ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
べるせるく・おふらいん
木綿季「ねぇ、にーちゃん」
優希「なんだ?」
木綿季「暇だしさ、お嬢様言葉で話すゲームやらない?」
優希「ンだそりゃ?」
木綿季「お嬢様言葉で話すゲーム」
優希「生産性のねぇゲーム過ぎんだろ――――よろしくてよ」
和人「!?」@たまたま目撃した
12月19日 放課後
都内進学校 教室
全ての授業が終わり放課後を迎えた。
担任が簡単な挨拶を手短に終えて、学生達にとっては待ちに待った時間。
次の日が休みと言うこともあってか、周りの学生達は幾分か騒がしい。
放課後にマックに誘う男子生徒がいれば、これからどこに行くかと計画を建て始める数名の女子生徒。あくびを噛み殺して部活に向かう生徒もいれば、いそいそと帰り支度をし始める者もいる。
多種多様。
学校と言う集団生活において一貫性などない。誰もが異なる反応をみせ、異なる感情のまますごし、それは喧騒となり狭い教室を騒がしく彩らせていた。
私はため息を吐く。
別に、騒がしくて嫌、という訳ではない。
気持ちは解る。私も似たような気持ちだ。これからの予定を考えると、胸が弾む気持ちにもなる。
考えるだけでも高揚する。
正に足が浮き立つというものだ。何もなければ、鼻歌の一つでも口ずさんでいるかもしれない。
幸か不幸か、そんな愉快なことにはならなかった。
となれば、私に何かがあったことは明確。実際にあった。目の前で、6人、いいや7人。私の前にいる男子生徒と女子生徒。腕っ節の強そうな男子もいれば、気の弱そうな女の子もいる。
正に多種多様。一緒にいる事が不自然といったような、一貫性のない生徒達が私の前にいた。
代表格の女子生徒。
一歩前に進んで思いっきり頭を下げて。
「朝田さん、お疲れ様です!!」
彼女の一言が号令となり、一斉に「お疲れ様です!」と頭を下げながら続く。
息がぴったりだ。思わず感心するくらい、頭を下げるタイミングもバッチリだし、声も綺麗なくらい揃っている。きっと相当練習したのだろう。かく言う私も
いいや、感心している場合じゃない。
思わず私は頭を抱える。
辺りを軽く見渡す。
何事かと、手を止め足を止め口を閉ざした生徒達は遠巻きにこちらを見る。だが騒がしい元凶がわかると「何だ朝田達か」と見慣れた光景だったように、直ぐに直前まで行なっていた談笑であったり相談であったり歩みを進めていく。
冗談じゃない。
私――――朝田詩乃にとってこんなの見慣れたものじゃない。
何だで済ませてほしくない。まるでこれでは、私が彼ら彼女らを纏めている中心人物のよう。
どうしてこうなったのか。
最初は遠藤だけだった筈だ。なのにいつの間にか増えてる。影で朝田軍団とかふざけた呼ばれ方をしているらしいが、本当に冗談じゃない。私が求めるのは平穏な学校生活。誰が一大勢力を築く事を望んだのか。少なくとも私は望んでない。もっと静かに暮らしたい。
眩暈がするが気のせいではないだろう。
目頭をきつく押さえて、恐らくは諸悪の根源であろう代表格の彼女――――遠藤に声をかける。
「……あのね、遠藤」
「はい、なんでしょう! パン買ってきますか!」
「いいえ、今はいいわ。何度も言ってるんだけど、やめてくれないそれ?」
切実な訴えだったと思う。お願いするように、懇願するように、勘弁してもらえないか訴えるいじめっ子のように、私は遠藤に訴える。
でも遠藤は首をかしげて。
「それとは?」
「……ごめんなさい。ハッキリ言わなかった私が悪かったわ」
本当に私が悪い。
彼女に気を使った私が悪かった。
ここはやはりガツンというしかないようだ。
ニッコリと満面の笑みで。
感情のまま怒りを隠し、冷たい声色で遠藤に再度お願いをする。
「私に付き纏うの、やめてくれない?」
「そ、そんな! 私のこと嫌いになったんですか!?」
「いや、最初から貴方のことは好きでもないし」
「塩っ!? なんって塩対応! でもアレですよねっ。嫌も嫌も好きのうちってヤツですよね!?」
「いや、嫌も嫌も嫌なものは嫌なんだけど」
「ありがとうございます!!」
コイツ無敵か?
何を言っても通じないようだ。むしろどこか喜んでいる節がある。頬を染めて、鼻息を荒くして、どこか興奮している彼女に、若干の嫌悪感を抱きながら私は素朴な疑問を口にしていた。
「……それで何で増えてるの?」
「増えてるとは? ……あぁ、コイツらですか」
おい、挨拶をしろ! と遠藤が言うと一人、前に進み出る。いや本当に挨拶なんて求めてないから、そういうの止めてほしい。
でも私の願いなど彼ら彼女らに届かないようで、一歩前に進み出たメガネをかけた男子生徒は興奮気味に口を開いた。
「は、初めまして朝田さん! 自分、霧夜って言います!」
「初めまして。あと、タメ口でいいから」
年下、ということはないだろう。
だがその辺り不安だ。キリトという童顔のせいもあり、私の観察眼も大したことがないことが思い知らされたばかり。年下だと思っていた男の子が、実は年上でしたなんて節穴にも程がある。
どちらにしても、仰々しく来られても困る。
普通に接してほしいのだが。
「そんな恐れ多い!」
ぶんぶん、と風切り音が聞こえそうなくらい首を横に振られてしまった。
恐れ多くない。是非ともその態度はやめてほしい。本当にやめて。
「あのっ、自分ガンゲイル・オンラインをやってまして、先日のBoB拝見させて頂きました。カッコ良かったです!!
