私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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海外ドラマ エレメンタリーにハマりました。今、シーズン1が終わる所です。


それぞれの12月

イ・ウー本部 ボストーク号にて

 

男装の麗人エル・ワトソンは艦内の廊下を歩いていた。

目指す場所はイ・ウーのリーダー『教授』ことシャーロック・ホームズの自室だ。

目的はシャーロックがワトソンの所属する組織ーーリバティーメイソンに頼んだ、''とある人物''の資料を届ける為だ。

その資料はもっているだけ危ういレベルの品物だ。

カッカッと歩くと目的の部屋が見えた。

部屋の前に立つと、コンコンとノックをして、

 

「失礼しますホームズ卿」

 

「入りたまえワトソン君」

 

断りを入れてから入室しようとした時、タイミングを合わせたように部屋の主シャーロックが返事を返してきた。

 

「ホームズ卿。頼まれていた......」

 

入室して早々、ワトソンは手にした資料を渡そうとしたが、そこで手が止まった。

そこは、いつも訪れているホームズ卿の部屋ではなかったーー室内はカオスだった。

床や壁一面に貼られた国・世界地図に、その国で起きた事件の詳細・新聞の切り抜きが辺り一面に貼られ、それらには赤い糸が繋げられていた。

 

「よく来たねワトソン君。さあ、こっちに」

 

室内の中央の安楽椅子に腰掛けているシャーロックがワトソンを招く。

ワトソンは床に貼らた地図を踏まないよう慎重に歩く。

 

「ホームズ卿。これはもしかして、蜘蛛の巣ですか?」

 

「その通りだよ。まだ僕が若い頃、様々な事件に関係性を持たす為、僕が考案したモノだよ」

 

蜘蛛の巣ーー事件を糸で結び、関係性を調べていく捜査方法だ。

ワトソンはこの光景に覚えがあった。

 

「英国にいた頃は、自分の部屋だけでは収まり切らなくてね。それでルームメイトであった、君のひいお爺さんの部屋を.......」

 

「その話なら聞いたことがありますよ。僕の曽祖父、初代ワトソンが『僕の部屋を使われた』と文句を言っていたそうですが......」

 

「あの時のワトソン君はとても嫌そうな顔をしてたね。今でもハッキリと覚えているよ。結婚して部屋を引き払ったというのに」

 

「それと結婚話についてですが、ホームズ卿に『新婚旅行を台無しにされた』とも聞いてます」

 

「それは誤解さ。助けたの間違いだよ」

 

シャーロックは誤魔化すようパイプを咥えて言った。

助けたという話に何かを付け加えるなら、新婚旅行に向かう列車から親友であるワトソンの妻メアリー・モーストンを川に突き落としたエピソードもあるが......

 

「突然どうしたんですか?蜘蛛の巣など作らなくても、ホームズ卿には『条理予知』があるじゃないですか」

 

「ああ、それなんだがね。今回、僕が調べている事件ーー事件の首謀者には『条理予知』が通用しない」

 

「なっ......⁉︎」

 

シャーロックからのカミングアウトにワトソンは驚きのあまり、目が一瞬点になった。

自身の敬愛するシャーロック・ホームズの推理ーー予知のレベルまで高められた『条理予知』が通用しない相手の存在に。

 

「それは誰なんですか⁉︎まさか僕に、リバティーメイソンに調べるよう依頼した相手なんですか?」

 

ワトソンは自身の手にしている茶封筒に目をやった。

 

「まあ、その前に僕の作った蜘蛛の巣を辿ってごらん」

 

ワトソンはシャーロックに言われがまま、彼の作った蜘蛛の巣ーー自分のすぐ手前にあるものから辿っていた。

 

「インドの陸軍将校を巻き込んだスキャンダル......中国の蘭幫上海方面幹部中毒死......ロシアのロマノフ王朝展示会での盗難事件......アメリカ不動産王の事故死......ヨーロッパ鉄道王の病死......その共通点はーーワトソン君、例の資料を」

 

