偽伝・機動戦艦ナデシコ T・A(偽)となってしまった男の話   作:蒼猫 ささら

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第九話―――急行

 

 防衛ラインを抜けて二時間が経過した。

 

『艦長から通達です。第一戦闘配置を解除との事です。皆さんお疲れさまでした。通常勤務に戻って下さい。繰り返します。第一戦闘配置を――』

 

 メグミ嬢が映るウィンドウが浮かんでそう通達が下りた。

 このコックピットだけでなく、艦内全域に彼女の顔が浮かんで放送が掛かっているんだと思う。

 長いような、短いような、時間感覚が良く分からない。……とにかく、ようやくコックピットから降りられる。

 

 

「はぁ……」

「テンカワ、ご苦労さん!」

 

 バシッとまた背中が叩かれた。振り返るとやっぱりウリバタケさんの姿があった。

 

「今回はエステにこれといった傷はなし、良くやった。船外カメラからの映像で見てたぜ、ヤマダって奴も意外に凄くてビックリしたが、お前さんも中々にな。サセボの時と言い、ほんと素人とは思えないぜ」

 

 ウリバタケさんはやや興奮した面持ちで嬉しそうに言う。エステに損傷がない為なのか、それとも俺達の戦闘を見たからなのか……両方なのだろう。

 

「はは……ありがとうございます。エステの整備……お願いします」

 

少し複雑な思いもあって若干苦笑も零れたが、お礼を言い、これからが忙しいであろうウリバタケさんに後を頼んだ。

 

「おう、さっきも言ったが傷はないからな。整備は楽なもんだ。ついでに次の出撃にはもっとテンカワが動かし易くしといてやる」

 

 得意げに言うウリバタケさん。アサルトピットの調整の事だ。

 これを個人に合わせてチューン出来るのがエステバリスの強みの一つらしい。サセボとさっきの戦闘で得た俺のデータを反映するのだと思う。

 

「はい、助かります……それじゃあ失礼します」

「ああ、お前は確り体を休めておけよ」

 

 ウリバタケさんに背を向けて歩き出す……と。

 

「おーい! アキトぉぉ!!」

「ん?」

 

 ガイの奴の声が聞こえた。アイツがエステを固定したガントリーの方だ。

 

「撃墜マーク入れないのかぁ!! ゲキガンシールのコピーはまだまだあるから欲しいなら分けてやるぜぇ!!」

 

 整備の音に負けない大声で叫んでいる。

 ……拡声機要らずだなアイツは。今度は咽が枯れた、声が出ないとかで医務室のお世話にならないだろうな? ちょっと呆れる。

 にしてもゲキガンシールで撃墜マーク……か。

 

「俺はいい!! 本職はコックだしな!! そういうエースみたいな役割はお前に任せるよっ!!」

 

 聞こえるか分からないが俺も大声で応じる。

 

「なるほどなぁ!! さすがは同志アキト!! 確かにこういうのはエースの機体にこそ相応しいってもんだぁ!! 分かったぜぇ!! 今後も俺様の活躍に期待ってことだなぁ!! 任せろぉ!! 蜥蜴どもにもこのガイ様がナデシコのエースだって事を知らしめてやるぜッ!!」

 

 聞こえたらしく俺の声に応えてはっはっはっ……と豪快に笑うガイ。

 

「じゃあな!! 先に行ってるぞ!!」

「おう!!」

 

 ガイにも別れを告げると、俺は格納庫から出た。

 その寸前、出入り口から肩越しに顔を振り返らせて……アイツの姿を見た。

 

「……良かった」

 

 ガイが生き残って。

 ほんの少し……いや、人ひとりの命を助けられたのだ。大きく変わったのだと思いたい。未来が……より良い将来に向かって。

 

 ――少し元気が出た。

 

 

 

 更衣室に隣接する整備班の人達も使うシャワールームで汗を流し、着替えて通路へ出ると、

 

