Fate/betrayal   作:まーぼう

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第55話

「ああ、そうなんだ。いや、大したことじゃない。はは、サンキュ。まあ正直に言えばサボりみたいなもんなんだけどな。とにかく今日は学校行けないんだ。すまないけど優美子たちにも伝言頼む……悪いな、戸部。今度埋め合わせはするから」

 

 携帯を切ってため息を吐く。

 方便とはいえ嘘を吐いて学校を休み、さらに頼みごとをするというのは、これまでに経験したことのない種類のストレスを感じた。

 とはいえこれは絶対に必要なことだ。

 そう切り替えてドアノブを捻る。

 廊下から部屋に戻ると、比企谷とメディアさん、そしてバゼットさんが車座になって話込んでいた。

 彼等の中心には人間の拳ほどの大きさの、銀色の球がいくつか転がっていて、メディアさんがそれを手に取って熱心に眺め回している。

 俺に気が付いた比企谷が、こちらに向けて口を開いた。

 

「葉山、首尾はどうだ?」

「家と学校には連絡した。怪しまれたけど問題はないはずだ」

「そうか。その調子で残りも頼む」

「……なぁ、こんなので本当に大丈夫なのか?」

 

 魔術についてはほとんど何も知らない俺だ、口を挟むのは間違いなのだろう。だけど……

 

「よくこんな手段を思い付くものですね。呆れを通り越して感心します」

「……こんなの、魔術に対する冒涜です……!」

 

 専門家二人の態度がこれでは不安になるのも仕方ないと思う。もっとも、

 

「方法論的には何の問題も無いはずです。ただ、魔術師では絶対に考えつかない手段でしょうね」

 

 と、バゼットさんが言っているので大丈夫は大丈夫なのだろうが。

 

「ま、できるできないの前に下準備が終わらねえと話にならん。俺らが生き残れるかどうかはお前にかかってるわけだ」

「カンベンしてくれ……」

 

 比企谷の言葉にげんなりと答える。こんな時に冗談を飛ばせるなんてどういう神経してるんだこいつは。

 

「申し訳ありません、隼人様。私が至らぬばかりに」

「ああ、いや。仕方ないよ」

 

 すまなそうに頭を下げるメディアさんーーいや、キャスターと呼んだ方がいいんだったか。……これも俺のせいでバゼットさんにバレたんだよな。

 比企谷の立てた作戦は、結構大がかりな下準備が必要になる。しかしそのために放った数体の使い魔はあっさりと潰されてしまったらしい。

 おそらくはアサシンの仕業だろうとの話だ。元から街に潜ませておいた使い魔は無事だが、それだけでは手が足りないらしい。

 

「……しかし、本気で不利な状況だな」

「まあな。ライダーかバーサーカーのマスターと連絡がとれりゃよかったんだが……」

 

 そう言ってこめかみを抑える比企谷。

 まあこちらの推測が正しかった場合、敵は七人中四人が結託してることになるわけだからな。気持ちは分かる。他人事でもないし。

 

「その、遠坂と言峰が手を組んでるっていうのは確実なのか?」

 

 否定の言葉を少なからず期待してそう聞く。答えたのは比企谷ではなくバゼットさんだった。

 

「確定というわけではありません。ですが前回の聖杯戦争では、教会は遠坂時臣を勝たせるために動いてました。言峰の父である言峰璃正は監督役の立場を利用して時臣に情報を流し、言峰自身もマスターとして参加し彼等に協力していました。前回の失敗を踏まえて今度こそ、と考えていても不思議ではないでしょう」

「それだけ有利だったのに負けたのか……」

 

 ふと思ったことが漏れてしまった。それを拾ったのは比企谷だった。

 

「そのことに責任を感じてた、なんて可能性もあるかもな。前回の聖杯戦争では、言峰が協力する前準備としてかなり早い段階から遠坂に弟子入りしてたらしい。住み込みって話だから娘とも面識があっただろう。実際、聖杯戦争の後は後見人をしてたみたいだからな」

「そんな殊勝な人間ではなかったと思いますが……。ですが言峰と遠坂が組んでいる可能性は高いと思われます。アーチャーがアサシンを倒したのも自作自演でしょう」

「ま、事実がどうあれそういう前提で行動するべきだろうな。計画の再確認するぞ」

 

