私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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今回の話は憂国のモリアーティを読んだことのある人ならわかるかな


探偵科の授業

食堂で金次君と別れた私は探偵科の授業を受けるために、武偵高内に複数ある体育館ーー第3体育館に向かった。

本日はここで事件を想定した模擬推理・調査を行う。

不謹慎と思われるかもしれないが、想定とはいえ殺人事件の現場に行くのを私はワクワクしていた。

思わず笑みが出てくるが、そこはモラルーー道徳心で抑える。

込み上げてくる気持ちを抑えながら、目的の体育館に到着し、中に入ると既に同級生ーー探偵科の生徒たちは到着していた。

あー、私がビリかな?

 

「あ、零。遅かったな」

 

「遅いよ玲瓏館さん」

 

「珍しいな。いつもなら一番に来るのに」

 

「ごめんなさい。食堂のごはんが美味しくてつい食べ過ぎちゃった」

 

同級生からの問いに、頭をコッツン軽く叩いて、舌を出して答えた。

 

「ははは、見かけに寄らず食いしん坊だね」

 

「スタイルいいんだから気をつけないと太るよ?」

 

「大食いクイーン......いいね」

 

場が和んだ。やっぱり笑いは大事だよね。

そんなことを考えていると、私の後ろから誰かが近づいて来る。

この足音は、

 

「りこりん」

 

「うわ⁉︎なんでわかったの?れいれい」

 

「リズムだよ」

 

振り向くとそこには赤いランドセルを背負ったりこりんがいた。

私を脅かそうとしたのだろうか、その手にはクラッカーを持って。

 

「りこりんは歩く時、リズムよくーーケン、ケン、パ!のリズムで歩いて来るでしょう?あと、カバンが揺れて上下する際に聞こえてくる服とカバンの擦れる音も聞こえた。音の具合からして革の鞄ーーランドセル。この学校でランドセルを背負っている人はりこりんくらいだからすぐにわかったよ」

 

「すご〜い。後ろも見ずに音だけで、しかも僅かな時間で答えを見つけるなんて」

 

「おまけにみんな私の後ろに視線を向けてたしね」

 

「ぶー、それはずる〜い。あと、みんな空気読んでよ」

 

頭に指を当てて、ツノに見立てて「ガォー」と怒るりこりんを見てみんな苦笑いしている。

ちょっと、ズルしちゃったかな。

 

「ハイハイ、みんなこれから授業を始めますよ」

 

ワイワイやっていると先生がやって来た。

ショートカットとメガネが特徴の20代の女性だ。

名前は毛利 サラ先生だ。

私たち探偵科を担当している教諭の1人だ。

 

「それじゃ、みんなわたしの後に付いてきてください」

 

そのまま先生に誘導され、体育館内に設けられた現場ーー約180cm×約180cmほどの部屋に到着した。

部屋は黒焦げている。どうやら、火災現場のようだ。

様々な物が散乱ーー椅子、机、窓ガラスと酷い状態だ。

部屋には死体のつもりだろうか、成人男性ほどの人形が仰向けで倒れているーー腹には折れた椅子の足が刺さっている。

 

「課題を配りますので、回してください」

 

そう言って先生はプリントを配った。

内容を確認してみると本日の課題は、殺人か事故かを当てるようだ。

プリントには被害者のプロフィールや死因なども書かれていた。

 

「司法解剖の結果、被害者の体内からは睡眠薬などの薬物は検出されなかったとあるね」

 

「死因は火災の際に出た煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒か」

 

「えっ、腹部の刺し傷が死因じゃないの?」

 

みんな様々な論議を交えているね。

うん、いいね。ワクワクしてくる。

 

「れいれいはわかったの?何だか嬉しそうだね?」

 

おっと、りこりんに見られていたか。危ない危ない。不謹慎な女と思われていなければいいけど......

 

「うーん、まだわからないかな」

 

「えー、絶対に嘘でしょう」

 

参ったな〜。りこりんが信じてくれないよ。

うーん、わからない時は質問してみよう!

