艦娘という存在   作:ベトナム帽子

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11_昼食

 磯波と冲鷹は士官食堂で昼食を取っていた。

 トンカツに千切りキャベツとキュウリのスライス、ミニトマトが2個、ワカメとワンタンの中華スープ、ご飯にベーコン入りのマッシュポテト、もずくの吸い物、牛乳。

 以上の9品が昼食だった。別に海軍士官も毎昼、フルコース料理を食べているわけではない。特に陸上勤務の士官は。艦娘も例外ではない。

「南方戦線にいた、って言ってたけれど、戦場の最前線って、どんな感じなの?」

 冲鷹が磯波に尋ねる。冲鷹は浦波より少し先輩といっても、経験の浅い艦娘である。横鎮の防備戦隊に配属されているのも対潜掃討や他部隊連携などを習熟するためで、まだ前線に出すには早い。でもいずれは、貴重な空母艦娘として前線に出ることになる。磯波の体験が気になるのも当然のことだ。

「たいへんだよ。空襲はあるし、夜襲もあるし。逆に、こっちが夜襲をかけることもあるけどね。でも一番大変なのは――」

 会話の途中、冲鷹は視線を磯波から別の方向に移した。食堂に新しく人が入ってきたのだ。磯波もつられて、そちらを見る。

 艦娘が2人。2人とも第三種軍装を着ていたが、1人は浅葱色のリボンで、もう1人は若草色のリボンで、髪を束ねていた。 磯波は別段、彼女らに興味はないので、すぐに顔を冲鷹の方に戻したが、冲鷹はまだ見ており、少し渋い顔をしていた。

 どうしたのだろう? 磯波は少し怪訝に思った。もう一度、2人の艦娘を見てみる。何か、おかしなことはない。彼女ら2人の顔に見覚えはないが、至って普通の艦娘だ。強いて言えば、どことなく雰囲気が冲鷹に似ている。

「で、一番大変なのは?」

 冲鷹が磯波を呼びかける。磯波が向き直ると、冲鷹の顔からはさっきの渋い表情は消えていた。

「あ、うん。やっぱり、鼠輸送。ドラム缶に物資詰めて、それを50本くらい数珠繋ぎにして、曳航。目的地の島についたら、陸揚げするの」

「えぇ……。なんでそんなことを?」

「深海棲艦に陸上部隊の揚陸中を強襲されて、輸送船は沈むし、揚陸した物資は焼かれるし……でも人員は結構生き残ったから、餓死させるわけにもいなかい、ということで」

「何回くらいしたの? その、鼠輸送は」

「3回くらいかな。動きづらいし、敵は狙ってくるし、もうやりたくないよ」

「でも輸送任務は大切なことよ」

 横から声。振り向くと、先ほど食堂に入ってきた2人の片方、浅葱色のリボンをした艦娘だった。冲鷹の隣にも、同じく若草色のリボンをした艦娘がいた。

「隣、良い?」

「はい、良いですよ。……ええっと」

「大鷹よ。よろしくね。あっちが雲鷹」

「よろしくです」

「磯波です。よろしくお願いします」

 大鷹と名乗った艦娘と雲鷹と紹介された艦娘はおぼんを丁寧に机に置き、座った。

 大鷹、雲鷹。部屋で冲鷹が言っていた姉妹。「鷹」が名前にあるということは冲鷹と同じ商船改造空母で、新田丸級貨客船の姉妹達である。

「冲は磯波さんと同室なんだから、昼食前に紹介してくれても良かったのに」

「お腹が空いていたし、まあ、近いうちに大鷹と雲鷹にも会うだろうと思って。ちょっと面倒くさかった」

 大鷹は冲鷹のことを「冲」と呼んだ。そのことに磯波は少し驚く。冲鷹と他の姉妹はあんまり仲が良くないのではないか、と思っていたからだ。冲鷹は「大鷹」、「雲鷹」と縮めずに呼ぶが、会話の様子を見ても、特に険悪な様子はない。

 たが、何となくぎこちない、どこか違和感がある会話だった。自分の浦波との会話もこんなものだったのだろうか? 磯波は内心振り返ってみるが、そうとは思えない。

 このことを直接尋ねるのは、さすがにはばかられた。嫌な空気になってしまうのは間違いないからだ。

 

 昼食が終わり、何もすることがないので部屋で待機していると、磯波は放送で工廠に呼び出された。

 艤装の修理や点検が終わったのだ。双子島を脱出する際に機関に定格以上の出力で無理をさせたし、アンテナマストは吹き飛ばされてしまった。その他にも弾片でどこか壊れているかもしれない。修理や点検は機械を長く使うために必須のことだ。

