シャドウバースのメインストーリー完結から数年後のお話 作:お前に負けるなら悔いはないさ……!
原作:Shadowverse
タグ:シャドウバース 捏造設定 年齢操作 後日談 軽い文体 SS コメディ 日常 エリカファンにはごめんなさい ただしドロシーてめーはダメだ
とりあえず、ストーリーがちょっとでも進むと死んでしまう捏造設定がいっぱいありますが、まあシャドウバースのストーリーとか真面目に見てる人なんて誰もいないからいいでしょ(暴言)
テーブルの上に並べられたティーカップは三つ。
湯気の立つそれの前に、それぞれ座る女性は、お互いがお互い、気の置けない間柄なのか、緊張を感じさせない所作で、ゆったりと紅茶に口をつける。
ふぅ、と一息。
ゆったりと、ゆっくりとした時間が流れる。
いや、まあ、ゆったりと、というか。
なんかもう、だるんだるんと。
ぐでーっと。
おそらく、それぞれの女性のいつもの様子を知っている人間が見れば、驚くほどには、彼女らの気は抜けていた。
その中でも、もっとも気の抜けた表情を浮かべる女性――容姿から察するには、一番年上に見える妙齢の彼女は、手に持ったカップを机に置くと、テーブルに突っ伏すようにして身を伏せた。
「いやーぁ、もうやってられないですよ、降伏します」
「えぇ……誰によ、エリカ……」
「人生にじゃないかな?」
愚痴を零すようにして付いて出たその言葉に、他二人は反応する。
最初に反応した女性は、もっとも歳若く見え、煌めくようなブロンドの髪が、若さゆえの潤いを表現しているようである。民族衣装のような服を着ているが、ワンピースにも似ているそれは、若々しい少女にしか似合わないであろう姿で、実際、誰が見ても似合っていると答えるだろう着こなしから、彼女が若いという事実は自他ともに認められることだろう。
それに次いで反応した女性は、そろそろ成人が見える程度には歳を重ねているようだが、しかし、どこか童顔でもあり、彼女も少女だと言える程度には若い。質素なドレスを着こなす彼女も、服装は年相応と言ったところか。
「というか、エリカさ……」
「なんですか、アリサ」
ブロンド髪の少女、アリサはジトーっとした瞳で、エリカの方を見る。
エリカは先程も述べた通り、妙齢の女性である。つまるところ、この三人の中で、もっとも落ち着いた服装が推奨されるべき年齢だ。
しかし、彼女の格好は、年相応でも、この場にそぐう格好でもなかった。
「その格好は、どうなのかなぁ……」
彼女は、この場にそぐう格好をしていないが。
いや、しかし、ここで一つ、エリカの身の上について話そう。
彼女は、この国の王女に使える近衛騎士なのだ。
常在戦場なんて言葉もある通りに、お茶会、もしくは女子会と言えるこの集まりの場とはいえ、彼女が騎士らしい格好をしていたとしても全くおかしくないと言える。
騎士らしい格好ならば、おかしくない、そうだ、当たり前である。
「どうって、私のお気に入りの私服ですが」
「Tシャツ一枚だけって! なに!? それしか持ってないの!?」
エリカは、だぼっとした草編みのズボンに、白地のTシャツ一枚しか着ていなかった。おかしかった、当たり前である。フォローなんてできなかった。
「アリサ、よく見て下さい」
エリカは、身体を起こし、Tシャツを指差す。
そこには、白地のTシャツのど真ん中に、堂々と『騎士』と書いてあり、
「騎士です」
騎士だった。よかったおかしくないんだ。
「騎士じゃないよ!!」
騎士じゃなかった。よくなかったおかしかった。
まあ、どう見ても騎士ではない。
これで、この国でもっとも地位が高い騎士の一人なのだから、なかなかに、国の未来を憂いてしまう光景だ。
しかし、エリカだって大変なのだ。昔は切った張ったをしていればそれで良かったのに、姫が王女となり、正式に政治に関わるようになると、彼女にも、それ相応の振る舞いが求められた。
貴族たちのギスギスとした腹の探り合いに、彼女は疲れてしまったのだ。
「今は休暇に浸る私ですからいいんですー、もう気張って生きるのにも疲れる歳なんですよー、私はー」
