Fate/betrayal   作:まーぼう

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休息

「八幡様、はい、どうぞ」

「おう、サンキュ」

 

 メディアから湯飲みを受け取り茶を啜る。

 テレビからはバラエティーの笑い声が響く。

 外に繋がる障子戸は、2月にしては暖かいために開け放してあり、そこから覗く庭では迷いこんだトラ猫が眠たげに欠伸していた。

 塀の向こうの通りを、車のエンジン音が通り抜けていくのが聞こえた。

 一口大に切られた栗ようかんに、楊枝を突き刺し口に運ぶ。旨い。

 

 

 平和だ。

 

 

「じゃなくて!?」

 

 平穏な日常は、突如現れた魔神『トオサカ』によって脆くも崩れ去った。

 

「誰が魔神か!?」

「ナチュラルに人の心読むなよ。なんだよ遠坂」

「いや、なんだじゃなくて。なんでこんなまったりしてるわけ?まだ聖杯戦争は終わってないんだけど?」

「仕方ねえだろ。できる事が何もねえんだから」

 

 残る敵はランサー一人。しかしそのランサーは、真名こそ判明してはいるものの、それ以外の情報が全くと言っていいほどに無い。潜伏場所を探ろうにも、まずはその手がかりから探さなければならないのが現状だった。

 一方こちら側の状況だが、ランサーからは既に拠点がバレている上に、俺にイリヤという荷物を抱えている。

 戦力も総合的に見れば高いものの、ランサーと正面からぶつかり合えるのはセイバーのみ。そしてそのセイバーは現在衛宮とデート中である。

 連戦の為、俺はもちろん他のメンバーもダメージが蓄積している。だからいっそ、今日一日は休養に宛ててしまおうということで話が着いたのだ。

 

「そうだけどさぁ……」

 

 頬杖を突き、退屈そうに呟く遠坂。要するに何もしないことに飽きたらしい。俺はゴロゴロするのは得意だけど、こいつはそういうの苦手そうだしな。

 

「まぁ気持ちは分からんでもないが、実際下手に動くわけにもいかねえんだ。我慢しろよ」

 

 さすがに一人でランサー捜索に行ったりはしないと思うが、念のために釘を刺す。

 アインツベルンの森での行動やその正体なんかから考えて、ランサーは非常に英雄らしい英霊だと予想できる。しかし遠坂達から聞いた話によると、同時に英雄らしくない行動も目立っている。

 おそらくこれは、ランサーとそのマスターの連携が取れていないことを意味している筈だ。

 つまりランサーは、マスターと性格的に馬が合わないのではないだろうか。もしかしたら意にそぐわぬ服従を強いられている可能性もある。

 ランサー個人は、おそらくセイバーとの正面対決、いわゆる決闘を望んでいるのだろう。だから俺達が多少近付いたところで見逃されるかもしれない。

 しかしそのマスターは違う。セイバーが居ない状況で下手に居場所を探ったりすれば、藪蛇になる可能性が高い。

 なんにしてもセイバーが居なけりゃ話にならないのだ。おとなしく休む以外にない。

 

「八幡様、おかわりどうぞ」

「おう」

 

 メディアから湯飲みを受け取り、また啜る。そんな俺達を見て、遠坂が半眼で口を開く。

 

「……あんた達も遊んできたら?」

「なんでわざわざ疲れてこなきゃなんねえんだよ。休みってのは休む為にあるもんだろうが」

「なんでそんなにジジ臭いのよあんたは……。キャスター、あなたこんなので本当に満足なの?」

「私は八幡様のお側に居られるだけで十分幸せですから」

「バカップルというかもはや老夫婦ね……。ハァ……あたしも早く彼氏作んないと綾子に先越されるかも……」

「衛宮はセイバーに取られたしな」

「ななななんでそこで士郎が出てくるのよ!?」

 

 いやだってなんか何時の間にか名前呼びになってるし。綾子ってのが誰かは知らんが。

 そんな風にダラダラと会話していると、気付けば昼飯時になっていた。

 

「失礼いたします」

 

 セラさんがお盆に料理を乗せて居間に入って来た。

 

「あー、ごはん?」

 

 匂いに釣られたか、今まで隣の部屋にいたリズさんものそのそと起き上がる。て言うかこの人もメイドだったよね?

