南端泊地物語―草創の軌跡―   作:夕月 日暮

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第一章「決戦!鉄底海峡を抜けて!」(第六戦隊編)
第五条「不安なときに相談できる相手を持て」


 哨戒中に奇襲を受けた。

 

「敵艦隊の構成を確認。正規空母が一体、戦艦が一体、重巡が二体、駆逐が二体です!」

 

 偵察機を出していた青葉が報告した。

 

「ここは撤退に専念しマース! 皆さん、ついて来てくださいネー!」

 

 報告を聞くや否や、旗艦の金剛は即座に撤退を決定した。

 こちらには空母がいない。おまけに先ほどまで別の深海棲艦と戦って中破に追い込まれたメンバーもいる。

 

「金剛、殿は私が引き受けるわ」

「いやいや、殿は私が務めるネ。叢雲は先頭で撤退の指揮をお願いしマース!」

 

 反論をする前に金剛は下がって敵艦との撃ち合いを始めてしまった。

 口調のせいで変わり者に見えるが、金剛はあれでいて仲間思いだ。それだけに危険を買って出ようとするところもある。

 

「いくら戦艦だからって一人じゃ危ないでしょうが……! 青葉、あとはお願い!」

「え!? は、はい。分かりました!」

 

 他のメンバーを青葉に任せて金剛の元に駆け付ける。敵艦載機が金剛を狙おうとしていたので機銃で牽制した。

 

「叢雲、なんで戻って来たデース!?」

「全員で生きて帰るためよ!」

「オー……そう言われるともう何も言えないネ。それなら生きて帰るために全力でやりまショー!」

 

 ありったけの残弾を惜しみなく撃ちながらじりじりと後退していく。一気に離脱したいところだが、生憎相手はなかなか隙を見せてくれなかった。

 少しずつ弾数が心許なくなっていく。

 

「弾切れたら後は全力で逃げるわよ。変なこと考えないでね!」

「分かってマース! 提督にまた会うまでは死ねないデース!」

 

 そう言った矢先に、戦艦の主砲がすぐ近くに落ちた。直撃こそしなかったものの、着弾の勢いに押されて転倒しそうになる。

 体勢を崩したこちらに向けて、敵が主砲を構えた。

 

「……っ!」

 

 駄目か――。

 覚悟を決めたそのとき、横合いから敵に襲い掛かる艦載機が現れた。あれは深海棲艦のものではない。艦娘が扱うものだ。

 その艦載機の集団は敵の艦載機を次から次へと落としていく。うちにはない艦載機だが、相当な格闘性能だった。

 敵艦隊に襲い掛かったのは艦載機だけではない。大型艦のものと思しき砲撃が敵艦隊を炎で染め上げていく。あっという間の出来事だった。

 

「オー、なんだか凄いデース……」

 

 突然の助っ人に金剛もそんな感想しか出てこないようだった。

 遠方から指揮官のものと思しき船と艦娘たちが近づいてくる。

 

「ショートランドの方々ですね。お怪我はありませんか」

 

 声をかけてきたのは黒髪を腰まで伸ばした駆逐艦の少女――朝潮だった。

 うちにも朝潮はいるが、少し雰囲気が異なる。うちの朝潮よりも少し大人びているような気がした。

 

「ありがとうございマース、助かったヨ!」

「お役に立てて何よりです」

 

 金剛、そしてこちらとも握手を交わしながら朝潮は安堵の表情を浮かべた。

 

「やあやあ朝潮君、そろそろ僕も話をしていいだろうか」

 

 船から一人の男が顔を出した。

 新八郎よりも少し年配だろうか。長身で細目なのが特徴的な男だった。

 

「こちらはうちの――トラック泊地の司令官です」

「はじめまして、ショートランドの金剛君、叢雲君。私は毛利仁兵衛。君たちはこれから帰投するところかな」

 

 初対面だが相手はこちらを知っているようだった。もしかすると向こうにも金剛・叢雲がいるのかもしれない。同一個体がいるというのは理解しているが、いざ想像すると何とも不思議な感じがする。

 

「そうね。先に帰らせた皆も心配してるでしょうし、そろそろ戻ろうかと思ってるわ」

「そっかそっか。それなら一緒に行こう。良ければ船の上で休んでいくといい」

 

 仁兵衛は屈託のない笑みを浮かべてサムズアップを決めた。

 どことなく軽そうな雰囲気のある男だが、悪人ではなさそうだ。

 