「お疲れさまでした。アキトさん」

 

 ルリちゃんが居た。

 通路に佇むその少女の姿を見て、何かこういう事が多いな……と思いつつもお礼を言う。

 

「うん、ありがとうルリちゃん。ブリッジの方は良いの?」

「はい、通常勤務ですし、オモイカネには自動迎撃システムがありますので。それに私はまだ少女……子供ですから」

 

 子供ですから……と少し悪戯っぽく言う。それを建前にして抜け出す許可を……休憩を貰ったという事だろう。

 意外にちゃっかりした所があるんだな、ルリちゃんも。

 

「それでわざわざ休憩まで貰って俺を待ってたって事は……」

「そうです。この後の事です」

「……サツキミドリ2号だね」

 

 俺の言葉にコクリとルリちゃんは頷く。

 

 

 

 場所変わってほんとに密会の場と化しつつあるルリちゃんの部屋。

 まあ、仕方がない。ルリちゃんとオモイカネの権限……いや、このナデシコでは権能と言っても良い程の力で、徹底的にセキュリティが掛けられた場所なのだ。

 このナデシコで人に言えない話をするのに、此処ほど適した所は無い。

 ちなみにルリちゃんが休憩を貰ったように、俺も戦闘の後という事もあって休憩の許可は貰っている。それも契約の内ではあるが……何となくホウメイさんとホウメイガールズの皆には申し訳なく、頭が下がる思いがある。何かの形で謝罪なりお礼なりをしたい所だ。

 

「……サツキミドリ2号か。アレに関しては分からない所が結構あるんだよね」

「そうですね。木星の無人兵器の仕業であることは確かなのでしょうが」

 

 ルリちゃんはベッドに、俺は部屋のデスクの前にある椅子に座って、互いに頷き合う。

 ……ルリちゃんがベッドの方に腰かけている事に、妙な意識をしてしまいそうな自分がいるが努めて無視する。いい加減に慣れろと自分を叱りたい。

 

「サツキミドリは月の反対側のラグランジュ3にあるんだよね、確か」

「はい、それもあってこれまで月を占領し、そこから地球へ侵攻する木連の標的から免れてきたのだと思われます。実際、地球までのルートとなるラグランジュ1は壊滅していて、月の裏側のラグランジュ2は勿論ですが、4、5も同様です。これは月の地盤を固める為と考えればおかしい事ではないですし……敢えて反対側にまで手を出す必要はなかったのではないかと」

 

 確信的に言うが、ルリちゃんは何処か自信なさげだ。占領地帯の反対側だからといって本当に放って置くものなのか? という思いがあるのだろう。

 サツキミドリに関して分からない事があるというのはその辺もある。

 

「うーん、ラグランジュ3……L3の開発は積極的じゃなくてコロニーも少ないみたいだし、それもあるんじゃないかな?」

 

 というのも、人類の宇宙開発の黎明期はやはりというか月を中心に進んだからだ。月面を開拓し、人々の移住を行い、都市を築く過程で主要航路となるL1や他に中継点となるL4、5にあらゆるものが集中した。

 そして月の開発が一段落した後は、火星への進出の為に月の裏側であるL2にも人と物が集まり始めた。地球圏の外へ出るのであれば、距離的な意味ではL3もさほど条件に違いは無いが、月を軸に宇宙開発が進んだ以上は、月の裏側の方が事は運びやすい。

 つまりL3は宇宙開発の軸足となった月から遠いが故に、半ば放置された宙域なのだ。つまり重要拠点とは言い難い。

 

「……そうですね、そう見るべきでしょう」

 

 それでもルリちゃんとしては納得し切れないのかも知れない。不承不承と言った感じで頷く。軍人としての経験と視点がそうさせているようだ。

 