カッコ良かった、なんて他人に言われても、普段の私であれば何も感じなかっただろう。私にとって他人からの賛辞はどうでもいいもので、褒められても実のところ何も嬉しくもない。
でもあの時の、第三回BoB本選での賛辞は別だ。
あの戦いは、あの数時間のひと時は。私にとって人生を左右するものであり、忘れられない貴重な時間。
私の全てを賭け、私の用いる力を使い挑み、そして遂には
それが、カッコ良かったといわれるのは悪い気がしない。むしろ少しだけ気分が良くなった。
「……ありがとう」
「シノンさんって呼んでいいですか!?」
「ここでその名前で呼ばれるのはちょっと……」
それはそれこれはこれ。
いきなり名前呼びされたみたいで、それはそれで不快な気持ちになる。我ながら難儀な性格だ。
しょうがない。
嫌なものは嫌なのだ。
特別に仲が良い訳でもないのに、いきなり名前で呼ばれて不快に思ってしまうのだから仕方ない。漸く名前を呼んでくれる様になった
「わかりましたっ、詩乃さんって呼びま――――」
「テメェ! 何考えてんだコラァ!」
「そうだ! このクソにわかが! 私だって名前で呼びてぇのに! お前は恐れを知らねぇ勇者か!」
「私だって詩乃のんって呼びたい!!」
「今言ったヤツ、何段飛ばしてんだッ! 苗字にさんを付けろよデコスケ野郎!」
「野郎じゃありませーん! 女ですぅ! 正しくは女郎ですぅ!!」
「ちくわ大明神」
「戦争かぁー? ひき肉にしてやるぞー?」
名前はもっと止めて、と言う前に取っ組み合いが始まってしまった。
わちゃわちゃ、と罵詈雑言を吐きながら。だが殴り合いにまでは発展しない。騒がしいのは変わりないのだが、他人に迷惑をかけない程度の騒がしさ。器用に周囲に不快に思わないくらいには、配慮されていた。
気を使うにしてもどこかズレている、と思いながらため息を吐く。
もしかしたら、関係のない人達に迷惑をかけて、私に悪評が立たないように彼ら彼女らは気を遣っているのかもしれない。だとしても、もっと違うところで気を遣ってほしい。例えるのならそう。私に付き纏うのをやめるとか。
「遠藤」
「はいっ」
気持ちのいいくらい通った遠藤の返事。
同時に、戯れ合い染みた取っ組み合いも止めて、遠藤の後ろで横並びに整列する。教育が行き届いている。その努力を違うところに使ってほしいと思いながら。
「私に用があったんじゃないの?」
「そうでした!」
「それじゃ何しに来たの? 端的に教えて。無駄を省いてね」
「はいっ」
遠藤は元気良く言う。
「茅場さんが校門前で待ってますっ!」
あれから、私は遠藤を迅速果断に振り切り、校門前で待っていてくれた
先輩が私を待っていたのは、もちろん偶然ではない。
少しでも一緒にいたかった私の我侭を聞いてもらった。つまりは、放課後に予定があるか聞いて、時間があれば、ダイシーカフェで催される宴まで私と一緒にいよう、と誘ったわけだ。我ながら何と言う行動力だ。先輩に予定があるから無理、といわれた日にはその日一日ブルーだったかもしれない。本当に先輩と時間が合ってよかった。
とはいっても、校門前で待ってくれていたのは予想外だった。
連絡をくれる筈だったのだが、どうやら先輩なりのサプライズも兼ねていたらしい。
そういうところが可愛らしい。驚かせようとしてくれたのだろう。良い意味で子供らしい。
いつも仏頂面の先輩がそんなことをするのは、破壊力があると思う。
ギャップというやつだ。嬉しさで心が躍り、思わず周りに見せ付けようとするが何とか我慢。
私も必死だ。
クールを装いながら、内心は湧いている。
一人じゃなくて良かった。もし私がこのまま先輩と別行動を取った日には、暫くはニヤケ顔になることは目に見えている。
しかしこうして、二人で歩くのは久しぶりだ。
形振り構わず、先輩に認めてもらおうと駆け、先輩が仮想世界で何を見出したのか理解しようと遮二無二に行動していたのが、今となっては懐かしい。
無駄とは言わない。
これまでの行動はこうして、先輩と過ごすために。だとしても、先輩と離れた日々に比べたら、苦痛そのものであった。
そう考えると今の私は幸福そのものだろう。他愛もなく、ありふれた日々を先輩と共に過ごせるのは、今まで戦ってきた私への最大の報酬といえる。
漸く勝ち取った幸せを噛み締めている私に対して、先輩は前方を見ながら。
「随分遅かったな」
「えぇ、変なヤツに絡まれてて」
思い出すだけでも疲れる。
今まで、私が気に入らないと絡んできていた彼女はもういないようだ。絡んでくるのは犬のような遠藤。駄犬なのか、忠犬なのか、良く解らない
余所行き用の猫を被っていない先輩は、私にとっては見慣れた仏頂面で少しだけ考えて。
「変なヤツ……。あぁ、遠藤か」
「えぇ、最近また酷くなったのよ」
そこまで言うと、先輩は立ち止まる。