「……って、一緒に?」

「ああ――ちょっと君たちの司令官に用事があってね。なに、喧嘩を売りに来たわけじゃないからそこは安心してくれたまえ」

 

 そこはかとなく安心できなさそうな言葉だった。

 

 

 

 

「――深海棲艦の軍勢、ですか」

 

 隙間風が吹かなくなった司令部室で、予期せぬ来訪者――毛利仁兵衛と向き合う。

 彼の用件というのは、深海棲艦の動きに対する警告だった。

 

「先日うちの泊地の東方沖で深海棲艦の群れが南下していったそうだ。この辺りで何か異変が起きてないかと思ってね」

「今のところそういった報告は出てないですが……いや、そう言われると最近哨戒任務で深海棲艦に出くわすケースが増えている気もしますね」

 

 以前よりも怪我をして帰ってくる子が増えた。会敵するケースが増えているということだろう。

 まともな入渠施設が出来てまだそんなに経っていないが、拡張も考えた方がいいかもしれない。

 

「伊勢君……あー、名前でいいかな。うちの伊勢の顔が脳裏に浮かんでね」

「ええ、お好きなように」

 

 うちの子たちからも名字で呼ばれることはない。特に呼ばれ方にこだわりはないので好きにさせている。

 

「では新八郎君。……いや、なんかむず痒いな」

「呼び捨てで構いませんよ」

「そうか。では新八郎と呼ばせてもらおう。いいか新八郎。実は今回のように深海棲艦の軍勢が動いたことが、過去に二回ある。そのとき連中は拠点を構えて人間に対し攻勢をかけようとしてきた。普段のように適当な場所に現れて暴れまわるのとは違う。何者かに率いられて事を起こそうとしたのだ。僕も一回目のときについては聞き知っているだけだがね」

「……それは、かなりまずいのでは」

 

 かなり危険な状況ではないか。打てる手があるなら早急に手を打っておかねばならないのではないだろうか。

 

「だから早めに状況を確認しておきたい。場合によっては本土に連絡して救援を要請する必要が出てくるかもしれないからね」

「少し哨戒の範囲を広げましょうか。今はホニアラの辺りまで定期的に回っていますが」

「そうしてほしい。杞憂ならいいんだが、おそらく今回も十中八九何かが起こる。戦いというのは事前の準備でほぼ決まるものだからね。打てる手は打てるうちに、だ」

 

 そう言いながら仁兵衛は小型ラジオのようなものを差し出した。

 

「これは?」

「横須賀の明石が開発したという提督専用の通信機だ。ネットワークや電波ではなく提督としての力――霊力なんて呼ぶ者が多いそうだが――とにかくそれを使った独自の方法で通信が可能な代物らしい。胡散臭いが試したところきちんと動いた。何かあればこれを使って連絡を取り合おう」

「分かりました」

 

 ありがたく受け取る。簡単なマニュアルもついていた。

 

「先ほどの警告もあるが、それを渡すのが一番の目的だった。大本営はこれから各拠点で連携して動いていきたいと考えているようだからな。連絡手段は最重要事項というわけだ」

「情報伝達に時差があると思うように連携できないケースもあるでしょうしね。ここはまだネットワークも繋がりませんし、通信機も何かあると途切れるような始末なので」

「ネットワークはな……。うちも欲しいのだが。海底ケーブルを敷く計画は出ているそうだが、深海棲艦の妨害もあって遅々として進まないらしい。潜水艦の艦娘がもっと揃えばいいのだが」

 

 潜水艦の艦娘はまだ契約できた例がほとんどないらしい。うちも先日伊168と契約したが、それ以外の潜水艦の子はまだいない。

 

「さて、長話をしても仕方ないので僕はこれで失礼するよ。何かあればすぐに連絡をくれ。これでも一応南方海域全域の各拠点のとりまとめ役なのでね、困ったことがあれば相談に乗るよ」

 

 そう言って仁兵衛は去っていった。

 

「まるで嵐のような御方でしたね」

 

 側に控えていた大淀がぽつりと感想を述べた。

 

「だが経験豊富そうだった。自信に満ち溢れている感じがしたし、なんだか切れ者のようだ。困ったときは頼らせてもらおう」

 

 それよりも今は優先すべきことがある。

 

「大淀。さっき話についてだが、皆の哨戒スケジュールを少し組みなおそう」

「そうですね。遠距離まで哨戒するなら休憩ポイントも増やしましょう。ローテーションも考え直した方が良いですね」

「あとは訓練時間をもう少し増やそう。哨戒中何かあっても対処できるようになってもらいたい」

 