「では、とりあえず、その前提で考えますとやはり前回のサツキミドリの件は違和感を覚えます。それまで見逃されていたL3宙域が何故襲撃されたのか?」

「それはやっぱりナデシコが近づいたからじゃないかな?」

「状況的にはそれが妥当ですが、それだと問題が……」

 

 ルリちゃんは悩ましそうだ。

 

「何時、敵がナデシコの行き先をサツキミドリだと知ったのか? 宇宙へ出たナデシコを観測し進路を予測したのか? これが問題です」

 

 ルリちゃんの言いたいことを考える。

 

「サツキミドリへ行く事はネルガルしか知らなかった。だから敵が知ることはあり得ない。宇宙に出たナデシコの進路を予測して動いたんだとしたら、ナデシコよりサツキミドリへの到着は遅い筈……なるほど、ルリちゃんが悩む訳だ」

 

 そう、だというのにナデシコが到着するかしないかのタイミングでサツキミドリは壊滅した。それもほぼ一瞬で。どう考えても先回りして……いや、

 

「先回りして待ち構えていたのなら、ナデシコがドック入りした後の方が良い。その方が……」

「ええ、それも不可解です。ドック入りした後を狙った方が効果的です。上手くすればサツキミドリ諸共ナデシコを墜とせました」

「うーーん」

 

 分からなくなる。不可解過ぎてサツキミドリ壊滅の件が何なのかまったく分からない。

 或いは……

 

「偶然、かな?」

「偶然ですか?」

「うん、ナデシコを建造したネルガルの所有のコロニーだったから狙って、その襲撃のタイミングが偶々ナデシコの寄港寸前だったんじゃないかな?」

 

 ふと思った事を言う。深く考えての事じゃない。ほんとに何となくそう思っただけだ。けど、ルリちゃんは得心がいったらしい。

 

「……辻褄は一応合いますね。サセボでのナデシコの破壊に失敗した敵が、その挽回としてネルガルの研究施設のコロニーを狙うという事はあり得ます。近くに居たナデシコよりもサツキミドリを襲った事もこれで納得できました。無人兵器は基本的に指示された命令しか実行できませんから。……だとすると前回の事を踏まえると、敵の狙い……無人兵器に下された命令はサツキミドリにあるナデシコとエステバリスなどのデータとサンプルの取得で……――あ! いえ、それだけじゃなく、もしかすると……」

 

 コクコクと頷きながら納得した表情を浮かべるルリちゃんだったが――突然、ハッとした顔をする。

 

「どうしたの? 何か気になる事が……?」

「……あ、はい。少し……ですが、これはまた今度にしましょう。今はサツキミドリをどうするか、です」

「?? ……まあ、ルリちゃんが保留するって事は、今話さなくても大事ないって事だろうから……。そうだね、とにかく今はサツキミドリだ」

 

 気にはなるけど、ルリちゃんは今は問題ないと考えているようなので俺も保留とする。

 

「とりあえず偶然という事であれば話は早いです。ナデシコを急がせましょう。ただドック入りした後で襲撃されては拙いですし、間に合わない可能性もあります。ですので向こうのレーダーとセンサーにハッキングを仕掛けます」

「それは警戒を促すって事?」

「はい。そうです。レーダーとセンサー類を誤作動させてサツキミドリを警戒態勢に移行させます。サツキミドリには防衛設備やシェルターもありますし、それにリョーコさん達もいます。警戒さえしていれば奇襲にも十分対応できる筈です」

「……いっそ脱出させるっていうのはどう? サツキミドリを放棄して逃げた方が安全な気がするし? エステとかも一緒に」

 

 ナデシコを急がせるというのもそうだが、もう一つ二次創作でよく使われた方法を思い出して提案する。警戒させるならいっそ逃がした方が手っ取り早いと思って、しかしルリちゃんは首を横に振った。

 

「いえ、サツキミドリはコロニーと言うだけあって人員は多いですし、資材までとなると結構時間が掛かると思います。それに無人兵器に下された指示内容しだいでは脱出した船舶等に狙いを変えるという可能性もありますし」