シャーロックに言われ、ワトソンは資料の入った茶封筒を渡した。

受け取ったシャーロックは、ペーパーナイフで封筒を開け、そこから一枚の写真を取り出すと、蜘蛛の巣の共通点・終着点ーーイギリスに写真を打ち立てた。

それは人物写真だった。写真には、手入れの行き届いた金髪を肩まで伸ばし、すらりと脚は長く顔は小顔だが、知的な印象を与える赤い瞳が特徴の麗人の姿が椅子に座って映っていた。

 

「ーーバージニア・モリアーティ3世」

 

「その通り」

 

シャーロックはコックリとうなずく。

 

「ホームズ家そして僕、ワトソン家の宿敵ーージェームズ・モリアーティ教授の直系の子孫ですね」

 

「天才数学者にしてプログラマー。幼少期に何度も革新的なコンピュータプログラムや論文を発表するほどの天才。まさに彼の孫娘だね」

 

「ケンブリッジ大学を首席で卒業。その後は曽祖父と同じダラム大学で講師として勤務。クリーヴランド公・ハワード王子の元家庭教師にして、元女子ボクシングイギリス王者でもありますね」

 

ワトソンは写真に目をやった。

 

「彼女にはリバティーメイソン。そして、MI6による監視が付いていたーーそうだねワトソン君」

 

「はい。モリアーティ一族はリバティーメイソンやMI6だけでなく、英国のあらゆる機関が24時間体制で監視していました。幼少の子供にいたるまでーー彼女も例外なく.」

 

モリアーティの身内というだけで、英国政府から監視し続けられるなどワトソンからすれば、堪ったものではない

 

「この蜘蛛の巣ーー事件にはバージニアが関係しているのですか?しかし、彼女には監視が......」

 

「これだよ」

 

シャーロックは関係図の1つをトントンと叩く。

それはイギリスタイムズ紙の切り抜きだった。そこには『ロンドン塔で世紀の大泥棒⁉︎』という見出しで盗難事件について書かれていた。

 

「ロンドン塔に期間限定で展示されていたイギリス王朝の王冠が盗難された事件ですか......しかし、ロンドン塔の警備はイギリス国内随一を誇ります。いくら、彼女でも......」

 

ロンドン塔での盗難事件ーーその事件にワトソンは覚えがあった。一時、イギリス中を震撼させた盗難事件。

イギリス随一の警備システムを誇るロンドン塔が破られ、展示されていたイギリス王朝の王冠が奪われたのだ。

犯人は不明、盗まれた王冠の行方も掴めず。事件は迷宮入りかと思われたが、盗難されてから1週間後に王冠は戻ってきたーーご丁寧にホームズ邸に送られて、『ホームズをゲット』というメッセージカード付きで。誰が見てもホームズへの挑戦状と捉えるだろう。

 

「彼女は天才数学者にしてプログラマー。ロンドン塔の警備システムを破るくらい朝飯前だっただろう。それこそ監視の目を盗んでね」

 

ロンドン塔を攻略ーーそれはイギリス国内のあらゆる警備を無効化できるにも等しい行為だ。

イギリスの銀行・ネット機関・コンピュータ管理など自由自在に操れるだろう。

 

「そんな彼女ーーバージニアには、今から15年ほど前に突然、ダラム大学での講師を辞任しているーー丁度、ロンドン塔の事件から1年後のね。その後は君たちの方でも行方が分からないのだろう?」

 

「はい。イギリス最高峰の諜報機関MI6でも行方が掴めませんでしたーーリバティーメイソンの情報網を使ってもです」

 

リバティーメイソンは、ヨーロッパだけでなく、世界中に構成員が潜んでいる。そんな構成員の目を欺くなど普通ではない。

 

「それでホームズ卿。このバージニア・モリアーティが貴方の『条理予知』が通じない相手なのですか?」

 

「いいや、バージニアにはあくまで、僕の『条理予知』が通じない相手の原点ーー生みの親に過ぎないよ」

 

生みの親?ワトソンは思考する。

 

「まさか......バージニアに子供がーーモリアーティ4世が存在すると言いたいのですか⁉︎」

 

ワトソンは驚愕した。

ここに来る前に、バージニア・モリアーティ3世については、ある程度、調べてあった。彼女は天才モリアーティの名に相応しく、大学でその高い知能とカリスマ性を大いに振るった。そんな彼女の一粒種がいるなど......それに加え、お目に叶う伴侶がいるなど考えもしなかった。

