艦娘という存在   作:ベトナム帽子

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13_銀河

 東京湾の外へ出た磯波は大鷹達とは少し離れて、改二艤装の具合を調べていた。

 機関最大出力での加速性と航行速度。低速、中速、高速、各速度域での旋回性、ローリング、ピッチング、ヨーイングの具合。主砲発射時の姿勢安定性。レーダーと主砲の対応、ソナーの具合、燃費、各種戦闘機動などなど。

 様々なことを試してみるが、艤装の応答性は良いし、過敏ということもない。それでもって性能は従来艤装から順当に向上している。さすが改二艤装といった所だろう。

「まあ、数年も経っているのだから、そうでなくちゃね」

 第二次大戦時の航空機も勃発当初は1000馬力未満のエンジンが普通だったのに、終結時には2000馬力は普通、2000馬力超えのエンジンもそれなり、というもの。深海棲艦も時を経るにつれて、強力になっているのだから、艦娘の方も強力にならなくてはならない。いつまでも戦闘技能という小手先の改善では難しい。艤装が高性能になれば、それに応じた新しい兵器も装備できるし、新たな戦術も展開できる。精神論は大切だが、それだけで戦争に勝てるほど深海棲艦も甘くない。

 改二艤装の試験を一通り終えて、大鷹達の所に戻ると、磯波は藤波や隼、雉に、キラキラとした羨望の眼差しで見られ、詰め寄られる。

「すごい! すごい!」

「磯波さんなんだから、当然だって!」

「どうやって、あの機動を落ち着いてするの!?」

 途中にやっていた戦闘機動に感動したらしい。大鷹は藤波達の様子をいまいち飲み込めないようで、目をパチクリさせている。空母にはわかりにくいことだが、夜戦時には隊形が崩れて乱戦になることもままある。そういうときは、旗艦が各艦娘をとりまとめ、隊形を取り直すのだが、それができないこともある。そういうときは各個人の戦闘技量に委任されてしまうので、駆逐艦や水雷艇にとって、立派な戦闘機動を取れることは一種の名誉なのだ。

 騒ぐ藤波、隼、雉。大鷹はパンパン、と手を叩き、

「はい、今は対潜哨戒中! おしゃべりは任務の後、後。隊形を取り直す」

 と諫める。藤波達はしぶしぶ、磯波から離れ、対潜陣形を取り直した。磯波も陣形に加わる。

「今度、教えて下さいね」

「うん、今度ね」

 そして、しばらく対潜哨戒をしていると、上空からジェットエンジンの轟音が聞こえた。

磯波は顔を空に向ける。2機のデルタ翼機が南へ飛んでいるのが見えた。空軍機だ。

 同じ哨戒任務だろうか?

 呆けて、見ていると、大鷹が注目を引くように「横鎮より連絡」と大声で叫ぶ。磯波は顔を下げ、大鷹の方を見る。

「横鎮から連絡と司令がありました。今現在、青ヶ島南方上空1万mに敵機数百機が飛行中で、東京方面に針路を取っているそうです」

 磯波はもう一度、空を見上げた。すでに空軍機は遠くへ飛び去っており、細く伸びた飛行機雲だけが軌跡として、空に残っている。

「青ヶ島上空の敵機の迎撃は空軍が行います。しかし、我々に下されたは他の敵編隊がいないかのチェックです」

 本土の対空レーダーがいかに高性能であっても、レーダーの原理上、水平線の影に隠れて低空接近してくる敵機を察知するのは不可能だ。そこで、ちょうど対潜哨戒をしていた磯波達に敵機の索敵をやらせよう、ということである。

「隊形を広く取る。レーダーだけじゃなく、目視もしっかりね」

「了解」

 大鷹はそう指示を出すと、空に弓矢で矢を放つ。射った矢は空中で流星へと変身した。それを16発、つまり16機。すでに対潜哨戒のために飛行していたものも合わせて19機の流星が索敵のために上がった。

 流星各機は敵機の存在を探し求めて、北を除く全方位に飛んでいく。

 磯波は南へ飛んでいく流星を見ながら、ふと不安になる。

 さっき南へ飛んでいった空軍機は青ヶ島上空の敵機を迎撃しにいった。その敵機はどこから来たのか? 2015年の夏の時のように、ハワイなどから遠距離航行してきた深海棲艦ではなく、双子島からではないか?