「そっか、逃げるのは危険か」

「はい、襲撃を警戒しサツキミドリの防衛態勢を整えさせるのが最善策だと思います……ナデシコが間に合わなければ、ですが。脱出はその後……襲撃をやり過ごしたあとですね。恐らくL3にいる敵戦力はサツキミドリを狙うものだけでしょうし」

 

 前回のL3宙域では、サツキミドリでの戦闘以外に敵と接触していませんから……ともルリちゃんは言う。

 先の事情からも基本的に月の反対側の宙域と航路は安全という事だ。

 

 ともかく原因が分かり、対処案が定まった。あとは実行だ。

 

「これもルリちゃん頼りだけど」

「……仕方ありませんよ。でもこうして話し合う事で見える事もありますし……今回だって。だからその、気を落とさないで下さい」

「……うん」

 

 ルリちゃんの励ましが痛かった。

 少なくとも俺が役に立つのは火星に行ってからか地球に戻ってからだろう。特にA級ジャンパーとしてネルガルとアイツに目を付けられる事が……。

 しかし、ルリちゃん以上に役に立てるかは非常に怪しい気がする。いや……ルリちゃんの言うように気落ちしても仕方ない。

 

「……頑張るよ」

「はい」

 

 気落ちした感情を振り払って顔を上げると、ルリちゃんはホッとしたように頷いた。

 

 

 

 

 ブリッジに戻ると艦長やプロスペクターさんの姿が無かった。ゴートさんとアオイさんとフクベ提督も。

 ブリッジに隣接するブリーフィングルームだろうか? サツキミドリの事で話し合っているのかも知れない。前回も宇宙へ出た後にそうしていたのかまでは流石に覚えていない。

 できれば、サツキミドリへ急ぐ為に早めに相談したい所なんだけど……なら、先にハッキングをしておこうかな?

 そう考えると、私はオペレーター席に着き、コンソールにIFSをコネクトする。

 

「私、艦長の事を見直しちゃった」

 

 電子の海へと泳ぎに入った私の耳にそんな声が聞こえた。

 

「そうね。ただの世間知らずのお嬢様かと思ってたけど、軍大学の主席ってのは伊達じゃないって事よね」

 

 ブリッジに残っているミナトさんとメグミさんの会話だ。

 サツキミドリのセキュリティシステムにハッキングを仕掛けつつ、その会話を聞く。

 

「あの時の艦長、キリッとしていて如何にも出来る女性って感じでしたし……ちょっと憧れちゃうなぁ」

「おやぁ、メグちゃんそっちの趣味だったの?」

「ち、違いますよ! 変なこと言わないで下さい! ……ただ私ってあまり大人っぽくないですし、スタイルも全然ですから……あんな風に立ち振る舞えるのが羨ましくて、私と違って魅力的だなぁって、男の人もあんな人が良いんだろうなぁって」

「あら? そんな事ないわよ。メグちゃんだって可愛いし」

「その……可愛いじゃなくて、奇麗だとか、かっこ良いとか……そういうのが――って私の事はどうでも良いんですよ!」

「ふふっ」

 

 顔を真っ赤にしてミナトさんに食って掛かるメグミさん。だけどミナトさんは余裕の態度だ。

 

「けど、確かに艦長は凄いみたいよね。ミスターゴートもそうだったけど、あのフクベ提督も……」

「凄く感心してましたよね。プロスさんも皆」

 

 艦長の評価は鰻登りだ。戦闘配置を続けた二時間の合間に簡単ながらデブリーフィングが行われた。その際、プロスさんを始めとしたナデシコの首脳メンバーは艦長の指揮を絶賛した。これは私を含めたブリッジクルーの……そしてそこから噂が流れる事を見越した士気高揚を狙って行われた茶番ともいえる部分もある。

 

 しかし――

 