その表情は相変わらずの仏頂面だがどこか難しそうなもので、雰囲気が若干であるものの剣呑なそれを纏っている。他人には分からずとも、後輩である私には分かるのだ。
「酷くなったって、どんなだ?」
そこで私は理解する。
先輩は違う事を想像しているようだった。
私が昔のように、遠藤に理不尽な感情を向けられている、と彼は思ってくれていたようだ。
先輩には申し訳ないが、そこまでシリアスなものではない。もっと奇天烈で、笑い話にしかならない内容だ。当事者の私としては、全く笑えない状況であるのだが。
「大丈夫よ。別に敵意があるとかそういう類じゃないから」
「……そうか」
端的に呟いて、仏頂面であることは変わりなく、口調もぶっきらぼうであるが、穏かそのもの。
心配してくれた事実に私は笑みを零しそうになるが何とか我慢。困ったように、誤魔化すように、演技するように私は片手で額を抑えて。
「妙に慕ってくるというか、前よりもそれが増しているというか……」
そこまで言って、私はふと考えた。
そう言えば人数が増えていた。というか、日に日に増えている。どうしてか少しだけ考えて。
「BoB見たって言ってたし、それが原因かも」
「だれだけが原因じゃねぇけどな」
小さくポツリ、と先輩が呟く。
きっとそれは思わず出た言葉だったのだろう。それを証拠に、誤魔化すように先輩は「行くぞ」と再び歩き出した。
だが甘い。
見くびらないでほしい。
貴方の後輩は、常に貴方の発言に耳を傾けている。先輩の言葉であれば一言一句を聞き逃すわけがない。だって私は先輩の後輩なのだから。
捻くれ者だけど誰よりも思慮深いあの人を追いかけて、私は追及する。
「ねぇ、先輩。やっぱり何かしたでしょ?」
「別に、何も」
「ふーん?」
どれだけ誤魔化すのが下手なのだろうか。同時にそれが解る私の成長具合も、我ながら眼を見張るものがある。
少し前の私であれば、違和感しか覚えず確信にまでは至らなかったと思う。しかし今は違う。先輩が何かをしたのは明白であり、遠藤がある意味で私に対して以上に先輩に対して絶対服従であるのも納得がいく。間違いなく先輩は、遠藤に何かをしたようだ。
これ以上追求するは止そう。
先輩が何も言わないという事はいつものことであり、遠藤を何とかしたのだって私を思っての行動だったのだろう。
私にはそれだけで充分だ。
両肩を竦めて、呆れた口調で私は言う。
「まぁ、いいけどね。騒がしいけど、便利といえば便利だもの。新川君も使えるものは使っておけばいいよ、って言ってたし」
「恭二が?」
「えぇ。妙に遠藤の扱いが上手かったわね。そういえば」
「らしいといえばらしい。アイツも腹黒いからなぁ」
そこまで言うと、仏頂面であった先輩の口元に小さな笑みが零れるのを、見逃さなかった。
先程、私は幸せといったが、それは正確ではない。
厳密に言えば、現在甘受出来る範囲での最大の幸せだ。今ここにいない先輩のもう一人の後輩――――新川君がいれば、私はもっと幸福であったに違いない。
彼はここにはいない。
学校も転校しており、私も彼が現在どこにいるかわからない。
私が彼が
彼は戦い、勝利した。
彼の友人として、私は誇らしい。
対する先輩は、どこか寂しそうだった。
勿論、様子は変わらない。口は悪く、新川君のことなど気にも留めてない様子だったが、確かにその背中は寂しそうであった。
「おい、詩乃。ボーっとしてんじゃねぇ。危ねぇだろうが」
「あっ、うん」
ぼんやりと立ち止まり、先輩の背中を見ていた私に、彼は立ち止まり振り返る。
どこか奇妙な光景だった。ずっと前だけ見て、一人で進み続けていた先輩が、私のために立ち止まり振り返る。
それが嬉しくて、我慢が出来ず口元に笑みを浮かべてしまう。
足早に彼に追いつき、私達はまた歩き始めて。
「そういえば先輩、いつから新川君を名前で呼ぶようになったの?」
「ンなもん、覚えてねぇよ」
「ざっくりでもいいから。覚えてないの?」
私のどうでもいい疑問に、うーん、と先輩は考えて。
「オマエが急に音信不通になった辺りからじゃねぇか?」
「こふっ」
胸を押さえる。
吐血しないが、気分は血反吐を吐いている。仮想世界では曲がりなりにも狙撃手である私がアウトレンジから狙撃された様な錯覚を覚えた。
苦しそうにしている私を見て、先輩は呆れた口調で。
「何しとんだ急に?」
「いえ、過去の過ちから来るダメージが……」
はぁ? とよく解ってなさそうだったが、それ以上聞かないでいてくれる先輩に私はありがたくなってくる。流石は先輩、思慮深い。
本当に助かった。無駄な時間とは言わないが、先輩と連絡を絶っていた日々を考えるのは辛いものがある。出来る事ならあまり思い出したくもない。
頭を振るう。
違う事を考えるために、これから起きる楽しい催しを考えながら、違う話題を振る。
「先輩は後から来るんだっけ?」
「あぁ。先に用を済ませてから行く」
