南端泊地物語―草創の軌跡―   作:夕月 日暮

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あとがき
あとがき


●はじめに

 拙作「南端泊地物語」を最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。

 そうでない方はご注意ください。このあとがきには「南端泊地物語」の本編に関する内容が含まれております。

 

●「南端泊地物語」で何を描きたかったのか

 本作のコンセプトは、思い描いていた自分の泊地のルーツを描くことにありました。

 艦隊これくしょんというゲームは設定が希薄で、プレイヤーによって想像する余地が多分にある作品だと思います。

 私自身、数年間ゲームを続けていく中で、自身の泊地についていろいろと想像が膨らむようになりました。それを形にしようと最初に手を付けたのが「S泊地の日常風景」という短編連作のシリーズです。

 思い描いていた設定を背景に置きながら何気ない日常を描く、というのが「S泊地の日常風景」のコンセプトでした。

 この日常ものを書き連ねていくうちに泊地の設定が徐々に固まっていくようになり、一度泊地の始まりを書いておきたいという欲求が出てきました。「南端泊地物語」を書き始めた理由はそのようなものになります。

 

●伊勢新八郎という主人公について

 あまり主人公らしくない主人公です。こういうタイプは書いたことがなかったので、個人的には苦戦させられました。

 艦隊これくしょんという題材を扱うなら、前面に出すのはやはり艦娘が良い。しかし泊地全体のことを描くなら提督の存在も欠かすことはできない――そういった理由から「前面に出ない主人公」という位置づけになりました。

 序盤は前に出ることもそれなりにありましたが、アイアンボトムサウンド以降は裏方に回って艦娘たちを支えるポジションに落ち着きました。全体を通しての主人公ではありますが、ヒーローではなくメンターに近い立ち位置になります。

 

 うちの泊地は不定期(だいたい大規模イベントごと)に提督が交代していく――というイメージがあったので、2014夏で彼が泊地を去ることは最初から決めていました。一人の主人公で長く続けるとどこかでマンネリ化しそうだという不安もありましたし、一年間を約二十四話で書くなら話数としてもちょうどいいだろうと思ったのです。実際書き終えてみて、ここで区切っておいて良かったと感じています。

 

 彼のキャラクターについては、「S泊地の日常風景」での泊地の様子を前提に考えていきました。うちの泊地の艦娘は自主的に考えて動く傾向が強いので、彼女たちの上に立つ提督は「俺についてこい」というタイプより「皆で考えよう」というタイプにした方がしっくりくる。自分で率先して指揮を執るタイプでないなら「指揮を執れない」とした方が良いのではないか――という具合です。

 艦娘たちからは比較的好意的に見られており、作中では善性がよく表れていますが、非人道的かもしれない人体実験を必要悪と割り切って許容するような一面もあり、純粋な善人というわけではありません。基本的には相手の意見・考えを否定せず、自分はこうで相手はこう、妥協点はどこにあるか、というのを模索し続けるような人物像にしています。

 およそ現代っぽくない名前ですが、これは早雲庵宗瑞こと伊勢新九郎から名前を拝借しているためです。これは早雲好きの私が艦これを始めるときにつけた提督名で、それをそのまま作品でも使っている形になります。

 なお、新八郎以外の登場人物の名前も元ネタはありますが、いずれも名前を拝借しているだけで、人物像等まで元ネタに寄せているというケースはほぼありません。

 

●序章(第一条~第四条)について

 泊地創建時のお話です。

 なぜ泊地ができたのか、なぜ提督はそこで戦うことにしたのか、いかにして提督と艦娘が出会ったのか、というのがメインになる話です。

 私自身「何か流行ってるみたいだしやってみよう」と何気なく艦これを始めたので、事前知識等は一切なく、何の気なしに初期艦の叢雲を選び、艦を揃えながら通常海域を突破していくことだけを考えていました。

 その途中、システムについてよく理解しないままプレイしていたこともあって、ある出来事が起きました。それがどういう出来事だったのかは本編で触れている通りですが、あの辺りから「よく分からないままプレイするのはいかんのではないか」と感じるようになったので、これを作中では「提督が戦う理由を見出した」という風に表しました。