 しかし、事実として先の戦闘は完璧だった。私でもそう評価する。現実としてナデシコに損害は無いのだ。

 

 不審なデルフィニウムを早々敵と考えて、接近されて進路を塞がれる前に前進・上昇して進路を確保した。

 もし悠長に構えて敵と考えずにいたら、進路を塞がれた上で至近距離でミサイルを一斉に撃ち込まれただろう。そうなったらナデシコは無傷では済まなかった。ブリッジや機関部を狙われて甚大な損傷を負っていた公算が高い。

 素早く的確な判断だった。

 

 けれど何より巧いのは、敵に手を出させた事だ。

 

 デルフィニウムに先に手を出させたからこそ反撃の名分が立った。

 勿論、あの場面でも敵が慎重に立ち回って撃ってこない可能性もあった。追い付いて至近からミサイルを撃って来る事も。けど、その可能性は低いと見た。

 

 少なくとも艦長と――そして私もそう考えた。

 

 不意を突いた標的の急な加速、鈍い自分達の旋回性能、加えて思惑を見透かされたような逃げに出た標的……ナデシコの行動。

 この時点でデルフィニウム隊は、自分達がナデシコから敵と認定されたと考えた筈。

 そう敵と捉えられたという認識を持ってしまったが故に、彼等は躊躇なく攻撃を選択した。してまった。

 まだナデシコが明確に攻撃の意思も素振りも見せていないのに……まだ決定的な判断要素を得ていないのに、だ。

 そこには動揺もあっただろう。逃げられかけた、追い付けないかも知れない、次にはナデシコの攻撃を受けるかも知れない……などという恐れ、だから焦った彼らは撃ってしまった。

 

 正確には、そう思わせて、焦らせて、誘った訳だけど。

 

 艦長の仕掛けた心理戦に絡めとられて。メグミさんの通信もその一環だ。護衛・先導は不要という拒絶直後にあのように行動したのだ。あれでデルフィニウム隊はより艦長の意図に絡められた。

 さすがと言う他ない。連合軍大学戦略科でトップの成績を収め、首席で卒業した初代ナデシコの艦長というだけはある。

 戦歴ならもう私の方がずっと上なのに“まったく同じ”判断を下して、先の戦いを演じた。

 もし少しでも判断が遅れ、間違うようなら遠慮なく口を出す積りだった。けど……

 

「流石です。ほんとに」

 

 称賛の言葉。しかしそれに反して悔しく思う。艦長と対等という事に。この人だけには負ける訳にはいかない……そう思うのに――いえ、違う。認めたくないのだ。艦長の事を。私は。

 だって認めてしまったら……

 

『……パイロットになって私を守ってくれるんだもの!』

『パイロットの事も応援してるから!』

 

 この言葉まで認めてしまうような気がするから。アキトさんがパイロットである事を、戦う事を当然だと受け入れてしまったように思えるから――そんな艦長のようにはなりたくなかった。――絶対に!

 

「……」

 

 アキトさんは苦しんでいた。戦いの後、コックピットの中で。私はそれを見ていた。聞いていた。

 

『俺は――、――殺そうとした』

 

 まるで血を吐き出すかのような声だった。

 直ぐにでも、言葉をかけて励ましたかった。けど、ブリッジに居るという事もあって話しかける事は出来なかった。アキトさんだってあんな姿を誰かに見られたくはないだろう。

 だから心配で、戦闘配置が解除された後、無理にでも休憩を貰ってブリッジを抜け出した。勿論、サツキミドリの件での話があったのも本当だ。

 けれど、シャワー室から出てきたアキトさんは意外な事に元気そうだった。

 コックピットの中ではずっと苦しそうだったのに。いつものように明るく笑顔で私の事を見て、労いの言葉にお礼を言った。

 

 だから言えなかった。尋ねるべきか迷ってしまった。そして結局はそれを話せなかった。

 それを言ったら、何か……アキトさんの決意か、覚悟か、そういった物を踏み躙るような気がしたから。けど、そう思う一方で……

 

