(注意)ふと思いついた小説です。書いているうちに物語の始まりみたいな感じになりましたが、連載の予定はありません。
連載していた作品に行き詰まり書けなくなっていたのですが、久しぶりに投稿したくなり全く違う新しい作品を投稿してみました。
やっぱり自分は連載には向いてないなぁ……
突然だけど橋姫を知っているかしら。
宇治の橋姫といえば、「あぁ、そんなのがいたなぁ」と思い出す人もいるかと思う。
そう。嫉妬に狂ったあの鬼を。
愛した男に裏切られ、自ら鬼になることを望んだ、あの一途な女性を——
一般的にこの印象が強すぎるせいか、橋姫は妖怪だと認識している人も多いんじゃないかしら。
でも、実は橋姫はもともとは橋の守護神として祀られていたため、神としての一面も持ち合わせているのよね。
とはいえ、嫉妬深い点では宇治の橋姫と同じなのだけど……
例えば、橋姫の祀られた橋の上で他の橋を褒めたり、女性の嫉妬をテーマにした謡曲を歌うと必ず恐ろしい目にあうと言われているわ。
はい、今少しでも嘘だと思って鼻で笑った人は正直に挙手しなさい。
そう思うのなら今度実際にやってみなさい。
ただし、命の保証はしないから自己責任でお願いするわね。
私は何も関係ありません。
さて、どうして私が橋姫についてこんなに熱く語っているか。気になっている人もいるわよね?
それはもちろん私が橋姫だから。
それじゃあ、そんな私について少し話をしようかしら。
私は都に架けられたとある橋の橋姫として生まれた。
もちろん橋の守護神として。最初は、ね。
時代が進むにつれて信仰心も薄れていき、次第に妖怪としての面が強くなり最終的には妖怪として落ち着いたの。
それにしても橋姫として信仰心を集めている奴らって、本当に妬ましいわね。私なんて全然集められなかったし。そもそも橋の豪華さも違うし。私みたいに小さい粗末な橋の橋姫なんて最初から不利なのよ。妬ましい。恵まれた環境にいる奴らが妬ましい。
……話が逸れたわね。
まぁ、それで私は守護神としてではなく妖怪として活動を始めた。
今風に言うとなんていうのかしら、ダークサイドに落ちた? そんな感じね。
で、何をしたかっていうと、嫉妬心を煽ったり、浮気をしている異性に対してピチューンってさせたりとか色々やったわね。
今思うと、きっと妖怪に落ちたことに対する恨みとかそういうのもあったのだと思う。
だからこそ人間に対して復讐を。そんなことも考えていたんじゃないのかしら。
もちろん、他の橋姫たちに対する嫉妬もあったわ。もちろんね。
大事なことなので二回言うわよ。
そんなこんなで、妖怪ライフを楽しんでいたわけだけど、それはそんなに長く続かなかったわ。
察しのいい人はわかるわよね。
それはおそらくというか絶対正解。
退治されて力を封印されました。
たしか朝廷から送られてきた陰陽師だったけど、妬ましいほど強かったわ。
私なんてほとんど手も出せずに、気が付いたら地面に叩きつけられてお札を突きつけられてたんだもの。
今思い出してもあの実力は妬ましいわね。パルパルパル……
……こほん。
それでその後なんだけど、力を封印された私は何もできなくなったわ。
しかも、封印された影響か、他の人からも私を見ることはできないみたいで、誰も自分に気がつくこともなく目の前を通り過ぎていく。
さらにそれに加えて、橋から離れることができない。
そう、私はただの無力な存在へと成り果ててしまったのよ。
何度も封印を解こうとしたけど、私の力ではどうすることもできなかった。
最終的に、仕方ないから橋の上で一日中橋を通る人を観察して過ごすことにしたわ。
毎日橋の上をいろんな人が通ったわね。
楽しくおしゃべりする人、喧嘩する人、幸せそうな男女、修羅場を迎えている男女……
いろいろいたけど、みんな見ていて妬ましかった。
……いえ、本当は寂しかった。
だって私には自分の気持ちを伝える相手がいなかったから。
それが何百年も続いたわ。
普通なら壊れてしまいそうなこんな長い間を私が耐えることができたのは、この嫉妬深さのおかげだと思う。
人が通るたびに嫉妬して、絶望なんてしている暇がなかったから。
いつしか、この嫉妬深さこそ私のアイデンティティー、そう信じるようになっていたわ。
それを意識した私は、ますます嫉妬により力を蓄え、妖怪としての道を極めていった。妖怪道とでも名付けておこうかしら。
……以上が私のこれまでの歩んできた道。
ご静聴ありがとうございました。
「はぁ……」
自分自信と脳内で会話するというなんとも悲しい暇つぶしを終え、私は軽くため息をつく。