というわけで、過去、自らの剣が穢れている、と思い悩んでた少女エリカは死んだ。
今いるのは、穢れも高潔も、全て清濁併せ呑んで、結果ちょっと濁ってしまった妙齢の女性エリカだった。
私の剣が穢れている? ああ、悪徳貴族たちの腹の中に比べればマシなのではないですかね? 彼女の考えはもはやそんなものだ。
「歳って、私の方が、一応年上だけど……」
「ああー! もう! エルフはいいですね! なんですかその肌! どんなスキンケアすれば保てるんですかそれ! 私なんか肌に一番浴びるの返り血ですよ! 血も滴っちゃういい女ですよ! はいはい、降伏降伏!」
「えぇ……テキトーだなぁ……」
じゃれ合う二人。
もう一人の女性は、それをため息混じりに静観しつつ、育ちの良さそうな丁寧な所作でティーカップを口元へと運んでいた。
見た目の年齢は、エリカ未満アリサ以上だが、傍からこの様子を見れば、もっとも落ち着きのある、大人の女性だと言えるのは彼女だろう。
そんな、我関せずとしていた彼女だが。
エリカの矛先は、そちらにも向いた。
「というか、なにを、“私は関係ないー”みたいに澄ました顔してるんですか、ルナ」
寝耳に水と言わんばかりに、突然向けられたその言葉。
ルナはキョトンとした顔を見せる。
「わ、私……?」
「そうですよ! 服装と言えば、貴女にも関係がある話題でしょう!」
「えーっと、私は普通の格好をしてると思うんだけど……」
エリカの不躾な発言に、自分の服に視線を落とすルナだったが、しかし、別におかしなところはないように思う。黒を基調としたショートドレスであり、派手に露出が多かったり、過剰な装飾が施されていることもない。むしろ、少し質素過ぎるくらいだが、歳不相応ということはないだろう。
しかし、そんなルナを、エリカはバッサリ切り捨てる。
「貴女はふりっふりのゴスロリを着るべきでしょう!」
「や、やめてよー!」
流石騎士、その切り口は鋭い。
「あの服装は小さいころだから許されたんだよ! 今私があんな格好したら変な人だって!」
「それに、一人称まで落ち着いて! ルナでしょう! 貴女の一人称はルナでしょう! ほら言ってくださいよ! ルナだよって! ルナだよって!」
「やめてー!!」
流石騎士、追撃にも余念がない。
「まあ私は、“ルナ”って自分を呼んでたころのルナちゃんも、可愛くてよかったと思うけどね」
アリサがフォローするように言葉を差し込む。
しかし、ルナはその言葉を受けても、顔を赤らめ、恥ずかしそうに俯いてしまう。
「いや、でも、その……あの頃の私って、ほら、ちょっと変だったでしょ?」
「ああー……、ま、まぁね」
「頭おかしかったですよね」
流石騎士、情け容赦がない。
「うぅ……反論はできないけど……」
実際、ルナは両親の死から変わってしまった、可哀想な少女である。
ゆえに、なかなかにこの状況はダークな話題の応酬にも見えるが、誰も本気で話を止めないところから鑑みるに、彼女らの中で、そう言った悲惨な過去は、清算され、笑い話になっているのだろう。
だからだろうか、常識的な立ち振舞いをしていたエリサも、過去のルナと今のルナを見比べて、思い出し笑いのように、クスクスと笑う。
「いや、でも本当に、ルナちゃんとの初対面は衝撃的だったな……」
「その話、何度聞いても笑えますよね」
「鉄板ネタみたいに言わないでよー!」
エリカとアリサが目を合わせる。
どこか、悪そうな笑みが浮かんでいた。
「ルナのお友達になってくれる?」
エリカが言う。
「うん! もちろん!」
アリサが応える。
「じゃあ、お姉さんのこと――」
そこで、お互い、スッと息を吸い、せーのっと、アイコンタクトで会話して、
『殺すね!』
息ピッタリに、合わせて口にした。
「ルナの負けだよ!!!」
ルナは負けた。
圧倒的敗北だった。
お姉さん二人のからかいの前に為す術もなかった。
半ギレ気味に、負けを宣言することしか、今の彼女にはできなかった。
間。
「……でもね、ルナちゃん」