 比企谷はそう言うと、会話が止まったのを確認してから口を開いた。

 

「まず、今夜遠坂と衛宮、アーチャーとセイバーの四人と接触する。目的は行方不明の雪ノ下の情報。だがさっきの話の通り、こいつらは言峰及びアサシン、ランサーと組んでる可能性が高い」

「彼等が本当に雪ノ下さんの情報を持っているとは限らないんじゃないか?」

「いや、監督役の言峰なら雪ノ下の情報を掴んでいる可能性は高い。連中が言峰と組んでるならそこから情報を引っ張れる。逆に言峰と組んでないなら、そんな嘘を吐く意味が無い」

 

 なるほど。どちらにしても無駄にはならないわけか。逆に言えば無視もできないことになるが。

 比企谷はなおも続ける。

 

「さっきも言ったが、俺達は遠坂達が言峰と組んでるものとして、つまり敵という認識で行動する。先制で仕掛けて無力化するぞ」

「話し合いは無理なのか?せめて確認してから……」

「こっちは総合力で負けてる。勝とうと思ったら先手を取るのは絶対条件だ。心配するな、深読みだったら全員で土下座すればいい」

「おい」

「俺達の目的はあくまで情報だ。だから話を聞き出すためにも、土下座で済ませるためにも殺すのは無しだ。作戦目標は『殺さずに行動を封じること』になる」

「普通に戦うより難度が上がってるじゃないか……」

 

 とはいえこの指示は正直ありがたい。殺さなくて良いとなると、心理的な負荷がまるで違う。

 そのことに関して安堵の表情を出していたのは俺だけだったが、おそらく比企谷も似たようなものだっただろう。メディアさんとバゼットさんは……同じ、と思っておこう。無理にでも。

 

「しかしそうなると、バゼットさんの宝具は使えないか……」

 

 俺は床に転がっていた球を拾ってそう呟いた。この球こそが、バゼットさんの宝具である『剣』らしい。

 宝具とは英霊のみが持つ切り札。比企谷はそう説明していた。

 だからか、バゼットさんが宝具を持っていると聞いてえらく驚いていた。ちなみに驚いていたのはメディアさんもだ。よほど特殊な事例らしい。

 バゼットさんとの共闘が決まった際、戦力確認としてそれぞれの手札を晒すことになった。

 言い出したのはバゼットさん。

 比企谷もそのつもりだったようだけど、自分の手札を隠すことより相方の手札を確認することを優先したらしい。俺に関しては隠すべきことなんて無かったから、その分だけ自分が有利と考えたのかもしれない。

 

「そうですね。もっとも私の情報は既に敵に渡っているでしょうから、どのみち使う機会は無いでしょうが」

 

 俺の呟きにバゼットさんが答える。

 バゼットさんの宝具は、一言で言えば『切り札殺し』だ。なんでも敵の切り札に反応して、『敵が切り札を使う前に倒した』ことにしてしまうらしい。

 正直俺の理解を超えていたが、比企谷に「魔術ってそういうもんらしいから諦めて納得しとけ」と言われたのでそれ以上考えないことにした。

 ともかくバゼットさんの宝具は、敵を問答無用で倒してしまう文字通りの『必殺』なため、今回のように生け捕りを目的とした戦いには絶望的に向いてないのだ。

 

「もっとも、だからこそ生け捕りを主目的にしたんだけどな。バゼットのことが相手に知れてるなら、もうその時点で敵の切り札を封じたも同然だ。安全に、とはいかんだろうが、取って置きを気にせずに作戦を立てられるのは大きい」

「……向こうがそれでも宝具を使ってきたら?」

「その場合はバゼットの判断に任せる。多分死人が出ることになるだろうが、殺されてやるわけにもいかんしな」

「やっぱりそうだよな……」

 

 バゼットさんも静かに頷いていた。

 気は乗らないが、こればかりは仕方ない。敵が間抜けでないことを祈ろう。

 それはそれとしてだ。

 

「セイバー、アーチャーについてはわかった。残りはどうするんだ?」

 

