袋小路阿修羅さんが人理修復で武者修行するようです 作:mobimobi
原作:Fate/GrandOrder
タグ:残酷な描写 クロスオーバー シルヴァリオ_ヴェンデッタ アスラ・ザ・デッドエンド 袋小路阿修羅 投げっぱなし
続き書く予定なしの投げっぱなし。
トリニティはよやらなくちゃ(使命感)
2018.06.25
若干公正。アスラさんの縮地はワープ的なあれじゃねえわ。
世界を染める、赤と黒。
赫々と燃える炎の色と、それが生み出す陰影の中に悲鳴はない。怒号も、恐怖も、絶望すらも。
少なくとも、進む少女たちにそれが届くであろう範囲には。在るのは、そう、骨だけだ。一人でに動く、骨。
熾火の様に燃える街の中で鼻を衝く異臭がないという事は、死骸は当に燃え尽きているという事なのだろうか。その割に骨は灰にならずに元気に襲ってくるのだなあ、等と。少し捻くれた人間ならそんなことを考えたのかも知れない。
無論、当事者でなければの話だ。純粋で真っ直ぐで、尚且つ当事者でもある少女二人にはとてもではないがそんな余裕などありはしない。
盾の乙女が、その大盾を振るってスケルトンを打ち砕く。周囲に敵影がないことを確認して、主の少女が駆け寄った。
怪我はないか、疲れてはいないか、守ってくれてありがとう――概ねその様なことを口にして労っているのだろう。
擽ったそうに盾の少女が微笑んで、そして二人はまた歩き出す。示された導に従って。今はそれ以外に何をすればいいのか、分からないから。
やがて聞き覚えのある悲鳴を聞き付けて、二人は三人に。
迫るスケルトンを打ち倒し、救い上げたのは窮地にあった彼女らの上司。
独りきりでスケルトンに追われるとあっては流石に心に負担があったのだろう。若干安堵した様子で、しかし早速不平不満と説教を口にし始めた上役に付き従って、彼女らは燃える街を巡った。
果たして何が起こってこの街が――引いては、人理が崩壊してしまったのかを探るために。
盾の乙女には英霊が宿っている。不慣れゆえに多少の手傷は追うものの、基本的にはスケルトンなど物の数ではなかった。そう、――スケルトン程度ならば。
「はっ―――…くぅっ!」
空を裂いて次々と飛び来る、刃、刃、刃。掲げた大盾を以ってそれを防ぎ留めながら、マシュ・キリエライトは苦しげな息を漏らした。
敵手は影を纏った暗殺者のサーヴァント。マスターに向かって投擲される鋼を、ああ、幾つ弾き飛ばしたことだろう。
地を這うように疾走したかと思えば、鮮やかに跳躍。へし折れた街灯を、崩れた壁を足場に更に高くと宙を舞い――低くから、高くから、右から左から、彼女の主を狙って放たれる刃は決してマシュを休ませない。
泥に飲まれたシャドウとなってもその心身に刻まれた暗殺技巧は劣化しきっていないのか、一定の距離を保っての徹底的なアウトレンジ戦術。しかし、見事と言えるのはそこまでだ。殺し間へと追い立てんとするその手際は、初陣を迎えて間もない少女にすら見抜かれるほど拙劣なものでしかない。
そう、見抜いている、理解している。その上でどうしようもないのだ。暗殺者の敏捷性はマシュのそれを上回り、故に、彼女は護衛対象から決して離れられない。少しでも距離を開けてしまったならば暗殺者の三次元軌道に振り回され、瞬く間に射線を通してしまうだろう。そうなってしまえば後は容易い。サーヴァントならぬ只人の身では、英霊の放つ投擲剣を避けることも防ぐことも出来ないのだから。
だからこそ間近で守る他ないのだ。少なくとも平坦な場所へと出るまでは。襲い来る投剣より高さの要素が消え失せたなら、距離を詰めての接近戦へと移る目も出てくる。その為に、その為にも今は――!
