一個分隊は12人なので、小隊本部含めて50人くらい。
日本空軍の特殊部隊――通称「烈日部隊」の一個小隊を載せた大型輸送ヘリ2機と同行援護の武装中型汎用ヘリ2機、観測ヘリ2機の計6機は双子島に向けて、低空飛行していた。
彼らの任務は「双子島基地部隊の安否確認」が主目的である。基地の「触媒」の暴走があくまで砲台などのシステムだけに留まっていれば、地下施設内に逃げ延びた兵士達は生き延びているかもしれないからだ。生きているのならば、救出して自体の全貌を明かにできるし、今後の対応も容易となる。
しかし、実際の所、生き延びていない可能性の方が高いと考えられていた。
双子島には「触媒」の暴走なども考慮して、「触媒」破壊用の資材や爆薬などが準備されている。運用中、重大な問題や事態になった場合は「触媒」の破壊も止む得ないとされているのだ。しかし、「触媒」の破壊は実行された様子がない。「触媒」が破壊されてしまえば、双子島の対空陣地は機能できないはずだからだ。しかし、空襲時に対空陣地は反撃を行ってきた。
全滅している場合も考えなければならない。そのため、今回、烈日部隊はプラスチック爆薬といった爆破資材も携行している。「触媒」を爆破破壊して手っ取り早く事態を収束してしまえるように。
本来ならば、「触媒」を破壊せずに、何が原因で暴走したのかを突き止めたいところである。しかし、双子島は日本列島からマリアナ諸島までの哨戒線の一翼を担っている。
哨戒網そのものは八丈島やサイパンから哨戒機を出して対応しているが、甘くなっているのは事実。戦線自体に大穴を開けているのだ。事態の収拾の方が優先である。
ヘリ4機が双子島7km手前まで来た。
観測ヘリが高度を上げ、降着地点の様子を確認する。降着地点は島東北にある宿舎手前の広場である。
東山の宿舎側は対空火器の配置が少なく、地下施設への入り口がある。部隊を降ろすには最適な場所である。
『こちら、コダール1。LZ(ランディング・ゾーン)付近に動く影なし』
燃え崩れた宿舎の周りには動きはない。
『フェイサー1、了解。先行して対空陣地を破壊する』
武装ヘリ2機の「フェイサー1」、「フェイサー2」と観測ヘリ「コダール2」が増速し、脅威となる対空陣地を撃破するため、前に出る。
フェイサー1とフェイサー2の得物は75mmロケット弾ポッドと25mmガンポッドがそれぞれ2つずつ。コダール2は同じく75mmロケット弾ポッドと20mm機関砲がそれぞれ1つずつ。ちなみにコダール2のロケット弾は目標指示用のマーカー弾である。
コダール2のガンナーはモニターに表示される赤外線画像と建築図面のコピーを見比べて、対空陣地の場所を探る。建築図面は双子島の対空陣地構築地点が赤丸でしっかりと書かれている。
見つけた対空陣地に向けてマーカーロケット弾を撃ち込む。着弾すると弾頭内の黄リンに発火し、白い煙を上げた。
フェイサー1とフェイサー2はその煙が出た地点にロケット弾をドカドカ撃ち込んでいく。撃ち込まれるロケット弾はコダール2のものと違い、通常の炸裂弾頭である。着弾すれば、爆発し、草木で隠蔽されていた高射砲などは簡単に吹き飛ぶ。
『対艦砲も対空砲弾が撃てる。破壊しろ』
フェイサー1、フェイサー2は対空陣地を破壊し終わると、対艦用に設置されている三年式20.3cm連装砲と九四式46cm三連装砲に向けて、ガンポッドの25mm機関砲を連射する。
三年式20.3cm連装砲は既存の25mm装甲が薄いということで15mmの増加装甲が付けられていたが、25mmと15mmの積層装甲程度では破片はふせげても直撃弾を防ぐことはできない。ヘリから放たれた25mm弾は容易にその装甲を貫き、機構を破壊しただけではなく、内部弾薬を誘爆させ、鉄筋コンクリートの土台も粉砕させた。
一方、九四式46cm三連装砲は元々、艦娘「大和」に搭載されていたものの流用なので、装甲厚は20.3cm連装砲の比ではない。25mm弾では到底貫通不可能である。対戦車ミサイルならば破壊も不可能ではないが、残念なことにフェイサー1もフェイサー2も対戦車ミサイルは搭載していない。
『射撃指揮レーダーを破壊せよ。砲側が破壊できずとも、無力化できる』
『フェイサー1、了解』
『フェイサー2、了解』
高射砲などは草木で丹念に隠蔽されていたが、レーダーのある場所の草木はアンテナの回転や電波の妨げにならない程度に伐採されている。目をこらせば発見は可能だ。
3機は山肌にあるレーダーを淡々と破壊していった。
そして破壊し終わると、待機していた輸送ヘリを呼び寄せる。2機の輸送ヘリはすぐさまLZの宿舎前広場に着陸し、兵員を乗せた後部ランプのハッチを開いた。
