俺ガイルクロスプロローグ&設定集   作:まーぼう

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魔法科高校のぼっち

「雪ノ下さん、今日一緒に帰りませんか!?」

「ごめんなさい、遠慮させてもらうわ」

「まぁそう言わずに!ほら、女の子もいるし、みんなで親睦を深めて……」

「日本語が通じないのかしら?私は行きたくないと言っているの」

 

 今日も今日とて、私に声をかけてくる者は後を断たない。私はそれらを全て無視して教室から抜け出し、一人ため息を吐いた。

 

 この第一高校はいわゆるエリート校だ。そこに通う生徒も、多かれ少なかれそういう意識を持っている。

 それは別に悪いことではない。

 エリート意識と言うと聞こえは悪いが、それは本質的には立場に恥じぬように振る舞おうという、誇りに通じる感情なのだ。だからそれ自体は決して悪いことではない。

 問題なのは、肝心の誇りというものを取り違えている者がやたらと多いということだ。

 第一高校は入学試験の成績によって一科生と二科生とに振り分けられる。つまり入学した時点で明確な格差が存在している。

 生徒の能力に合わせた教育を施す。

 それは理に敵ったことではあるのだが、一科生はそれを鼻にかけて二科生を蔑み、二科生もまた一科生を僻むばかりで自らを高める努力を放棄している。どちらも等しく愚かしい。

 先ほどの、毎日のように声をかけてくる連中はそうした勘違いしたエリートの典型で、首席合格者である私を自分のグループに引き入れることで発言力を増そうとしているのだろう。

 まあ、私の容姿に惹かれたという部分もあるのだろうけど、どちらにせよ願い下げだ。入学から一週間。そろそろ飽きてくれても良いと思うのだけど。

 

 

 

 

「こ、困ります!」

 

 帰りがけにそんな声が聞こえてきた。

 見れば四人の男子が一人の女生徒を取り囲んでいる。声はその、お団子頭の女生徒のものだ。

 

「困るも何も、ぶつかってきたのはそっちからだろ?」

「あーあー。新品の制服が台無しじゃん」

「だ、だからそれは弁償するって……!」

「いやだからさ、ちょっと付き合ってくれりゃ許すって言ってんじゃん」

 

 要するに、質の悪いナンパらしい。

 まあ恋愛は自由だし、表現方法は人それぞれ。何より私には関わりの無い相手だ。そう思って通りすぎようとした、のだが……

 

 

「グダグダ言ってねえでここっち来いよ!ウィードのくせに逆らってんじゃねえ!」

 

 

 ああ、これは駄目だ。

 そう思って彼らの方へ足を向ける。

 ウィードというのは二科生のことだ。

 この学校の制服は一科生と二科生とで違いがある。肩の部分に花の紋章が入っているか否かだ。このことから一科生は自らをブルームと呼び、二科生をウィードと蔑む傾向がある。

 これは校則で禁止されている事でもあるが、それ以上に私の機嫌を損ねた罪は重い。

 見たところ彼らも一年生だった。

 

 入学して高々一週間。

 たったそれだけの期間で、一科生と二科生にどれほどの差があるというのか。

 たまたま一科に振り分けられたというだけで、何故そうまで増長できるのか。

 結局この学校でも同じなのか。

 強い者は足を引かれ、弱い者は蹂躙され、ただ数の多い者達が幅を利かせる。

 強者というカテゴリーに属しているだけの人間が、実力も道理もわきまえずに横暴を貪り、弱者にカテゴライズされた者達は、ただ妬むだけでそこから脱却する努力をすることは無い。

 これまでと同じ。年齢が上がっても、場所が変わっても何も変わらない。

 この一週間で思い知らされた事実を改めて突き付けられて、少々自棄になっていたのかもしれない。憂さ晴らしも兼ねて二科生の少女を助けようと思った、その時だった。

 

 彼らの背後から一人の少年が近付いていた。

 彼はーー二科生だ。紋章が無いーーただ普通に歩いているだけに見えた。なのに周りの誰一人、彼に気付いた様子が無い。

 恐ろしいほど存在感の希薄な少年だった。私とて、たまたま彼の正面に位置していなければ認識できなかったかもしれない。

 少年は、そうして気付かれぬまますぐ後ろまで歩み寄り、一科生の一人の背に軽く触れた。

 