 あのときの双子島で私は何かできただろうか? いや、無理だ。浦波を抱いて逃げるほかにない。磯波は思い返すが、どうしようもない。今この事態に対して、一番磯波が複雑な感情を持っていた。

 見つからなければ、それはそれで良い。本土が爆撃されることもないのだから。

「哨戒機より連絡。野島崎の南120km沖合に大型双発機十数機が低空飛行中とのこと。深海棲艦航空機かどうかは、不明。針路は東京方面」

 だが、見つかってしまう。

「深海棲艦航空機かは不明……ってどういうこと?」

「わからない。普通の双発機って言ってきてる。とにかく東京方面に向かっているのなら、敵に間違いない」

 大鷹は横鎮に連絡してから、先ほどの矢とは別の矢を射る。その矢は空中で零戦に変身する。それを10本。たった10本、10機だ。型式は零戦の最終形態ともいえる六四型だが、これが大鷹の出せる迎撃戦闘機すべてだ。

「10機じゃ、不安だよ」

「でも、搭載機は全部出した。哨戒に出した流星は戻ってくるのに時間がかかる。どうしようもないよ」

 大鷹はしょんぼりとして、うつむく。空母にとっては艦載機が命だ。何も搭載していない空母など、ただの鉄の箱にすぎない。だが、磯波は反論する。

「どうしようもなくない。30ノット出せば、今からでも敵編隊の針路上に滑り込める。高角砲で迎撃できるよ!」

 磯波達が装備している対空兵器はほぼ最新のもので、電探射撃対応の九八式10cm高射砲にライセンス生産のボフォース40mm対空砲。隼と雉だけは搭載量の関係で八九式12.7cm単装高角砲だが、こちらも電探射撃に対応している。肝心の電探は13号対空電探だが、英国や米国からの技術導入で精度は従来品よりも向上している。

「え、でも私、23ノットしか出せないよ」

 しかし、いくら高角砲のものが良くても、射撃位置に立てなければ意味がない。商船改造空母である大鷹は正規空母のように大出力な機関を搭載しておらず、23ノット発揮するのが限度だった。排水量/馬力比だけでいえば、大鷹型は翔鶴型の2分の1程度でしなかない。

「大丈夫。押してあげるから。この艤装は馬力の余裕があるんだよ。押せる押せる」

 磯波は自信満々の笑みで答えた。改二艤装は従来品の1.2倍の出力を持っている。従来艤装でも重装備で35ノットは発揮できたのだから、大鷹を押しても30ノットは発揮できるだろう。ただ燃料はかなり食う。

「藤波は夕雲型だから大丈夫だと思うけれど、隼と雉は30ノット出せる?」

「はい、ギリギリですが出せます!」

「よし。大鷹、命令して。旗艦は大鷹だから」

「え、ええ、は、はい。速力30ノットで西進、敵編隊の針路上で待ち伏せします!」

 

 大鷹から発進した零戦隊は近辺を哨戒していた2機の流星と合流、敵編隊の針路に回り込む形で、敵編隊と会敵した。

 敵編隊の構成は、陸上攻撃機の銀河が15機。それを護衛する戦闘機の烈風が8機の全23機。烈風は4機編隊を組み、銀河のそばと上方に、一編隊ずつ飛行している。

 銀河と烈風。両方とも帝国海軍の攻撃機と戦闘機だが、翼に赤い日の丸は付いていない。双子島から発進した機体で、空軍が相対したキ91と同じ、日本本土爆撃をせんとする敵である。

 零戦隊は零戦6機の編隊と、零戦4機、流星2機の編隊に別れた。

 零戦6機の編隊がまず攻撃を仕掛け、護衛の烈風を誘引し、銀河の護衛が手空きになった所を残りの零戦4機、流星2機の編隊が攻撃を仕掛け、銀河を完璧に撃破するのだ。

 銀河はレーダーを避けるために低空飛行をしている。そのおかげで、あまり速度が出ていない。烈風も随伴する以上、同じ低速度で飛行している。

 一方、零戦隊は銀河編隊、烈風編隊両方に対して高度的に優位な位置にあり、速度も出ている。運動エネルギー、位置エネルギー共に上回っているのだから、零戦隊の方がかなり有利だ。

 性能の劣る零戦で吶喊しても、烈風に対して十分な勝算がある。護衛の烈風を全機始末してから、ゆっくり銀河を調理することもできるかもしれない。しかし、もし烈風を一撃で全機始末できなかったときはどうだろうか?

 銀河は本来、爆装状態でも550km/h近く出る高速攻撃機である。そして烈風も零戦の後継機というだけあって、運動性、速度ともに零戦を凌駕する戦闘機だ。

 銀河も攻撃された以上、レーダーを気にしている余裕などない。エンジンフルパワーで、零戦隊を振り切ろうとするだろう。烈風だってすぐに態勢を立て直し、運動性とエンジンパワーに物を言わせて、零戦隊の銀河への追撃を妨害するだろう。

 ならば、編隊を2つにわけ、片方を囮とし、烈風を引きつけて、もう片方で銀河編隊を撃滅した方が、無難といえるのだ。

 零戦6機は太陽を背にして急降下、銀河編隊上方にいた烈風に襲いかかる。零戦の存在に気づけなかった烈風は無数の13.2mmと20mmの礫を食らい、一挙に4機全機が撃墜された。

 烈風を撃墜した零戦隊は機首を引き起こさず、銀河のそばを飛行している烈風に続けて襲いかかる。しかし、今度はさすがに烈風側も気付いていた。エンジン出力を上げ、急旋回で零戦隊の攻撃を回避する。放たれた機銃弾は空を切った。