 ここまでの対策は敵戦力の半分までのものだ。残りの半分はあくまで可能性でしかないが、無視して良いものでもない。というかそっちがあるからこそ、こうして額を突き合わせて悩んでいるわけで。もちろんそんな事、比企谷だって理解してるが。

 比企谷はそれを証明するように話を続ける。

 

「アサシンは力が弱い。幸い場所の指定はこっちでできたから、メディアとバゼットの結界で締め出す。警報や気配察知じゃなくて通行を物理的に阻害するタイプのやつだ」

「……出来るのか、と聞こうと思ったけど、お前ならなんとかするんだろうな。アサシンはそれでいいとして、ランサーはどうする?その言い方だと力付くで突破されそうだけど」

「メディアの正体は相手に知れてる。もしかしたら宝具のこともな。なら俺達に対してランサーを使うことはないだろう」

「それでも出てきたならむしろ好都合。その場でランサーを取り戻します」

 

 バゼットさんは、どことなく顔を険しくしてそう言った。

 彼女はメディアさんの宝具のことを知った時、叶うならランサーを取り戻したいと主張していた。初めは戦闘機械みたいな人だと思ったが、人間らしい一面を見れてホッとしたものだ。

 俺は左腕の時計に目を落とす。学校では一時限目が終わる頃だろうか。

 俺は立ち上がって比企谷に告げる。

 

「そろそろ時間だ。俺は作業に戻る」

「了解だ。こっちも改造を急がないとな」

「……それ、働くのは比企谷じゃなくてメディアさんだよな?」

「ほっとけ、仕方ねえだろ」

 

 まあ、確かに仕方ないけどな。

 俺はそう苦笑して部屋を出た。

 

 

 

 

「リン、見つけました」

「これで四つ目ね。でかしたわ、セイバー」

 

 セイバーの見つけた奇妙な模様を見て、遠坂は笑顔を作った。

 ここは冬木市のほぼ中央に位置する海浜公園。キャスターのマスターは、落ち合う場所にここを指定した。

 俺と遠坂は、何かの罠が仕掛けられてる可能性を考えて昼の内に調べに来たわけだが、案の定だったわけだ。

 

「遠坂、これなんだか分かったか?」

「ルーン文字の結界魔術みたいね、通行を遮断するタイプの。わたし達を逃がさないためかしら」

「だとしたらえらく強気だな」

「そりゃそうでしょ。残り五騎の内二騎を占めてる上に『番外』まで連れてるんだから」

 

 遠坂に言われて納得する。確かに強気にならない方がおかしい。

 遠坂は公園の見取り図を広げると、これまでに発見した結界の基点の位置を確認して呟いた。

 

「かなり広範囲ね……」

「結界の範囲のことか?」

 

 遠坂は俺の言葉に頷いて見取り図を横にずらした。見ろという意味らしい。

 言われるままに覗き込むと、思った以上に遠坂との距離が近づいて焦る。

 

「どうかした?顔赤いけど」

「え?い、いや、なんでもない」

 

 ……遠坂の髪が良い匂いだったとか、言えるわけないだろ。

 

「ふーん?ま、良いけど。それで結界だけど、どう思う?」

 

 あっさり流してもらえて助かった。

 俺は遠坂の持つ見取り図に視線を落とす。

 

「……森が多いな」

 

 まず初めに思ったのはそれだった。

 遠坂が引いた赤い円、結界の予想範囲だが、その内側のほとんどが緑色で占められていた。

それを見たセイバーが口を開く。

 

「おそらくアーチャー対策でしょう」

 

 その通りだろう。視界の悪い森では飛び道具の力は半減する。

 俺はそれに追随して付け加えた。

 

「それと伏兵じゃないか?」

「やっぱそれよね……」

 

 敵は徒党を組んでいることを隠している。そしてそれが俺達にバレていることには気付いてない。

 なら、初めに姿を見せるのはキャスターだけで、他の仲間は隠れてこちらの隙を伺うはずだ。そして森という地形は、伏兵を配置するには持ってこいと言える。

 

「……よし、だったらこの結界を逆に利用してやりましょう。上手くいけば敵戦力を分断できるわ」

「逆利用なんてできるのか?キャスターの術なんだろ?」

「無力化や変質は無理でも指定範囲の変更くらいならなんとかなるわよ。ついでに術式を少し書き加えてこっちで起動できるようにしておきましょ」

 