 艤装の運転テストもするだろうと考え、磯波は第四種軍装に着替える。着終わり、部屋の姿見を見る。前の青いセーラー服の第四種軍装は軽快で身軽な印象があったが、新しい第四種軍装は黒色がベースなことで、重く、落ち着いた印象を感じる。

 新旧で印象がガラッと変わってしまったが、デザイン面や素材で大きな変化があるわけではない。そのうち慣れるだろう。

 工廠に行くと、磯波を受け入れるよう、すでに準備されていた。

 装着台に置かれた修理済みの背部艤装は、すっかり元通り――ではなかった。そもそもの形が違う。

 艤装の全長は伸び、煙突もキセル型吸気筒も細く、小型になっている。アンテナマストも従来は見張り台を取っ払って、無理矢理、電探用の台にしていたのだが、きちんと電探が搭載できる規模の大きさと作りのマストになっている。電探自体は対空用の13号と対水上用の33号が搭載されている。

「艤装の形が違うようですが……」

 磯波は担当した技術士官に事情を尋ねた。

「ええ、特I型用の新型艤装です。俗に言う改二ですよ。つい先日ですが、艦政本部からすべての特I型駆逐艦娘は艤装を新型に換装するよう、命令が出されたんです」

「はあ……」

「機関出力は従来型の1.2倍、航続距離は据え置きですが。出力が上がった分、速力は前の型より出るはずです。それと水上安定機構は秋月型のものと同じですから、水上安定性は良くなっています。あと、酸素発生器も搭載したので、酸素魚雷の運用もできますよ」

 技術士官は特に披露する様子もなく、つらつらと説明した。すでに特I型の第二改装はいくつも行われており、技術士官にとっては珍しいことでも、おめでたい話でもない。

 一方の磯波は愕然とすると共に、すこし残念な気持ちになっていた。磯波は前の艤装の機械の癖を熟知していたので、何の通告もなく、新型に換えられてしまったのは少し問題だ。そして、なにより、愛着もあった。

 触ってみると、艤装の外板にへこみや傷もないことに気づく。塗料の厚塗りでごまかしているわけでもない。

 本当に変わってしまったのだ。

「どうしましたか?」

「いえ、何も」

 しかし、新型になってしまったのはどうしようもない。与えられた武器で戦うのも軍人の役目ではある。磯波は、そう自分に言い聞かせる。ただその武器に何かしらの問題があるなら、文句を言って当然だが。

「今から艤装のテスト、できますか?」

「できますよ」

 技術士官は周りに呼びかけて、艤装テストの準備を進めていく。艤装が変わることに、誰も違和感を持たない。愛着を持っていたのは磯波だけで、他の人は愛着を持っていないのだから、当然だ。自分だけが置いてかれるような、そんな感覚。そばに浦波がいれば、気持ちを吐露する事もできただろうが、浦波はここにはいない。

『今は、冲鷹。冲鷹なの』

 ふと、冲鷹の言葉を磯波は思い出した。

 貨客船だった彼女が、戦争という非常事態の下で空母となった。平和な海で働く船が、争いの海で働く艦となったのだ。自分の立ち位置、意味合いがまるっきり変わってしまう。商船としてのアイデンティティなど打ち砕かれたも同然。服が青から黒に変わるのとは分けが違う。

 兵器という、争いの道具。それはヒトの形を取った艦娘になろうと変わらない。相手が深海棲艦という化け物だろうと、人間だろうと、変わらない。

 テストの準備ができたので、磯波は艤装を装着する。前の艤装は肩ベルトをするだけだったが、新艤装は背中にバンパー付きのパッドを当てるらしい。装着して、外部電力で起動させる。

「起動成功。機関、APUともに作動状態良好。異音等なし」

「機関出力も定格値で安定。電力の出力、波形も正常」

「磯波さん、立てますか?」

「ええ」

 磯波は立ち上がり、少し歩いたり、跳んでみたり、動いてみる。重さは前の艤装と変わらないか、少し重い程度。大きくなっている分、モーメントで振られる感じがあるが、問題になるレベルではない。

「海に出てみたいのですが」

「慣れるのは早いほうが良いですからね。武装どうします?」

「そうですね……あれは……?」

 工廠の窓の外、艦娘や小型艇が出港する埠頭に数人の人影があった。第三種軍装の人が2人。夕雲型の服装が1人、知らない服の小さい子が2人、上が白く、下は赤い服、頭には緑色のリボンの艦娘が1人。緑色のリボンの艦娘は見え覚えがある。