「……もしかしたら後悔する事になるかも知れない」

 

 そうも思う。話さなかった事を。

 首を横に振る。

 大丈夫、アキトさんは頑張るって言った。だからもう少しだけ…アキトさんを見守ろう。まだパイロットとして一度目の戦いなのだ。艦長のように当たり前だとは思いたくはないけど、それでも信じたいから。

 

 だからもう少しだけ――

 

 

 

 ハッキングは終わった。それとほぼ同時に艦長たちも戻って来た。私は早速提案を行う。

 サツキミドリ2号の壊滅が逃れられれば、多くの人が助かるだけでなく、前回では失われた多くの物資をナデシコは得られる。

 その分、パイロットになったアキトさんの負担も減る筈。戦闘で傷付く可能性も……考えたくもないけど、死なせる確率だって減らせる。

 

「なるほど、機関部の負荷がどれぐらいか。データ通りのスペックを……理論値を実証できるか、それは重要ですからね。ふむ……」

 

 私の提案をブリッジメンバーの皆が聞き、プロスペクターさんが真っ先に口を開いた。眼鏡を押さえながら考え込む様子。

 

「いいんじゃないかな? 僕は悪くない提案だと思うけど」

「そうねぇ。操舵の感覚も掴めそうだし、色々と癖が多そうな船だもの、この子。私も賛成かな?」

「……反対する理由はないな。問題点の洗い出しにも繋がる」

「「……」」

 

 アオイさん、ミナトさん、ゴートさんが賛意を示し、メグミさんは判断が付かないのか、無言で成り行きを見ている。フクベ提督も無言だ、口出しする事ではないと思っているのだろう。

 考え込む様子を見せていたプロスペクターさんも妥当だと感じていたらしい、皆の意見に応えて大きく首を縦に振る。

 

「ですな、その場合、深刻なものがあればサツキミドリ2号のドックで補修が可能ですし……わたくしも賛成票を投じましょう。……社の方にも話を付けなくて行けませんが……」

「決まりですね。ルリちゃんの提案を実行したいと思います」

 

 プロスペクターさんが賛成と言うと、ブリッジメンバーは艦長の方を見て、艦長はそれに頷き返した。

 こうしてナデシコは機関部の出力が許す限り、最大速度でサツキミドリへと向かう事となった。

 

 そして一時間後、サツキミドリ2号はレーダーに不審な影を捉えて警戒態勢に入り、この通信を受けたナデシコもまた警戒態勢へと移行する。

 

「……少し失敗でしたね」

 

 警戒態勢……戦闘配置へ移行した事により、アキトさんは再度パイロットスーツに着替えてエステバリスのコックピットに待機する事となってしまい、私はアキトさんへの申し訳ない思いとともに嘆息する事となった。

 

 

 

 

 厨房に戻ったのも束の間、俺は再度パイロットスーツを着て、エステのコックピットのシートに身体を預けていた。

 

『すまねぇな、テンカワ。次の出撃までにはお前さんに合わせてアサルトピットを調整しておく積りだったんだが……』

「いえ、仕方ありませんよ。急だったんですし」

 

 そんな中、格納庫に居るウリバタケさんと話をしていた。

 

『……まあ、そうだな。敵さんが俺達の都合を考えてくれる訳じゃねえんだし……にしても空戦フレームで宇宙で戦闘とはな。宙間戦闘用の0Gフレームは向こうで受領予定だったから仕方ないと言っちゃ仕方ないんだが……』

「一応、行けるんですよね? デルフィニウムとの戦闘だってほぼ宇宙でしたし」

『まあ、な。だが専用でない上に実戦投入は初だからな。基本試験運用も大気圏内みたいだったし……不安にさせるようなこと言うのは悪いが。ぶっつけ本番みたいな所がある』

 