 

「僕が蜘蛛の巣を作ったのは、4世君について知るためだったんだ」

 

「それなら、バージニアではなく、始めからモリアーティ4世についての関係図を作成すればよかったじゃないですか。こんなに部屋を埋め尽くして......」

 

「いや〜、イキオイにノッて作っていたら、いつの間にか、ここまでの規模になってしまったよ」

 

シャーロックは「困った困った」と付け加える。

後で片付けさせようと、決心するワトソンであった。

 

「それで、肝心のモリアーティ4世の関係図はどれなんですか?こんなにあっては、さすがの僕でも分かりませんよ」

 

「付いてきたまえワトソン君」

 

シャーロックは安楽椅子から立ち上がり、部屋を出て歩き出したーーワトソンの歩くペースを考えた歩みだ。

彼の後をワトソンは追う。

暫く艦内を歩くと、2人は誰も使っていない部屋の前に到着した。

 

「さすがに僕の部屋だけじゃ、収まり切らなくてね。だから、空いている部屋を使わせてもらった」

 

シャーロックはドアノブを回して、ドアを開け入室する。

後に続くようにワトソンが部屋に入ると、そこにも蜘蛛の巣があったーーシャーロックの部屋の規模程ではないが、十分過ぎる規模の蜘蛛の巣だ。

この蜘蛛の巣にワトソンは見覚えがあった。

 

「これはイ・ウーが関わった事件の全てじゃないですか。モリアーティ4世とは関係ないのでは?」

 

「まあ、そう思うだろう。でも、これを見ても同じ事が言えるかな?」

 

シャーロックはワトソンに一枚の写真を渡す。

ワトソンが写真を見ると、それは蜘蛛の巣を撮影したものーー今いる部屋と同じモノだ。

 

「それはモリアーティ4世が作成した蜘蛛の巣だよ。イ・ウーの事件を全て洗い出し、見事に結びつけた」

 

モリアーティ4世はイ・ウーを調べていた。

 

「4世君が作成したモノには、これからイ・ウーが起こす事件までも予測いや、推理してピンポイントで当てている。まるで、僕の『条理予知』さながらだ」

 

「これには、パトラ、理子、ジャンヌ、ブラドなどがありますが、あくまで予測では?まだ、本人達が計画しているわけでは......」

 

ホームズ卿の推理力ーー『条理予知』と同等などありえない。そう思うワトソンだったが、

 

「本人達に確認した所、見事に一致したよ」

 

シャーロックの言葉にワトソンは声が出なかった。

そんなワトソンの反応を面白そうにシャーロックは観察していた。

ここまでの2人のやり取りを第三者が見たら、「わざわざ蜘蛛の巣を作らなくても、写真を見せれば早いじゃん」と言いたくなるだろうが、そこはシャーロックのイタズラ心だと思ってほしい。

 

「モリアーティ4世は何がしたいのでしょうか?まさか、イ・ウーと戦うつもりじゃ......」

 

「本人はやる気満々だろうね。その証拠に、この半年で何度も僕の推理を覆してきたーー何だか久しぶりにワクワクしてきたね」

 

シャーロックは楽しそうだーーまるで、長年待ち続けた宿敵に出会ったかのように、本当に楽しそうだ。

 

「でも、僕も負けてばかりではいられない。そこで4世君の推理を覆してあげようと思うんだよ」

 

「こちらから、仕掛けるんですか?」

 

「そんなに大袈裟な事じゃないよ。ただ、ちょっと計画を立て直すだけさ」

 

 

 

零視点

 

12月上旬ーー

 

私は寮の自室の机で、パイプを吹かしながら、同人誌を描いていた。

このパイプはネットのオンライン対戦ゲームーー賭けチェスで勝ち取ったものだ。相手は前から対戦していたイギリスの『むにゅえ』だ。

初めてハンドルネームを明かしてくれた時は嬉しかったな〜。ハンドルネームとはいえ、名前で呼べるのだから。因みに私のハンドルネームは『数学教師』だ。

『むにゅえ』は強い。今までの対戦成績を足しても、76戦中43勝33敗0引き分けで私が今の所は勝っているが、油断のならない相手だ。

ある日、『むにゅえ』が私に賭けチェスを提案してきたので、面白そうだったからやってみたーー形式は5分の早指しチェスだ。

結果、私が勝った。そして、景品として『むにゅえ』は私にこのパイプを送ってきたのだ。

 