 

「っうおあぁぁぁぁっ!?」

 

 

 触れられた少年は、そのまま水平に吹き飛び植え込みに頭から突っ込んだ。

 

 

「…………は?」

「え、ちょ、え、何!?」

「ひゃあっ!?」

 

 

 最後の悲鳴は絡まれていた少女のものだった。一科生達が分かりやすく狼狽えている合間に、少年が彼女の襟首を掴んで彼等から一歩離れる。

 

「あ……いつの間に!?なんだテメエ!?」

 

 彼等はここに至ってようやく少年の存在に気が付いたらしい。しかし少年は、そんな彼等を一顧だにしない。

 

 タンッ

 

 そんな音が響いた。

 それが何の音だったのか。理解できたのは、少年以外ではおそらく私だけだっただろう。

 それは少年が軽く爪先を持ち上げ、地面を叩いた音だった。

 そしてそれと同時に、足下のモザイク柄を形成していた無数のレンガが浮き上がり、出鱈目に吹き荒れる。

 一科生達はおろか、惨劇の外に居た少女でさえも悲鳴すら上げられない。

 嵐が収まった後には倒れ伏す三人の一科生と、呆然とへたり込む少女。

 件の少年はどこにも見当たらない。今のどさくさに紛れて逃げたらしい。

 

「あなた、大丈夫?」

「あ……うん、ありがと」

 

 少女に手を貸して立たせてやる。そのついでに一科生達の様子も見るが、最初に吹き飛ばされた者も含め、ただ目を回しているだけで怪我一つ無かった。

 騒ぎを聞き付けたか、風紀委員がようやく駆け付けた。彼女と一緒に事情聴取を受ける事になるのだろう。そのことに小さくため息を吐きながら、先ほどの事を思い出す。

 

 ……どういうこと?

 

 どう考えても無傷で済むような魔法ではなかった。下手をすれば死人が出てもおかしくないと思ったほどだ。

 しかし最終的には、少女は無事に解放され、目に余る行為をしていた者達は怪我も無いまま痛い目を見て、しかも派手に注目を集めたために今後はおとなしくせざるを得ない。

 ほとんど最上の結果と言えるだろう。

 しかし自分が問題にしているのは、一年の首席である自分にも、あの少年の使った魔法の正体が解らなかったことだ。

 おそらく移動系魔法の一種であることは解る。移動系魔法で物体をつぶてとして打ち出すのは、魔法による攻撃手段としてはポピュラーなものだ。

 しかしそれだけでは怪我人が出なかった説明がつかない。何より最初に吹き飛ばされた生徒は、空中で蛇行していた。ただ一方向に飛ばすだけではそうはならない。

 忙しなく動きまわる風紀委員達を眺めながら、私は正体不明の魔法の解析に没頭していた。

 

 

 

 

「やっと見つけたわ」

 

 昼休み。

 人の滅多に来ないベストプレイスで菓子パンを頬張っていると黒髪の女が唐突に現れ、開口一番そんな事を口走った。

 

「人違いです」

 

 とりあえずそれだけ答えて食事を再開する。うん、このコロッケサンドは当たりだな。

 

「……まずは何の話か確認するべきではないの?用件も聞かない内から人違いもないでしょう」

「いや、俺に用事ある奴とかいるわけねえし。この学校に入って以来、というかここ2ヶ月ばかり家族以外とは会話してないんだから」

「……なんだか理由がとても悲しいのだけど。それはともかく、あなたで間違いないわ。あなた、昨日一科生に絡まれていた女の子を助けたわよね?」

 

 うげ。こいつあの時の野次馬の一人か?面倒が嫌だからさっさと逃げたのに。

 つうかこいつも一科生だよな。やだ、復讐に来たの?仲間意識たかーい(棒

 

「何の話かわからんがやっぱ人違いだろ。俺と似たような奴なんかいくらでも居るだろ?」

「背格好はともかく、そんな腐った目をした人間がそうそう居るわけないでしょう」

 

 おっふ、顔見られてたのか。

 どうすっかな。クラスとか特定されると厄介だし、でも正面から一科生に勝てるわけねえしな。不意討ちならともかく。

 

「心配しなくても、昨日の彼等と面識なんて無いわよ。私はただ、あなたに聞きたい事があるの」

 

 あれ、そうなの?

