彼は常に弾かれる側に立っていた。
少年には、理由無く他者を疎外する他人が理解出来なかった。
だから考えた。彼等が自分を遠ざけなければならない理由を。
しかし、いくらそれらしい理屈を並べ立てても、結局のところ最終的な原因は相手の弱さに繋がってしまった。
その結果を否定する為にさらに思考を重ねても、結局は同じ結論に行き着いてしまった。
やがて、それがただの事実であることを理解したとき。
少年は静かに、彼等を憐れんだ。
雑草を引き抜いた事はあるだろうか?
植物の根というものはひどく複雑な形をしていて、力任せに引き抜くと周りの土までごっそりと抉り取ってしまう。
その跡はまるで傷口のようで、その根が深く広く張られていればいる程、地面は深く醜い傷痕を遺すことになる。
「オッハヨー、メディアさん!今日も美人っスね!」
戸部翔。
クラスのムードメーカー。一言で言えばただのお調子者。騒がしいだけが取り柄の低脳。
気に入らない。
「よーっすメディア。あれ?なんかあったん?」
三浦優美子。
クラスの女王。人望があるとは言いがたいものの、生まれ持った支配者の気質と強気な性格で女子の頂点に君臨している。
意外に気配りが出来、自分が友人と認めた相手の事は驚くほど良く見ている。その為か友人からの信頼は厚い。
気に入らない。
「んー?なんか元気ないよね?悩み事?」
海老名姫菜。
赤渕の眼鏡が特徴の少女。女王のお気に入りとして、クラスのトップグループに所属する美少女。
それでいて私と多くの趣味を共有し、それらに関しては私よりずっと造詣が深い。また、どこかマスターとも通ずる陰を纏った変わり種。
気に入らない。
「おはよう、メディアさん。何か困った事があったらいつでも言ってよ。多分力になれると思うからさ」
葉山隼人。
クラスの実質的なリーダー。能力の高さに裏打ちされた落ち着いた物腰と、痒いところに手の届く視野の広さで男女双方から絶大な人気を誇る。
気に入らない。
「……メディアさん、えっと、あたしは難しいことはわかんないけどさ」
由比ヶ浜結衣。
優しい少女。本当の意味での優しさと強さを併せ持った少女。……どこか、かつて私を友と呼んでくれた王女の面影を感じさせる少女。
この時代において、私の正体を知りながら好意的に接してくれる唯一の人物。
「あたしは、絶対メディアさんの味方だからね。友達だもん」
気に入らない。
あぁ、気に入らない気に入らない気に入らない。
他のクラスメイトも、教師も、雪ノ下雪乃も、この時代も、なにもかも気に入らない。
それもこれも、全てあの男のせいだ。
雑草を引き抜いた事はあるだろうか?
人はしばしば植物に喩えられる。
その理由は外見であったり生き方であったりと様々だが、大元は人同士の関係性なのではないかと考えている。
心を大地とすると、他人が草木だ。そして地面の下と地表とで裏と表を表現できる。
知り合いの多い者ほど緑豊かな大地となるだろう。
どのような知り合いかで植物の種類が決定する。
基本的に、繋がりの強い他者ほど目立つ植物になるから、友人の多い者なら森のようになるかも知れない。
反対に、他人と関わりを持たずに生きる者であれば、草がまばらに生えるだけの荒野になるだろう。
では地下はどうだろうか。
根がどれだけの深さで張られているかは、表からは分からない。他人は勿論、自分でもだ。
確かめたければ引き抜くしかない。
人は、失った時の傷の深さで他人の価値を認識するのだ。
気に入らない気に入らない気に入らない。比企谷八幡が気に入らない。
見ていろ。すぐに化けの皮を剥いでやる。その為に。
深く深く根を張ろう。
彼等の心に、二度と消えない傷を遺す為に。
そうして壊れた彼等を見て、あの偽善者が何を思うか。それを確かめる。
だから――
「皆さん、心配して下さってありがとうございます」
――だから私は、今日も笑う。