後から地の文を付け足したんで色々おかしいと思いますが。
「つまり八人目のサーヴァントが存在していると、そう言いたいのかね?」
『ええ。現状マスターが不明なのはランサーとアサシン。アサシンはもう倒したから、その雪乃って女が連れてたのはランサーだと考えるのが妥当だけど、それだとどうにも金ぴかってイメージと結び着かないのよね』
受話器越しに答える声は、少なくとも表面上は冷静だった。
電話の相手は遠坂凛。自分の弟子だ。
彼女は昨夜遭遇したマスターから得た情報を元に、突拍子もない推論を組み立てて私に報告してきたのだった。
「……にわかには信じがたい話だな。何者かの偽装か、でなければライダーのマスターが咄嗟にデタラメを言ったのではないか?」
『偽装はともかく慎二のデマって線はないわね。あいつ、頭は悪くないけど機転の利く奴じゃないし。とにかくその可能性があるってことは頭に入れておいて。もし本当だったらあんたも危ないかもしれないわよ』
つまり、この娘は私を心配したらしい。
まったく、私のことは嫌っているだろうに。人が良いにも程がある。
十年早い、と言ってやりたいところだが仕方ない。彼女の師として、また保護者として、多少なりとも協力してやるべきか。
「……その女の名が本当に雪乃だと言うのならば、その黄金のサーヴァントはランサーではない」
『……なんですって?』
私の言葉に凛が険を深める。
「ランサーのマスターは時計塔から派遣されてきた魔術師だ。マクレミッツという名に心当たりはあるかね?」
『封印指定の
やはりバゼットのことは知っていたか。彼女は時計塔でもそれなりに有名だからな。
「そのまさかだ。彼女は私の元に直接顔を見せている。それでその封印指定執行者だが、キャスターのマスターと行動を共にしているところが確認されている」
『ちょ、それって……!』
「八人目のサーヴァントが実在するとして、そのマスターが雪ノ下雪乃であるならば、彼女は比企谷八幡と通じている可能性が高い。キャスターであれば聖杯に直接干渉して新たなサーヴァントを召喚することも可能かもしれん」
『いくらなんでもそんなわけ……!』
「あくまで可能性の話だ。だが、それなら色々と辻褄は合う。意識の隅くらいには置いておくべきだろう」
『ちっ……!』
舌打ちとともに凛の言葉が途切れる。
私の言葉から考え得る可能性を模索して眉間にシワを寄せている様がありありと想像できた。目に浮かぶようだ。
私はそんな彼女に言葉を投げる。
「ともあれ謎のサーヴァントに関してはこちらでも調査しておこう。気をつけろよ、凛」
『言われなくても。……ていうか良いの、あんた?監督役のクセに他のマスターのことベラベラ話しちゃって』
「八人目のサーヴァントなどというものが出てきた時点で既にまともな状況とは呼べん。これは聖杯戦争の参加者ではなく、冬木の管理者に対する依頼だ」
『相変わらず屁理屈は一流ね。……ありがと』
そんな言葉を最後に電話が切れる。
……少しは疑うということを教えておくべきだっただろうか。これで本人は警戒心が強いつもりなのだから頭が痛くなる。
ともあれだ。
「さて……バゼットを発見された時は肝を冷やしたが、これはこれで面白い。シナリオは早くも私の手を離れたな。物語がどう転ぶかは、もはや誰にも判らん。この状況、お前はどう愉しむ、ギルガメッシュ?」
「どうだった、遠坂?」
受話器を置くと同時にそんな声をかけられる。
私はそれに、首を小さく横に振って答えた。
「ダメね。やっぱり綺礼も把握してなかったみたい」
「そうか……。なぁ、本当に八人目のサーヴァントなんて居るのか?」
そう、根本的な疑問を口にする衛宮くん。
彼の疑問はもっともだった。私自身にも疑わしい可能性なのだから。
しかしこれは、無視するには危険すぎる。
私は綺礼から得た情報も加味し、思考を整理しながら答える。
「どうかしらね。ただ、可能性は否定できないわよ。アサシンとライダーが倒れて残るサーヴァントは五騎。内、セイバーとアーチャーは除外するとして、残りはランサー、キャスター、バーサーカー。でも、この三人の誰も黄金の武装とは結び着かない。まあ、英雄と黄金は大なり小なり縁があるものだから、絶対に無いとは言い切れないけど……」
衛宮くんは私の言葉に渋い顔をする。どうやら彼にも否定しきれないようだ。
「そっか……。それじゃ、ええと、比企谷だっけ?キャスターのマスターがその雪ノ下って娘の捜索を依頼してきたのは……」