 ピットの調整の事も含めて無念そうな口調だ。整備士(メカニックマン)或いは技術者(エンジニア)として思う所アリアリと言った感じだ。

 

「分かりました。注意します」

『おう、肝に銘じておいてくれ。俺らが整備した機体で死人が出るなんて嫌だからな。……ま、こんな仕事を引き受けた人間が言う事じゃないのかも知れねえが』

「了解です……とそういえば、ガイには言わないんですか?」

 

 通信が繋がっているのは俺だけという事もあって気になって尋ねたが、

 

『……アイツは人の話を聞かねえし、やかまし過ぎる。つーか相手にするのがめんどい』

「は、はは……」

 

 苦笑するしかない。

 

『オマケに変なシールを張りやがるし、あんなものを撃墜マークにするのもどうかと思うが、エステにだって塗装の塗り替えや洗浄作業だってあるんだ。それを言ったらアイツは――』

 

 あ、何か変なスイッチが入ったのか愚痴り始めた。これは長い話になりそうだ。

 ……と予想した通りにガイの事の他、色々な話を聞く事となった。

 エステの事だけでなく、このナデシコの事やメカに対する情熱やら過去にMITを7回受験して失敗した事とか、ウリバタケさんの苦労話まで。

 俺はそれに苦笑したり、曖昧に頷いたりするだけだったが……結果的には面白い話もあり、暇を潰せたり、気を紛らわす事が出来た。

 時折、暇を持て余したガイが通信を繋げようとしたが、ウリバタケさんは遮断した。整備班長の権限を使ったらしい。

 

 嫌われているな……ガイ。

 

 

 ともあれ、警戒態勢が続き――

 

『総員、第二戦闘配置から第一戦闘配置へ移行して下さい! サツキミドリ2号に木星蜥蜴が襲来! 戦闘状態に入った模様! ナデシコは現在急行中! 繰り返します! 総員―――』

「……!」

『! ホントに敵さんのお出ましかよ!』

「ウリバタケさん! ガントリーからエステを動かします!」

『ああ、こっちもエアロックを解除する! カタパルトの方へ移動してくれ! ――お前ら! エステが動くぞ! 道開けろ! そこっ! もたもたするんじゃねぇ!! 潰されてぇのか!!』

 

 ガントリーからエステを立ち上げながら、ウリバタケさんの指示と怒声を聞く。

 

「今日、二度目の戦闘か……だけど」

 

 だけど、今度は人間が相手じゃない。大丈夫だ。戦いが怖いのは変わらないが、無人機なら大丈夫だ。

 恐怖と不安に包まれそうになる自分にそう言い聞かせる。

 

「サツキミドリ……無事だと良いが」

 

 不安と言えばそれもある。

 ナデシコが急いでいるにも拘らず、間に合わずに襲撃を受けている。それも予想よりも早い段階に。

 原作よりも防衛ラインの突破に時間が掛かったのか……と一瞬思うも、首を横に振る。それは無いと。

 それに部屋でルリちゃんと話した様子を思い返す限り、あの子の記憶と時間的なズレは無さそうだった。むしろ突破に手間取らなかった分、早い筈だ。なのに――

 

「――いや、考えても無駄か。今は無事を祈る事しかできない」

 

 あとは向こうに居る三人娘を信じるしかない。

 

 

 




今回は盛り上がりが欠けるかな?思ってます。
 サツキミドリ2号壊滅の考察回みたいな感じです。あとユリカさんが行った戦術説明回と言うべきでしょうか?

 ルリちゃんがユリカさんに不信を抱いていますが、私は別にユリカさんを貶める積りはありません。ユリカさんと向き合い、また自分とも向き合うフラグみたいなもので、アキトへの想いを巡って多分避けられない部分でないかと思って書いてます。
 ユリカさんにも影響を後々与えるのではないのかと思ってます。

 感想返しはちょっと時間がなかったので、また後日にします。

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