「行け行け行け!」
烈日部隊一個小隊が次々とランプから降り、地下施設への入り口へと向かっていく。地下施設への入り口は2箇所で、それぞれ二個分隊が殺到する。
入り口には厚さ数cmもある鉄扉が備えられており、非常時には閉鎖することになっている。しかし、それらの鉄扉は開けっ放し。
明らかにおかしな状況だ。それに鉄扉の向こうからは冷たい空気が漏れ出ている。不気味さによる悪寒が小隊長を震わせた。
「入り口を2つとも確保。鉄扉は閉鎖されていない。国田分隊は入り口の保守。小林、佐田、木村の各分隊は地下へ突入せよ」
小隊長は突入部隊を多めに分配する。入り口の守備が一個分隊程度では少ないのだが、このおかしな状況、突入部隊は多い方が良い。地上はヘリによる援護があるのだから、すぐに壊滅するということはないはずだ。
「各分隊、突入!」
そのころ、八丈島海軍航空隊基地の哨戒機が双子島に向けて飛行していた。目的は無論、連絡が取れなくなった双子島基地の様子を見に来たのである。
「見えたな」
玉田少佐は双子島の姿を確認して呟く。そして、朝食を共にした二人の艦娘の姿と報告書の内容を思い起こす。
玉田少佐は磯波と浦波がどのような体験をしたのか知りたかった。あのような可憐な少女達が悲惨な戦場を体験したとは思えなかった。人の死を目の当たりにして、その翌日に談笑できるなんて思いたくなかった。
「双子島で何があったのか、この目で……」
この目で確認しなければならない。
その思いは哨戒機直上から降下してきたジェット戦闘機「橘花」の放った無数の30mm弾で、玉田少佐の体ごとバラバラに砕け散った。
『敵偵察機ヲ撃墜シタ』
橘花のパイロット妖精は双子島に通信した。この橘花は双子島所属機のものだ。
そして、橘花の翼には日本軍所属であることを現す赤い日の丸はすでにない。
地下は真っ暗だった。天上には蛍光灯が一定間隔で設置されているが、灯りはついていない。烈日部隊の隊員達は暗闇の中を銃のフラッシュライトを頼りに動力区の廊下を進んでいく。
「この寒さは一体何だと言うんだ……」
小隊長が白い息を吐きながら、呟いた。
地下施設はまるで冷蔵庫の中に入ったかのように寒い。白い息は当然出るし、壁には白い霜がびっしりと生えている。そして物音も自分達から発するものだけ。
小隊長は鳴沢氷穴を想起した。鳴沢氷穴は富士山の麓の青木ヶ原樹海にある洞窟で、夏でも洞窟内で氷柱を見ることができる観光名所だ。
それと似たようなもの? いや、違う。小隊長はすぐに否定した。鳴沢氷穴が真夏でも0℃以下の気温を保っているのは富士山の雪解け水が地下水となり、地下を冷やしているからだ。同じ地下空間だからといって双子島の地下が鳴沢氷穴のようになるのは、あり得ない。そもそも今は十月で伊豆諸島南端の双子島に雪が降るはずがない。
気味悪さだけが増していく。寒いのに汗が出る。すでに地下施設内で、動力区に入っているというのに、基地の隊員の姿は1つもない。
地下施設は司令・管制区域、工廠区域、動力区域の3つの区分けがされている。司令・管制施設では艦娘用航空機への指示や管制を行い、工廠区域は艦娘用航空機の修理や生産、動力区画は蓄電池やボイラー、貯水槽、そして「触媒」がある。
宿舎側入り口は動力区画直通の入り口であり、突入した三個分隊は双子島で一番重要な区画にいた。
「小隊長、誰か倒れています」
先頭を進んでいた佐田軍曹が言う。フラッシュライトで照らされた床には人がうつぶせに倒れていた。それも倒れている場所はT字路だ。
生きているとは思えない。
「……撃ちますか?」
佐田軍曹が尋ねる。
「いや、確かめる」
無線で他の分隊に伝える。そして、トラップワイヤーなどの有無を確認しながら前進。廊下左右のクリアを確認してから、小隊長は倒れていた人間を確かめた。
「おい、大丈夫か? 生きているか?」
返事はない。
服装は空軍の灰色作業服。ヘルメットや通信機の類いはなし。小銃や拳銃の類いもない。階級は伍長。
顔を確認しようと体を仰向けにしようとし、腕を持ったら、腕がポキンと折れた。血も出ない。凍っている。
「何だと言うんだ……」
小隊長はそれなりの実戦経験があった。だが、こんな状況、知らないし、見たこともない。
コツコツコツ。足音が聞こえる。小隊長は音の方向に振り向いた。
少女がいた。小銃のフラッシュライトで照らされ、その姿がよく分かる。
黒く艶やかなに光沢を放つシューズ。フリルが付いた黒い服。
「艦娘……? いや――」
ヒト型の深海棲艦のような青白い肌に蒼く光る瞳。
「深海棲艦だ!」