爆笑するエリカの呼吸が落ち着いたあたりで、アリサが口を開く。
「お父さんと、お母さんのこと、乗り越えられたルナちゃんは……私、スゴイって思うし……ルナちゃんは、強い子だよね」
幼かったころのルナの周りには、常に父親と母親の悪霊が漂っていた。
それは、現実を受け止められなかったルナが縛り付けてしまった、悲しき存在だ。
「ううん、私は強い子なんかじゃないよ……アリサさんに、ユリアスおじさんに、イザベルさんに……後一応エリカさんとかに助けられて、今こうしていられるんだよ」
ルナは現実を受け入れ、今こうして、普通の少女として生きている。
誰の助けがあろうと、そう成れたのは、彼女自身の力だろう。
「ずっと、成仏できないままじゃ、パパもママも、可哀想だから……」
「うん、そうだね、ルナちゃん……きっと、二人も草葉の陰で、ルナちゃんを見守ってくれているよ」
「そうだと、いいな……」
ああ、美しき友情ではないだろうか。
エルフと人間、種族は違えど、友人となった二人の絆は、種族の垣根を超えて、どこまでも深く、どこまでも輝かしかった。
「――まあ、実際、あそこの茂みから普通に覗いてますけどね、その二人」
そんな素晴らしき空間に水を差す、一人の騎士がここにはいた。
「え?」
くるりと振り向き、その茂みを目視する。
そこには、半透明の男性と、これまた半透明の女性がいて。
「あー!!」
ルナは席を立ち、駆け寄った。
「ねえ! この前成仏してくれるって言ったよね!?」
「アアァア……アァァア……」
「悪霊じゃなくなったから普通に喋れるでしょ!? 都合が悪くなると悪霊の振りするのやめてよ!」
「…………いや、だってパパ、ルナが心配なんだもん」
「“なんだもん”じゃないよ! この前は絶対成仏するって約束してくれたよね!?」
「次はね、次は成仏するさ、ね、ママ」
「そうね、パパ」
「その会話何回目なの!? 私は友達もできたし、もう大丈夫だから! あと、恥ずかしいから、こういうところまで来ないでよ!」
「おっ、恥ずかしいだって、思春期かな」
「お年頃ですものね、ふふ」
「絶対わかってないよー!!」
さもありなん、親離れはできても、子離れはできていなかった。
その様子を、またしても爆笑して見ているエリカと、くすくすと上品に笑っているアリサ。
二人は思い馳せるように、どこか中空を眺めながら、過去の話をする。
「いやー、でも色々あったよねー」
「ありましたねー」
死者であるルナの両親二人を見ていたからか、まず浮かぶのイザベルのことだった。
イザベルは死んだ恋人を生き返そうと、禁忌たる研究に勤しんでいた。
しかし、至極当然のこと、であるが。
死者は生き返らない。
それは、世界の理として存在する、絶対不可侵の摂理だ。
ゆえに、イザベルは、一生を掛けて、報われない研究に打ち込むこととなる。
はずだったが。
「いやー、生き返しちゃったもんね、イザベルさん」
「生き返してましたねー」
イザベルは、数年前、恋人を復活させた。
正確には、ホムンクルスに魂を定着させているため、死者蘇生というよりは、死者の口寄せに近い。
「でも、あれだけ頑張ってたもんね…………ローウェンさんが」
「ええ、身を粉にして働いてましたもんね…………ローウェンさんが」
ローウェンは、ドラゴンに変貌してしまうという咎を背負っている男だ。よろしくな。
しかし、類まれなる努力と、幾度となく窮地に陥ってきた経験からか、今ではその力を十全に扱えるようになっていた。なかなかやるな。
それに目をつけた、あるいは、弱みに付け込んだイザベルは、それはもう、馬車馬の如く、限界ギリギリまで、なんなら、限界を超えてもローウェンを働かせた。恨むなよ。
それはまるで、輝夜姫の難題に挑むような、この世に一つしかないと言われる伝説の秘宝や、超希少な鉱石、幻とされる生物の素材……竹取物語では五人に一つずつだったが、ローウェンは一人で数え切れないほどの量をイザベルに強いられた。流石の輝夜姫もびっくりである。なんだって!?