 この辺りで出てくるメンバーは実際にプレイしていたとき揃っていたメンバーになっています。漣や曙はNewソートすると叢雲の次に出てくる最古参のメンバーで、現在も主に遠征面で頑張ってくれています。曙は史実を知ってから見方が変わった子の一人だったので、一話使ってその辺りのことを書けて、個人的には満足しています。

 

●第一章(第五条~第八条)について

 2013秋イベントを描いたお話です。

 私は嫌いな艦娘がおらず皆育てる派なのですが、特にお気に入りの艦娘が何人かいまして、その一人が古鷹になります。

 この頃はスクリーンショットや記録も取っていないのでややうろ覚えなのですが、私自身が2013秋イベントに参加した際、古鷹には大分助けてもらった覚えがあります。それ以降重巡筆頭として優先的に育ててきたので、本作執筆当初から彼女の話をここでやっておきたいと考えていました。

 

 古鷹というとやはり第六戦隊の存在が欠かせませんし、2013秋イベントの元ネタのこともあって、青葉を中心とする話を作ることにしました。青葉は二次創作界隈だと比較的ネタ要素強めで描かれることが多いですが、本作では彼女の戦歴等を踏まえて「普段は明るく振る舞っているが、サバイバーズ・ギルトを抱えている」というキャラクターにしています。昔のことを覚えているなら、青葉や雪風等長く戦った子たちはいろいろなものを抱えていると思ったので。

 艦隊これくしょんの世界観は、軍艦――艦娘にとっての「やり直しの物語」を可能にする下地があるので、それを活かしたいと考えて第一章を書いた覚えがあります。

 

●第二章(第九条~第十二条)について

 2013冬イベントを描いたお話です。

 蒼き鋼のアルペジオも絡めた話になるので、個人的には一番書くのに苦労しました。二重の二次創作と言いますか、いろいろと意識したり考えたりしないといけないことが多かったので。なお、本作のイオナたちは原作版ともアニメ版とも違うパラレルワールドの存在として扱っています。アドミラリティ・コードからの命令がなく、千早群像とも出会っていない――そういう世界のイオナたちだと捉えていただければと思います。

 

 第二章では長門と武蔵の対立・対比がメインになっています。長門と武蔵は「国民に知られたヒーロー長門」「極秘裏に建造された秘密兵器の一角武蔵」という点をはじめとして、対比できる点がいくつもあると感じたので、そこから今回の話を構築しました。

 二人がこの話で主張したことはどちらも間違ってはいないので、どのように落とすかが悩みどころでした。書き終えた今も「もっと良い落としどころがあったのではないか」と心残りになっていたりします。

 

 ちなみに書いていて楽しかったのは潜水艦たちのシーンでした。活躍させたり話の中心に据えたりしにくい子たちですが、皆うちの泊地には欠かせない子たちです。

 

●他所の鎮守府・泊地・基地等について

 大規模イベントについて描く際は、複数の拠点で協力し合うようにしよう、というのは当初から決めていました。

 他所の拠点の提督や艦娘を出すことで話の幅を広げることができますし、ショートランド以外が舞台のイベントに参加する理由が作りやすくなるためです。あとはシンプルに「強大な敵に人類サイドが結束して立ち向かう」というのが王道で格好良いから、というのもありますね。

 ただ、数を増やし過ぎるとまとまらなくなるので、本作では横須賀鎮守府とトラック泊地の提督・艦娘のみ出しています。

 

 横須賀鎮守府は最初に創設された拠点ということもあり、そこの提督は万能型の能力・実直な人柄を持つ人物として描こうと決めていました。深海棲艦との戦いが後世語られるようなことがあれば、そこに名前が載るような英雄タイプの人物というイメージです。

 ただそれだけだと現実感がなくなるので、実際に付き合ってみると人間らしい一面も持ち合わせている、という風に描きました。

 

 トラック泊地の提督は横須賀鎮守府の提督との対比で「切れ者だが若干癖がある」というキャラクターにしました。横須賀提督同様比較的癖のない新八郎と絡むことが多いので、会話が平坦にならないようにしたかった、という狙いがあります。

