ロシアのスホーイ設計局が開発した攻撃機。A-10サンダーボルトⅡと同じように頑丈さ、大きな搭載量を誇る。A-10の競争試作機YA-9に似ている。
深海棲艦戦争初期、攻撃機不足に困った日本にロシアが無償貸与した兵器の1つ。現在は六七式攻撃機に置き換えられつつある。置き換えられるSu-25自体はロシアに返還された後に再整備されて、再興する東南アジア諸国にこれまた無償貸与されている。
六七式攻撃機
日本の中島飛行機が開発した攻撃機。深海棲艦攻撃を前提に開発され、速度や搭載量は控え目な一方、高い抗堪性と航続距離を持つ。外見的には性質的に似ているSu-25に似ているが、レーダーなどの各種電子装備搭載や複座派生機のためにシルエットはSu-25よりも大きい。
多数の日本空軍機が伊豆諸島に沿って南下していた。その数は約40。
攻撃機が多くの数を占めるが、電子戦機や戦場監視機、早期警戒管制機(AWACS)も混じっている。
銀翼の下に吊り下げられているのは、任務に合わせた様々な爆弾とレーダーを破壊するための超音速ミサイル。
海洋深海棲艦を相手するならば、赤外線画像誘導やレーザー誘導、ミリ波誘導といった小さい目標にも誘導ができ、命中が期待できる、スマートなミサイルが搭載されるのだが、今回の相手は海上の深海棲艦ではない。
作戦目標は伊豆諸島南部に位置する双子島、その航空基地機能の破壊だった。
破壊といっても、それはあくまで「航空基地"機能"の破壊」であり、人員の殺傷などは目的としない。なにせ、双子島にいた人間は同じ日本人であり、深海棲艦ではないのだ。早合点して、兵の両親や家族に死亡通知書を送るわけにも行かない。空軍は本土が爆撃されるという展開を恐れているだけに過ぎない。
今回の事態は単純に技術の不備やらなんやら、というだけなのかもしれない。まだ彼らは地下施設で生きているのかもしれないのだ。
ならば、島の地上にある施設だけを破壊してしまえば良い。そう、空軍は考えた。
作戦の火蓋は静かに切られた。
『デコイ、射出』
高度11000mを飛行する四九式電子戦機三型から複数の空中発射式デコイが別々の方位から投下される。
デコイは自動的に格納されていた主翼を展張、成層圏の薄い空気に乗って、ゆっくりと降下していく。
空中発射式デコイは単なる「囮」としての無人航空機であるが、その中身は精密電子機器などの集合体である。各種の電子装置からなる自動飛行制御システムや小型ECM装置、チャフ、赤外線誘導攪乱装備、さらにはレーダー上では実態以上に大きく見せる電波反射レンズ(コーナー・リフレクター)など、空中電子戦において大切な装備がたんまり詰め込まれている。
深海棲艦相手にはもったいないくらいの使い捨て兵器ではあるが、それでも有人航空機を撃墜され、莫大な金と時間と手塩をかけて育成したパイロットを戦死させるのに比べれば、量産のきくデコイなど安いものだ。
デコイは闇夜を滑空し、別々の方位から双子島に接近していく。
デコイはすでに双子島から発せられている索敵用レーダー波を感知していたが、特に行動は起こさない。事前入力された飛行コースに合致するよう、都度針路を修正しながら、飛行する。
そして、デコイと双子島の距離が30kmを切ったころ、双子島から新たな電波が発信された。射撃照準用のレーダー波である。
双子島に配備されているレーダー機器はすべて日本軍のものだ。エリントやコミントをしていなくても、電波の種類や特性は瞬時に判別できる。艦娘用の42号対空電探や32号対水上電探なども配備されているのだが、それは個別射撃用で索敵用や統制射撃に用いられるのは艦娘用レーダーよりも性能が圧倒的に良い日本空軍採用の対空レーダーである。
デコイはすぐさま、レーダー警戒・受信装置で受けたレーダー波の情報と発信源を暗号通信でSEAD(敵防空網制圧)機に送った。
『カイト隊、スワター隊、攻撃を開始せよ』
SEAD任務に付く六七式攻撃機はレーダー波の届かない超低空60mほどで待機していたが、通信を受け取るなり、すぐさま上昇。必殺の対レーダーミサイルと撃ち放った。
対レーダーミサイルは強力なロケットモーターによってマッハ2超えの速度まで加速。双子島で稼働しているレーダー目がけて、一直線に向かっていく。
目標となった双子島のレーダーはSEAD機の存在に気付き、レーダー波の照射を索敵用、射撃照準用共に停止するが、時すでに遅し。先ほどまで稼働していたレーダーの位置はすべて日本空軍のデータリンクシステムで共有されている。対レーダーミサイルのコンピューターにもその位置は入力済みだ。