 本当は少しずつ成長していってもらおうと考えていたが、先ほどの話を聞く限りあまり悠長なことは言ってられなさそうだった。無理のない範囲ギリギリの訓練をしてもらうことになるだろう。

 

「後で皆に恨まれそうだ……」

「大丈夫ですよ。提督の真意は伝わってますから」

「提督ー!」

 

 そこに、書類を抱えた艦娘が入って来た。

 ――夕張だ。

 彼女は書類を机の上にどさっと置くと「ふぅー」と一息つく。

 

「頼まれていたこの泊地の兵装の一覧表です。あと改造計画書もまた何人分かまとめてきました」

「ありがとう。最近明石の顔を見てないけど大丈夫そうかい?」

「大分忙しいみたいですね。食事は基本作業しながらになってます」

「今度まとまった休みを取らせた方がいいな。彼女に倒れられたらうちは大変だ」

「その情報、伝えておきますね。それでは!」

 

 夕張は元気よく敬礼し、颯爽と去っていった。

 

「……真意か」

 

 別段深い考えがあるわけではない。自分の中にあるのは極めてシンプルなものだ。

 

 ……もう誰も沈ませない。

 

 その決意は、あの日からまったく変わっていなかった。

 

 

 

 入渠施設を訪れると、部屋着の吹雪と青葉が談笑していた。

 

「おや叢雲さん。無事に戻られたようでなによりです」

 

 青葉はこちらに気づくと立ち上がって礼をした。

 

「そっちも無事みたいでなによりだわ。青葉、皆を連れて帰ってくれてありがとう」

「いえいえ。青葉にできることはこれくらいなので」

 

 困ったような笑みを浮かべて、青葉は「それでは」と去っていった。

 

「吹雪は結構修理に時間かかりそうかしら」

「うん。思ったより損傷が激しくて。しばらくここで缶詰かなあ」

 

 艤装は艦の御魂の分霊を宿す依代で、艦娘にとってのコアとも言える。勝手気ままに離れることはできないので、艤装の修理中艦娘はここで待機することになる。

 

「……何かあった?」

 

 こちらの様子から何かに感づいたらしい。吹雪が表情を改めて尋ねてきた。

 

「深海棲艦が群れをなしてこっちの海域に押し寄せてくるんじゃないかって、トラックの提督が伝えに来たみたいよ」

「ここ何日かは深海棲艦と遭遇することが多かったけど、それと関係してるのかな」

「かもしれない。当面うちは哨戒範囲を広げるみたいよ。うちはまだ練度不足が目立つからいろいろと不安だわ」

「叢雲ちゃんがそういう弱音口にするのは珍しいね」

「そうかしら? そうかも。……トラックの練度の高さを見せられたかもしれないわね」

 

 金剛と自分を襲った深海棲艦は、自分たちが万全の状態だったとしてもかなり苦戦を強いられていたはずだ。それをトラックの艦娘たちはいともたやすく撃破してみせた。自分たちとの実力差を見せつけられたような気分だ。何も言っていなかったが、おそらく金剛も似たような思いをしたに違いない。

 

「私たちもここ最近でそれなりに成長はできたと思うんだけどね……。艤装の本格的な改造もしたし」

「そういうところから更に一歩進んだ先のところにいるって感じだったわ、トラックの艦娘たちは。今後戦いはもっと激しくなっていくかもしれないし……私たちも更に成長しないと」

 

 かつての戦いで自分は何もできずに沈んでいった。

 もう、同じことの繰り返しは嫌だ。

 

「――やる気があるのはいいけど、一人で無理するようなことはしちゃ駄目だよ?」

 

 吹雪がこちらの目を覗き込んできた。

 

「今、そういう感じがしたから」

「……大丈夫よ。吹雪こそ気をつけなさいよ、私なんかよりよっぽど無茶するんだから」

 

 さっきの戦いだってそうだ。危うく被弾しかけた自分をかばって中破したのだから。

 

「あ、あはは。善処します」

 

 それは善処しないやつではないか。

 そう思ったが、言ってもあまり意味はなさそうなので口にはしなかった。

 

 

 

 毛利仁兵衛の警告から数日。

 叢雲は哨戒任務で再び海上に出ていた。

 天候はお世辞にもいいとは言えない。一雨来そうな空模様だった。

 

「そろそろ休憩にしましょうか。まだホニアラまでは少しかかりますし」

 