か細いながらも希望の色と決意の光を瞳に宿し、マシュ・キリエライトは主を守る。守られるだけの自身を歯痒く思いながら藤丸立香とオルガマリー・アニムスフィアは必死に駆けて、駆けて、駆け続けて。暗殺者の目論見通りに大橋へと追い込まれた。
「まずいぞ、橋向こうからサーヴァント反応だ! 一直線に向かってきてる! このまま行くと挟み討ちだぞ!」
「そんな、一体でも持て余しているのに……二体同時だなんて…!」
「……っ、マシュ! 向こうから来るのはまだ距離があるからアサシンの攻撃だけ防いで!」
「はっ、はい! 了解しました!」
焦りも露わなカルデアからの報告にオルガマリーの表情が絶望に染まり、マシュが怯んだ。
立香もまた表情を歪め、しかしその目に諦めの色はない。怯んだサーヴァントに指示を下すと、足を止めたオルガマリーの手を握り、小声で、しかし口早に問いかけた。
「所長、キャンプを作る時に召喚サークルって言ってましたよね。マシュの盾でサークルを作れば英霊を召喚できるんですよね!」
「でっ、できなくはないけど……でも無理よ! サークルの設置は即席でできることじゃない! レイポイントでもないし、召喚に使う魔力だってないのよ!」
「サーヴァント、……サーヴァントは魔力の塊なんじゃないですか」
「サーヴァント!? サーヴァントを燃料にサーヴァントを召喚するっていうの!? それに従ってくれる相手がいたらとっくにアサシンにぶつけてるわよ!」
「目の前にいるじゃないですか! マシュの盾でアサシンを押し潰してそのまま召喚とか……他に何かいい考えがあるなら言ってください時間がないです!」
「キリエライトが突撃した後のアサシンからの攻撃はどうするのよ!」
「……何もないなら気合で避けるしかないです。マシュは消耗してます、連戦なんて無理です。新しいサーヴァントが必要です!」
オルガマリーは絶句して立香の目を見返した。目の前の相手の正気を疑わずにはいられなかった。
気合? 根性? そんなものでどうにかなる状況であるはずがない。十中八九、九分九厘死ぬだけだ。
だが、目の前の一般人だったはずの少女は徹頭徹尾本気で言っていた。無茶でも何でもやるしかないのだと示していた。
それに感化されてだろうか。オルガマリーの乱れていた心もまた、不意に鎮まった。
――そうだ、二体一になったら勝ち目なんてない。そうなったら十中八九どころか百回やれば百回殺されるだろう。今何とかするしかない。その為に使える物はないか。何か、何か何か。
ふとオルガマリーの視線が握られた手へ向かう。少女の手の甲に刻まれた、赤い紋様が目に入った。
「……令呪」
「え?」
「ああもう! 強い願いを込めてキリエライトに命令しなさい! 助けになるから!」
「――はい!」
やけっぱちで叫んだオルガマリーの言葉に、こんな状況にもかかわらず立香は笑って前を向いた。
華奢な背中が見えた。自分たちを守ろうと必死に頑張っている少女の、後輩の、サーヴァントの背中だ。
一瞬だけ振り向いた紫の瞳に一瞬だけ笑いかけてから、――アサシンの跳躍の瞬間を狙い澄まして決然と告げる。
「マシュ! アサシンを盾で押し潰して!」
「了解しました、マスター!」
眩い赤光と共に令呪の一角が消滅し、マシュの霊基に魔力が満ちた。
総身を撓ませての大跳躍。逆向きに走る彗星のように天へと盾の乙女が駆け上がる。
驚愕したのは正面からそれを受ける羽目になったシャドウアサシンだ。敵マスターと魔術師への射線を遮りながら瞬く間に迫り来る大壁。暗殺者は空を飛べず、故に逃れる術もない。反射的に投げはなったダークを端から弾き散らした盾がアサシンの痩躯を跳ね飛ばし、
「やぁぁぁあっ!!」
――令呪を以って命じられたサーヴァントは一時的に不可能すらも可能にする。全身に満ちた魔力を放出し、鋭角に軌道を変えたマシュの体当たりが暗殺者を地へと縫い付けた。
命を下したその後に一拍を措いて駆け出していた立香は躊躇わず、間を置かず、濛々と土煙が立ち上る爆心地へと駆け込みながら第二の令呪で告げる。
「マシュ! 召喚サークルっ!!」
「はいっ!」
土煙の中で青い光が広がったのを目印にして、瞬間的に展開された召喚サークルへと立香は転がり込むように飛び込んだ。
マシュの盾の下から黒い靄が立ち上り始めているのが見えて。立香が、必死に、手を伸ばす――。
見開いた目が土煙で痛い。
――だからなんだ、戦って傷を負ったマシュはもっと痛かった。
本当に出来るのか? 間に合うのか?