 

「はあ、まぁそんなら良いけどよ。なんだよ聞きたい事って?」

「昨日あなたが使った魔法、あれは何?あんな魔法、見たことも無いのだけど」

「知らないってこたないと思うけどな。ありゃただの飛行魔法だ」

「……飛行魔法?攻撃魔法ではなくて?いえ、それ以前にあれは、制御やコストの問題が解決できなくて実用に耐えられる代物ではなかったはずよ?」

「ああ。その制御できない飛行魔法を無理矢理付加したんだ。だから当然のように制御に失敗してあんな風に吹っ飛んだ。俺がなんかしたっつうより、あいつが勝手に自爆したんだよ」

「なるほど……。では彼に怪我一つ無かったのは」

「事故防止プログラムだな。対象物と他の物体の相対距離が一定以下になると減速するようになってる」

「ということは、その後のレンガの嵐も?」

「ああ。あれも足元のレンガに同じ魔法をかけただけだ。見た目は派手だが怪我なんざ滅多にしねえよ」

「ふむ……。彼らがあなたに気が付かなかったのは?」

「それは単に俺の影が薄いだけだ」

「なるほど……」

 

 呟いて考え込む美少女一人。何?終わったんならもう帰ってほしいんだけど。いや、絵にはなってるけど。

 

「もう一つ聞かせて。他にもやりようはあったはずよね。なのに何故わざわざ飛行魔法なの?」

「……別に。手持ちでちょうど良さそうなのがそれだったってだけだ」

「では何故そんな魔法を持っていたの?飛行魔法の開発を目指しているの?」

「プロが何年も前から研究してんのに未だに成功例がねえんだぞ?素人がどうこうできるわけねえだろ」

「ならどうして?」

「……別に。失敗作にだって使い道くらいあると思っただけだ」

 

 本当にそれだけ。

 ま、基礎能力で負けてる以上、一科生と同じ事やっててもしゃあねえしな。

 そこで会話は途切れたものの、この女はなにやら考え込んでて立ち去る気配は無い。もう仕方ないので俺の方が去ろうと背を向けた時だった。

 

「あなた、部活は入ってないでしょう?」

「何で断定してんだ。いや、入ってねえけど」

「そう、ならば私の作る部活に入りなさい」

「ごめんなさい、それは無理」

「部創設には最低三人が必要だったはずよね。まずはもう一人のメンバーを探しましょう。ああ、数会わせの人間は要らないわよ?」

「あれ?俺今無理って言ったよね?」

「それから顧問も必要ね。忙しくなるわね」

「ねえ、話聞いてる?ここまでダイレクトに無視されるのって黒歴史ばっかの俺でもなかなか無いよ?大体部活って何部だよ」

「奉仕部よ」

「頼むから俺に理解できるようにしゃべってくれ。何をする部活だそれは」

 

 懇願すると彼女は、ハァやれやれと大仰に肩を竦めた。今なら人を殴っても罪に問われない気がする。気のせいだが。

 

「決まっているじゃない。変えるのよ。人ごと、世界を」




 タイトルで分かると思いますが、魔法科高校の劣等生とのクロスです。
 最初にタイトルを思い付いて、それっぽい話を考えてたらこんなのが出来上がりました。
 なんとなく八幡の方が歳上なイメージがあるので一学年上、さらに一年生時の話なので達也達の出番はありません。
 本来欠陥魔法である飛行魔法を使って人を吹っ飛ばす、という部分を書きたかっただけなので、ぶっちゃけ雪ノ下とかただ出しただけ。なので終盤はかなり適当です。
 作者は魔法科高校は九校戦の辺りまでしか原作読んでないので、設定面で色々甘い部分があると思いますがそこは見逃してください。

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