 艦隊の旗艦である霧島が休憩を提案した。誰からも異論は出ない。皆休みたかったのだろう。

 ショートランドからホニアラまではそれなりに距離がある。頑張れば一気に行くことも可能だが、途中で会敵する可能性を考えるとあまり無理に進撃するのは得策ではない。

 道中の島に上がって腕を伸ばす。艤装は自分の一部ではあるが、出しっぱなしだとさすがに疲れる。

 

「お疲れ様」

 

 古鷹が水筒を差し出してくる。

 

「ありがと。古鷹もお疲れ様」

 

 ありがたく受け取ると古鷹はにっこりと笑った。

 古鷹は金剛や霧島と同時期に着任した艦娘だ。重巡洋艦のはしりとも言える存在である。

 

「ここに来るまで二回。やっぱり深海棲艦の数は増えてるみたいだね」

「前はホニアラまで行くのも楽だったけど、最近はそういうわけにもいかないわね。また海上輸送路を失うようなことにならないといいんだけど」

「どの島もそれに備えて備蓄を進めてるみたいだよ。提督がソロモン政府に打診したみたい」

「そういうところは気が回るわね、あいつ」

 

 実際、こういう群島国家は深海棲艦に攻め込まれると簡単に分断されてしまい様々な問題が出てくる。

 それに対する備えはできるだけしておくべきだった。

 

「そういえば叢雲ちゃん、前の哨戒任務では青葉と一緒だったんだよね。何か変わったところはなかった?」

「青葉? どうかしたの?」

「ううん。ただ、なんていうか――着任してからきちんと話せてないんだ。ずっと」

 

 意外だった。

 古鷹と青葉は艦だった頃から同じ戦隊に属していたし、古鷹と青葉は艦型でも共通点が多く半ば姉妹のような間柄である。

 しかし、考えてみれば古鷹と青葉が二人でいるところは見たことがなかった。

 

「……古鷹の方から避けてるってわけではないのよね。そういうこと聞いてくるってことは」

「うん。最初の挨拶はしたし何度か声をかけてみたんだけど……当たり障りのない話だけして、すぐにどこかに行っちゃうんだ」

「……もしかすると昔のことを気にしてるのかもしれないわね」

 

 青葉はかつての戦争で長年にわたって戦い続けた経歴の持ち主である。ただ英雄的な存在というわけではなく、経歴の中にはいくつかの失敗談もある。

 中でも有名なのはサボ島の海戦の出来事だろう。青葉はそこで手痛いミスをしてしまい、それが原因で吹雪や古鷹が沈んでいた。青葉が彼女たちに負い目を感じていたとしても不思議ではない。

 

「サボ島……今は名前変わったらしいけど、あの戦いの場所はすぐそこだし、青葉が強く意識するようになっても不思議じゃないわ。吹雪に対しても少し気を使ってる感じがするし、思うところはあるんじゃない?」

「だとしても、ずっとこんな感じなのは嫌だな……」

 

 古鷹の気持ちも分かる。しかし青葉の気持ちも分からなくはない。今無理に距離を詰めようとするのは却って逆効果な気がした。

 そのとき、少し離れたところに座っていた赤城が急に立ち上がった。

 

「――遠方に船影あり。深海棲艦に追われているようです!」

 

 赤城は先ほど偵察機を出していた。その偵察機が見つけたのだろう。

 

「総員、休憩は終わりです。ただちにその船の救援に向かいます」

 

 霧島が全員に告げる。反論する者はいなかった。

 

 

 

 休憩ポイントから再び海に出て程なく、その追われている船が視界に入った。

 

「あれ、ウィリアムさんの船ね」

 

 見覚えがある。船の上にも何人かの船乗りの姿があった。名前までは憶えていないが、どこかで見た気がする。

 

「また単独でこの辺りの島を回ってるのかしら。危ないから控えるってこの前言ってた気がするんだけど」

 

 霧島がぼやく。ちなみに、どうしてもという場合はショートランドまで護衛依頼を出す手筈になっていたはずだ。

 

「……少し、海の色がおかしいですね」

 

 古鷹がぽつりと口にした言葉に、全員が海を見下ろした。確かにほんの少し赤みを帯びているような色合いだ。どことなく不気味な印象を受ける。

 

「敵艦隊には空母がいないようですね。私たちの手持ちの艦攻・艦爆隊で先制攻撃を仕掛けます」

「お願いします」

 