――出来る出来ないじゃない、やってみせるし間に合わせる! そうじゃなきゃ、怖いのに、痛いのに、頑張ってくれたマシュに申し訳が立たない!
後10cm、――5cm、1cm。……触れた!
「―――ッ、お願い、来て!!」
願いを込めて、告げた。
召喚サークルが回り出す。灯った光が爆発的に膨れ上がり、揺らぎ、乱れながらも映し出されるセイントグラフ。
紫電が飛び散り、像が乱れ始めた。形を失っていく銀板を倒れ込んだまま見上げる立香が、叫ぶ。命を下す。第三の令呪を以って――。
「来い、私のサーヴァント――――!!」
「ハッハァァ――――ッ!」
同時にセイントグラフが内側から打ち砕かれた。黄金と銀の破片が舞い散り、狂喜に満ちた哄笑が響く。マシュと立香の頭上を飛び越えて、一人の男が疾駆した。
交錯するその刹那、二人の目に見えたのは野獣の様に口角を吊り上げた男の表情。どうしようもなく喜悦に満ちた、凶暴なのにまるで子供のようなその顔が妙に可笑しくて――二人はこんな状況だというのに顔を見合わせて笑ってしまったのだった。
「所長、早く! もう近くまで迫ってきてますよ!」
「急いでるわよ! それよりあの子は召喚できたの!? これでできてなかったらただじゃおかないんだから…ッ」
「召喚反応が乱れに乱れて結果までは……っ、所長!」
「なに――っきゃ!?」
ロマンの声に反応して顔を向けたのが良かったのだろう。そうでなければ、オルガマリーの頭は四散していたに違いない。掠める様なすれすれを突き抜けていくのは、投擲されたと思しき薙刀一本。
足をもつれさせてオルガマリーが転ぶ。反射的に振り向いたその先に見えたのは、大笑しながら突き進んでくるシャドウサーヴァントの姿だった。背に負った刀、薙刀、槍、大太刀、その数しめて百に届こうかと言うところ。サーヴァントでなくともその威圧感たるや凄まじいものだっただろう。――オルガマリーが射竦められる程度には。
「――あ」
呼びかけるロマンの声ですら遠く聞こえる。響く笑いも、何かの環境音にしか思えない。呆然と目を見開いたオルガマリーの視界の中で、そのサーヴァントが今一度、片手に獲物を携えて一直線に投げはなった。
人の目になど留まらない速度で飛び来る凶器。何者かがその間に割って入らなければ、今度こそオルガマリーは砕け散っていただろう。
射線上に飛び出した人影が、空を裂いて迫り来る槍の柄を掴み止める。急激な停止に付いていけなかった風が顔面に吹き付けられ、髪を乱された直後。唐突に表れた刃の切っ先が眼前で細かに震える様に漸く気が付いて――オルガマリーは静かに気を失った。
「お? なんだ、どうした気ぃ失ってやがる。胆が細えわ、大丈夫かおい」
その様を一瞥した後、男は掴み止めた槍を打ち捨てた。
「――しかし苦界を巡りながら親父越えの武者修行だと意気込んでみりゃ、こんな修羅の巷があろうとは。またとない機会、他人に譲るには勿体ない。
ああいいねえ、熱くなれるぜ痺れやがる。人の歴史を焼き尽くす――んな真似やらかすとしたら馬鹿も馬鹿、大馬鹿野郎に決まってる。自然に起ころうはずがねえ」
狂笑を顔に張り付けて、男が歩む。
そうだ、あの英雄とタメを張るほどの大馬鹿に違いない。
己の知る限りで――否、人の歴史を紐解いても最上級の益荒男であろうあの男と。そんな機会を目前につりさげられたなら、苦界巡りの前に少し寄り道をして技を磨いていこうと思っても仕方なかろう。
サーヴァントは完成されているからどうのと、覚えのない知識が頭をよぎる。で? だからなんだ、そいつに何の意味がある。記憶が記録になるというのなら、鍛え、練磨した技を魂魄その物に刻み付けて持ち帰れば良いだけの話。人間、気合と根性があればどうにかなるのだという事を己は目の前で見せ付けられているのだから――何、多少はあやかりたくもなる。
総身に満ちた気力。胸に空いた風穴から漏れ出す以上に湧き上がってくる使命感とやる気に熱気。それに衝き動かされる己は、もう走り出したくて堪らないのだ。そう、敵に向かって歩んでいく今この瞬間も。さあ、さあさあ、いざ行かん。求めるものに向かって今こそ新たな一歩を踏み出す時だ。