「そっか」
一緒に行けないのは残念だ。
先輩とはここで別行動になるのだが、目的地は同じダイシーカフェ。
BoBでのトップ3でもあった私とキリト、そして優勝者の妹ちゃんを店長さんが祝ってくれるらしい。
実のところ、私は楽しみでいた。
ダイシーカフェのデザート。中でもパンケーキは格別だ。それを好きなだけ食べてもいいというのだから、テンションも高くなるというもの。この日のために数日前から食事も我慢してきたし、体調はバッチリだ。
それともう一つ。
私は何が何でもしなければならない事がある。
「なんだ?」
「いいえ。今回に限っては先輩がいない方が都合がいいかなって思っただけ」
並々ならぬ決意を秘めた私を察したのか、先輩は尋ねてくるが流石にこれは言えない。
これはある種の決着であり、宣戦布告でもある。私一人で告げないと意味がないものだから。
「それじゃ、先輩また後で」
「あぁ」
そうして私達は別れる。
先輩は立ち止まり、私はそのまま歩を進める。
各々進むべき場所が違うのだから、別れるのは当たり前である。
「詩乃」
先輩はそんな私を呼び止める。
振り返り、私は先輩を視界に収めた。
やはりというべきか、仏頂面でぶっきらぼうで、目つきの悪い私の先輩は一言だけ。
「気を付けてな」
「うん。先輩もね――――」
それから私はダイシーカフェの前に立っていた。
何度も通った木製の扉の前で、私は深呼吸をしていた。
簡単な事だ。
ドアを開き中に入るだけなのに、たったそれだけのことなのに。
「ふぅ」
私は酷く緊張している。
これから私が行なわないとならない清算を考えると、心臓が高鳴ってくる。
どんな顔をされるだろうか、どんな言葉を聴くことだろうか。喧嘩になったらどうしよう、と考えるのは私らしくない。つい最近まで出し抜いてやろうと暗躍していたのに、どういう風の吹き回しだろうか。
仕方ないと思う。
戦うからには正々堂々と。
卑怯な事を抜きにして、
しかし、ここで尻込みしても始まらないのも事実。
意を決して私はドアを開けて店内へと足を踏み入れる。
「いらっしゃい――――って、今日の主役の一人じゃないか」
カウンターには店長さん――――アンドリュー・ギルバート・ミルズさんがエプロン姿で立っていた。
ガンゲイル・オンラインにいそうな屈強な姿で、手馴れた手付きでコップを磨いている姿を見て、幾分か私は冷静になっていく。
「こんにちは、店長さん。今日はお招きありがとうございます」
「おいおい、仰々しいな。リラックスして、楽しんでくれよ。このパーティーはお前さん達を祝うものなんだからさ」
「えぇ、そうさせてもらいますね」
私はそういうと、カウンター席に腰をかける。
店内には数名の姿。貸切と聞いていたので、ここにいるのは店長さんに招待された人達ということになるのだろう。
主役の一人、ということもあってか私を見てくる視線が多い。
その中で「あの子がユーキの後輩か」と呟く声を聞き逃さなかった。横目で確認すると、口にしたのは革ジャンを着ている額に個性的なバンダナを巻いている男の人だ。
そうです。
私が先輩の後輩です、と誇らしげに思っていると。
「ところで、優希はどうした?」
「先輩なら用事を済ませてから来るって言ってましたよ」
「用事ねぇ。また悪巧みか?」
「どうですかね? 先輩だしありえるかも」
悪巧み、というよりも暗躍。
どうやら先輩は仲間内でも、影で行動していると思われているようだ。
私は思わず笑みを零す。
私の知らない先輩を知る人と、私の知る先輩が合致して、どこか嬉しさを感じる。
やっと、初めて。漸く。
先輩を囲う輪の中に入れた気持ちになった。
そこでドアを開けて、
「いらっしゃい」
「ドリューさんこんにちわー」
聞き覚えのある声。
私はカウンターから立ち上がり、その人物へと視線を向けた。
先輩と同じ帰還者学校の制服に身を包み、カバンを両手に持ち、満面の笑みを浮かべている栗色の綺麗な長い髪の
待ち人が来る。
私は高まる鼓動とは真逆に、平静を保ち、冷静な口調で。
「明日奈さん」
「あっ、詩乃さん!」
対する明日奈さんは笑みを浮かべたまま私に駆け寄り。
「ビックリしましたよー。詩乃さんってGGOやってて、優希くんと戦ってた人だったなんて」
「えぇ、実はやってたの。見てくれてました?」
「えっと、ごめんなさい。ちょっと用事が出来て、わたし途中から見れてなくて……。でもハイライトで見させてもらいました!」
申し訳なさそうに言うと、直ぐに表情を変えて興奮気味に、カッコ良かったです! と彼女は言ってくれた。
本当に表情がコロコロ変わり可愛らしい。私にはない愛想の良さで、先輩が放っておかないのも解る。
「ありがとうございます。明日奈さんにはお世話になりました。貴女に背中を押してくれなかったら、先輩と向き合うことなんて出来なかったから」