「精油の香りがいいね」

 

私はこのパイプが気に入っているーー洒落でミドルネームのMも刻印するくらいに。

コレをくれた『むにゅえ』には、本当に感謝だ。いつかリアルで会いたいな。

 

「おっと、手が止まっていた......!」

 

マジマジとパイプを見つめるあまり、作業が疎かになっていた。

続きを書かないとね。私が今、作画している同人誌のタイトルは「仲良しキョウダイ」ーー2人のキョウダイが主人公だーーキョウダイのモデルは金一さんと金次君だ。

無断で描いてはいない。ちゃんと金一さんーーカナさんに許可を貰いましたよ。あの人、「面白そうね!完成したら見せてちょうだい!」って、楽しそうにしてたな〜。

金一さんは私の見立て通り、女装したら美人だったね。変身してもらった甲斐があった。記念すべき完成第一作品をプレゼントしてあげよう。

いや〜、まさか姿だけでなく、人格まで変わるなんて思わなかったよ。まあ、''本人''であることは間違いないし、問題はないだろう。

しかし、金一さん結婚して子供が出来たら立場はどうなるのだろうか?ヤバい!なんか面白くなってきた。

 

「金一さんに子供が出来たら、君のパパはねママでもあるんだよって、言ってみたいな」

 

私は頭の中で構想する。うん!カオスな光景が広がっている。

女装関係に触れたら、金次君だけじゃなく私まで撃たれるね。

その前にお子さんが混乱しそう......

 

「あっ!また、手が止まっていた......」

 

いけない!変な妄想はやめよう。今は作画に集中!

私はスラスラと登場人物を書いていく。金次君がモデルの弟さんだ。女装時の姿はメーテルをモデルにした。

あっ!よく考えたら、まだ金次君に許可もらってない.....まっ、いいか!

私が再び作画に取り掛かろうとしたら、タイミングを見計らったように携帯が鳴った。開いて見てみると、相手は母さんだった。

 

「母さん!久しぶり」

 

『本当に久しぶりねレイ。学校では上手くやってる?』

 

この脳に直接、響くような声は間違いなく母さんだ。

こうして母さんと話をするのは、本当に久しぶりだ。武偵高校に入学してからは、殆ど電話していなかった。

海外の企業相談役は忙しい事は小さい頃から知ってはいたが、こうして声を聞くだけでも嬉しい。

 

『聞いたわよレイ。貴女、武偵として大活躍中じゃない。もしかして、''天職''だったりしてね』

 

「もう〜大袈裟だよ。私なんてまだまだ未熟者だって......!」

 

天職だなんて、母さんは本当に大袈裟だな〜。

 

「ねぇ、母さん......」

 

『うん?何かしらレイ。何か聞きたそうな感じね』

 

これから聞く事は重大な事だ。本当に大切な......

 

「前に母さんが言ってたーージェイムズ・モリアーティとうちは関係ないって、アレはウソだよね。私、聞いたんだモランに......あっ、モランっていうのは父さんが連れてきた......」

 

『あちゃー、暴露しちゃったんだ〜。あの子、父親と似て軽い所があるから』

 

「うん?なんだかモランを知っているような口振りだね」

 

私はモランについて、母さんには話していない。

それに加えーー

 

「初めからうちはモリアーティ教授の身内だって、知っていたようにも聞こえるよ」

 

『うん☆大正解。モリアーティ教授は私のお爺様で、貴女にとってはひいお爺様よ』

 

母さんの軽くハッチャケたカミングアウトーー我が家の家系を聞いて、私は机からズリ落ちそうになった。

 

「どうして嘘を付いたの?もしかして、私の為に......」

 

『違うわよ。ただ、真実を知った貴女の驚いた反応がどんなモノか知りたかったからよ☆』

 

