林業と温泉が有名で交通の便が良くないものの、観光地として栄えた村、ユクモ村。村の景観が和に統一されたところも好評です。
そんな温泉街のような平穏な村にでもハンターはいる者で、いつもユクモ村の周りにはモンスターがいます。
でも、今回の主役はハンターではないのです。ましてや、人間でもありません。
プーギーさんです。ユクモ村専属ハンターに渓流で助けられて、そのハンターをご主人と慕って彼は住みつきました。いわゆる、ハンターのペットです。
プーギーさんはお気に入りの赤い座布団に身を丸めて目を閉じています。窓から差し込む太陽の光で身を温めながらぐっすりと眠っています。とても心地よさそうですね。おとなり良いですか。
そのすぐ隣ではインナー姿のハンターがせっせと作業しています。何やらトラップツールとネットを組み合わせています。どうやら、落とし穴をつくっているようですね。忙しそうです。
あ。でも終わったようですよ。
ご主人は長い溜息をつきました。疲れたんですね。
完成した落とし穴を見つめて伸びをしています。お疲れ様です。
「終わったぁー」
その声を逸早く聞きつけたプーギーさんは飛び起きてご主人を上目遣いで見つめています。ずっと待っていたんでしょうか。
――ご主人、撫でてください。
もちろん、その言葉はご主人には届きません。でも、その思いを聞き取ったのでしょうか。ご主人は皮の分厚い大きな手でプーギーさんの頭を撫でてやりました。
顔がとろとろになっていますよ。満面の笑みを浮かべるプーギーは満足そうです。良かったですね、プーギーさん。
「じゃあ、行ってくるから。大人しくしてるんだぞ?」
あれ、もう行くんですか。ハンターは忙しいようですね。
あ、プーギーさんもそんな寂しそうな顔をしないでください。一緒に見送ってあげましょう。
それでは、いってらっしゃい。
◆ ◆ ◆
さて次の日になりました。
ご主人はまだ帰ってきていないようです。
外は雨が降っています。いつも散歩するプーギーさんも今日は家の中でお休みです。いたずらしたらダメですよ。
あ。それはご主人のアイテム。いじっちゃダメですよ。
プーギーさんがご主人の玉を鼻でころころと転がしています。あ、そのピンは引っ張っちゃダメですよ。プーギーさんが閃光玉のピンを口で引っ張っちゃいます。
うわ、眩しいです。部屋の中が光で真っ白になってしまいました。
あれれ。プーギーさんどこですか。
「ぴええぇ」
声が聞こえます。プーギーさんの声です。
多分、この辺に……あ、いました。怖かったんですね。でも、いたずらするからですよ。
でも、怖くてベッドの中に潜っちゃうプーギーさんは可愛いです。私なら許しちゃいます。
◆ ◆ ◆
さてさて次の次の日です。
ご主人はまだまだ帰ってきていないようです。
きっと、難しいお仕事なんですね。プーギーさんはご主人に撫でてもらいたくてうずうずしているようです。家の中を走り回っています。こらこら、またいたずらするつもりですか。
今日も外は雨のようです。じめじめしています。
今日は何をして遊ぶんですか。プーギーさん。
あれ、もう遊ばないんですか。プーギーさんはお気に入りの赤い座布団で寝てしまいました。
そうですよね。ご主人がいないと楽しくないですよね。
寂しいですよね。
◆ ◆ ◆
さて、さて、さーて、次の次の次の日になりました。
ご主人はまだまだまだ帰ってきていないようです。
でも外は晴れているようですよ。プーギーさんも今日はお出かけするようです。
扉をノックする音が聞こえてきます。来客ですね。でもご主人はいないです。
あ。プーギーさんが対応します。
どうやら、ご主人の彼女さんのようです。いつもご主人を独り占めしてご主人をデレデレにしてしまいます。プーギーさんの恋敵です。
ご機嫌斜めのプーギーさんが彼女さんの足に噛みつきました。こら、プーギーさん。前にご主人がそれをしたらダメって言っていたでしょ。
あーあ、彼女さん泣いちゃったじゃないですか。