「わたしは何もしてませんよ。わたしはお話を聞いただけです。答えを出したのは詩乃さんですよ」
ニッコリと、花の咲いたような笑みを明日奈さんは浮かべる。我が事のように嬉しく思ってくれているのが伝わってくる。
「ううん、貴女のおかげ。先輩が特別視するのもわかる気がする。譲る気はありませんけど」
「えっ? それはどういう――――」
私の言葉に理解が出来ないのか、首を傾げる姿も愛らしい。
でも譲れない、これだけは譲れない。
これは清算だ。彼女の善性に漬け込み、出し抜こうとした私はこうして彼女に堂々と真正面から宣言をする。それでこそ先輩の後輩なのだから。
私のもう一つの目的、先輩はいない方がいいと言った意味。
それはつまるところ宣戦布告。同じ人を好きになった人へ、投げた手袋を拾ってもらうために、打算抜きで堂々と先輩を奪い合うために、私は彼女に真正面から向き合う。
笑みを浮かべて、手を差し出し───告げる。
「改めて自己紹介させてもらいます。朝田詩乃って言います。これから、よろしくお願いしますね?」
「えっ、えっ? あ、はい。結城明日奈ですよろしく――――」
混乱している彼女はそれでも応じる。
差し出した私の片手を握り、握手をしながら。
「朝田。えっ、朝田? ん、んん?? あれ……?」
ここで何となく察しつつある彼女にトドメを刺すかのように。
「はい。茅場優希さんの後輩の朝田です。先輩がいつもお世話になっています」
「朝田って、詩乃さん……? 朝田くんじゃなくて朝田さん……? あれ、あれ?」
それから数秒固まり。
「え、えええええぇぇぇぇぇぇええええええ!? 嘘おおおおおおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉ!?」
絶叫。
試合開始のホイッスルのように、それが合図になったかのように、私と彼女の長い付き合いが始まるのだった――――。
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同時刻
都内某所 喫茶店
詩乃と分かれた優希は一人、喫茶店の席に腰掛けていた。
何をするでもなく、窓の外から見える風景を見ている。観察しているわけでもなく、何者かを警戒している様子もない。ただ単純に、何もすることがないからボーっと風景を眺めていた。
テーブルの上にはコーヒーが入ったカップが置かれていた。
湯気が出ており、置かれて間もない事がわかる。
時刻は定かではないものの、太陽が傾き空は茜色に染まっている。
くたびれたサラリーマンが帰路に着き、まだ遊び足りないのか快活な笑みを浮かべた学生服を来た少年少女がすれ違う。その光景を見て、まるで自分のようだと、ぼんやりと優希は既視感を覚える。歳が近く、同じ学生という意味では通常は後者だろうと予想出来るのだが、優希が既視感を覚えていたのは前者の方。くたびれたサラリーマンの方である。
もちろん、優希は年齢を偽り、実はサラリーマンだったという驚愕の経歴の持ち主と言うわけではない。義妹が読んでいるライトノベルの様な前世の記憶を持つという異世界転生も未経験だ。
労働をしていると言っても、所詮はバイト。学生レベルの労働であり、過剰な業務を強いられているわけでもない。
だというのに、何故か道歩いている、疲れ切ったサラリーマンに既視感を覚え、今となっては親近感すら湧いている始末。
もしかしたら思った以上に、自分が考えている以上に、自分は枯れているのではないだろうかと悟りながら、ソロキャンプと言った趣味でも見つけてみるか、と生産性のないことを考えていると。
「よう」
「あぁ」
短いやり取り。
優希に声をかけてきた人物はいつの間にか近付いて、気配もなく優希に声をかけていた。仮想世界での身のこなしが現実にも反映されている証拠である。
それに驚いた様子はない。
何せ優希が一人で待っていたのはその人物だ。
詩乃に用があるといったのは、彼と待ち合わせをするため。
同じ制服。
つまりはソードアート・オンラインに囚われた者が通う学校。
彼もまた帰還者学校の生徒である事が解る。
その人物が「座ってもいいか」と訪ね、優希は無言で手で座るように促す。
「なに飲んでんだ」
「エスプレッソ」
「俺も同じのを頼むかな」
「好きにしろ」
その人物――――桐ヶ谷和人は店員を呼び、手馴れたように注文していた。
そして店員が少々お待ちください、と笑みを浮かべ立ち去ったのを見届けた後に。
「それで何だよ。俺だけ呼び出したってことは、みんなに聞かれちゃ不味い内容なのか?」
「不味くはねぇよ。ただキッチリ聞いておこうと思ってな」
優希も店員が立ち去るのを横目で確認すると、そこでやっと和人に向き直る。
