訳じゃないけど、世界に救いはあるという確かな証を得たかった。少年が夢を膨らませるステキな世界に、わたしはいるんだ。そう感じたい。

 

 

 だからわたしは言ったのだ。

 

「ねえ、雄英高校に潜入捜査ってどう?」

 

 緑谷出久、緑谷出久。わたしの頭にはそれしかなかった。


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