緩やかに詰まっていく距離。色濃く立ち上る戦気より、男を容易ならざる難敵と見定めたのだろう。笑う影のランサーは大薙刀を構え――それを引き金に、戦端は開かれた。
疾走するは無頼漢。見るに武器を携えてはいない、徒手空拳こそが男のスタイルなのだろう。
対する影は長物を構えている。間合いで長じている――その一点でもかなりのアドバンテージである。いかなる攻撃も届かねば意味がないのだから。
放つ突きの鋭さもまた凄まじかろう。空を引き裂き抉り抜く、駆ける男が間合いへと入る瞬間を見事に読み切った上で放とうと――いや、待て。なんだこれは、どうなっている。
相手の姿と本来居るべき位置が一致しないのだ。まるで駆ける相手の足元の地面が縮んでいるかのように、延びているかのように、互いの間合いの詰まり方が明らかに異常な変化を見せている。
踏み出された一歩によって倍の距離が踏破される。かと思えば、次の瞬間にはまるでその場で停止しているのではないかと言うほどに距離が変化しない。そこに行くはず、と思った場所に姿がない故に、まるで掻き消えたかのように錯覚してしまいそうなその歩法こそが、無頼漢が父より盗んだ、否、父より継いだ縮地の業。
風に揺られる木の葉が揺らめくような間合いの幻惑。それに辛うじて食らい付いた影が放った突きは、しかし明らかに精彩を欠いている。何時でも引き戻せるように、という守りの意思が見え隠れしているのだ。
そんな腑抜けた突きを放つこと、それそのものが致命的な隙だった。
ゆらり、木の葉の揺らめきが前後ではなく右へと移る。刃先が掠めるような至近距離、極限まで研ぎ澄まされた見切りによって相手の虚を生み、反応して払いを放つまでに更に一歩分の距離を稼ぎ出して、――そして射程内。放たれた一撃が相手の警戒網を蛇の様に潜り抜けてその鳩尾へとめり込んだ。
緩急による幻惑効果は歩法のみならず、男の拳撃にもまた用いられている。いいや、拳のみではない。一挙手一投足、その全てが“一撃を当てる”ことに主眼を置いた異質な拳法である。そして、何故そのような当てる事だけを考えた拳法が実践にて成立し得るのかと言えば――…影の体の中心にて炸裂した衝撃こそが理由だ。破壊力を相手の身体に伝播させ、任意の箇所にて解放するという衝撃操作技術。無頼漢の有する異能に比べれば著しく精度が劣るものの、十二分に絶技である。
腿を打たれて、膝が崩れる。槍の柄を握っていた指を打たれたかと思えば肘が砕ける。腹に叩き込まれた拳がその威力を背中全体に広げて弾けさせる。
一撃を入れられて影の動きが止まったその刹那に、魔力で編まれたサーヴァントの身体でも己の業を十全に発揮することが出来る事を確かめる為に繰り出された乱拳乱舞の滅多打ち。一呼吸の間に満身創痍となった影へ、トドメとして繰り出されるのは――…
継いで、練磨し、説教を受けながらの実践の中で更に、更にと練り上げた研鑽の結晶にて形作る――生前最後のあの瞬間に、お手本のような流麗さで放たれた、決して忘れる事の出来ない絶拳の模倣。今の己はこの程度だが、絶対に追い付いてやるから一足先に地獄で待っておけや糞親父、と。その意気を込めて放たれた拳である。
纏めて叩き折られる肋骨。練り込まれた勁打が肉を潰し、一切の余分なく伝播される衝撃が影の霊核を微塵に打ち砕く。直後、シャドウランサーの存在そのものがまるで幻であったかの様に消失した。
「さあて、まずは第一歩――いまいち物足りねえが、ここからだろうよ。ネジの外れてねえのが来てくれりゃあ、もうちょい楽しめんのかねえ……」
残心を解いて一人ごちる男の耳に、駆け寄ってくる足音が届いた。
先は一瞥すらくれずに飛び越えた、まあ一応の主人に向けて、男が告げる。
「おう、サーヴァント・アサシン、アスラ・ザ・デッドエンドだ。どうよ、良い名前だろ? これから精々宜しく頼むぜ、マスター。殴る相手が尽きなけりゃあ付き合ってやるからよ」