そして永かったローウェンの働きも終わるその日――イザベルから聞いた、復活魔法完成前夜にあった出来事を、二人は思い出す。
――――
――
―
「はぁ……はぁ……イザベル、これで、言われた素材は……最後、だ……」
「そう、流石ローウェンね」
「こ、これで俺は解放される……もとい、カイルを生き返すことができるんだよな……」
「ローウェン、実はね、最後にあと一つだけ必要な素材があるの」
「な、なんだって……!? まだ俺は解放され……いや、カイルを生き返すことができないのか……!」
「いえ、これは貴方なら簡単に手に入る素材だから心配いらないわ」
「そ、そうか……ならよかった。それで、一体なんなんだ?」
「ドラゴンのね、素材が必要なの」
「ド、ドラゴン……?」
「そう、ドラゴン」
「待て、イザベル、ちょっと待ってくれ、それは、つまり……」
「はい、竜化」
「イザベル、話を……」
「竜化、ほら、竜化」
「くっ、お前に負けるなら悔いはないさ……!!!」
――――
――
―
「いやー、あれは爆笑でしたね」
「わ、笑い事じゃないと思うけど……」
手を叩いて爆笑するエリカを、アリサが宥める。
実際、ローウェンは目も当てられないほどに剥ぎ取られたが、復活魔法を作る過程で生まれた霊薬によって、適切に治療された。
どんな怪我もたちまち治してしまうそれは、多くの希少素材(ローウェンが調達した)が使われていることもあり、まさに神の御業と言えるほどの効能があった。
しかし、その霊薬には一つだけ欠点があった。
治るとき、めちゃくちゃ痛い。
おそらく、龍さえ屠るローウェンの一撃より痛かったのだろう。ローウェンは意識を取り戻しては、痛みで失神することを数度繰り返した。
くわえて、完治した後に「五分五分だったけど、なんとかなったわね」とイザベルが口を零したことで、ローウェンの顔は真っ青になったとか、なんとか。
「未だにローウェンさん、イザベルさん見ると反射的に顔を青くするじゃないですか……うくく、それ思い出すと、面白くて面白くて……」
「もう、エリカったら……」
そこに、ルナがとぼとぼとした足取りで戻ってくる。
一つため息をついて、元の席についた。
「ルナちゃん、お父さんたちどうだった?」
「今日は天気が悪いって成仏してくれなかったの……」
「晴天だけどね……」
「死者ですから、どんよりした天気の方がいいんじゃないですかね」
ぐでーんとした空気が返ってくる。
特にエリカの返しがテキトー極まりない。
「それで、何のお話してたの?」
「災いの樹で出会った人たちの話かな」
「ローウェンさんの話で爆笑してました」
「エリカさん……」
「ルナちゃんの話の次くらいに面白いですよね」
「エリカさん……!」
もう何でもありになってきた騎士のことは放っておいて、ルナもあそこで出会った人のことを思い浮かべてみる。
とはいえ、ローウェンの話題だったということは、十中八九イザベルの話題でもあり、また、あそこで出会った人間の内、半数近くはこの場にいるため、残りは僅か二人。
ルナはそのうちの片方とつい最近会っていた。
「そういえば、ユリアスおじさんは最近すごく楽しそうにしてるみたいだね」
「あの吸血鬼がですか? なんかあったんですか?」
「うん、定期的に夢の世界に行って、色んな強い人と戦ってるんだって」
「うわぁ……」
夢の世界に囚われた時、各々は、歪んだ幸せを見せつけるその世界に甘んじることはなく、意思の力を突き通し、甘く淡い世界を打破した。
しかし、ユリアスだけは、作られた世界だとは看破しつつも「もっと! もっとだ! 私を楽しませてくれたまえ! ハッハッハ!」と、それはもう存分に楽しんでいた。
願望をあるがままに、どこまでも反映し続けるはずの設計が成されていたはずだったが、ユリアスの戦闘欲に際限はなく、「次! さっきの倍の強さ!」「次! 倍の人数!」「次! 無限に湧き出たまえ!」と望み続けて、最終的に夢の世界がオーバーフローして解けた。