 ちなみに二人ともメイド服は着ておらず、遠坂に借りた服を着用している。……リズさんは胸元がかなり苦しそうだが。

 俺はテーブルの片付けをメディアと遠坂に任せて隣へ向かった。

 

「んじゃ、イリヤを起こしてくるか」

 

 

 

「イリヤ、起きられるか?」

「……あ……ハチマン……?」

 

 イリヤは今朝からいきなり体調を崩していた。

 詳しいことは俺には分からんが、イリヤが器だとかいうのが関係してるらしい。しばらく休めば回復するって話だが……。

 俺がこの家から出ない理由の一つはこれだ。衛宮もイリヤの事をかなり気にしていたが、俺と遠坂で無理矢理追い出した。セイバー待たせんなボケ。

 

「飯、食えそうか?」

「うん……」

 

 背中を支えて起こしてやると、イリヤは弱々しく頷いた。無理をしている様子はない。強がりでは無さそうだ。

 イリヤを連れて居間に戻ると、既に昼食の用意が整っていた。メニューは焼きうどん。調子の悪いイリヤに合わせたのだろう。つうかこんなのも作れんだな。

 

「イリヤ、あーん」

「あむ……」

 

 いつか俺にしていたように、リズさんがイリヤにあーんしている。イリヤは特に照れるでもなく普通に食っていた。

 一方俺はそうもいかない。

 

「八幡様、あーん♪」

「……自分で食うからいい」

「駄目です。お身体に障ります」

「いや、今から左手使うのに慣れておかないと……」

「必要ありません。私が一生お世話します」

 

 食事の度に繰り広げられる攻防だが、今のところ俺の全敗だった。フォーク取り上げられたらどうにもならん。

 今回も結局押し切られて、メディアのされるがままになっていた。

 

「……あーん、なさいますか?」

「いらない……」

 

 セラさんと遠坂が、そんなコントみたいなやり取りをしていた。

 

 

 

 俺は静かな方が好きだ。

 しかし普段騒がしい人間がおとなしいと気持ち悪い。イリヤにはさっさと回復して、以前のように引っ掻き回してほしいところだ。

 

 

 そんな風に思っていた時期が俺にもありました。

 

 

「飽ーきーたー!ハチマン、どっか遊び行こー!」

 

 午後になってからイリヤはみるみる回復し、夕方にはこの通りである。休めば治るというのはそのままの意味だったらしい。つうかお前俺より歳上とか言ってなかったか?

 

「病み上がりなんだからおとなしくしてろよ……。大体この時間じゃ遊べるところなんかねえだろ」

 

 いや、遊ぶだけならどうとでもなるだろうけど、『安全に』という条件が付くと正直怪しい。イリヤもその辺は分かってる筈なのだが、しかし納得する様子は無い。さすがようじょ。

 

「ちょっとでいいから外行きたいのー!もう寝てるの飽きたー!」

 

 まあ気持ちは分からないでもないが。俺自身、昨日は一日寝たきりだったわけだし。ちなみに原因はこいつ。言わないけど。

 

「ハチマン……ダメ……?」

 

 テーブルに顎を乗っけて、涙目であざとく首を傾けるイリヤ。

 並の相手ならば即KOの愛らしさではあるが、あいにく俺は百戦錬磨のぼっち様。この程度で動揺したりはしない。ただし、隣でリズさんが可愛くイリヤの真似をしていて威力倍増。要するにめっちゃ動揺してる。

 

「仕方ありませんね……」

 

 狼狽える俺を見かねたのか、セラさんがため息を吐いて呟いた。

 

「ハチマン様、申し訳ありませんが買い物を頼まれては頂けないでしょうか?」

「買い物?」

「はい。そろそろ夕食の準備をと思ったのですが、少し足りない物がございますので。お願いできますか?」

 

 ……日が暮れるまではまだあるよな。

 

「了解。メモ頼むわ」

「えー!ハチマンだけずるい!」

 