 遠坂は獰猛に笑うと、見取り図の一角を指差す。

 

「この川沿いの一角、この広場なら十分な広さがある上に遮蔽物も無いわ。セイバーとアーチャーが十全に力を発揮できる。ここに誘い込んで速攻で倒すわよ」

「そんな上手くいくか?」

「キャスターが姿を現せば良し、例えいきなり仕掛けてきたとしても同じことよ。例の黄金のサーヴァントが遠近どちらのタイプなのかは不明だけど、少なくともランサーは接近戦主体。どう転んだところで敵戦力を切り離せるわ」

「ここに来ないで逃げた場合は?」

「その場合はキャスターが敵だってことが確定するだけね。こっちが雪ノ下雪乃の情報をちらつかせてるのに食い付かないってことは、それを必要としてないってことでしょ?後日改めて人を嵌めようとしたことを後悔させてやりましょう」

 

 こんなところか。

 話が一区切りついたのを感じて、俺はため息を吐いた。

 遠坂から聞いた限りでは友達を助けたいって話だったから、できれば協力してやりたいと思ってたんだけど、こんな結界が敷かれてるんじゃやっぱり敵みたいだな。

 無意味な戦いは避けたいけど、相手から仕掛けてくるんじゃ仕方ない。

 

「…………?」

 

 と、そこで視界の端に違和感を覚える。

 

「どうかしましたか、シロウ?」

「いや……なんだろ?」

 

 見失ってしまった。目を擦ってみたが見付からない。

 フラフラと『何か』を感じた辺りに近づく。

 

「ちょっと、どうしたのよ?」

 

 遠坂の声には応えず辺りを見回す。すると、ベンチの背もたれの裏に『それ』を発見した。

 

「なんだこれ……?」

 

 思わず手に取ってしまう。

 それは指先ほどの大きさの紙片。それに一つの模様、いや、文字が印されている。

 

「これ、魔術文字……だよな?」

「そうだけど……なにこれ?」

「これもキャスターの仕業か?」

「いや、いくらなんでもそんなわけ……」

 

 遠坂が戸惑うのも分かる。

 複雑だから、ではない。むしろ逆。杜撰、と呼ぶのすらも躊躇われるほど意味が無いのだ。

 印された魔術文字は確かに本物だ。だけどこれ単体では何の意味も成さない。

 ついでに言えば、使われているのは普通のコピー紙にただのインクだ。それがセロハンテープで貼り付けられていた。これが最高位の魔術師の御業とはとても思えない。

 

「……一応確認してみましょう。アーチャー?」

 

 遠坂は念話でアーチャーに呼び掛けた。

 アーチャーはこの一帯の使い魔を狩った後、周辺の警戒にあたっている。何か見ているかもしれない。

 

「……そう、ありがと。引き続き警戒よろしくね。どうも近所の小学生が、同じ物をあちこちに貼り付けてるみたいね」

「小学生?キャスターに操られてるのか?」

「そういう様子でもないみたい。友達とふざけ合いながららしいし、何かのおまじないかもね。流行ってるのかしら」

 

 おまじないか。

 本物の魔術文字と言ってもホントに初歩的な物だし、そういうのにちょっと詳しい本になら載っていてもおかしくないだろう。たまたまそれを拾ってきたのかもしれない。

 辻褄は合う。だけど……

 

「これ、危なくないのか?例えキャスターが関係無かったとしても本物なんだろ?」

 

 俺のその言葉に、遠坂はキョトンと目を丸める。

 

「ないない。確かに本物の魔方陣にも使われる文字だけど、これだけじゃ何の効果も無いわよ」

 

 そして吹き出すと、指を立てて解説を始めた。

 

「魔方陣っていうのは使われる文字の種類や数、設置する位置、方角、時間。他にも使用する塗料の色やその材料、単純な大きさなんかも。その全てに意味があって、互いが互いを補助することで効果を高めているの」

 

 そして例の紙片をつまみ上げて、苦笑と共に続ける。

 