仲良く談笑、という雰囲気ではない。そもそも、彼らはそこまで気軽に世間話をするような仲でもない。顔を合わせればいがみ合い、軽口を叩き合う間柄である。そんな2人をクラインこと壺井遼太郎は悪友と称していたが、お互いにノータイムで否定している。
だとしても違和感。
皮肉の一つや二つを言うこともなく、有無を言わさない様子でいる優希に、和人は幾分かの違和感を覚えていた。
「死銃事件の顛末、お前なら聞かされてんだろ」
「まぁ、正式に依頼を受けてたの俺だしな」
そこまで言って、和人は意外そうな表情で。
「お前は何も聞いてないのか?」
「捜査中だから答えられないだとさ。菊岡さんって言ったか。オレは随分と警戒されているらしい」
「あー……」
自嘲する様に皮肉気な笑みを浮かべる優希に対して、和人には心当たりがあった。
政府の役人とはいくつもある顔の一つであり、調べては見たものの和人も彼が何者なのかいまいち把握しきれていない。
腹に一物を抱えているような食えない人物。それが和人に今回の死銃事件の調査を依頼した人物――――菊岡誠二郎という男だった。
そんな彼が明確に、茅場優希が理解できない存在であると、口を滑らせていたことを思い出す。
狂気の天才――――茅場晶彦の家族であった事をあっさりと認めて、自分を勘定に入れていない思考と行動をする優希を、彼は不気味であると口にしていた。自分の物差しで把握しきれない、理解の外で存在する優希を、菊岡は化物に見ているのだろう。
故に、菊岡は優希を信用していない。
信用していないからこそ、死銃事件の全容を話すことを避けたのだろう。
「渦中にいたオマエなら知ってるだろうと思ってな。話せないんだったら別に良い」
「いいよ。いずれはお前の耳にも入る事だし」
とはいっても、和人には関係がなかった。
菊岡が信用していないようであるが、和人は違う。癪であるが、茅場優希は悪人でないことは嫌ってほど理解しており、彼には知る権利があると思ったから。
有無を言わさなかった優希の違和感の正体。
それがなんなのか把握し、彼には知る権利があると感じ、和人は敢えて問う。
「お前が聞きたいのは新川恭二――――お前のもう一人の後輩がどうなったか、だろ?」
「…………」
優希は何も言わない。
つまりはそれは図星と言う事。
突然消えた――――訳ではない。
優希と新川恭二の間で離別の言葉があり、優希も納得しているのだろう。そうでもなければ、目の前の男がこうして冷静である筈がない。彼と恭二の間で別れの言葉があり、それでも優希は気にしている、と和人推理をして、事実だけを口にする。
「実際、彼は計画に加担してないし、ゼクシード――――茂村保の命も救ったこともあって、情状酌量の余地ありって判断されているらしい。どっかの誰かさんが、菊岡さんに直談判しに行ったのも効いてるみたいだな?」
「……何が言いてぇんだオマエ」
「別に。本当に暗躍するの好きだなお前」
「暗躍なんざしてねぇ。オレは事実を口にしただけだ」
なんと素直でない言葉なのだろう、と和人呆れた表情で見る。
対する優希はカップに入っているコーヒーを口にして、涼しい表情で受け止めていた。
心配だからあずかり知らぬところで、菊岡に直談判しに出向いたのだろうと、と思わず言おうとするが口を閉ざす。指摘したところで、目の前の捻くれ者が「そうだ」と素直に肯定するわけがない。あの手この手で言い逃れるに決まっている。指摘するだけ無駄、と判断した和人はからかうような口調で。
「にしても面倒な人に借りを作ったな。ただの役人じゃないぞあの人」
「構わねぇ。いずれは返せる借りだ」
それだけ言うと、今度は優希が皮肉気に口元を歪めて。
「それともなんだ、オマエはオレの心配でもしてんのか?」
「……誰がお前の心配なんて」
今度は和人がやり返される。
同時に店員が注文していたコーヒーを入れたカップをテーブルに置き、和人に向かってお待たせしました、と声をかけた。
ナイスタイミングだ。
和人は誤魔化すようにカップを持ち、息を吹きかけ熱を冷ましながら、コーヒーを口に運びながら。
「新川昌一、赤眼のザザ。恭二君の兄で、今回の事件の主犯だが、ずっと黙秘を続けているらしい」
「黙ったところで、恭二が全部証言するだろう」
「そう。どちらにしても、医療少年院に収容されるだろうってさ」
そうか、と優希が興味なさそうに口にする。
全て終わった今となっては、終ぞ新川昌一が何故自分達を狙っていたのか解らなかった。
何せ、和人や木綿季は邂逅する事が叶わず、唯一相対した優希も動機が解らなかった。私怨によるものなのか、復讐心から来るものなのか、それとももっと根深い和人が与り知らぬ事情があるのか。黙秘を続けている以上、和人が知る事はないだろう。
「問題はもう一人。金本敦、ジョニー・ブラック。ザザと一緒に
「覚えてねぇよ。蹴散らした雑魚のことなんざ、いちいち記憶に留めておく必要もねぇだろう」
どこまでも素直ではない。