ガタン!......違った。母さんの言葉でとうとう私は机からズリ落ちた。

シリアスな内容だと思った私が馬鹿だった。

腰が抜けたが、力を振り絞って机に戻る。

 

「はぁ〜、つまり、私の反応の見て楽しむ為だったと......」

 

『正解☆そんなに気を落とす必要はないわよ。お爺様は世間では悪者扱いだけど........実際はそうでもないのよね〜。本当の悪者ーー悪魔はシャーロックの方なのに』

 

悪者ではない?どういう意味だろう。ジェームズ・モリアーティ教授ーー私のひいお爺さんは犯罪組織の頭目だった筈......それにシャーロックが悪魔って?

 

「どういう事なの母さん?」

 

『まあ、それについては置いておきましょう。私の計算では、近い将来知る筈だから。今はお爺様の事より貴女の話を聞きたいわ』

 

気になるけど......でも母さんの言う通り、今は置いておこう。

私は母さんに武偵高校での出来事を語ったーー武偵高の編入試験・入学してからの寮生活・金次君を始めとしたクラスメイト達・モランがホームステイして来た日・友達の相談役になったなど......

 

『へぇ〜レイは私立相談役をやってるんだ〜優しいじゃないの』

 

「うーん、実はね。相談の中でも私、恋愛関係の相談は苦手でね。それで今、困っているんだ」

 

最近、私の所に恋愛関係で相談に来る同級生が多い。私はどうも恋愛について疎い。

 

「そういえば、母さんと父さんの出会いについて、まだよく聞いた事がなかったよね」

 

『あら、どうしたの突然?』

 

「あー、うん。2人が出会った経緯を聞いて、同級生達に何かアドバイスできる事があったらな〜と、思ってさ」

 

振り返ってみれば、私はまだ父さんと母さんがどう出会ったか、よく聞いた事がない。父さんが母さんに一目惚れして、隙あれば''アタック''を仕掛けて、母さんをおとしたと聞いたが......

 

『う〜ん、お父さんとの出会い、ね......まあ、いいわ。娘の頼みだし、教えてあげる。実はね〜私、お父さんに......とっっっっっても、イラッとさせられたのよね』

 

どうしたの母さん?何だか、声が澱んでいるよ?気のせいか電話の向こうで、母さんの目が座っているような......

 

『でも、とっても甘〜い恋やワクワクドキドキの大冒険もしたのよね』

 

今度は打って変わって明るくなった。電話越しで「ウフフフ」と笑っている。

 

『お父さんとの出会いはね。私がイギリスの大学で講師をしていた時に出会ったのよ』

 

大学の講師だって⁉︎初めて聞いたよ。あっ!でも、考えれば私が中学生の時、勉強を教えてもらったっけーーあの時の教え方はまさに教師さながらだった。誰かに対して勉強を教える事に慣れていたような......

 

『でね。お父さんはその時、私の勤めていた大学の学生ーー日本からの留学生だったのよ。初めは講義の時に、チラッと見かけただけ。一生徒という印象だったわ』

 

イギリスに留学してたんだ父さん。でも、何でわざわざ日本からイギリスへ?何か目的でもあったのかな?

 

「どうして父さんはイギリスに留学したの?」

 

『う〜ん、お父さんはイギリスに留学する前、日本で検事をやってたそうなのよ。でも、仕事場の同僚ーー普段は物静かだけど、怒ると鬼みたいにオッカナイ同僚とウマが合わなくて、頭にキタから日本から出て行ったそうなのよ』

 

父さんが検事⁉︎嘘でしょう......あのノホホンとした父さんが、探偵の前に検事やってたなんて、まさかタダの検事じゃなく武装検事だったりして......それはないか!

 

『それで、どこに行くか適当に決めてイギリスにしたそうよ。それでお父さんたら入国して早々、何したと思う?』

 

突然、母さんから話を振られた。

 

「観光じゃない?」

 

『不正解。まったく、我が娘ながらバカだね』

 

うわ〜久しぶりに聞いたなそのセリフ。私が問題ーー特に数学を間違えた時に言われたな。

 

『まあ、その答えは本人の口から聞くか、自分で調べる事ね。でも、私も悪魔じゃないからヒントくらいはあげるーーイギリスの為に働く人達に喧嘩を売った以上』

 

以上って、それだけですか。

しかし、父さん......イギリスの誰あるいは何処に喧嘩を売ったの?下手したら国際問題になるよ。まさか、イギリス王室に喧嘩を売ってないよね?

