南端泊地物語―草創の軌跡―   作:夕月 日暮

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エピローグ
エピローグ「二〇一四年・秋」


 二〇一四年、夏。

 大本営は北太平洋の制海権を確保するため大兵力をAL/MI方面に向かわせた。

 同地で深海棲艦の大軍を打ち破り、目的だった制海権の確保を達成したが――その隙を突かれて、各地の拠点が襲撃された。

 襲撃されたのは、艦娘が所属している鎮守府や泊地・基地ばかりだったという。

 この襲撃により提督やスタッフ、民間人にまで犠牲が出ることになり、AL/MI作戦についての批判が強くなった。

 結果、AL/MI作戦を推し進めた水元幕僚長は、責任を取る形で退任することになる。

 その影響で、海上自衛隊を中心とした対深海棲艦機構は再編されることになった。

 

 

 

 二〇一四年、秋。

 

「どうにもきな臭い話だね」

 

 都内の一角にある喫茶店で、毛利仁兵衛は鋭い眼光をテレビに向けていた。

 先のAL/MI作戦の是非を問う、という番組をやっている。そこでは様々な立場の人間が激論を交わしていた。

 

「……MI島、近々放棄するんだって聞いたぞ」

「事実だ」

 

 仁兵衛の正面に座る剛臣が、険しい顔で頷いた。

 

「組織再編に伴いMI島の必要性を改めて検討した結果、維持するコストの大きさの割に得られるものが少ないということで、来月には正式に撤退することになっている」

「そんなの、子供でも分かりそうなことだろう。水元のオッサンは個人的に好きなタイプではなかったが、そんなことが分からないような無能ではなかった。だいたい作戦に参加した僕らもMI島への出入りは禁止されていた。……腑に落ちない点が多過ぎる」

「毛利。お前は俺から何かを聞き出したいんだろうが――正直言って、俺も立場はお前と同じだ」

 

 仁兵衛の鋭い視線を受けて、剛臣は率直に実情を切り出した。

 

「おそらく他の海自出身の提督も同じだよ。大本営は用心深い。教える必要がないと判断したことは、俺たちにだって全然教えてくれないんだ」

「……なら、ショートランドの康奈の本当の境遇についても知らないのか?」

「以前お富士さんに引き合わせたとき、彼女が何かをされた子だということは聞かされた。だがそれ以上のことは知らない。……その口振りだと、大本営が関わっているのか」

「僕や新八郎は、その可能性が高いと見ていた」

 

 剛臣の様子から、本当に何も知らなさそうだと判断したのか、仁兵衛は肩の力を少し抜いた。

 

「……ショートランド泊地は、これからどうしていくのだろうな」

 

 新八郎の名前が出たことで、剛臣の思考はショートランドのことへと移ったらしい。

 

「どうしていくもないだろう。後任は決まったんだし、大本営もそこは認めた。艦娘たちも健在なんだし――今まで通りやっていくだけだろうさ」

「……冷たい物言いに聞こえるな。毛利は新八郎と特に親しくしていたではないか。心配ではないのか」

 

 非難めいた剛臣に、仁兵衛は「分かってないな」と頭を振る。

 

「よく知ってるから分かるんだよ。あそこの艦娘はそんなにヤワじゃない。生きているなら――今まで通り進んでいくさ。少しずつ成長しながらな。……心配なのはどちらかというと後任の方だが、そっちもどうにかするだろう」

 

 彼は最後まで指揮官ではなかったが、得難き指導者だった。

 あの泊地には――そんな彼が育てた子たちがいるのだから。

 

 

 

 静かに扉が開かれると、中から正装になった康奈が姿を見せた。

 彼女は若干戸惑いながら「変じゃないかな」と尋ねてくる。

 

「大丈夫よ、提督」

 

 とてもよく似合っている。変なところなどなかった。

 

「もっと堂々としなさいな。今日は正式に提督としての着任の挨拶をするんだから」

「叢雲。私に、務まるかな」

「それは分からないわね」

 

 少し意地悪を言うと、康奈は「むう……」と困ったような顔になった。

 

「あんたが大丈夫かどうかはこれからのあんた次第よ。けど、一つだけ言える。……あんたが提督として歩み続けるなら、私たちはあんたの支えになるわ。ね、皆」

 

 その場にいた皆に確認を取る。

 大淀、古鷹、長門、瑞鳳、加賀――康奈の門出に駆け付けた皆は、迷いなく頷いた。

 外で待っている他の皆も、きっと同じように頷いてくれると思う。

 

「……ありがとう」

 

 康奈は頭を下げて、感謝の言葉を口にした。

 次に顔を上げたとき、彼女の表情から不安は消えていた。

 

「行こう。皆を待たせたら悪い」

 

 先頭に立って歩き出す康奈の後に、皆がそれぞれ続く。

 この泊地は、まだ歩みを止めていない。

 私たちはまだ生きている。生きているなら、今日より良い明日を迎えられるよう、新しい一歩ずつ進んでいくだけだった。

 

 

 

 建て直された司令部棟の入り口に掲げられた二十一カ条を見上げる。彼が、私たちに宛てて残したメッセージだ。

 その末尾には、こう記されていた。

 

 

 

 第二十一条:

 言葉に意味を与えられる者になりなさい。他人の言葉を口にしているだけでは、その言葉に意味はありません。

 己が行動に誇りを持てる者になりなさい。胸を張って生きられれば、きっといろいろなことに気づけるでしょう。

 誰かを救い誰かに救われる者になりなさい。共に助け合い、笑い合える人を作れば、その分だけ貴方の人生は彩られるでしょう。

 そうして、一歩ずつ進んでいきなさい。今日の自分より良い自分が、明日待っています。迎えに行ってあげてください。

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