 

「先生、事件当日は被害者は自宅に1人でいたとあります。課題には事故か殺人の二択しかありませんが、自殺という線はないのですか?」

 

「......いいえ、自殺の線はありません」

 

うむ、自殺ではないか......腹に自ら椅子の足を突き刺し、切腹したと思ったが......さすがに現代でそんな事をーーいや、様々な可能性を考慮しよう。

 

「被害者は煙を吸い込んで死んだようですね」

 

「そうだぜ零。司法解剖が証拠になってる」

 

そうなんだよね。煙を吸い込めば誰でも一酸化炭素中毒で死ぬ。

まあ、ミュータントなら死なないだろうけど......現実にいないかな。

 

「じゃあ、何故被害者は腹部に椅子の足が突き刺さっているのだろうね?」

 

「そりゃあ、火事でパニックになってその拍子に刺さって......」

 

「事件は真夜中の2時頃に起きたとある。その時間帯なら大概の人間は寝ているね。おまけに被害者は1人だ。火災が起きても誰も起こしてはくれないだろうね」

 

真夜中だったら私なら熟睡しているよ。火事とか発生したらまず逃げられない。

なんか寝る事を考えると......やばい!なんかウトウトしてきた。

お昼食べ過ぎたか⁉︎

寝る事を考えないようにしないと。

 

「寝てはいない。寝る暇はなかった」

 

「えっ?どういうこと零さん?」

 

思わず口に出しちゃったよ⁉︎恥ずかしい。

どうしよう......眠くならないーーお呪いのつもりだったのに。

なんとか誤魔化さないと。

眠いせいか頭がうまく回らないよ!

 

「被害者は寝られなかっただろうね。腹部に刺さったコレのせいで」

 

わたしは被害者人形に近づき、腹部に刺さった椅子の足を指差す。

動き回れ私!動けば眠くはならないはず!

 

「でもそれは火災が起きた際に刺さったものじゃあ?」

 

「火災が起きる前に刺さったものだとしたら」

 

「そうか!被害者は寝ているところを何者かーー犯人に襲われて、腹部を刺されたんだ」

 

「でも何でわざわざそんな事をしたのさ?殺すつもりなら火を付ければいいじゃん。そっちの方が手っ取り早いと思うけど」

 

「だからさ、犯人は事故死に見せたかったんだよ!考えてみろよ。腹部にこんなの刺さってたら逃げられねえよ。そこに火をつければ」

 

「逃げられない被害者は煙を吸い込んで死ぬ!」

 

「でも何で椅子の足を使って刺したのだろうか?」

 

眠気が覚めてきたぞ!これが現場か⁉︎

なんだか私、ワクワクしてきた!

 

「事故死に見せかける為だよ。火災でパニックになってその際に刺さったように見せかけるためにね。こんなものが刺さっていたら嫌でも意識が残るだろうーー焼け死ぬまでね。その際に肺に煙を吸い込んで」

 

「司法解剖されても一酸化炭素中毒と判断されるでしょう?れいれい」

 

私のセリフを上手く持っていったな〜りこりん。この怪盗め!

 

「私たち一同、この事件を殺人と判断します。どうですか先生?違いますか?」

 

最後に先生に確認を取る。どうだ?

 

「正解です。ここにいる人達は満点でしょう」

 

やったー!正解したよ。何だか複雑な方程式を解いた気分だ。

安心した瞬間、また眠気が襲ってきた。

やばい!

 

「それじゃ私はこれで」

 

「あっ、待ってよ。れいれい!」

 

その場を後にするが、りこりんが付いて来る。

お願い私を寝かせて!本当に眠いの!

 

 

 

毛利 サラ視点

玲瓏館・M・零。

教務科一同から要注意人物とされている生徒。

監視も兼ねてこの探偵科に属させた。

同僚の金田の筆跡分析によれば、モラル意識は破綻しており、冷酷なまでに論理的に行動するとある。

教務科を警戒してか、入学後はなりを収めている。

筆跡も入学前と違いーーモラル意識があると思わせる筆跡だ。

生徒からの評判はよく、面倒見がいい、勉強を見てくれる、困ったことがあったら何でも相談に乗ってくれるなど人気がある。

しかし、私にはわかる。あれは演技だ。

おそらく相談に乗るのは相手を徹底的に分析するための手段だろう。

その証拠に彼女は探偵科では心理学を必ず勉強している。

相手とマンツーマンになれる相談は彼女にとっては最高の環境だろう。

 

 

「司法解剖の結果、被害者の体内からは睡眠薬などの薬物は検出されなかったとあるね」

 

「死因は火災の際に出た煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒か」

 

「えっ、腹部の刺し傷が死因じゃないの?」

 

他の生徒は論議を交わしているのに対し、玲瓏館は黙ったまま現場を観察している。

しかし、気のせいか?同級生の方をじっと見ているようにも見える。

まるでどんな推理をするのか、興味津々だ。

 

「れいれいはわかったの?何だか嬉しそうだね?」

 

彼女の顔が歪んでいるーー笑ってやがる⁉︎

模擬とはいえ事件現場で笑うなど狂ってやがる。

 

「うーん、まだわからないかな」

 

「えー、絶対に嘘でしょう」

 

峰 理子の問いに適当に答えた。

顔は落ち着いた表情に戻っているが、どこかワザとらしい......

