Fate/betrayal   作:まーぼう

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第64話

「何取り逃がしてんだよ!」

 

 激昂した慎二が声を荒げる。

 逃走した神父を追撃させ、仕留めきれずに帰ってきたキャスターへの罵倒だった。キャスターの消耗具合と、あの神父の実力を考えれば無理からぬ結果とも思うが。

 追撃であれば魔術師(キャスター)よりも弓兵( アーチャー)の仕事だと思うのだが、慎二はわざわざ逆を選んだ。万全とは程遠いキャスターでは、自身の護衛として心許ないと思ったのだろう。

 

「ったく、お前らホント使えないな! あの金ぴかにも二人がかりで負けるしさ」

 

 ともあれ、ぶつぶつと愚痴をこぼしながら、それでも慎二の表情は和らいでいた。霊的拠点の強奪という目標を達成したことで、多少は溜飲を下げたらしい。

 

「それで、ここからどうするつもりだ?」

「そうだな……」

 

 私の問いに、手を顎に当てて考えこむ。特に明確なビジョンがあるわけではないらしい。

 

「とりあえず衛宮の奴を探すか」

「何故だ?」

 

 思い着いたような、というか恐らくは本当に今思い着いたのであろう呟きに、純粋な疑問を返す。

 その問いに、慎二は意外な言葉を聞いたような顔をすると再び考え込んだ。

 

「……別に。サーヴァントを失くして泣いてるのを笑ってやるのも面白いかと思っただけだ。それに、あいつがどうしてもっていうなら手下にしてやってもいいしな」

 

 そして大分考えた末に、そんな言い訳じみた言葉を返してそっぽを向いた。どうやら自分でも理由が思い着かなかったらしい。

 

「あんな小僧を味方につけたところで役に立つとは思えんが」

「ああ!? どうでもいいだろそんなこと! いちいち僕に意見するな!」

 

 私は小さくため息を吐いて独りごちた。それが勘に障ったのか、慎二が再び柳眉を吊り上げる。

 そんな慎二に静かに視線を向けると、彼はあからさまにたじろいでみせた。過剰に攻撃的な性格は、この生来の気の小ささの裏返しなのだろう。

 

「な……なんだよ。文句あるのか」

「いいや。だが、やはり君では戦いを勝ち抜くのは難しいだろう。悪いことは言わない、凛に令呪を返してリタイアするのを推奨させてもらう」

 

 気の小ささが生来のものならば、虚飾への執着もまた生来のものだ。

 こちらの言葉に他意は無く、純粋に身を案じただけのつもりだったのだが、それを慎二は馬鹿にされたと受け取ったらしい。顔を真っ赤に染めてぶるぶると震え出した。

 

「い……いい加減しろよ! どいつもこいつも僕をバカにしやがって! なんで僕だけが劣ってる扱いなんだよ!? 衛宮も、遠坂も、どれほどのものだってんだ! あいつらだって結局負けてるんじゃないか!」

 

 よほど屈辱だったらしく、ついには地団駄まで踏み始める。後ろではキャスターが呆れた顔を見せていたが、気付いた様子もない。

 

「……それほど衛宮士郎が気に入らないか」

「ああ、気に入らないね! それがどうしたってんだ!」

「そうか」

 

 おそらくこちらの言葉はほとんど届いておらず、ただの反射で返事しているだけにすぎない。

 それでもその言葉に偽りは無く、それが全てではないにせよ、紛れもない本心ではあるのだろう。

 ならばそれで十分だ。

 

「お……おい、なんだよ」

 

 こちらの様子の変化に気が付いたのか、慎二の表情から怒りが霧散し、代わりに動揺が色濃く浮かびあがる。

 私はそれを気に留めることなく、慎二の方に向けて歩を進めた。

 

「な……なんだよおい!? 止まれ!」

 

 制止を無視して進む私に、慎二は露骨に怯えて後ずさる。

 

「止まれって言ってるだろ!? いい加減に……!」

「『投影開始(トレースオン)』」

「……っ!?」

 

 ついには令呪を見せつけるように左手を掲げた慎二が、私が投影した『ソレ』を見て目を剥いた。キャスターも同じように瞠目している。

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

 あらゆる契約を破壊するキャスターの宝具。

 その効果のほどを、慎二は身をもって知っていた。

 

「ハ、ハッタリだ! いくらなんでも宝具をコピーなんてできるわけ……うわっ!?」

 

