Fate/betrayal   作:まーぼう

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鬼気

 黄金の英雄王が光の粒子となって消えていく。

 彼が最期に浮かべた表情は、無念。

 言葉にするならおそらく――『なんでこんな奴らに』――そんなとこだろうか。

 

 俺達は勝った。

 遠坂を俺の『所有者』に設定し直し、二人がかりの剣製で英雄王の攻撃を封殺し、その隙にセイバーが接近戦に持ち込む。

 遠坂の立てた作戦は見事に当たり、彼女の持ち出した『切り札』の力もあって、苦戦はしたものの、俺達は目立ったダメージも無く英雄王を打倒することに成功した。しかし――

 

「遠坂……」

「……何も言わないで」

「だけど……!」

「慰めなんて要らないわ」

 

 俺の呟きに、遠坂は力無く答えた。その表情は伺い知れない。

 俺達は確かに勝利した。しかし、そのために彼女が支払った代償はあまりにも大きかった。

 遠坂の言う通り、きっと声をかけるべきではないのだろう。それでも何かをしてやりたいのに、彼女の纏う哀愁にも似た何かがそれを阻む。

 遠坂を心配する気持ちはセイバーも同じだったようで、口を開きかけては気まず気に目を剃らすといったことを繰り返していたが、やがて、どうにか声を出すことに成功した。やはり目を剃らしながら。

 

「リン、その……似合ってますよ?猫耳」

「慰めは要らないって言ってるでしょう!?」

 

 遠坂が絶叫しつつ手に持ったステッキをガンガン石畳に叩き付ける。

 50cmほどの短い柄の先に星形の飾り。その両脇に羽の着いた玩具のような杖。これこそが、遠坂が対英雄王用に用意した切り札だった。

 今の遠坂には、セイバーの言ったように猫耳が生えていた。また赤を基調とし、フリルをふんだんに使ったミニスカドレスを着用している。

 その手に持つステッキのデザインも相まって、女児向けアニメの――要するに魔法少女のコスプレに見える。が、問題はこれがコスプレどころかマジ物だということだ。

 

 件の杖はカレイドステッキと言うらしく、平行世界に格納した霊装を召喚して契約者に装備させるという、まんま変身ステッキなわけだが、その霊装というのがおそろしく強力なのだ。

 身体強化や耐魔力等の各種補助効果を、ほとんど最高ランクで常時展開している上に、強力な魔力砲を無詠唱で放つことができる。

 何より凄まじいのは、無限に存在する平行世界から魔力をかき集める能力。これによってカレイドステッキの所有者には、事実上魔力切れが無くなる。俺の剣製の杖の力と組み合わせれば、言葉通りに無限の剣製が可能となるのだ。

 俺の剣製の力は英雄王の蔵の宝具と較べ、速度でほとんど互角。威力ではまったく太刀打ち出来ず、わずかに逸らす程度の事しか出来なかった。それを遠坂との二人がかりで倍以上の物量を叩き付けることで圧倒したのだ。

 カレイドステッキの無限の魔力が無かったら、最後まで持ったかは微妙だっただろう。

 カレイドステッキに使用されている魔術はあまりに複雑過ぎて人間に扱えるシロモノではないらしい。それを制御する為に人工精霊――ルビーという名前らしい――を使っているのだが、その精霊の人格に問題があるらしく、今の今まで遠坂の家に封印されていたそうだ。

 

『まあまあ凛さん、似合ってるなら良いじゃないですか。普通十七にもなってこんな格好してたら痛いどころじゃすみませんよ?』

「だったらもっとマシな霊装出しなさいよアンタはァ!」

『そんなこと言ってもこれが一番性能の良いやつですし。敵の力を考えたら半端な物を出すわけにもいかないですから』

「その敵ももう居ないでしょ!?さっさと転身解きなさいよ!」

『ヤですよ。せっかく表に出たのにまた封印されたらたまりませんから。それに高校生の年増なんて、と思ってましたけど、弄りがいがあって以外と面白いですし』

「弄りがいってなんだ!?つか誰が年増だァ!?」

 

 とまあこんな感じだ。今回のような事例でも無ければ遠坂も封印を解くつもりは無かったらしい。

 なんにせよ、お陰で犠牲を出すこともなく英雄王を倒すことができたのだ。感謝するべきなのだろう。

 

「ともかく行きましょう。後はイリヤスフィールを救い出し、聖杯を破壊するだけです」

 

 気を取り直してセイバーが告げる。確かに最大の障害は取り除いたとはいえ、まだ終わりではない。

 遠坂と二人で頷きあい、境内の奥へと歩を進めた。その直後。

 

「二人とも、下がって!」

 

 セイバーがいきなり叫んで後ろに飛び出した。

 背後から膨大な光が飛来する。その極大の閃光から、セイバーは聖剣とレジスト能力、そして自分自身を盾として俺達を護った。

 

「く……!」

「セイバー!」

 

 数秒間の後に閃光が収まり、セイバーが片膝を着く。セイバーの最高の耐魔力を持ってしても防ぎ切れる攻撃ではなかったらしい。

 余波で石畳が焼け溶け、硝子質の滑らかな溝が出来ていた。その溝の先には、先ほどの攻撃を放ったであろう人物。

 闇色のローブを纏い、項垂れて顔は見えないが、キャスターに間違いなかった。

 

 

「そこをどけ……」

 

 

 地の底から響くような声。

 キャスターはその面を上げ、幽鬼の如き形相で吼える。

 

 

「聖杯は、私の物だァ!!」


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