 

「先生、事件当日は被害者は自宅に1人でいたとあります。課題には事故か殺人の二択しかありませんが、自殺という線はないのですか?」

 

「......いいえ、自殺の線はありません」

 

突然の質問に私は思わず、男口調で答えそうになったが堪える。

何故、自殺だと思う?

 

「被害者は煙を吸い込んで死んだようですね」

 

「そうだぜ零。司法解剖が証拠になってる」

 

男子生徒の方を見て確認をとる。

 

「じゃあ、何故被害者は腹部に椅子の足が突き刺さっているのだろうね?」

 

「そりゃあ、火事でパニックになってその拍子に刺さって......」

 

落ち着いた口調で話す。いつの間にか彼女は和の中心にいる。

その姿をはまるで生徒に授業を教えている教師のようだ。

 

「事件は真夜中の2時頃に起きたとある。その時間帯なら大概の人間は寝ているね。おまけに被害者は1人だ。火災が起きても誰も起こしてはくれないだろうね」

 

人形を見つめるーーその目はどこか冷たい印象をうける。

まるで何でもないかのように。

 

「寝てはいない。寝る暇はなかった」

 

「えっ?どういうこと零さん?」

 

女子生徒の方を見る。その顔は「これくらいもわからないのか間抜け」と言っているようだ。

 

「被害者は寝られなかっただろうね。腹部に刺さったコレのせいで」

 

彼女は人形に近づき、腹部に刺さった椅子の足を指差す。

ただ立って推理せず、現場を探るとは......行動力はあるようだな。

おそらく、自ら手を汚してでもそれが最大の解決策だと思えば躊躇いなく行動するだろうーーそれが殺人でも。

 

「でもそれは火災が起きた際に刺さったものじゃあ?」

 

「火災が起きる前に刺さったものだとしたら」

 

出来の悪い生徒にわかりやすく教えている。

 

「そうか!被害者は寝ているところを何者かーー犯人に襲われて、腹部を刺されたんだ」

 

「でも何でわざわざそんな事をしたのさ?殺すつもりなら火を付ければいいじゃん。そっちの方が手っ取り早いと思うけど」

 

「だからさ、犯人は事故死に見せたかったんだよ!考えてみろよ。腹部にこんなの刺さってたら逃げられねえよ。そこに火をつければ」

 

「逃げられない被害者は煙を吸い込んで死ぬ!」

 

「でも何で椅子の足を使って刺したのだろうか?」

 

その言葉を待っていたとばかりに彼女の目つきが変わった。

あの目は......犯罪を楽しむ人間の目だ!

 

「事故死に見せかける為だよ。火災でパニックになってその際に刺さったように見せかけるためにね。こんなものが刺さっていたら嫌でも意識が残るだろうーー焼け死ぬまでね。その際に肺に煙を吸い込んで」

 

「司法解剖されても一酸化炭素中毒と判断されるでしょう?れいれい」

 

最後のセリフを峰 理子に取られたことが可笑しいのか、面白いのか、彼女は最後に笑ってみせた。

 

「私たち一同、この事件を殺人と判断します。どうですか先生?違いますか?」

 

最後に私に微笑みかけて確認を取ってきた。

だが、私にはそれが「もっと私を楽しませろ」と挑発しているように見えた。

 

「正解です。ここにいる人達は満点でしょう」

 

私の言葉を聞いた彼女は「つまらない」とばかりに背を向け、

 

「それじゃ私はこれで」

 

「あっ、待ってよ。れいれい!」

 

その場を後にした。

やはり彼女は危険だ。

あれは事件を解くことを楽しんでいるのではない、事件が起こるーー事件そのものを楽しんでいる!

監視を強化したほうがいいな......諜報科にも掛け合ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は理子との会話がメインになるかな......
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