他の面々は覚悟を決めている中、一人だけ玩具を取り上げられた子供のようにションボリしていて、実に場違いだっただろう。
「まあ、ユリアスさんは戦闘狂というか……敵が強ければ強いほど喜ぶ人だもんね……」
「いえ、アリサ、あの吸血鬼、敵が自分に有効打を与えることができたときに、ものすっっっごく喜ぶんですよ、あれ絶対マゾヒス……」
「やめよう、この話は」
現在は、気軽に夢の世界に入り、定期的に欲望を発散しているからか、多少性格が丸くなっている。狂気が取り除かれたルナと、交友関係を持てる程度には色々と自重しているし、エリカとしても、「とりあえず王国に仇なさなければ放置でいいか」と思うくらいには、今の彼は無害である。
「というか、夢の世界に入っているってことは、ネクサスの力を使ってるってこと?」
「うん、イリスさんを脅して呼び出させてるって、楽しそう言ってたよ、ユリアスおじさん」
「うわぁ、イリスさんご愁傷様です」
そして、最後の一人、イリスへと話題が移る。
なんだかんだで仲良くなってしまった七人だが、その中でも、イリスとは長い間確執があったとも言える。
なにせ彼女は、言うならば敵側の存在だ。
彼女らは、災いの樹を中心に語っているが、あの事件は始まりに過ぎず、そこから幾度となくネクサスの引き起こす異変に巻き込まれてきた。
その都度、彼ら彼女らは、ときには敵対し、ときには共闘し、そうして戦いの中で仲を深めていった。
しかし、イリスと友好が深められたのは、本当に最後の最後、ネクサスを完全に打倒……ボコボコにしてからである。
ネクサスは、アリサの親友であるロザリアの身体を依代として現界していた。それを、苛烈な戦いの末にロザリアから分離させ、ネクサス本体との戦闘へと入ったのが、最後の戦いだった。
しかし、そのころには、ネクサスを囲む面々は、それはもう逞しくなっていた。
完全な例え話となるが、もしも、この世界がカードゲームで勝敗が決まるものだとした場合、ネクサス対イリスを抜いた他六人のマルチバトルになり、もう手札に“リノセウス”と“自然の導き”と“0コスカード”が潤沢にあるわ、“レオニダスの意思”二枚と“レヴィオンセイバー・アルベール”がエンハンスで三枚出てるわ、“幽体化”がついた“デスタイラント”が並ぶ上に手札は“ミミ”と“ココ”で溢れてるわ、“次元の超越”が0コスで3枚ある上に二〇回スペルブースト“ルーンブレイドサモナー”が並ぶわ、“ブラッディ・メアリー”が盤面にある状態で“鋭利な一裂き”や“漆黒の契約”や“ソウルディーラー”や“アザゼル”がある上に体力全快だわ、ついでにローウェンの前には“鳳凰の庭園”とかいうのがなんかいっぱいあってそれが皆に適応されるからいっぱい出せる。よろしくな。
なんならこんだけ協力できるんだから、パメラで全フォロワー強化したり、全フォロワーに天空城発動したり、もう墓地はみんなの合計で冥府発動したりしたかもしれないが、これは全くの例え話であり、彼ら彼女らは自分らの力で、ネクサスを打倒した。カードゲームに例えると、こんな感じだよってだけである。
というわけで、ボコボコだった。
後に残ったのは、チョロチョロと目の前に現れては意味深な発言をしていたイリスだけだった。
――いや、あの、ええ、私も、ネクサスの力に魅入られていただけっていうか。
――ええ、本当に、救いとかって、ねえ、人それぞれですよね。
――待って、いや、本当に、待ちましょう。
――争いは何も生みません。
――私も、実質被害者というか、ネクサスに操られていた的な、そういう……。
――確かに、ええ、ちょっと調子に乗っていたかもしれませんが。
――あ、ああ、ちょっと、そんな、それは、ああ……。
――こ、この過酷溢れる世界に救いを…………本当に誰か救いを……。
「……イリスさんって、未だに私たちと会うと、少し“びくっ”とするんだよね」
「話してみると根はすごく良い人なんだけど……もっと仲良くなりたいな」