ミサイルは慣性誘導によって双子島の近くまで飛行し、誘導方式を赤外線画像誘導方式に切り替え、目標のレーダーをしっかりロックオンした。
そしてレーダーに突っ込む。接触信管が作動し、爆発。弾頭から生まれた強烈な爆風はアンテナをなぎ倒し、飛び散った無数の金属球はレーダーアンテナとその制御機器を穴だらけのズタボロにした。
『こちら、センリ03。すべてのレーダー設置箇所での爆発を確認』
『了解。トルーパー隊は行動を開始せよ』
トルーパー隊――滑走路破壊部隊のSu-25グラーチュが針路を双子島に向ける。翼下には懸架されているのはロケットのような形をした滑走路破壊爆弾だ。
Su-25グラーチェはロシアのスホーイ設計局が開発した攻撃機だが、翼には赤星ではなく、日の丸が描かれている。これらのSu-25は深海棲艦戦争初期に攻撃機不足に悩まされた日本にロシアが無償提供したもので、それが今でも使われている。
トルーパー隊は低高度で双子島に向かう。双子島の対空砲火はもっぱらデコイを狙っており、光る点線が無数に空に向かって伸び、火球が生まれている。
トルーパー隊は何の抵抗も受けずに、双子島上空へ侵入。先頭のSu-25が急上昇で高度を上げ、照明弾を投下。アフターバーナーを使って、すぐに離脱する。
投下された照明弾は尾部からパラシュートを展開。落下速度を低下させつつ、眩いフレアを一定間隔で放出、双子島の滑走路を照らし出した。
そして後続のSu-25が突入、滑走路破壊爆弾を次々と投下する。双子島の対空陣地はジェットエンジンの爆音と照明弾を受けて初めて、対空砲火をトルーパー隊にあげてきた。しかし、もう遅い。
投下された滑走路破壊爆弾はこれまたパラシュートを開き減速。地面に対して垂直になると、尾部のロケットモーターに点火。ロケットモーターと重力によって弾頭は加速する。その運動エネルギーは表面のアスファルト舗装はもちろん、基礎の鉄筋コンクリートも砕き、滑走路に刺さり込んだ。
そして遅発信管が弾頭内部の炸薬を起爆させる。爆発は滑走路のあちこちをほじくり返し、固定翼機は離陸できないほどに、滑走路は破壊された。
これで飛行場としての機能は失ったも同然である。しかし、攻撃はまだまだ続く。
『ヴァイパー隊、格納庫および発電施設を攻撃せよ』
ヴァイパー隊の六七式攻撃機の得物はレーザー誘導爆弾。通常爆弾と違って、レーザー反射光を受光するシーカー、誘導動作を行う操舵翼がある。
GPS誘導爆弾と比べて、着弾までレーザー光を目標に照射し続けなければならないため、その間、敵の攻撃に晒される欠点はあるが、今の双子島は管制、射撃レーダーを破壊され、手も足も出ない状態である。欠点はないも同然だ。
投下された誘導爆弾は的確に格納庫と発電施設に着弾、破壊した。発電施設は500kg爆弾の直撃にも耐えられる鉄筋コンクリートのかまぼこ型掩体に守られていたが、投下されたのは1t貫通爆弾。耐えられるはずがない。発電機のみならず、地中埋設されていた燃料タンクに対しても投下され、爆発炎上した。
『目標の全破壊を確認。作戦終了。各機、帰投せよ』
こうして、1機の損害もなく、双子島の滑走路、発電機、格納庫は破壊され、航空基地としての機能は失われた。滑走路を直すだけでも、大量の資材と重機が必要になり、それらがあったとしても、数日は離発着できないはず。そう、判断された。
その判断は正しかったと言えるだろう。相手が人間の軍隊ならば。
すでにジェットエンジンの轟音は過ぎ去り、砂浜に寄っては返す波音だけが双子島に響いていた。
爆撃によって発生していた発電用重油の火災は「燃料の凍結」という摩訶不思議な状態によって治まっていた。ちなみに双子島の年間気温がマイナスになる日はないし、重油も0度以上でカチンコチンに固まってしまうものではない。
シャク。シャク。シャク。
1人の少女が凍った青草の上を歩いていた。触媒室にいた少女だ。
「凍った青草の上を歩いていた」という表現は少々、的確ではない。前から青草が凍っていたわけではない。少女が発する冷気が青草を凍らせ、凍った青草に少女が足を踏み出しているのだ。踏まれた青草はまるで踏まれた後の霜柱のように崩れたままで、少女の足跡として残る。
「派手にやられたなぁ」
少女は屋根は吹き飛び、鉄骨がひしゃげた格納庫や穴ぼこだらけの滑走路を見て、呟いた。しかし、それほど深刻に考えている様子ではなく、散歩するような足取りで滑走路の側を歩く。コンクリート片が転がっていると、蹴飛ばしてみたりする。
「朝までに直せるかな? 妖精さん?」
数年前、艦娘はターミネーター2のT-1000みたいに小さな妖精さんが結合して、人の形をしているのではないか、と考えたことがあります。