白き獣は牙を研ぐ   作:マスター冬雪(ぬんぬん)

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相変わらずの執筆スピード。


原作前編
正義の名の下に


 広く晴れた青空、ゆっくりと流れる白い雲。耳を澄ませば遠くに体育に勤しむ生徒達の声が聞こえる。それは不快ではない音量で絶妙に僕の眠気を刺激する。今日も一日咬み殺日和である……というのは流石に冗談だよ。

 こういう晴の日は屋上でうとうとするに限るっていう話だ。……勿論恭弥と鉢合わせはしない。お互い見回りの時間がズレているし、何も言わなくても分かるものは分かってしまうんだから昼寝の時間位ズラすに決まっている。昼寝しに来たのに奪い合うのも共寝になるのも以ての外だよ。

 そんな訳で僕は屋上のタンクの上である。

 

「お休み中失礼します、会長!」

「……どうしたの、早川武明生徒会副会長」

「じ、実は……」

 

 黒地に銀の生徒会の文字。腕章を付けた彼に目をやれば更に背筋を伸ばし僕を仰いでいる。……うん、やはりリーゼントじゃなくてよかった。暑苦しくない代わりに影薄だけど。

 

「……一部取り立てが上手くいっていない?」

「はい。……最近台頭し始めた組織(ヤクザ)なんですが、若造に渡す金どころか下げる頭も折る膝もない、と」

 

 一帯を取り纏める総元締でも見逃しはある。傘下でも何でもなく、縄張りの掟も知らない新参者。只只群れて粋がるチンピラ紛いの破落戸だ。

 

「モグリか……」

 

 だからといって許しはしないのだが───無知は罪である。

 基本、こういった案件は風紀委員会が場合によって古参のヤクザと共に粛清を行う。が、何事も例外がある物だ。

 

こっち(生徒会)に来たって事は……一般市民(草食動物)からの投書だね」

「はい。随分大規模に勧誘しているらしく……。また、並盛警察と裏の情報にも僅かですが情報がありました。そこから恐らく武器の売買や薬にまで手を出すだろうと予想されています」

「ふぅん……」

 

 別に武器だの薬だのは正直今更だ。消しても消しても根絶出来ない人の欲望、好奇心、(さが)。……まあ、見掛けたら叩き潰すけど。

 

「いいよ、僕が出る。恭弥には言っておくから拠点の場所と逃走経路、それと……一応武力偵察してきて」

 

 恐れている訳では無い。根本から駆逐する為だ。万一逃亡を赦せばそれこそ危険。生き物というものはぎりぎりまで追い詰められれば何を仕出かすか予想が付かない。ならば心折れるまで完膚無きまでに、殺してやらなければ。

 僕は痛くも痒くもないのだ、寧ろ背水の陣で向かってくる方が歯応えがあって好ましい。だが割を食うのは先ず一般人、そうなれば生徒会として正義を執行しているとは言いきれまい。

 

 そして言うなれば調査は余す事なく獲物を味わう為のスパイスのようなもの。知れば知る程どう料理するべきか分かる。

 武力で叩き潰せばいいのか。情報戦で死力を尽させる方がいいのか。はたまた罠にかけて分散、各個撃破していけばいいのか。追い詰めたと偽装してそれを覆せばいいのか。

 我慢して、我慢して……そうして味わう獲物の血肉(最高の闘争)は、どんな美食美酒よりも堪らないものになるのだから。ただ喰い散らすなんて勿体無い。

 自分の欲を解消しながら、生徒会として処断する。両立は難しいながらやり甲斐があっていい。

 

「誰にものを言っているのか……知らしめてやらなきゃね」

「承知しました。直ちに」

 

 それに、これは只の前菜だ。

 

「そう、君だよ……赤ん坊」

 

 再び1人になった屋上で目を細める。

 彼が日本に来訪した事は、既に情報部が入手している。

 彼には僕の能力を知ってもらう。そうして興味を持ってもらえれば万々歳、持たれずとも正義の名に於いてちょっかいを出せば無視は出来ない筈。最悪恭弥の付属物(兄弟)としてでも構わない。

 

「ああ、でも……守護者は御免だね」

 

 さあ、策を巡らそう。美味しい所だけを切り取って味わう為に。これ(記憶と知識)だけは僕の特権(正当なる対価)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 AM2:26。

 作戦が開始された。

 歴史も知恵も浅い破落戸相手。規模は活動始めながら相応に小さく、周りは要所だけ抑えれば僕だけで容易く制圧出来そうだった。

 

「それで、見学かい?恭弥」

「まあね」

 