 赤城の提案に霧島が応じる。

 今艦隊にいる空母は赤城と飛鷹の二人だ。空母の艦娘はそれぞれ艦載機を自らの兵装に合わせて変形させる力を持っている。赤城は弓矢に、飛鷹は巻物に変えていた。戦闘時はそれを本来の姿に戻して使用する。

 赤城が放った矢と、飛鷹が広げた巻物から飛び出た霊体がそれぞれ艦載機に変化し空に飛び立っていく。オカルトじみた光景ではあるが、人間からするとそもそも艦娘という存在自体がオカルトのようなものだろうし、あまりそこは気にしないようにしている。

 ウィリアムたちを襲っていた深海棲艦たちもすぐに艦載機とこちらに気づいたらしい。艦載機の急襲に耐えながら、こちらに砲撃を仕掛けてきた。

 

「赤城、飛鷹の両名は下がってください。古鷹、叢雲、夕立は私とともに突貫、敵を一気に蹴散らします!」

 

 言うや否や霧島が早速突っ込んでいく。後に続くのは先日第二改造を終えた夕立だ。

 艤装と艦の御魂の分霊が馴染んでくると、本来の艦としての性能を十分に発揮できるよう改造を行うことができるようになる。そこから更に艦娘の個性を引き出すため行うのが第二改造だ。艦種や艦型の性質よりも、その艦のユニークな特性を引き出す改造という位置づけになる。

 夕立の場合は火力に特化した改造を施されている。駆逐艦でありながら大型艦をも食いかねない火力を有するようになっていた。

 

「蹴散らすっぽーい!」

 

 勢いよく敵陣の中に突っ込み、場をかき乱すように暴れ回る。

 確かに強力なのだが、見ていてハラハラする戦い方でもあった。

 

「また夕立は……。古鷹、私たちは突撃組のサポートに回るわよ」

「その方が良いみたいだね!」

 

 先陣を切った霧島や夕立を狙う敵を、自分と古鷹が積極的に落としていく。霧島や夕立を守ることができれば、後は二人が敵を殲滅してくれるだろう、という戦い方だ。その期待に応えるかのように霧島と夕立は残っていた敵艦を残さず撃破していく。

 程なく戦いは終わった。トラックの艦娘たちほどではないが、自分たちも先手を取ればそれなりにやれそうな気がしてくる。

 

「今回もいっぱい敵を倒せたっぽい! どうどう?」

 

 夕立がこちらに感想を求めてきたので軽く小突いた。

 

「もうちょっと回り見て戦いなさい。フォロー大変なんだから」

「そこは叢雲たちにお任せっぽい!」

 

 満面の笑みでそう言われると、こちらとしてもそれ以上は何も言えなかった。

 

『すまないな、また助けられた』

 

 船の上からウィリアムが礼を述べた。

 

『ウィリアムさん、どうかしたんですか。単独で海に出るなんて……』

 

 霧島が小言を口にしようとしたが、ウィリアムはそれを手で制した。

 

『危険だということは分かっているが、至急新八郎に知らせねばならんことができた。今ホニアラは外部との通信もできなくなっているから、直接こうして出てくるしかなかったのだ』

『……通信できない?』

『近くに深海棲艦たちが集結して、基地らしきものを作ろうとしている』

「――!」

 

 ウィリアムの報告に全員の表情が強張る。

 

『同時期に電話もネットワークも使えなくなった。おかげで他国に救援を求めることも難しい有り様でな。一番近くにいるショートランドの新八郎にまず状況を知らせに行こうとしていたのだ』

 

 ホニアラには定期的に訪れて状況確認をするようにしていた。普段ウィリアムたちの護衛任務はそのタイミングで受けている。それを待てないくらいの緊急事態だった、ということなのだろう。

 

『ホニアラの現状は?』

『ソロモン政府の指示で住民はシェルターに避難し始めている。深海棲艦も今のところ市街は攻撃してきていないから被害は出ていないが、皆不安がっている。深海棲艦に占領されるのではないかとな』

 

 これまでも深海棲艦は陸上の一部を占拠して基地化したことがあった。基本は海上のモンスターだが、街を占拠するという可能性も十分にあり得る話だ。

 

「……本艦隊はホニアラまでの哨戒を中断、ウィリアムさんたちの護衛をしつつこのままショートランドに引き返します」

 

 霧島が告げる。確かに今はそうした方が良さそうだった。

 

「あの」

 

 と、そこで古鷹が手を挙げる。

 

「敵戦力がどのくらいか把握しておいた方が良いんじゃないでしょうか」

「……それもそうね。けど、護衛のことを考えるとあまり戦力分散させるわけにもいかないし……」

 