 まったくもって当然の、しかし多分に願望のこもったセリフの途中で、私は自分の手のひらにルールブレイカーの切っ先を押し付けた。

 同時、慎二が顔の前に持ち上げていた左手が幾ばくかの衝撃を発する。慎二はその衝撃にバランスを崩してしりもちをついた。

 

「…………!?」

 

 慎二が左手に顔を向け、既に残り2つとなっていた令呪の片方が消えているのを確認し、顔を青ざめさせる。

 

「く……来るな! 止まれよ! こっちに来るんじゃない!?」

 

 私とキャスターとに忙しなく視線を往復させ、しりもちをついたまま後ずさる。私はそれに一切とりあうことなく歩を進めた。

 手を伸ばせば届くほどの距離になった頃、慎二は小さく悲鳴を上げ、両腕で頭を抱え込むようにして縮こまった。

 私はそんな慎二を見下ろし──そのまま横を通りすぎて扉に手をかけた。

 

「あの小僧の首を取ってきてやる。少し待っていろ」

「…………へ?」

 

 涙目で、恐る恐るこちらを見上げる慎二へと、分厚い樫の扉を押し開けながら言葉を続ける。

 

「あれを始末するのは元々私の望みでもある。それで満足したらおとなしく戦いを降りろ」

「は? な?」

「だからそれまで──凛には手を出すなよ」

「ひっ!?」

 

 戸惑う慎二を最後に睨み付け、脅しが効いているのを確認してから外に出る。

 扉が自重で閉まる音を聞きながら歩を進め、林に入って教会が視界に入らなくなる。

 そこで限界が来た。

 

「くっ……!」

 

 思わず呻く。

 膝を折るまではいかなかったものの、木立に手を着いて身体を支えなければ立っていられない。やせ我慢でどうにか人目につかないところまで来たものの、それほどダメージは大きかった。

 

「まあ……先に自分で試しておいて良かったか……」

 

 自分の能力の相性は武具、中でも特に剣に特化している。

 相性の良い物であれば、ほとんど魔力を消費せず、性能もほぼそのままにコピーを産み出せる。

 しかし逆に、相性の良くない物を投影しても品質、魔力効率ともに格段にランクが落ちてしまうのだ。

 先ほどのルールブレイカーは見た目こそ短剣ではあるが、その本質はキャスターの裏切りのエピソードが結晶化したものだ。

 ただ剣の形をしているだけで、概念的には武具ですらない。つまりは自分の能力とは相性が悪い。

 そのためコピー自体は成功したものの、本物に比べてずいぶんと『粗い』代物になってしまった。

 

「上手くいけばこれで凛を解放するつもりだったのだが……」

 

 この不出来なルールブレイカーでも一応魔術の解除自体は可能だが、出来が粗雑なせいか、令呪の戒めを破戒した余波で霊基にまでダメージが来ている。この感じだと、下手をすれば霊核にヒビくらいは入っているかもしれない。

 こんなモノを人間に使えばそれだけで死に至る可能性もある。よほど運が良くても魔術回路は二度と使い物にならなくなるはずだ。

 

「やはりあの呪いはキャスター自身に解かせるしかないか」

 

 慎二の命令でキャスターがかけた眠りの呪い。眠っているだけではあるが、放置するわけにもいかない。

 なにせ神代の魔術師が、令呪のブーストを受けてかけた呪いだ。下手をすればこのまま生涯目を覚まさない可能性すらある。

 かといって尋常な手段では歯が立たない。少なくとも力付くで解呪するのはおそらく不可能だ。

 ともあれ凛を救うために自分が採れる手段は、慎二と交渉する以外にない。

 幸い、と言っていいかは微妙だが、慎二自身も眠ったままの女を抱いて満足するような性格ではない。このままにさせておくつもりはないだろう。で、あれば。

 

「多少は余裕を持てる、か……」

 

 ある意味で、この状況は渡りに船と言えなくもない。

 自分にもいくつかの目的があり、それに反対するマスターは眠っている。その目的の多くはごく個人的な私怨にすぎず優先順位は高くないが、マスターを救うための交渉材料にもなる。

 ならば。

 

 私は目標を定めると、夜闇の中を駆け出した。

 

 

 

 

 

「…………衛宮、もう寝たか?」

 

