時々こういうのを書いてみたくなる。
人が竜に恋するって言うシチュも…嫌いじゃないんだよね。
君はいつもいつも空ばかり見て。
「どこか行かない?」
「…」
散歩に誘っても、
「お肉食べる?」
「ヴー」
お肉を差し出しても、首を振るばかり。
懐いてないのかな、嫌われてるのかなと思えば、
「ク」
寝るときに、わざわざ私を隣に引き寄せる。
硬い角を磨いてあげれば喜ぶし、黒緑の甲殻を撫でれば嬉しそうにする。
でもどこか、赤い瞳はいつも私を見ていない気がした。
君と出会ったのは、私が16の時だった。
幼竜だった君は、何に襲われたのか酷く怯えていて。
近寄る私に攻撃をしてこないぐらい、諦めていた。
初めて君に触れた時のことは、絶対に忘れない。
「キュ…!」
丸まって震える君に、抱き着いたのが懐かしい。
君の冷たかった体が温まっていくのを感じ、私はどこか安心した。
以来気が付けばいつも私のそばには君がいて。
異端だと村から追い出されちゃったりしたけど、不思議と怖くなかった。
君がいたからかな?…きっと、そうだろうね。
私が18の頃には、君はもう見上げるぐらいに大きくなってた。
私を乗せて飛ぶことも出来るようになってたし、帯電能力も凄かった。
…私を守ってくれようと火竜と戦って、片目が焼けちゃったのは本当にごめん。
「…雨が降りそうだね」
「ヴ」
羽を広げてくれたので、その下で少し休憩。
私たちは17の時からずっと野営をして生きてきた。
気が付けば君と出会ってもう8年が経っていて。
「今日はさ、どこ見てるの?」
翼膜を指でつつきながら、君に質問する。
答えは無いけど、何となーく話し掛けないと寂しそうにするから。
「お?とと…」
私を中心に丸まった君が、逃がさないようにと翼で蓋をした。
「どしたの」
「フー」
「ふふ、逃げないよ」
翼膜に水滴の当たる音。雨が降り出したらしい。
君の息の音が、密閉された空間に響く。
「…明日はどこへ行く?」
赤い瞳が、今日初めて私を見た。
それだけで鼓動が速まるのは、きっと私がチョロいからなのだろう。
「……動きたくないんだね。分かったよ」
無くなった右手で君を撫でようとしてしまって、引き攣った笑いが漏れた。
「そう言えば無くなっちゃったんだっけ」
悲しくないのに涙が出たのは、いつものように君を撫でられないからなのだろうか?
「…竜も涙って流れるんだね」
酷く気怠い体は、既に言う事を聞いてくれない。
「馬鹿やっちゃったなぁ…」
つい5分ほど前、迅竜の不意打ちで腕と足を持っていかれた。
迅竜は君によって殺されたが、私の傷は縛っても血が止まらないし、治療の術もないからどうしようもない。
「やだなぁ…君と離れるのが一番辛いよ……」
もう痛みはなかった。どうも限界が近いらしい。
残った左腕で君の目元を拭えば、その腕を舐められた。
「…私さ、君といてよかった」
何度も言った言葉を噛み締めるように言う。
涙が止まらない。言葉に詰まるのは、君の嗚咽が聞こえるからだ。
「―――いっそ、私を殺してくれない?」
君の体が分かり易いぐらいに跳ねた。
「あんなのの攻撃で死ぬぐらいだったら、君に食べられたい」
ふるふると首を振られるが、私は気にせずに彼の口の中へと手を入れる。
鋭い牙を指でなぞり、舌の感触を楽しむ。
「重い女だね。私」
君と一緒に生きて、死にたかった。
指で掬った唾液を吸い、その味で下が濡れる。
「初めてを、君にあげたかった」
視界がかすむ。君の顔がぼやけて見えて。
「今度は、同じ種に生まれたいな…」
もう駄目だ。力が抜ける。
「…好き」
ズルズルと寄りかかる君の甲殻を汚し、私は地に倒れた。
―――――気が付けば、温かな何かに包まれていて。
この嗅ぎ慣れた匂いは、君の唾液の匂いだと断言できる。
蕩けるような思考の中で、私は目を閉じた。
思い残すことはなにも無い。
私は、ようやく君と一つになれたのだ。
続かない。