 大本営と近しい横須賀提督に比べると大本営に対しては懐疑的な面もあり、それが話を動かすきっかけになることもありました。書いていて楽しいキャラクターでしたが、如何せん私が切れ者ではないので、切れ者っぽく描けたかどうかという不安はあります。

 

●第三章(第十三条~第十六条)について

 ケッコンカッコカリが実装された時期の話を書こうと思い立ち、そこから提督と艦娘の関係性について一度描いておこうとしたのがこのお話になります。時期的に近かったのでスパイスとして5-5要素も入れることにしました。

 全体の中では新八郎退場に向けての準備が始まった話でもあります。

 

 提督と艦娘の関係はそれこそ十人十色ですが、うちの場合前述の通り新八郎がいずれいなくなることは決めていたので、その点を踏まえて後味悪くならないような関係性にしようと心掛けながら書いています。瑞鳳を話の中心に据えたのは、お気に入りの艦娘の一人だったことと、他の話で軽空母を取り上げる機会がなさそうだったことが理由になっています。

 

 最初に指輪を渡す相手については実際のゲームプレイに合わせました。他にもお気に入りの艦娘は何人かいましたが、これまで付き合ってきた時間のことを考えると他の選択肢はちょっと思い浮かびませんでしたね。

 

●第四章(第十七条~第二十条)について

 2014春イベントを描いたお話です。ただイベント要素は控えめになっています。

 利根とビスマルクが話の中心になっています。利根については本作で取り上げたいと執筆当初から考えていました。史実でのある出来事をクローズアップして書いているため、それに合わせてゲームとは若干異なるキャラクター像になっています。どこまで許容されるか戦々恐々としながら書いていましたが、いかがだったでしょうか。

 

 ビスマルクもお気に入りのキャラの一人です。利根をかなりの問題児として描いたので、その比較対象として割と良い子なビスマルクになりました。ビスマルク関連はまだまだ書きたいことがあるので、もし機会があればまた話の軸に据えることがあるかもしれません。

 

 今回は史実要素を若干取り入れた話の構成にしましたが、歴史を取り上げるときはどのように描くかでいつも迷います。特に近代以降は肯定的意見と否定的意見に割れるような事柄も多いので、なるべく偏らない書き方にできたら、と考えてはいるのですが。

 この話で取り上げた利根にまつわるある事件についても、単純に誰が悪い・間違っているというような話ではないので、その辺りの描写は少し気を付けたつもりです。

 

●最終章(第二十一条)について

 2014夏イベントを描いたお話です。ただし、尺の都合でAL作戦に関しては全カットとなりました。もしかしたら別の機会に描くことがあるかもしれません。

 

 MI作戦(E3~E5)とE6を並行で描く構成にしたのは、MI作戦参加組も最終話まできっちり描きたかったからです。前半をMI作戦に割いて後半E6にする構成だと、MI作戦参加組が最後スルーされるような形になってしまうので、それはバランスが悪いなと。

 遠く離れた地での話なので、MI作戦とE6の話は直接絡むことがありませんでしたが、そこは各節の話の流れで繋がっているように見せかけるよう意識しました。上手く出来ているかどうかは分かりませんが……。

 

 新八郎が退場するくだりはもっと悲劇的にする考えもありましたが、それはここまで読んでくれた方に対してどうなのだろう、ということで比較的前向きな雰囲気で締めくくるようにしました。

 エピローグまでの間にいろいろなことがあったはずですが、その辺りは描いてしまうと一気に話が暗くなりそうなので、この先も話として描くことはないと思います。

 新しい一歩を踏み出していく――という形で終わりを迎えられたので、個人的には良い終わり方にできたかなと考えています。

 

●最後に

「南端泊地物語」本編はこれで一区切りとなりましたが、今後も「S泊地の日常風景」は続けていきたいと考えていますし、番外編等他の話を書きたくなることもあるかもしれません。もしまたどこかで拙作を見かける機会がありましたら、お手すきの際に覗いていただけると嬉しく思います。


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