 分かってねえのかよこの幼女。

 セラさんからメモを受け取って立ち上がる。隣にはいつの間にかメディアもいた。

 

「いや、なんで居んの?」

「八幡様がお出掛けになるなら当然着いていきます」

 

 ですよねー。分かってたよ、うん。

 

「で?遠坂も?」

 

 一緒に立ち上がった遠坂に半眼を向ける。

 

「サーヴァントと離れてる時に襲われたらどうすんのよ」

 

 ま、荷物持ちは必要だしな。……あれ?俺が荷物持ちしなくていいって滅茶苦茶新鮮。

 

「ホラ行くぞ。さっさと用意しろ、イリヤ」

「え……?」

 

 何キョトンとしてんだよ。俺は先に玄関へと向かった。

 

「イリヤ、お出かけだって」

「え?あれ?ま、待って!」

「日が暮れるまでにはお戻り下さい。リズ、イリヤ様の護衛をお願いします」

「がってんしょーち」

「……どこで覚えて来たのですか」

 

 そんな会話を聞きながら、俺は靴を履くのをてこずっていた。やっぱ右手が無いって不便だな。

 

 

 

「多分この辺りだと思うんだけどな」

「もうちょっとあっちじゃない?」

 

 五人でぞろぞろと出掛けた先。

 買い物は二人もいれば十分なのでメディアと遠坂に任せ、残りの三人で衛宮達を探そうという話になった。

 デートの予定と時間を考えればこの近くに居る筈なので、冷やかしついでに迎えに行こうというわけだ。

 メンバー振り分けでは、メディアは案の定俺と組みたがっていたが、結局ハンカチ噛んで悔しがる事になった。いや泣くなよこんなんで。仕方ねえだろ?

 

 

 俺→片手

 イリヤ→幼女

 リズさん→イリヤ以外興味無し

 

 買い物の役に立たねえ。

 

 

 そんなわけで戦力外通告を受けた俺達は、スーパーの近くの河川敷の公園まで様子を見に来たのだが、ぐるりと見回しても人影は見当たらない。つーか今さらだけど、うっかりキスシーンとかに遭遇したらどうしよう。

 イリヤと二人、手を繋いで歩く。

 リズさんは少し離れたところを見に行っており、今はイリヤと二人きりだ。

 

「えへへ、あたし達もデートみたいだね?」

 

 イリヤが不意に、はにかみながらそんなことを言った。俺はそれに優しく笑って応える。

 

「アホ」

「ぶー!なんでー?」

 

 だから俺はロリコンじゃなくてシスコンなんだよ。

 

 穏やかな時間。

 衛宮達と戦ったあの夜からまだ一週間も経ってないが、今までずっと緊張の連続で、心休まる時など無かった。

 不思議だが、放課後のあの教室にも似た空気を感じてしまった。

 だからだろうか。『それ』の接近に気が付かなかったのは。

 

 

「ほう?これはこれは」

 

 

 突然の声に振り返ると、そこには金色の男が立っていた。

 鮮やかな金髪もそうだが、なんと言うか身に纏う空気がきらびやかな気がしてならない。その身に受ける夕陽も相まって、全身が黄金色に輝いているような錯覚を覚える。

 いっそ神々しささえ覚える美貌の持ち主だが、見下すような冷たい笑みのお陰で全てぶち壊しだった。いや、似合ってはいるが。

 

 ……なんだコイツ。

 

 そう呟く直前に、左手に違和感を感じた。

 見ればイリヤが俺の手を強く握り、男を凝視しながら細かく震えている。……怯えてる?

 再度男を見ると、男は俺達の様子など気に留めた風もなく一人ごちた。

 

「セイバーを迎えに来たつもりだったが、聖杯を先に見付けてしまったな」

 

 セイバー!?聖杯!?コイツ、聖杯戦争の関係者か!

 残るサーヴァントはランサー、こいつはそのマスターか。

 イリヤを抱えて距離を取る。周囲を警戒するがランサーが飛び出してくる様子は無い。

 一方金色の男は開いた距離をゆっくりと、しかし無造作に詰めてきた。まるで俺達など注意するにも値しない……ていうかコイツ、俺達のこと見ちゃいねえ!背景かなんかだと思ってやがる!?