覚えていないわけがない。彼が周囲に害を及ぼす可能性がある人物を忘れるわけがない。新川昌一こと赤眼のザザのことも、ジョニー・ブラックのことも、彼は記憶している筈だ。それなのに優希は何も言わない。たかが雑魚と嘲り、小石程度の存在と気にも留めていない素振りをする。
目の前にいる男を和人は、自然と生暖かい眼で見ていた。。
その呆れ返った眼が不快に感じたのか、優希は訝しむ表情に歪めて。
「……なんだ?」
「いいや、何でもない」
話を戻すぞ、と強引に話題を戻して。
「こいつはまだ捕まっていないらしい」
「……オレ達に復讐するって可能性は?」
先程よりも眼光が鋭くなった優希の言葉に和人は首を横に振って。
「それはありえないだろう。そもそも金本はBoB本選前に雲隠れしているらしい。そんなヤツが、復讐しになんて来るとは思えない」
「……随分とタイミングが良いな」
「確かに、いいや良すぎる。捜査の手が伸びる前に消えるなんて、勘が良いってだけじゃ説明がつかない」
「しかも、
「ザザだけが、俺達を殺す気で、ジョニーは特にやる気はなかった可能性は?」
優希は少しだけ考えて、いいや、と和人の口にした可能性を否定する。
「ありえねぇよ。そんな野郎が死銃計画なんて乗ってくるわけがない。金本もオレ達を殺したくてたまらなかった筈だ」
そこまで言うと、腑に落ちない様子で優希は和人に問う。
「これで全員か? 他に協力者はいないのか?」
「あぁ。菊岡さんが調べた関係者は、これで全員らしいな」
納得がいかない、と優希は難しい顔をして黙り込む。
対する和人はその姿を見て疑問に思った。何かが足りない、と押し黙り考える優希に向けて、どうしてそんな表情を浮かべているのか気になり疑問を投げる。
「何か気になることでもあるのか?」
「あぁ、ストレアの邪魔をしたヤツがいる」
「邪魔って、何をしたんだ?」
「
そういう前提があるのなら、優希の反応にも納得がいく。
確かに足りない。計画を途中で抜けた恭二、計画を一人で推し進めた昌一、裏切るように計画から逃げた金本。そうなると一人、邪魔をした何者かが足りない。
菊岡が知らない、ということは供述している恭二も知らないということにもなる。
昌一は黙秘を続け、金本も逃走していることから、その人物が何者であるか調べる術はない。完全に正体不明な四人目の共犯者。もしくは、その四人目こそが真の主犯格である可能性が高い。
それが誰なのか考えながら、和人は苦笑を浮かべてストレアの行動力に戦慄を覚えながら。
「……さらっと言ってるけど、とんでもないことしようとしてたな」
「未遂に終わったけどな。黒い霧みたいなヤツが邪魔してきたらしい」
「……気味が悪い。何が狙いなんだ」
「もしかしたら、そいつが金本を逃がしたのか。どちらにしても、材料が少なすぎる。いくら考えても埒が明かねぇよ」
優希の言うとおり、考察しようにも推理を始めようにも、材料が少なすぎる。
もしかしたら、四人目の共犯者なんていないのかもしれない。恭二が知らないだけで、昌一がやった可能性があるし、金本が何か細工した可能性もある。どちらにしても、驚くべき事実であることは変わりない。何せストレアが邪魔をされて、特定に至らなかったのだ。AIすらも突破できなかった技術力は、生半可なモノではない筈だ。
とはいっても、現状における主犯格は捕まり、協力者は逃走中。
菊岡の話では時期に捕まるようでもあるし、和人は楽観的に考えながら、試すような口調で優希に問う。
「それでどうする? 金本の動向探るのか?」
優希は少しだけ考えて。
「いいや、菊岡さんに任せる」
和人が眼を丸くして優希を見るが、彼の反応も無理もないだろう。
何せあの茅場優希が、大抵の事を自分だけで進める男が、他人に任せると口にした事実。それが和人にとって衝撃的なことであった。
へぇ、と呟いて和人は意外そうな口ぶりで。
「珍しいな、お前が他人に任せるなんて。少しは大人になったのか?」
「馬鹿か。オレが少しでも利口で大人だったら、詩乃が泣くことはなかった筈だ」
自嘲気味に口にした優希は、窓の外に眼を向ける。
今までの自分の行動を省みるように、遠い眼をしながら優希は続けて言う。
「結局、オレはクソガキのままだった。オマエに負けて、ちょっとは自分の中でケリが付いたかと思ったが、何も変わっていない。燻ったままだ」
その言葉には苛立ちがあり、憤りがあり、怒りがあった。
何も変わってない自分に対しての怒り。失いたくないからと突き放し、自分以外傷つく事を許さないと傲岸不遜に黙し、我慢できないまま走り続ける。
まるで変わっていない。あの頃のように――――ソードアート・オンラインに囚われたままのように、何も成長していないと優希は断ずる。
だからこそ、彼は魅せられたのだろう。
突き放しても心が折れても、それでもと歯を食いしばり立ち上がった後輩に。