 このまま零戦お得意の格闘戦へ――というわけにはいかない。後続の部隊が安心して銀河を攻撃するには烈風を銀河から引き離さなければならない。それに今の零戦隊は降下したおかげで速度が付きすぎている。

 低速域でこそ、零戦の運動性能は発揮される。高速状態で格闘戦に突入すれば、烈風にすぐさま後ろを取られ、強力な20mm機銃4門に食いちぎられてしまうだろう。

 零戦は機首上げを行い、位置エネルギーの回復を試みる。烈風もそれに追随するが、降下してきた零戦と低空飛行していた烈風では運動エネルギーが圧倒的に違う。烈風は2200馬力エンジン、ハ43の出力を振り絞るが、それでも零戦との距離を離されてしまう。零戦と烈風の性能差は大きいが、奇襲をうまくできれば、その差などものの僅かだ。

 そして烈風が銀河から離れた隙を見計い、零戦4機と流星2機の別編隊、銀河に向けて降下する。

 銀河は別働隊に気付き、編隊を密集させ、後部の20mm機銃を撃つが、防御機銃がそう当たるものでもない。虚しく空へ光の軌跡を曳くだけだ。

 あとは銀河編隊に機銃弾を浴びせ、撃墜するだけ。速度の出ていない攻撃機などカモ同然。簡単な仕事――とは問屋が卸さない。

 先頭を飛行していた零戦が爆発した。翼は胴体から引き千切られ、胴体は爆発と炎で分解する。粉々だ。

 爆発した原因は上空から降下してきた別働隊の烈風だ。深海棲艦側も不用心に銀河や烈風を飛行させていたわけではないし、囮の零戦をただ追いかけたわけでもない。

 後続機は爆発した零戦の破片を避けるために急旋回。そこに烈風が20mm弾の雨を降らす。零戦など木っ端みじん、流星も20mm弾の直撃には耐えられない。零戦4機の内3機、流星2機の内1機が爆散する。

 さきほどは零戦が烈風に奇襲をかけたが、今度は烈風が零戦に奇襲をかけた形となった。この状況で零戦が烈風に打ち勝つのは極めて難しい。流星は攻撃機としては身軽だが、さすがに烈風相手では、どうしようもない。

 流星は烈風のなすがままに撃墜され、残った1機の零戦は格闘戦に持ち込み、烈風の後ろについたが、別の烈風の一撃を食らって撃墜された。

 囮役をした零戦隊は追撃してきた烈風を数機の損害を出しながらも、全機撃墜したが、撃墜しなければならない銀河は、すでに追い付けないところまで逃げおおせていた。




 途中で、排水量/馬力比なんて言葉を使いましたが、正直なところ、船体形状が同じじゃない限り、この数字はあんまり参考になりません。出したい速度によって、最適な船体形状というものがあるので、単純に機関出力を上げたところで、造波抵抗が馬鹿みたいに大きくなるだけで、すぐに限界を迎えると思います。
 実際、水線長と水線幅で簡単なアスペクト比を出してみると、大鷹型は7.30、飛龍は9.94です。排水量がほぼ同じ艦でこれだけ違いますからね。大和も15万馬力出せるのに27ノットしか出せないのも、船体形状ゆえです。
 余談ですが、友鶴事件や第四艦隊事件がなければ、大和はもうちょっと細長い船体形状で、30ノット出せる設計になっていたのではないか、という話がありますね。

 ついこの間、アニメ「リーンの翼」を見まして、「リーンの翼」と「艦隊これくしょん」のクロスオーバーとかどうだろう? と思いました。
 水爆を防いだ迫水真次郎がリーンの翼の導きによって、艦これ世界にオウカオーごと召喚されてしまうとか。オウカオーは強いし、迫水も部隊指揮くらいできるだろうから、戦闘ヘリと観測ヘリの合いの子的運用で艦娘と共に戦うとか。オウカオーに155mmくらいの試作滑腔砲を持たせて、APFSDSを撃っても良いぞ。
 迫水は死人だし、艦娘達もある意味では死人。気が合うのでは? 女子供を兵器として扱っている時点で、迫水は怒り狂うだろうが……。
 しかし、英雄譚の生まれにくい現代において、迫水が聖戦士として、日本軍に加われるだろうか……。まあ、士官相当官として艦娘と同じように当てはめてしまえば良いが……迫水という、あそこまで印象強いキャラクターが組織の中に収まれるのかなぁ?
 でも迫水が主人公となると、作品的には「艦これ」ではなく、やっぱり「リーンの翼」になるのよね。「リーンの翼」自体は迫水真次郎という特攻兵の物語だし。
 実際の所、ストーリーの始まりと終わり、それと途中途中のストーリーはある程度考えていて、大鷹と神威、朝潮辺りは出そうと思っています。しかし、誰がリーンの翼を呼ぶのかはまだ……。
 とりあえず、小説「リーンの翼」(完全版)を読まなきゃ……。

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