 

「まだ少し早いが……まあよかろう。ついでに回収しておくか」

 

 コイツの『独り言』が何を意味しているかは分からないが、何かとてつもなくヤバい予感がする。

 俺はともかく逃げを決め、コースを探――そうとした瞬間に、男の気配が変わった。

 

 死んだ。そう確信した。

 

 男は何かしたわけでもない。ただ俺を『見た』だけだ。断言するが魔術の類いは使われていない。

 しかしその『視線を向ける』という行為、ただそれだけで、バーサーカーと相対した時以上の絶望感が押し寄せてくる。イリヤがやられたのはこれか!?

 何もできずに立ち竦む俺達に、男は嗜虐的な笑みを浮かべて歩を進め、

 

「む?」

 

 突然脇から飛来した何かに足を止めた。

 高速で回転しながら飛んできたそれは、男に命中する直前に硬い金属音を立てて弾かれ俺の足下に突き刺さった。

 それは巨大な白銀の――槍?斧?3メートル近い長大な柄の先にでっかい斧刃が着いたような武器だった。斧槍、ハルバードというやつかもしれない。

 飛んできた方に目を向けると、リズさんが腕を降り下ろした格好で佇んでいた。彼女が投げ付けたらしい。

 リズさんは続けて脇に停まっていたワゴン車に手をかけ、「よいしょ」と担ぎ上げ、て、ええぇぇぇ!?

 まばたきしても現実が変わることはなく、リズさんは男に向かってワゴン車をぶん投げた。

 男は慌てることもなく、ただ一言つまらなそうに「邪魔だ」と呟く。同時に空中に現れた魔方陣から何かが打ち出され、ワゴン車もろともリズさんを貫いた。

 ワゴン車は空中で爆散し、リズさんは腹に穴を開けて倒れてしまった。おいおいおいおい、なんだよこれ!?

 

「リズ!」

「動くなバカ!」

 

 俺を振り払って駆け出そうとしたイリヤに飛び付いて止める。片腕な為上手くいかず、身体全体で押し潰すような形になってしまった。

 普段ならその事に心の中でしなくてもいい言い訳をするところだが、そんな余裕も無い。リズさんの馬鹿力も驚きだが、この男の戦闘力は普通じゃないぞ?これじゃまるでサーヴァントだ。マスターなんじゃないのか?

 男が再びこちらを見る。俺はその視線の圧力に耐えられず、顔を伏せることしか出来ない。気分はほとんど土下座だ。

 

「どうやら身の程はわきまえているらしいな?」

 

 イリヤを押さえ込み、ただ待っていると、男はすぐ側で立ち止まったらしい。頭上から声が降ってきた。

 

「が、肝心の作法の方はまるでなっておらんな。まあ、下民に礼節を求めたところで詮無いことではあるが」

 

 ゴリッ

 

 言葉と共に、頭を踏みつけられる。

 力はまったく入ってないが、そのまま踏み砕く事もできるのが、はっきりと分かった。

 

「貴様は確か、キャスターの元マスターだったな?令呪も失っているようだし、見逃しても構わんのだが、さて……?」

 

 この男が何者なのか。何をどこまで知っているのか。

 そんな事はどうでも良かった。ただこの場を逃れられればそれだけでいい。

 時間の感覚が完全に失われ、どのくらいが経ったのかまるで分からなかったが、不意に圧力が消失した。

 

「ハアァ!」

 

 突然現れたセイバーが、烈拍の気合いと共にに男に斬りかかる。男はそれを、飛び退いて難なくかわした。

 

「無事ですか?ハチマン」

 

 爆発音を聞いて駆け付けてくれたのだろうか。何にしても助かった。

 

「ああ、俺もイリヤも大丈夫だ。でもあっちでリズさんが……」

「……そうですか。私がアーチャーを引き付けます。その間に彼女を救出して逃げて下さい」

「アーチャー?何言ってんだ?」

「そのことは後で」

「……分かった」

 