「罠、なんでしょうね。何が狙いかは分からないけど。実際にどうかは分からないけどそう考えるべきでしょう。警戒は怠るべきじゃないわ」
「だよな。なぁ、これからどうするつもりだ?」
「決まってるじゃない。雪ノ下雪乃の情報が入ったんだから教えてあげましょう。依頼だもの」
人指し指を立てて答える私に、衛宮くんは不安気に顔をしかめた。
「大丈夫なのか、それ……?」
「実際に会えば狙いもハッキリするでしょ?罠のつもりだったっていうんなら、誰を嵌めようとしてくれたのか、思い知らせてやればいいわ」
「ああ、わかった。……いや、助かる。それで頼む。……すまん、人が来た。それじゃまた今夜」
ドアの開く小さな軋みを感じて、相手に断ってから携帯を切る。
背後を振り向くと、律儀にそれを待ってたらしい葉山が挨拶してきた。
「おはよう比企谷。……邪魔したか?」
「いや、ちょうど終わったとこだ。早いな葉山、まだ5時過ぎだぞ」
携帯に表示された時刻はAM 5:02。冬至はとっくに過ぎているとはいえまだまだ日は短く、この時間帯では薄暗い。
葉山は俺の言葉に苦笑して答える。
「……こんな状況で熟睡できるほど図太くないよ。そっちこそこんな時間に誰と電話だ?」
「遠坂だ」
「それって、確かアーチャーのマスターだった娘か?雪ノ下さんの捜索を依頼したっていう……まさか!?」
端的に答えた俺に食い気味に反応する葉山。まあこいつが巻き込まれたのも元々は雪ノ下を探してたからだしな。
「ああ、それらしき女の話を聞いたらしい。今夜直接会って話を聞くことになった」
「……大丈夫なのか、それ?その遠坂って娘、例の監督役とつながってる可能性が高いんだろ?」
「バゼットの話ではな。前回の聖杯戦争では遠坂家と教会は協力関係にあったらしい。遠坂と言峰、親子二代でつるんでても不思議じゃねえ。言峰はそのつながりで遠坂の後見人やってるらしいしな」
葉山は俺の言葉に渋面を作る。
「やっぱり危険じゃないか?わざわざ夜を指定してきたのも気になるし」
「少なくとも一戦交える可能性は考えてるってことだよな。つっても雪ノ下の名前を出された以上、無視するわけにもいかねえだろ」
「それはそうなんだが……」
選択肢が無いと示すが葉山は渋い顔のままだ。気持ちは解るがな。
葉山、及び自分自身の精神衛生のために何とか明るい材料を探すことにする。
「まあ、遠坂は遠坂で言峰に踊らされてるって可能性もあるけどな。もちろん、より悪い方を想定しておくのは当たり前だが」
「それを確認する為にも、直接会う必要があるか。……すまない、せめて俺が足を引っ張ってなければよかったんだが……」
「気にすんな。お前が居るせいで行動を制限されてるのも間違いないが、お前が居るおかげで打てる手もある。少なくともお前が居なかったら、俺はアサシンにやられてた」
「……ありがとう」
いきなり礼とか言うな。
本気で鳥肌が立ちそうになって思わず身震いしてしまった。
シッシッと犬を追い払うように手を振って、吐き捨てるように葉山に応える。
「やめろ気色悪い。間違っても海老名さんの前でそういうこと言うなよ。……そろそろメディアとバゼットも来る頃だろ、昼の内に作戦を詰める。葉山、早速だがお前にも働いてもらうぞ」
「ああ……って比企谷、まさか戦う気か!?いや、役目をもらえるのはありがたいんだが」
俺の言葉に一拍遅れで反応する葉山。こいつ漫才とかも上手そうだな。
葉山が驚くのも解るが、『敵』である可能性が低くない以上は対策を立てないわけにはいかない。
「バゼットが加わったとは言え、戦力的に不安なのは変わらんからな。先手を取られちまうと全滅コース必至だ。とりあえず叩きのめしてから話を聞かせてもらおう」
「いや、言ってることは分かるんだが、俺が言いたいのはそもそもそれが可能なのかって話で……」
「考えが無きゃこんなこと言わねえよ。まあ、メディアとバゼットに確認する必用はあるが……」
「……あんまり無茶なことは考えるなよ?」
言われる迄もない。
「しなくて良い無茶なら頼まれたってしねえよ。……まあ、やるしかねえならどうやって成功させるかを考えるだけだ。俺の考えた方法が可能なら、たぶんやれる。無理そうだったらおとなしく土下座でもするさ」
「……なんていうか、やっぱり比企谷だなぁ……」
「当たり前だろ?……ま、見とけ。数の暴力ってのがどういうもんか思い知らせてやるよ」