 

『お父さんの経歴はここまで。話を戻すわよ。私がお昼の講義を終えて、大学の自室に校庭を通って戻ろうとした時、お父さんが私の前に現れたのよ』

 

おっ!まさか父さん、母さんが来るのを待ち伏せしてたのか〜。それで食事に誘ったりして....

 

『会って早々、私に「300%惚れた。結婚してくれ」って、言ったのよ。一瞬、目が点になったわ。ウフフフ』

 

私の予想の斜め上を行っていた。父さん⁉︎会って早々に結婚してくれとかないでしょう‼︎

 

「それで母さんは何て返事したの?」

 

『丁寧に「500%無理」って、お断りしたわ』

 

当然そうなりますよね〜

 

『でもね〜、お父さんたら諦めず、時間が空くたびに私に告白してくるのよ。当時、私は教師でお父さんは学生。付き合うにしても、''周りからの目''もあったから微妙だったのよ』

 

学生と教師の恋愛は普通の学校だったら、色々とあるからね。最も武偵高校では、そんなことはないだろうけど。

 

『その度、私はお父さんに''丁寧にお断り''や''嫌ってますアピール''・''関わらないでと警告''を発したんだけど、お父さんには効かなくてね。ことごとく受け流して''アタック''して来たわ』

 

この辺りで母さんが、イラッとしているのが分かる。

お父さん鈍感だったのかな。女性の気持ちが分からなかったとか。

 

『私の講義は必ず出席してきたわ。あと、論述は見当違いな答えーーThis is the pen. wonderful.なんて書くのよ!決まって私が採点する時に限ってね!』

 

完全に嫌がらせに見えるけど、父さんなりに母さんの気を引きたかったんじゃない?

 

「そんな事が続くから、最終的に嫌々ながらも付き合ったんだ」

 

『いいえ。お父さんたら、ある日、私のお金をちょろまかしたのよーーある''大事なイベント''に使うための大金をね。思わず私「セイジメェェェェェェ‼︎」って、空に向かってはしたなく叫んじゃった』

 

最後に母さんは『テヘ☆』と付け加えた。母さん.....もう45になって「テヘ」はないと思うよ。

しかし、お金ね〜私が言えた立場じゃないけど、お金はちょろまかしてはいけないよ父さん。でも、このお金の件。何か関係しているんだろうか?

 

『生まれて初めて敗北感を味わったわ。新鮮な感じでもあったし、悔しくもあった。だから、私はお父さんに同じ......いいえ、''それ以上の敗北''を味わわせないと気が済まなくて、お父さんと半ば''ツキアッタ''の』

 

付き合ったって、自分に初めて敗北を味わわせた相手とね〜母さんも酔狂な人だ。

おそらく、自分の好きなタイミングで倒して、敗北させる為にだろう。

 

『ツキアウ過程で、様々な事があったわね〜。ボートでのクルージング・荒野での散歩・列車旅行・中国を観光したりしたわ』

 

何だか楽しそうだね母さん。思い出に浸っているんだろうか。

 

「付き合う過程は分かったよ。ついでに結婚のきっかけも教えてよ!」

 

私は続きが気になって、母さんにせがむ。

 

『もう!欲張りな娘だこと。でも、特別に教えちゃう。結婚のきっかけは、お父さんが私の命を救ってくれたからよ』

 

命を救ってくれたって、母さん死にかけた事があるの⁉︎しかも、父さんが助けたとは......

 

『接着剤のような名前の不審者に私、突然襲われちゃってね。もうダメだと思った時、お父さんが助けてくれたのよ』

 

「どうやって助けたの?」

 

『そいつをフライパンで殴りつけて気絶させたのよ。あの時は命の危機にも関わらず爆笑しちゃった』

 

父さん、何でフライパンなんか持ってたの?料理でもするつもりだったの?