 暗闇の中、隣にいるはずの相手に声をかける。

 今は真冬で、それぞれ毛布一枚で床に転がっている状態だが、質の良い絨毯と床暖房のおかげで、思いの外寝心地は悪くない。

 

「……いや。どうした?」

「悪い。なんか眠れなくてな」

 

 ややあって返ってきた声に、そんな何でもない返事をする。

 

「まあ仕方ないさ。色々あったからな」

 

 衛宮はそれに苦笑で応えた。

 そう、色々あったのだ。ありすぎた。

 身体はぐったりするほど疲れているのに、眠気がまったくやってこない。

 陽乃さんとの情報交換は、ほとんどバゼットさんに任せきりで、俺と衛宮はほぼ話を聞いているだけだった。

 前提になる知識量に差がありすぎて入っていけなかったのだ。それでもこれからの方針や、残りのサーヴァントへの対策で意見を出せたのは、まあまあ頑張った方だと思う。

 

 まず現状として、聖杯戦争は大きく4つの勢力に別れているらしい。

 その中で最大と目されるのがあの黄金のサーヴァント。ギルガメッシュというらしいが、知らないのは俺だけだった。メソポタミアの王様だそうだが、どうも魔術師の間では相当有名な人物らしい。

 陽乃さんが独自に掴んだ情報によると、ほぼ間違いなく言峰綺礼と繋がっていると思われる。というか言峰が雪乃ちゃ……雪ノ下さんに接触したのは確認済みらしい。ただ、それ以降は監視に気付かれてしまって足取りを追えていないそうだ。

 それがどういう意味を持つかというと、ただでさえ手が付けられないギルガメッシュに、アサシンにランサーという取り巻きまでいることになる。ただ、雪ノ下さんの性格を考えると、こういう反則同然の戦法をとるとは考えにくいから、本人が知らないところで利用されている可能性が高い。

 

 次に間桐慎二。公園での戦いに乱入してきたあのワカメだ。

 御三家という、この街の有力な魔術師の家系の跡取りらしいのだが、間桐はもう力を失い凋落して久しいそうだ。そのためバゼットさん、というか時計塔も警戒していなかったのだが、まさか拾った宝具 (ルールブレイカー)でサーヴァントを奪われるとか、予想どころか想像すらできなかっただろう。その際のどさくさでルールブレイカーが破壊されてしまったのも地味に痛い。

 ちなみに衛宮とは友人同士らしいのだが、聖杯戦争が始まるまで、お互いに魔術に関わっていることは知らなかったそうだ。

 

 それからバーサーカーを擁するアインツベルン。ここも御三家の1つだ。

 今のところ大きな動きを見せていないが、衛宮は何度か接触しており交戦もしたそうだ。そのマスターはまだ幼い女の子で、サーヴァントはなんとヘラクレスらしい。

 俺のようなオカルトに疎い人間でも知ってるビッグネームの登場に、バゼットさんも眼を見開いていた。ハッタリではないかとも思ったのだが、その力量から見てマジモンである可能性が高いそうだ。

 

 最後に俺たち。

 ぶっちゃけ一番格下だろう。何しろサーヴァントは1人もおらず、まともな戦力と呼べるのはバゼットさんのみ。はっきり言って問題外である。

 正直逃げ出したいところだが、そういうわけにもいかない。なのでどうにかする方法を探さなければならないのだが……。

 

 とにもかくにも戦力を整えないことには話にならない。そのために考えられる方法は2つ。

 1つは奪われた味方を呼び戻すこと。

 メディアさんやアーチャーは、ルールブレイカーの効果で無理矢理従わされているだけで裏切ったわけではない。なら、それさえどうにかしてしまえばもう一度こちらに着いてくれるだろう。これはランサーにも同じことが言える。あとはギルガメッシュに拐われたセイバーもか。

 問題はどうやって令呪の戒めを解除するかだが、それについては衛宮がどうにかできるかもしれない、との言葉が陽乃さんから出てきた。

 なんでも雪ノ下の魔術は『観測』と『解析』に特化しているらしく、それで調べたところ衛宮には極めて希少な能力が眠っているとか。同時にアーチャーの正体にも当たりがついてしまい、衛宮はえらく複雑な顔をしていた。

 ちなみに、雪ノ下の女がやたらめったら勘が鋭いのは、この魔術特性の影響が大きいらしい。特におばさんと陽乃さんは、常日頃から積極的に利用しているとか。(おじさんは婿養子なため魔術は使えないらしい)

 

 ……いやまあ、別に何かのルールに抵触してるわけでもないけどさ。そういうのを政治や商売に利用するのって卑怯すぎない?