自分に出来ることを弁えて、その範囲で命懸けで事に辺り終ぞ身内の凶行を止めた後輩に。
変わらぬまま進み続けた自分に、変わった二人の後輩はいつの間にか肩を並べていた。
いいや、優希の中では肩を並べているという認識はない。むしろ、二人に追い越された、と思っていた。
突き放したと思っていた、がそれは違うと自分と向き合った詩乃。自分の知らないところで行動し、遂には自分が出来なかった事を達成した恭二。
誇らしかった。
そんな二人に先輩と慕われているのだから、少しでも誇れるように、どうしようもない我が身なれど、自分も変わらなければならないと考えていた。
「オレは恵まれている。オレが間違っても、ぶん殴って止めてくれるヤツらがいる。とはいっても、甘えたままじゃいられねぇ。少しずつ借りを返さないと筋が通らない。そうでなきゃオレがオレを許せなくなる。───許すつもりもねぇがな」
そこまで呟き、再び優希は和人に向き直る。
その静謐に燃える蒼焔を秘めたかの様な双眸は真っ直ぐなもので、久しく見る絶対強者の眼差し。生物としての本能的な恐怖さえも楽しみながら、コイツのこんな眼を見るのはいつ振りであったか、と和人は考えて。
「最初はオマエだ、桐ヶ谷」
「具体的に何をするんだ?」
それは直ぐに思い出される。
「オレと、もう一度戦え」
「――――――――」
そうだ、と。
この眼は自分達が競い合っていた頃に向けられたモノ。
決着は付いたなんて言い訳をしていた、燃え尽きたような眼をしていた優希ではない。
気に入らないと、目の前の男に負けたくないと、我武者羅に勝負を楽しんでいた頃の
きっと
それを証拠に、魂に熱が宿り、心のそこから沸き立つ衝動を覚えている。
「お前は俺と戦いたいのか?」
「言ったろ、燻ったままなんだ。オマエに負けて、大人ぶって悟ったつもりでいたが、全く駄目だな。オレはオマエに勝ちたがってる。そう魂が叫んでいやがる」
二人とも同じであった。
片や勝ちはすれど納得はいかず、片や負けて無理矢理納得しようとした。
されど両者の心は燻っており、一人は再戦を望み、一人は心に蓋をしようとしていた。
結局のところ、二人とも納得していない。
オレはまだやれると、俺のほうが強い、と決着などと思っておらず、戦いが終わるなどと考えてもいない。
優希にとって、和人に借りていたモノとはそいうことだ。
色々な連中に出来た借りを返すために行動する上で、桐ヶ谷和人に借りてたものとは敗北そのもの。
「あの時負けた借りを、オマエに返す。オレと戦え、桐ヶ谷」
「俺だけ借りを返す意味が違うんじゃないか?」
苦笑を浮かべようと、クールを装うとするが、上手く笑えただろうかと和人は思う。
確かに笑えた事だろう。だがそれはクールとは真逆のもの。来るべき闘争に心が躍る剣士のような、凶暴で狂猛なそれだったに違いないと和人思う
何せ目の前の男も、自分が追いかけて来た男も、自分と同じ気持ちだったのだ。
――あれが決着だなんて馬鹿馬鹿しい、
――俺が勝ったなんてどうでもよく
――オマエが負けたなんてありえない。
――俺達の決着は、こんな終わりじゃない。
「いいぜ、願ったり叶ったりだ――――」
「――――戦おう
~あとがき~
遂に終わりましたGGO編、別名後輩編。
導入部から考えると、Vol.6からですね。思いの外長くなってしまいました。
完走した感想でございます。
実は楽しかったです。
後輩の一人称を意図的に増やして、後輩の内面を描写が出来たと思います。恋する乙女はあんな感じなのです。理屈ではないのです。パワーなのです。
逆に、難しかったのが優希の扱いでした。
いやまぁ、こういうキャラですし、お前ならそうするだろうな、と思いますが本当に突き放すヤツがあるか、と。一番動かし辛いです。なんなんだよお前。
先輩と後輩がキチンと話す事ができれば、戦う事もなかったという裏設定です。コミニュニケーション大事。
これで後輩も本格参戦と言う事になると思います。
そう、つまりは修羅場です。大変お待たせしました。えっ、待ってないですか? それでも言い続けます。お待たせしました。
番外編では、幼馴染の後輩が早い段階で邂逅して、優希と仲違いをし幼馴染がツンデレになりましたが、今回はどうなるのか楽しみにしていただければ幸いです。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
過去に何度もエタっている身でありますが、メッセージや感想を頂き、そして評価もして貰えて、また執筆をまた始めることができました。
これからも面白いと思って頂けるように努力いたしますので、これからもお付き合い頂ければ幸いでございます。
第二回 貴方の好きなヒロインを教えてください
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