それに不審者の正体は一体?気になるけど、今は母さんの話がメインだ。

 

『その後、何で助けたんだって、尋ねたら「君が死んでしまったら、僕は誰に''アタック''すればいいんだ‼︎」って言ったのよ』

 

母さんは堪えていたのだろうーー吹き出したように笑い出した。

ワーオ、父さんやるね〜カッコいい。

 

『その言葉を聞いて、''この人にしよう''って決めたのよ。それで大学を辞めて、お父さんの故郷ーー日本に移り住んだの』

 

大学を辞めるーー大学の講師になるのは簡単ではない。そんな講師をやめて父さんに付いて行くなんて、それ程、父さんに惚れたんだ。

 

『でもね。移り住む前ーーお父様が......ああ、貴女のお爺様がすっっっっっっっごく、お父さんとの結婚に反対したのよね。結婚だけじゃなく私が大学を辞めて、お父さんと日本に移り住む事もね』

 

お爺様ーー私のお爺ちゃんか......会ったことがないから、想像が難しいが、母さんのこの話を聞く限り、父さんが気に入らなかったようだね。

 

『けど、大叔父様は賛成してくれたわ。お父さんとの出会いを話したら、爆笑して大受けしてくれたのよ「結婚して日本に移住したい?OKOK」ってね』

 

「大叔父様って?」

 

『ひいお爺様のお兄さんよ』

 

ひいお爺さんにお兄さんがいたのか......ちょっと待ってよ。ひいお爺さんって、今から100年前の人だったよね⁉︎そんな人のお兄さんって、軽く100歳超えてるじゃん。

いや、延命手術やステルスで寿命が伸ばせる話を聞いたことがあるーー多分、大叔父さんもそれかな。

 

「大叔父さん的には、そんな軽いノリで承諾してよかったの?それと何やってる人なの?意見できる程だから、それなりの地位がありそうだけど......」

 

『元イギリスの軍人よ』

 

退役軍人ね。でも、元軍人だからって、結婚話に口を挟めることができるだろうか?ただの軍人ではなさそうだ。

 

『大叔父様が説得しても、頑なに首を縦には振らないから、半ば駆け落ちする形で出て行っちゃったけどね』

 

駆け落ちか......2人がそれを選んでくれたおかげで、私が生まれてきたんだけど。

あっ!いつの間にか恋愛のアドバイスを貰うのではなく、母さんの昔話になってた。

私は当初の目的に戻ろうとしたが、

 

『はい、話はここまで。久しぶりにレイとお話しできて、母さん嬉しかったわ。これから''大変''だろうけど頑張ってね』

 

そう言ってガチャリっと、電話が切れた。

ああ、ちょっと突然電話切らないでよ。まあ、母さんと話ができたし、いいか!

私は電話を置き、同人誌に取り掛かろうとし、フッと時計を見て見ると時刻は17時になっていた。いけない!この時間帯はニュースをチェックしないと。

私はテレビのスイッチを入れる。ちょうど、夕方のニュースが放送されていた。

 

「これは......どういう事なんだ」

 

私は放送されたニュースの1つに釘付けになった。

それは『武偵殺し』が次に犯行を行うであろうと、予測したクルージング・イベント会社所有の日本船舶アンベリール号が、浦賀沖で沈没したニュースだった。

そんな馬鹿な......私の見立てでは、犯行開始は12月の下旬のはず。

ターゲットは特命武偵 遠山金一だったはず。

マズイな計画が狂ったぞ。せっかく、金一さんをオトリにしようと思ったのに......

 




アタック=告白ではありません。
MI6の監視?コネがあればどうにでもなります。

次回は金次が零の所に......


おまけ

15年前、とある日のダラム大学にてーー

バージニアは大学の自室で面倒な人物ーーセイジの相手をしていた。

「いい加減、私の前から消えてくれ」

「そんな冷たい事言わないでくれよバージニア」

「馴れ馴れしくしないでくれ」

「ま〜た、しかめっ面して〜綺麗な顔が台無しだよ」

バージニアは、殴りたい衝動を抑える。

「僕はただ、バージニアとお話がしたいだけさ。まあ、その前にフィッシュ&チップス買ってきてよ。勿論、君のお金で♪」

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