 霧島が眉根を寄せた。

 

「私一人で大丈夫ですよ。あまり大勢でいても目立ちますから」

 

 古鷹が進言したが、霧島は頭を振った。

 

「駄目よ、一人じゃ何かあったときに助かる見込みがほとんどなくなるわ」

「なら私がご一緒しましょう」

 

 と、そこで赤城が手を挙げた。

 

「偵察のことを考えると私が行くのが一番良いでしょう。古鷹さんには護衛として来ていただければ」

 

 赤城の案に霧島は少し沈思していたが、やがて頷いた。

 

「必ず無事に戻ってきてください」

「もちろんです」

「了解です」

 

 赤城と古鷹がそれぞれ頷く。

 海の赤みが、ほんの少し濃くなったような気がした。

 

 

 

 

『状況は分かった。しかし敵さんも手が早いな』

 

 通信機の向こう側にいる仁兵衛は半ば感心したかのように言った。

 霧島やウィリアムさんたちの報告を受け、自分たちだけで対処できるかどうか分からなかったので、仁兵衛に相談を持ち掛けたのである。

 

「今うちの子たちが敵戦力の偵察をしています。ただ、それを待ってから動いて間に合うのかという懸念があったので、まずは情報共有をと思い連絡しました」

『そうだな、こちらも早め早めに動いていこう。本土の連中には僕からも連絡しておく。横須賀や呉からも艦隊を派遣してもらうよう働きかけてみよう』

 

 横須賀や呉には、もっとも早い時期に作られた対深海棲艦用の拠点がある。その拠点は鎮守府と呼ばれており、こことは比べ物にならないくらいの人員や施設が揃っているという。そこの艦娘たちも精強と聞いていた。

 

「助かります。こちらはひとまず無理な会敵を避け、敵戦力の把握と人命救助を最優先として動いていくつもりです」

『ああ。是非そうしてくれ。中途半端に攻めかけて敵を刺激したらどうなるか分からないからな』

 

 一通り情報共有を済ませて、仁兵衛との通信を切る。

 

「……そういうわけだ。敵を見かけても不必要な戦いは避けてくれ。戦力を揃えてから一気に攻める。今はその準備期間だ。いたずらに戦力を減らさないことが肝要だ。他の皆にもそう伝えておいて欲しい」

「了解です、司令」

 

 霧島たちが礼をして執務室から去っていく。

 

『申し訳ありません、ウィリアムさん。この件は解決に少し時間がかかりそうです』

 

 同席していたウィリアムさんに英語で謝罪の言葉を伝える。

 

『いや、こちらもすぐに解決できるとは考えていない。早いに越したことはないが、ソロモン政府が求めているのは確実な解決だ。新八郎、毎回無理を言ってすまないがよろしく頼む』

 

 ウィリアムさんはこちらの肩を叩いて、部屋から出ていった。おそらく自分たちの船に戻ったのだろう。

 

「……胃が痛くなるな。これまでの戦いは部隊同士の衝突レベルだったが、今度のはもっと大規模な戦いになる。俺にどれくらいのことができるんだか」

「ぼやいてても仕方ないでしょ」

 

 残っていた叢雲がぴしゃりとこちらの甘えを封じた。

 

「別に無理をする必要はないわよ。不安があるなら他の提督の力を借りればいいんだし。アンタはこれまでと同じようにできることをしてれば十分」

「そう言ってもらえると少し肩が軽くなった気がする」

 

 いずれにしても気を引き締めてかからなければならない。

 一歩選択を間違えると取り返しのつかないことになりかねない状況だ。

 

 

 

 翌日、海図を広げて敵戦力のことを考えていると、ドアを勢いよく開けて吹雪が飛び込んできた。

 

「し、司令!」

「どうした、吹雪」

 

 吹雪の様子は尋常ではなかった。顔が真っ青になっている。

 

「さっき、赤城さんと古鷹さんが……」

「戻ったのか?」

「は、はい。戻ったのは戻ったんですけど……」

 

 何かあったのだろう。すぐに立ち上がって吹雪の背中を軽く叩いた。

 

「少し落ち着きなさい。……よし、これから二人のところに行こう。吹雪も一緒に来てくれ。行きながら話を聞かせてくれないか」

「わ、分かりました」

 

 こちらです、と吹雪が先導する。

 

 ……何があったんだ。

 

 嫌な予感がする。自然、二人の元に向かう足は速くなった。


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