「この文字は、元々力の方向を整えるだけの補助が主目的なの。だから単体で使っても何の意味も無いわ。位置は適当だし、材質は言うに及ばず……。まぁ、おまじないで雰囲気を味わうくらいの役には立つんじゃない?」

「でもこれ、見た時に変な感じしたぞ?俺はそれで気が付いたんだし」

「一応本物だしね。少しくらいは世界に影響を与えるわよ。て言うかよく気付いたわね、こんな小さな歪み。むしろそっちのが驚きよ」

「それじゃこれ、本当に意味無いのか?」

「無意味ってこた無いわよ。そうね……」

 

 遠坂は少し考えると、いたずらっぽく笑ってこう言った。

 

「同じ物を百枚くらい、正しい法則で並べてやれば、紙で割り箸を折るくらいの強化なら出来るかもね?」

 

 

 

 

「あなた、何をしているの?」

「へ?」

 

 その男は、私の声に間抜けな声を上げて振り返った。

 おそらくは私と同年代の少年。それが駅の壁に手を伸ばしている。

 私は彼に、少しきつめの声を出す。

 

「へ?ではないでしょう。いい年していたずらなんて、恥ずかしいと思わないの?」

「ああいや、すんません……」

 

 手のひらを上に向けて差し出すと、男はばつの悪そうな顔で謝り、存外素直に持っていた物を渡してきた。

 渡されたのは、小さな紙切れ。

 白いコピー紙に、文字とも模様ともつかない印が描かれている。セロハンテープが付いているので、これで壁に貼り付けるつもりだったのだろう。

 

「……何、これ?」

「いや、なんか友達に頼まれて」

「友達?」

「ええ、そいつも別の誰かに頼まれたらしいんですけど。意味はわかんないけど、こんくらいならやってあげても良いかなって」

「良いわけないでしょう。こういう場所に勝手に貼り紙をするのは法令違反よ。そのくらい考えれば……」

「ああいやすんません!その通りです!もうしませんからカンベンしてください!」

「……もういいわ。行きなさい」

 

 男は小走りで逃げていった。私はそれを見送ってから首を廻らして人を探す。

 目当ての相手はすぐに見付かった。というか彼はひどく目立つために見失う方が難しいのだが。

 

「些事は済んだか、雪乃」

 

 歩み寄った私に、私のサーヴァントはそう声をかけてきた。

 彼は他のサーヴァントと違って霊体化ができないらしく、目立って仕方がない。ちなみに当たり前だが鎧姿ではない。

 私は男から取り上げた紙片を彼に見せて訊ねる。

 

「ギルガメッシュ、これが何か解る?」

「ふむ……?」

 

 ギルガメッシュは小さく首を捻る。

 

「同じ物を他にも見かけたわ。ただの偶然とは思えないのだけど」

 

 私の言葉にギルガメッシュは辺りを見回すと、「なるほど」と愉快気に呟いた。

 

「どこの誰かは知らんが、中々面白いことを考える」

「……何か分かったの?」

「ああ。(オレ)の嗜好とは真逆だが、ここまで徹底すれば感心できんこともない。動きがあるとすれば今夜か?」

「動き?」

「物見に行くのも悪くないかもしれんな。まあ、采配は貴様が振るえ。行きたいと言うなら案内くらいはしてやろう」

「あ、ちょっと!?」

 

 言うだけ言って、しかし説明はろくにしないままギルガメッシュは歩き出す。

 付き合いは僅かな時間だが、この男はいつもこうだ。始めは思わせ振りなことを言っているだけかとも思ったが、明確なことを言った時には尽く的中している。

 つまりこの男は、頭の良さが異常なのだ。

 頭だけではない。力も、器も、何もかもが規格外だ。そしてそれを他人のために使うつもりが微塵も無い。

 

 

(私は、本当にこの男を使えるの……?)

 

 

 心によぎる暗い陰。

 それは私にとってはひどく慣れ親しんだものだった。私は幼い頃からその陰の中で生きてきた。

 

 昔はあの人の。

 最近は、彼の陰の中で。

 

 頭を振って妄念を振り払い、ギルガメッシュの背中を追いかける。

 そう。追いかけて、そして追い付いてみせる。

 

 そのために、私は戦うことにしたのだから。


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