 大きく欠伸をしながら風紀委員を従えて包囲網に加わる恭弥の姿。

 集められたのはヤクザの勢力が10人、警察が30人前後、生徒会役員とその下部組織が42人。ヤクザは顔に泥を塗ってきた輩の粛清。警察は近辺に町の住人が来ないようにする交通整備と護衛、暴力組織の逮捕のために。……生徒会はというと時間帯も時間帯だし未成年という事で任意招集にしたが結局全員集まった。正直過剰戦力である。

 町内のビルを静かに取り囲んだのを確認し、僕は武器を構えて前を見据えた。

 

「お疲れ様です、御兄弟。今回は招集して下さり感謝します」

「うん。汚名は(そそ)がないとだろう?頭は任せるよ。組員は警察に捕まえさせるけど」

「ええ……承知しております」

 

 ヤクザ……総元締から寄越された荒瀧組幹部大堂平助は警察と共同になった事に複雑そうである。───飲み下してもらわなければ、将来的には各自不干渉にまで関係を落とし込むつもりでいるのだから。全ては内々に処理出来なかった己らの不甲斐なさが発端なのだから、高々幹部に言える言葉等無い。そもそもそんな不甲斐ない奴の言葉を聞く耳は持ち合わせていない。

 突入部隊は各勢力三人一組(スリーマンセル)と僕単体。

 

 ……ふと思ったのだが、此処まで大事になるまで2つの組織の目を逃れ潜伏していたであろう破落戸共が、果たして一般人風情に告発されるだろうか?隠れるだけは能のある鼠だが、それ故に警戒心はあっただろう。

 内部告発?有り得なくもない。人に直接手出しをする気概はないが恐喝恫喝は日常的に行なっていたようだ。小物じみた真似をするのが嫌になった者もいなくもないだろう。が、成り立って短い組織にそのような者が行動に移すには時間が足りていない。

 

 ……まあいいか。どうせ匿名だったんだ、不利益なければ放置でいい。

 

「……午前2:40。行こうか。僕らを貶し面に泥を塗った奴らを引き摺り出す」

 

 正義の名の下に、ね。

 

 

 

 

 血肉が引き裂かれる。嬲るように態と急所を外して再起不能にしてやった。背後から奇襲してきた奴には顔面目掛けて肘打ち、釵を回して逆手にして鳩尾に柄を打ち込む。蹲った奴を蹴り飛ばし、新たな獲物に飛び掛った。

 ビルを下から順に襲撃して、最上階。

 気が付けば周りは死屍累々。頭らしい男は失禁して土下座で震えていたし、幹部らしい奴らはまるで拷問でも受けたような裂傷が執拗に刻まれ打撲で顔の原型が留められておらず、僕は返り血を滴らせて立っていた。……下らない命乞いをするからこんな事になったのだ、男は完全に心が折れていた。

 人を殴る感覚は嫌いじゃない。前は嫌いだと思い込んでいたけどね。釵を振るって血を払う。

 

「これで最後?」

「はい、」

 

 質は不満しかなかったものの量は中々のもので、僕の機嫌はかなり良かった。

 

「取り敢えずこのビル、差し押さえね。薬と武器の入手ルートは望み薄だけど調べてといて」

「、了解しました」

「後始末は生徒会がする。警察は下っ端連中を病院に搬送して拘置、大堂平助は頭と幹部の一部を拘留して好きにすればいい。指詰めでも捨て駒にするでも小間使いにするでも、ね」

 

 畏怖でかわいそうな位に青ざめた顔をした、警察から派遣されたであろう警部ににやりと笑ってやれば、勢い良く顔を逸らされた。

 

「ふん……」

「会長、タオルです」

「ん」

 

 ああ、このワイシャツ棄てなきゃ。早川武明生徒会副会長からタオルを受け取って顔と髪を乱雑に拭う。髪に付くとめんどくさいんだよね……固まったら落ちないし。髪色の所為で目立つし。

 

「帰る」

「はっ!お疲れ様でした、お気を付けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 背を見せる彼の背を見る一対の視線がある。

 

「まるで狂犬だな」

 

 その人影はいや、と自分の言葉を撤回した。

 

「アイツには理性も、知性もある。獣性を制御し、只管に何かを目指しているようにも見える」

 

 獣性を制する獣程、厄介なものは無い。

 帽子の鍔の奥、低まった声のトーンにしては愉しげに笑みを浮かべる。

 その先で白い獣が振り向いた。

 

「────おもしれぇな、アイツ」

 

 最強の殺し屋──────リボーンは白紙の投書用紙をスーツのポケットにしまい込み、不敵に目を輝かせたのだった。

 

 

 

 

 

 




戦闘狂というか……少し変態になってませんか?

評価ありがとうございました。駄文ですがこれからもよろしくお願いします。

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