門扉開放の鐘の音が、シガンシナの街を震わせる。
多くの住民の好奇と侮蔑の視線のなか、自由の翼が行軍する。死神の行軍。英雄達の凱旋である。
――次回の壁外調査は今年最後の調査となるだろう。次は雪解けした後となる。
「これより、壁外調査をはじめる!!」
キース団長の声が、兵士たちの捧げたはずの心臓を震わせる。
――ハロルド商会の援助により、資金が集まった。
死地へと向う兵士達は、それぞれに拳を胸にあて、そのそれぞれの思いを押し殺している。彼らは人類の矛。自由を求める唯一の翼であることを今、己に言い聞かせて進軍している。
「ハロルド商会からの多額の援助、か。怪しいなあ。タダより高いものはないんだけどね。リヴァイ、何かした?」
そんな緊迫したなか、馬上で場違いなのんびりとした声を出したのは、エルヴィン分隊の副官、シグリだった。その彼女の隣で、声をかけられたリヴァイは「何の話だ」と前方を見据えて短く答えた。
――今回も長距離索敵陣形の試験運用を行なう。よって私はキース団長の補佐にまわる。分隊の指揮はミケに頼む。
「シグリ、集中しろ」
「はいはい、了解。ミケ」
分隊の先頭にいる班長が、鼻を鳴らして忠告する。隣では、ハンジ班長が部下のモブリットになにやら巨人についての愛を語っている。こちらには何を言っても無駄だとミケは判断しているのか、完全に無視している。
――今回の調査の目的は、長距離索敵陣形の運用だけでなく、壁外にある遺跡の調査も行なう。以前の調査で発見した、集落の跡だ。遺跡到着後の調査は、シグリ。君の班が中心となる。
「リヴァイ。なんとか遺跡までは生き残ってくれよ。あなたには調査で協力してもらうんだから」
開門までの時間を知らせる号令が、空をつんざく。門扉に描かれたマリアの肖像を見ながら、シグリは男に言った。
――シグリとハンジの班は中央後方へ荷馬車班の護衛班として配置する。リヴァイ。移動時、お前は右翼索敵のダリス班と行動しろ。
男はふん、と鼻を鳴らし、
「お前もな」
門扉がゆっくりと開放される。ゆっくりと、壁の向こうの光が調査兵たちをつつんでいく。
ひゅるりと吹き上がる風が、耳を切る。兵士たちの髪を揺らしながら、壁外の空がシガンシナへと入り込んでくる。
シグリが、とん、と右拳を左胸へと置いた。
――心臓を捧げよ。
「前進せよ!!!」
行進の合図に、馬たちがとどろき、兵士たちが一斉に駆けていく。狭くて暗い二重構造になっている門扉を抜ければそこには、
視界の遮るもののない、広大な大地と空が待っていた。
目の前に、自分を包み込むように広がる世界。この瞬間に心を揺らさない調査兵はいない。それは、リヴァイもまた同様だった。
男にとってのこの二回目の壁外調査は、844年。秋の暮れに行なわれた。
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緑の信煙弾が幾重にもあがり、青い空に弧を描いたのを目視し、手綱をひいて方向を変える。そろそろ、目的の集落跡に着く頃合いであった。
「リヴァイ、さっきは助かった!ありがとう!」
配置されたダリス班の班員の男が、リヴァイの近くまで駆けてきて笑った。ヒゲ面だが、まだ若い男だった。
リヴァイはその礼に手をあげて返事をし、再び前方を見据えた。彼らが配置されている索敵班は、最も巨人との遭遇率が高く、その分死亡率も高いと計算されている班である。
この数時間の行軍でリヴァイが遭遇した巨人は六体にも及んだ。そのうち二体を除いて、交戦を免れることができたのは、やはりエルヴィンの考案した陣形のおかげであろう。
「前方、信煙弾だ!黒!!」
前方で広がる小さな森の中から、黒い煙が垂直に何本が上がった。
「奇行種だ!!!急げ!!」
後方を走る仲間への伝達のために、班員が同じく黒い信煙弾を穏やかな青の空に放つ。確か、森に到達すれば索敵班を周囲に配置したまま、中央のミケ率いる分隊が先んじで森に入る手はずとなっていたはずだ。リヴァイたちの班は索敵班のなかでも後方に位置する。その彼らが森の入り口に接近しているとなれば、先頭の司令班から、後方のシグリたちの班、つまり調査兵団の主力部隊のほとんどは奇行種が出た森の中にいる、ということになる。
リヴァイは舌打ちをして、最高速度のまま仲間達と森へと入っていった。
壁外調査は怖いけどワクワクする。巨人を書きたくて、本当は入れる予定のなかったこの章を導入。わくわく。