 聞きたい事は山ほどあるが、確かに今はこの場を凌ぐのが先決だ。

 セイバーは油断なく男を睨み付ける。が、男は涼しい顔で口を開いた。

 

「セイバー、(オレ)を待ちきれなかったのは解るが、少々はしたないのではないか?」

「何故貴方がここに居る?」

「決まっている。花嫁を迎えにくるのは当然だろう」

「まだそのような戯れ言を……!」

 

 会話の内容はえらく気になるが、男の意識が完全にセイバーに向いている内に離れないとマズイ。

 なるべく気配を消しつつ、その上で最速でリズさんのところに向かう。

 先ほどの光景は見間違いではなく、男の攻撃はリズさんの腹部に直撃していた。が、リズさんはどうにか生きていた。

 あの怪力のことも合わせて考えると、リズさんは人間ではないのかもしれない。セラさんが護衛と言っていた事から考えて、戦闘用に調整されたホムンクルスというやつだろうか。

 

 男はいつの間にか黄金の鎧を纏い、剣を持ってセイバーと切り結んでいた。

 セイバーは男を圧倒しているように見えた。

 セイバーの言葉通りなら、あの男はアーチャーの筈。接近戦でセイバーに敵う筈がない。

 しかし男からは余裕が感じられ、むしろセイバーの方が焦っているように見える。

 やがて男は距離を取ろうと大きく飛び退く。セイバーは逃すまいと追撃しようとするが、いきなり現れた魔方陣に阻まれた。

 

 またあの攻撃だ。

 

 間合いが広がると立場はあっさりと逆転し、今度はセイバーが防戦一方となる。

 魔方陣は次々と現れセイバーに魔弾を放ち続ける。なるほど、確かにアーチャーだ。

 やがてセイバーが捌き切れなくなり、攻撃が身体を掠め始めた頃。

 

「セイバー!」

 

 一振りの剣が男に向かって飛来する。男は難なくかわしたが、攻撃の手を止めてその方向に目を向けた。

 俺とはセイバー達を挟んだ反対側に衛宮がいた。今の攻撃はあいつのものだろう。

 

「邪魔だ、雑種」

 

 男は一言不機嫌に言い放つと魔方陣の一つを衛宮に向ける。

 その時、今まで動きが激しくて見えなかった攻撃がようやく見えた。

 魔方陣の中心から、剣の柄らしき物が生えている。どうやら剣を射出しているらしい。

 

投影開始(トレースオン)!」

 

 どうやら衛宮にも見えたらしく、同じ剣を投影して打ち出した。

 二つの剣は中間でぶつかり合い――衛宮の剣があっさりと碎け散り、男の攻撃が衛宮のすぐ足元に着弾した。

 

「うおっ!?」

 

 衛宮は怯んでいたが、それだけでは男は不満だったらしい。新たに四つの魔方陣を生み出し衛宮に向ける。

 

「不敬だぞ。誰の許可を得て生き延びている」

 

 不快さも露に吐き捨てると、一斉に魔剣を解き放つ。

 

「シロウ!」

 

 セイバーが叫ぶ。

 さっきは攻撃をぶつけたお陰で軌道が逸れたようだが、今度は間に合ったようには見えなかった。

 噴煙が晴れるとその向こうから、四枚の花弁のような形の光の楯が現れる。確かアイアスとかいうやつだ。

 

「貴様ァ!図に乗るな雑種ゥ!」

 

 男は無傷な衛宮を見てなまじりを吊り上げると、今度は一気に十数もの魔方陣を生み出し――つうかそこまでキレるようなことしたのか!?いまだにお前が圧倒してるだろ!?

 ともかくまたしても一斉射が始まるかと思ったその時。

 

「……っ!邪魔をするな!僭越だぞ!」

 

 男はいきなり頭を押さえて怒鳴り声を上げた。

 

「……チッ!」

 

 一つ舌打ちすると、魔方陣を消して背を向ける。

 

「またくるぞ、セイバー。次は我(オレ)を受け入れる準備を済ませておけ」

 

 そしてそれだけ言い残すと姿を消した。

 

「何だったんだ、ありゃ……?」

 

 俺は、それだけ呟くのがやっとだった。


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