「持ってる技能を有効活用して何が悪いの?」なんて言ってるけど、俺の感覚だとオンラインゲームで平然とチートツール使われてるような気分なんだけど。もしくは禁止されてないからって理由で好き放題やってる転売ヤーとか。

 

 閑話休題。

 

 もう1つの戦力補充についてだが、他の勢力との共闘が考えられる。具体的にはずっと静観を保っているアインツベルンを、一時的にでも味方に引き込めないかという話だ。

 というのも、マスターであるイリヤという少女は、何故か衛宮のことを知っていたらしい。衛宮の方には面識も心当たりもないのだが、どういうわけか聖杯戦争とは無関係に敵視されていて、なのに嫌われている感じはしないとか。

 普通に訪ねれば多分会ってくれると思う、とのことだ。こいつもしかしてギャルゲーかハーレム漫画の主人公なんだろうか。

 

 そんなわけで俺たちは、夜が明けたらアインツベルンの居城(ガチ)とやらを目指すことになった。

 冬木市郊外の森にあるらしい、というのも陽乃さんの情報だ。いや何から何までホント便利だな魔術って。

 その陽乃さんは別行動で妹を探すとのことだ。

 現状手がかりは皆無だが、とりあえずワカメが逃げた先を探ってみるそうだ。どうやら比喩でもなんでもなく、冬木市全域にセンサーを張ってあるらしい。

 

 

「葉山はさ、どうして戦ってるんだ?」

 

 

 先ほどまでの話し合いと、明日の予定に思いを巡らせていると、衛宮がそんなことを聞いてきた。

 

「どうしてって言われてもな。ただ巻き込まれただけなんだけど」

「それは聞いたけど、そうじゃなくて。さっきの話し合いでもそうだったけど、巻き込まれた割に積極的っていうか、明らかに自分の意思で戦ってるだろ。なんでなんだ?」

「いやそれお前が言うか」

 

 聞いた限りでは、衛宮の方こそ思い切り巻き込まれ型のはずなんだが。

 

「やっぱりあの雪乃って娘のためか?」

「まあ、それもあるけど」

 

 やっぱ誤解されるよなあ。

 

「幼なじみなんだっけ」

「ああ。あと、比企谷だって放っておけないし」

「ふーん」

 

 クラスの連中ならしつこく突ついてくるところだが、衛宮はそういう性格ではないらしい。

 衛宮の気が変わらないうちに、逆にこっちから聞いてやる。

 

「そういう衛宮はなんで戦ってるんだ?」

「俺か? 俺も巻き込まれただけだけど……なんていうか、ほっとくわけにもいかないだろ」

 

 巻き込まれたというのは聞いていたが、衛宮的にはそれだけではないらしい。

 

「そっちも知り合いが巻き込まれたクチ?」

「知り合いってほどじゃないかな、まともに話したことなかったし。それに相手は巻き込まれたというか当事者だったしな」

「だったら逃げてもいいだろ。正義の味方でもあるまいし」

「だから逃げられないんだ」

 

 そこで会話が途切れる。

『だから』? その接続詞はどこにかかってるんだ?

 

「すまん、どういう意味だ? お前正義の味方とか目指してるのか?」

「ああ」

 

 あっさりと返ってきた肯定の返事に、再び沈黙が降りる。

 その声音に冗談の色は感じられず、おそらく本気なのであろうとうかがえる。いやはや、こいつは……

 

「……そうか。すごいなお前」

 

 ややあって、そう答える。率直にそう思った。

 他人に夢をまっすぐに語るというのは、ものすごく難しい。少なくとも俺には無理だ。

 素直に感心していると、衛宮の方から戸惑うような気配を感じた。

 

「どうした?」

「……いや、笑わないんだな」

「そりゃ、素の状況でそんなこと言われたら熱でもあるのかと思うけどさ」

 

 この歳になって正義の味方なんてバカらしい。当たり前の感想だ。

 だけどそれは、正義の味方があり得ない、必要とされない存在だからそう思うわけで。

 今の俺は魔術師やサーヴァントといった、常識では測れない超常の存在を知っている。それらが人に害為す可能性が低くない以上、そうしたモノと戦う存在を目指すのは、何もおかしなことではない。