ちょっとした疲労感を覚えながら橋の欄干にもたれかかり、軽く頭上に視線を向けると雲ひとつない青空が広がっていた。
悩み事ひとつないその空が妬ましい。そう思わずにはいられなかった。
振り返ってみればこのやり取り、もう何度繰り返したことだろうか。
もはや習慣となってしまった脳内会話に呆れつつ、それでもどうせ明日もやっているのだろうと安易に予想ができ、苦笑が漏れた。
「橋姫様、おはようございます。今日もお疲れさまです」
そんな陰鬱な気分に浸っていると、突然私を呼ぶ声が聞こえてきた。
首の位置を元に戻し声のした方に顔を向けると、初老の女性がニコニコとした表情で立っていた。
「あら、おはよう。体調はもう良くなったの?」
瞬時に姿勢を正してこちらも笑顔で話しかける。
営業スマイルは私の得意分野だ。
ところで目の前にいるこの女性、別にとても親しい間柄というわけでは全くない。
ただ毎日律儀にも私のところに挨拶に来ているので、こちらも挨拶をしているだけである。
だが、ここ数日は体調不良であったらしく、その子どもが来ていた。子どもといっても、もういい歳なんだけど。
というか、そこまでして私に挨拶しに来るとかどれだけ物好きなのよ。
「はい。橋姫様が子どもに渡してくださった薬草のおかげで、無事こうして元気に会いに来ることができるようになりました」
ありがとうございます、と女性は深々と頭を下げてきて、少し申し訳ない気分になる。
たまたま家にあった薬草を子どもに渡しただけで、そこまで感謝されるようなことではないのよね。
「それはよかったわ。でも、別に無理して私なんかに会いに来なくてもいいのよ」
「とんでもない。これくらいなんでもありませんよ。それに橋姫様は私たちを護ってくださっているのです。日頃の感謝をしに来ることは当然です」
女性は勢い良く頭を上げ、そう力強く言い切った。
その目には、尊敬や感謝といった私みたいな妖怪からは無縁の感情が読み取れ、なんとなく気恥かしくなって視線を逸らした。
「そ、そうなの」
……やっぱりこういうのは何度経験しても慣れないものね。
大体、私に感謝しにくるぐらいならあの博麗の巫女にでもしてあげなさい。
最近、彼女から私に対する嫉妬が感じられ、いつか退治されるんじゃないかひやひやしているのだから。
「あと、これは薬草を頂いたお礼として持ってきたんですが」
嫉妬に狂った巫女の鬼のような姿を幻視したところで、女性は背負っていた風呂敷を下ろしながらそんなことを言った。
「別にいいわよ。お礼なんて」
「いえ、それでは私の気持ちがおさまりません。どうか受け取ってください」
そういって中から取り出したのは、人里で有名な饅頭屋の饅頭だった。
確かそこは朝早くから並ばないと買えなかったはず。
私なんかのために並んで買ってきてくれたのだとすると、受け取らないと失礼よね。
決してあそこの饅頭が好物だからとかそういうわけではない。
これは女性を悲しませないためなのよ。うん。
「それなら、ありがたくもらっておくわね。ありがとう」
「こちらこそありがとうございます」
女性は心底嬉しそうな表情をして、それは私が妬ましく思うほどであった。
そうして「それでは、失礼します」と私に告げ、女性は人里の方へ戻っていった。
ほんと彼女の律儀さは妬ましいわね。
さて、私の経歴を踏まえた上でこの状況を見れば、誰もが不思議に思うはずだ。
どうして妖怪が人間に慕われているのかと。
もちろん私だって現状には疑問を抱かずにはいられない。
人間と妖怪は本来対立しているはずなのだ。
確かに私はかつて神であったときもある。
しかし今は立派な妖怪だ。
それなのに。それだというのに。
「……私が人里を護っているなんて絶対間違っているわよ」
女性の背中を見送りながら、そう呟かずにはいられなかった。
これこそ私、水橋パルスィの最大の悩みである。
というわけで、あらすじにある『とある妖怪』とはパルスィのことでした。
最初はタグにいれようと思っていたのですが、それだとおもしろくないと思ったのであえて外しました。
さて、連載予定がないのでいろいろ設定を載せておこうと思います。
パルスィは人里に通じる道にある橋の上で橋守として働いてます。
封印されていたパルスィに、紫が封印を解く代わりに人里を護る仕事をしてほしいということで頼み、パルスィがそれを承諾して今に至るわけです。
ちょうどそれは紫が幻想郷を作って間もないときで、つまりパルスィは幻想郷初期からいることになります。
ちなみに今回の話は、紅魔郷の前という設定です。
もし読んでおもしろいと思ってくれた人などがいましたら、感想を送っていただけると今後の参考にもなりますので非常に嬉しいです。