でも、彼女さんはプーギーさんを抱きしめました。いつものように怒りませんし叱りません。
「2人だけに……なっちゃったね。私たちを置いていっちゃうんだもん、あの人。ホント勝手だよね……」
ご主人は亡くなったようです。
◆ ◆ ◆
それからプーギーさんは彼女さんの家に泊まっています。
今日も外は雨なのでプーギーさんは外に出られません。雨の日は出てはいけないというご主人の言いつけをちゃんと守っています。
プーギーさんが雨の景色を眺めていると、彼女さんがご飯を持ってきてくれました。
優しく言葉をかけるもプーギーさんは目も向けません。まるで、拗ねている子どもみたいですよ。みっともないですよ、プーギーさん。気持ちは分かりますけど。
ほら、彼女さんが泣き始めちゃいました。プーギーさん食べてあげないと。
プーギーさんがゆっくりと振り返ります。そして拗ねた顔のまま、ご飯を食べ始めました。ホントに素直じゃないですね。
◆ ◆ ◆
さて、ある日のことです。
ずっと雨でしたが、今日は曇りです。待ちに待ったプーギーさんは朝早くから家を飛び出していきました。もちろん、目指すのはご主人の家。
もう帰ってきているでしょう。ずっと待ったんですから。
ユクモ村の中をプーギーさんが水溜りをびしゃびしゃと飛ばしながら駆け抜けます。
ご主人の家の扉が開きました。
――ご主人、撫でてください。
プーギーさんの口癖です。嬉しそうに飛び付いて頭を出しました。
「おお、なんだ可愛いな。お前」
プーギーさんの顔色が変わります。いつもの皮の分厚い大きな手じゃない、と気づいたようです。
見上げると、知らない顔がそこにありました。驚いたプーギーさんが周りの景色を確かめます。そうです、ここはご主人の家のはずです。
あ――だめですよ。プーギーさん。
プーギーさんがまた駆け抜けていきます。いつもご主人がユクモ村をでていく門を潜り抜けて、渓流へと向かっていきます。そっちは危ないですよ。止めておきましょうよ。
ほら、雨も降ってきました。ご主人の言いつけを守らないんですか。また叱られますよ。
それでもプーギーさんは駆けていきます。村の皆さんが、心配していますよ。帰りましょうって。
野を駆けて、川を駆けて、森の中を駆けていきます。
あっ――危ない!
プーギーさんが足を踏み外します。ここは谷です。落ちたら、増水した川に流されてしまいます。
ゴツゴツした岩にぶつかりながらものすごい勢いでプーギーさんの体が転がります。痛い、痛いと叫んでもどんどんと落ちていきます。
どぼん。真っ黒色の川に流されてしまいます。
ここはどこでしょう。どこかの岸のようです。
体は傷だらけでとても苦しそうです。
プーギーさん。大丈夫ですか。
私の声が聞こえ――?
――――?
―――。
◆ ◆ ◆
私はプーギー。
私はご主人が大好きです。でも、ご主人の言いつけを守らなかったから今とても苦しい思いをしています。
だけど、もういいんです。誰かが捨ててしまった私を、もういらなくなってしまった私を、泥だらけで死にそうな私を。もう一度拾って助けてくれたご主人と会えたから。
口の中が変な味がします。体中が痛いです。とても心が重たいです。
もう何も見えないです。
でも、何かが見えてきます。きっと夢です。
そこはご主人の家でした。いつもの匂い。いつもの景色。いつもの音。私はいつものようにご主人の作業が終わるのをお気に入りの赤い座布団で待っています。
夢の中なのにあったかくてあまくって。ご主人はいつものように作業をしていて。
私はまたここにいられるなら、構わないって思いました。
それではだめですか?
でも、私はここにいます。
だって、ご主人がこっちにいますから。
だから、私はこっちで幸せに暮らします。ここには彼女さんもいないから邪魔されないです。会えなかった分命一杯に甘えられます。
ずっと寂しかったんですよ。
だから、まずは――
――ご主人、撫でてください。