「大鷹……だったかな」

「どうされました?」

 磯波は指さして、技術士官に示す。技術士官はあまり目が良くないのか、目の上に手を当て、目を細める。

「あの艦娘達は、何をするんです?」

「うーん、たぶん東京湾外の対潜哨戒でしょう。空母艦娘1、駆逐艦艦娘3のセットで、毎日やってますよ。近海は空軍も哨戒やっていますし、訓練みたいなものです」

 空母艦娘がいるということは航空機で敵潜の頭を抑えられる。索敵範囲の面で大きく利点ではあるが、それ以上に敵潜の攻撃機会を失わさせるという点で航空機は非常に便利だ。

 南方戦線では敵潜もそれなりに回遊していたが、対潜哨戒に空母を回すほど、余裕はなかった。磯波は興味が湧いた。

「あの艦娘達に付いていっても良いですかね?」

「えっ? あ、まあ、良いでしょうが、私の一存では決めかねます。直接聞かないと」

「とりあえず、10cm高射砲と爆雷投射器と投条軌、ヘッジホッグを用意して下さい」

 磯波はそれだけ言うと、艤装を背負ったまま、工廠を飛び出して、大鷹のいる埠頭に向かった。

 

 その頃、双子島では、攻撃機や爆撃機とその護衛戦闘機が、修復された駐機場で出撃準備をしていた。数は数百機にも及び、種類も単発機、双発機、4発機と様々だ。

 妖精達は陸用爆弾、対艦爆弾、魚雷、機銃弾、燃料などを地下施設から運び出し、並んでいる機体に搭載していく。

 開始から1時間程度の短時間で全機の出撃準備を完了させた。大型の爆撃機がエンジンを始動させ、駐機場から滑走路に進入する。

「さて、仕返ししないとね」

 少女が笑う。そして、針路を指さす。

「目標、東京と橫須賀! すべてを焼き尽くせ!」




 日本海軍は様々な事情で各国の艦娘用兵器のライセンス生産や輸入を行っています。

輸入
露:70-K 37mm対空砲、V-11 37mm対空砲
英:モリンズ57mm自動砲、フェアリー ソードフィッシュMk.III
独:FaT II電気魚雷、LuT誘導魚雷、TV誘導魚雷、FuMO25 レーダー

ライセンス生産
英:ヘッジホッグ対潜迫撃砲、スキッド対潜迫撃砲、各種対潜ソナー
瑞典:ボフォース40mm対空砲

 70-K 37mm対空砲、V-11 37mm対空砲はボフォース40mm対空砲の生産数が不足しているため、数あわせのために輸入しています。

 そういえば、「アメリカはエリコン20mm対空機銃と5インチ対空砲の射程的隙間をボフォース40mm対空砲で埋めているから、有効な対空弾幕を張れる」、「日本は96式25mm機銃と高射砲の射程的隙間を埋める対空砲がないから、有効な対空弾幕を張れない」なんて話をインターネットに限らず、書籍でも見かけるんですが、どうなのでしょうね。
 96式25mm機銃は兄弟砲にオチキス 25mm対戦車砲があるように、かなり高初速かつ長射程な機銃で、射程自体はボフォース40mm対空砲に迫るくらいなんですよね。まあ、射程ギリギリの弾なんて、ションベン弾ですから、弾頭重量の大きい方が有利ですが。
 高射砲の射程自体は対空機銃に比べると超大で、96式25mm機銃にしろ、ボフォース40mm対空砲にしろ、間を埋めるには射程が短くて、本気で埋めるなら、3インチクラスの98式8cm高射砲やMk.33 3インチ高射砲を出さないといけないんですね。
 ボフォース40mm対空砲は艦隊防空火器、個艦防空火器のどちらか、といわれると個艦防空火器で、エリコン20mm機銃と相まって濃密な対空弾幕を形成できるという利点はありますが、それって、25mm大量に配備するのとどう違うのか、という感じにもなってきますよね。末期には25mmの単装型もあるので、あちこちに置けますし。
 結局の所、善し悪しなんて、組み合わせと運用思想で変わるうえ、対空火器なんて、仰俯角、旋回の角速度やら砲弾の危害半径、照準装置、統制装置等々、色んな要素が重なるので、一介のミリオタには何とも言えません(じゃあ、何のためにこんな長文書いたんだ)。
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