「まあ、私とか昔夢の中で、まだ姫様だったころの王女様を斬らされたこと、未だに根に持っているので、たまに刀抜く振りとかしちゃいますけどね」
「イリスさんが腰引けてるの、絶対エリカさんのせいだよ!!」
そうして、そこから少なくない時間が経つ。
ぐだぐだとよもやま話が続いていたが、ふとエリカが時間を確認し、お開きを告げることになった。
「あー、そろそろ私、王室行かなきゃいけないですねー、うわー、丸一日の休みが欲しいです、本当に」
「あはは、エリカは大変だね」
エリカはピシリと立ち上がり、すくりと背筋を伸ばした。
騎士という、戦いに常と身を置く人間だからだろうか、体幹のバランスが非常に整っているようで、一つ背筋を伸ばすだけでも、その姿は美しい。
「――では、皆さん、本日はありがとうございました。私の余暇に合わせて集まって頂き、感謝の至りです。この礼は必ず」
凛とした仕草に、凛々しい表情。
まさしく、そこに立つのは騎士の鑑であった。
「エリカ、オンとオフの切り替えはスゴイと思うけどさ」
「……そのTシャツじゃ台無しかな」
再度描写しよう。
白地のTシャツに、大きく「騎士」の文字だ。
騎士の鑑、鏡を見て欲しい。
「さて、じゃあ私も森番をロザリアに任せっきりだし、ちょっと見てこようかなー」
二人と別れ、アリサは森へと向かう。
慣れ親しんだ道であり、その歩みには勿論迷いなどないのだが。
少しだけ、足取りが重いように見えた。
決して、森に向かうのが億劫だとか、森番の任に嫌気が差している、ということではない。
ただ、なんだろうか。
先程まで、二人と賑やかしく話していたからか、一人でいると、少しだけ寂寥感のようなものを感じてしまう。
その小さな寂しさからか、考えなくてもいいようなことを、アリサは柄にもなく頭に巡らせていた。
ネクサスの行おうとした救済は、アリサたちによって阻止された。
その行動が間違ったことだとは思わないし、ネクサスの救済は偽りで、間違いであったと思う。
しかし、そうやって、間違いだと断言できるのは、やはり自分が恵まれていて、こうして今に幸せを感じているからであり。
例えば、今の自分が報われていなかったら、ネクサスの救済を本当に否定できていたのか、と。
アリサは、重い足取りで、考えてしまう。
「……ううん」
一歩、足進める。
一歩、二歩、三歩。
その足取りは、どんどん軽く、軽やかに。
気づけば走るようにして、森へと向かう。
そんなもしもなんて考えても無駄だろう。
なにより、アリサは夢の世界で『ロザリアに頼られたい』なんて、他の皆と比べると、ひどくちっぽけに思える願望を叶えていた。
しかし、そんなちっぽけな願望すら、未だ未熟な彼女には叶えられていなくて。
まだまだロザリアに頼り切りな自分に、そんな小難しいことを考える余裕なんてないな、と、彼女は迷いを断ち切って、足を進ませる。
そうして、少し進めば、森の中に佇む、銀髪の親友が見えてきて。
「ロザリアー!」
……手を振りながら、足をなお速めたアリサは。
ずてーんっと、盛大に転げる。
それを見て駆け寄ってきたロザリアに手当てをされて、心配されて、しっかりしなさいと、小言を言われてしまって。
やっぱり、願望なんてのものは簡単に叶えられるものじゃないな、と。
でも、そんな現実こそが、苦労もあるし、大変だけど。
大切だ、と。
少し成長したアリサは、そう、思うのだった。
今日のユリアス・フォルモンドくん
「はんっ、全く違う、全く違うな! たかが夢か! たかが幻、幻想、夢現か! バルタザールの奴はもっと強靭かつ屈強であったぞ!」
「いえ、貴方は出会ったころより数段強くなってますし、そのころ互角なら、それは単純に貴方が強くなりすぎただけでは……」
「違う、全くの別物だと言えよう。バルタザールの奴はだな、一撃一撃がこう真の響くような……くくっ、そうだ、あの痛み、あの激しさ! あれこそが私が求める強者の姿! さあ、私をもっと楽しませてくれたまえ! 次だ!」
「もういやぁ……」