 犯罪や災害から人を守るために、警官や自衛官を目指すのと同じことだろう。だから、

 

「…………うん。やっぱりカッコいいと思うぞ。頑張れよ」

「…………ああ。ありがとな」

 

 衛宮はどこか、歯に物が挟まったような声音でそう答えた。照れているのかもしれない。

 

「なあ、比企谷ってどういう奴なんだ?」

 

 それを誤魔化す気なのかなんなのか、まったく別のことを口にする。

 

「なんだよ急に」

「いや、お前もあの陽乃って人も、やたらと意識してるみたいだから気になって」

「……そう見えるか?」

「おう」

 

 マジか-。うわ、我ながら気持ち悪。

 

「それに、あいつ敵だったはずの遠坂と慎二を助けただろ。なんでそんなことしたんだろうな、って」

 

 あれはただ咄嗟に動いちゃっただけだと思うけどな。まあ、敵対してる立場の相手にやられたら、戸惑うのも無理はないと思うが。

 

「んー……。改めて説明しろって言われると難しいけど、一言で言うと変な奴だな」

「変な奴?」

「ああ。どっか遊び行くかって聞くと、断ってからどこ行くか聞いてくるような奴だ」

「なんだそりゃ」

 

 なんだと言われても、マジでこれなんだもんなあ。

 衛宮も暗くて顔は見えないが、声が明らかに笑っていた。

 

「とにかくひねくれてる奴でな。周りに合わせるのが大嫌いで、他人と馴れ合おうとしないくせにやたらよく見てて、人を煙に巻くのが得意で、正論と極論と虚言と妄言を都合に合わせて使い分けて…………なんだよ?」

 

 衛宮の方から、何かイヤな気配を感じて話を止める。

 

「いや、お前ってそんな楽しそうに悪口言うんだなって」

「……そんなに楽しそうだったか?」

「おう。なんていうか、比企谷のことが大好きなんだなってのは伝わったよ」

「…………そんなわけないだろ。嫌いだよ、あんな奴」

 

 からかうような口調から逃げるように、寝返りを打って衛宮に背を向ける。相手から見えてるわけではないだろうが、気分だ気分。

 

「もう寝るぞ。明日は早いんだ」

「ああ、おやすみ」

 

 答える衛宮の声には、やはり面白がるような気配が滲んでいた。

 

 

 

 

 

「やめなさい! お願いやめてぇ!」

 

 

 こちらの声が聞こえているのかいないのか、それは判らない。だが、いずれであったとしても彼の行動が変わることなどないのであろう。

 それを裏付けるがごとく、ギルガメッシュは刃を淀みなく振り下ろした。

 

「なんてことを……」

 

 地にへたりこみ、力なくうなだれる。そんな私に向かって、ギルガメッシュは何事もなかったかのように告げた。

 

「さて。行くぞ、雪乃」

 

 それが撃鉄となって感情が爆発する。

 

「ふざけないで! 一体どういうつもり!?」

「何を怒っている」

 

 そのきょとんとした表情を見て愕然とする。

 この男は、私が何に対して憤っているのか本当に解ってない (・・・・・・・・)

 失意とともに視界が下がり、彼の足元が映りこむ。

 そこには紅い水溜まり。その中心には無数の刃で磔にされ、倒れ伏すことすらできずにいる、首の無い女性。

 ギシリと奥歯が軋む音を聞きながら立ち上がり、涙で滲んだ眼で黄金の英霊を睨み付ける。

 

「人を殺すなと言ったはずよ」

「この者らはホムンクルスだ。人ではない」

「人間と同じことよ!」

「訂正しろ雪乃。今の言葉は侮辱に当たる。貴様といえど許さんぞ」

 

 睨み合い、沈黙が流れる。それは、そう長くはない時間の後に、轟音によって破られた。

 城壁をぶち破り噴煙を切り裂いて現れたのは、巨人と、それに抱えられたまだ幼い少女だった。

 その白い少女は、こちらに素早く視線を走らせ小さく呟く。

 

「セラ…………リズ…………!」

 

 そこそこの距離があるにも関わらず、歯軋りの音がここまで聞こえたのは、きっと気のせいばかりではないのだろう。

 少女は静かに激昂すると、己のサーヴァントであろう巨人に命令を下した。

 

 

「バーサーカー!! 今すぐあいつらを殺しなさい!!」

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