あとはお任せします、姉上   作:ぬえぬえ

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 前話がちょっと無理くり過ぎた、と言うかぐだ男が何か気味悪かったのでエピローグだけ分割しました。

 若干(総文字数が修正前より4倍増。何故こうなった……)加筆修正しています。既に修正前を読まれた方でも、多分楽しんでいただけると思います。


三度目の正直の方が……って痛い痛い!!

「おや? ノッブ、こんなところで会うとは奇遇ですねぇ」

 

 

 カルデアの廊下を歩いていると、脇の通路から桜セイバーこと人斬りサークルの血を吐く方、こと沖田総司がひょっこり顔を出した。

 

 

「何じゃ人斬りサークル員A。儂は急いでいる、用があるなら手短に申せ」

 

「そうですね、では先ず私のことをモブキャラみたいに呼ばないで下さい。次に――――」

 

「あい分かった、以後注意しよう」

 

 何か考える沖田の脇をすり抜けて進むも、すぐにマントを掴まれる。おかげで少し舌を噛んじゃったではないか。

 

 

「人斬りサークル員B!! 儂は急いでいるんじゃ!!」

 

「だから人をモブキャラ扱いしないでください!! それと、私たちは人斬りサークルではなく『新選組』です!!」

 

「分かった、『弱小人斬りサークル幹部A』。これでいいじゃろ?」

 

「流石に温厚な沖田さんでも怒りますよぉ? 『沖田さんの顔も三度まで』と言いますし」

 

 

 言わぬわ阿呆、と言う突っ込みすら億劫になり、沖田を無視して先に進む。流石にふざけ過ぎたと反省したのか、沖田はマントを掴むことなく儂の横に並び、同じ歩調で歩き始めた。

 

 

「で、何処に行くんですか?」

 

「お前に教える義理はない」

 

「酷い!! 今まで同じ『ぐだぐだコンビ』として頑張ってきたじゃないですか!? それなのにノッブは沖田さんを雑に扱うなんて、この薄情者!! メカノッブとノッブUFOが草の陰で泣いていますよ!!」

 

「ついこの間、新たな相方に乗り変えたお前だけには言われたくないわ。そしてそいつ等に関してはあのライオン頭と雷電アーチャーにマジで著作料請求するからなぁ!!」

 

 

 と言うか、何で今日に限って嫌にしつこいんじゃ? そして、ボケは儂の専売特許。なのに、何で突っ込み役がボケ倒しているんじゃ。儂を喰う気なのか、この幹部Aは。

 

 

 

「どうせ、マスターの所でしょ? あの日から、ずっと立ち合い続けていますもんね」

 

 

 今でのハイテンションは何処に行ったのか、沖田は目を細めて静かに問いかけてくる。その言葉に、儂は答えない。儂とこやつの間では、質問に対する沈黙は『肯定』、と言う便利な図式が出来上がっているからだ。

 

 

「さっきマスターを見ましたけど、土方さんも引くほどの恐ろしい形相で見たことないほど大量の石を抱えてましたよ。あれ、多分相当つぎ込んでいますね。沖田さんの目算的に、諭吉さんが4,5枚は飛んだでしょう。あれだけあれば、きっとやって来てくれます」

 

 

 何処か遠くを見つめながらそう零す沖田。その言葉は、傍から見れば励ましの言葉に聞こえただろう。しかし、儂にとって、それはただの嫌味にしか聞こえないんじゃが。

 

 

「(マスターがノリで回した単発で相方がやってきた)お主がそれを言うと、(いくら回しまくっても一向にやってこない)儂にはただの嫌味にしか聞こえないんじゃが」

 

「あ、そうですか? それは気付きませんでしたぁ。ごめんなさぁい?」

 

「よし、そこに立て。すぐさま鉛玉の錆びにしてくれるわ」

 

 そう言い、すぐさま宝具を展開するも、それよりも前に沖田は脱兎の如く逃げてしまう。逃げながら、「次は大丈夫ですよ、沖田さんが言うんですから間違いないです」とありがたくもない言葉を吐いて、だ。因みに、今までの勝率は”0”だ。疫病神じゃないのか、アヤツは。

 

 

 なんて思いながら、ようやく嵐が過ぎ去ったことに安堵の息を漏らす。いや、嵐が過ぎ去っただけではないか、アヤツと絡んだおかげで、何となく気分が晴れたようじゃ。流石、『元』相方と言うべきか。まぁ儂を捨てたことは絶対に許さないが。

 

 と、そんな阿呆なことを考えながら歩いていたら、目的の場所――――――マスターがいつも『英霊召喚』に使用する大きめの部屋だ。

 

 

 その部屋に辿り着いた儂は、ノックもせずにドアを開ける。

 

 

「取り敢えず、ここはこうで良い。そして。ここは少しでも関連付けるためにノッブの似顔絵でも書いておこう。こっちは火縄銃とノッブの帽子の模様で、あっちはなんか術式っぽい字で『第六天魔王ノブナガ』って書いておこう。あ、その横に『是非もないよネ』って書き加えよう。そしてこっちは……」

 

 

 ドアを隙間、ブツブツと呪詛のような声が聞こえてくる。その瞬間、全力で引き返したい衝動に駆られたがマスターに呼ばれた手前引き返すわけにもいかん。と、言うわけで、意を決してドアを開いた。

 

 

 ドアの先には、マスターがいた。部屋の床に這いつくばり、召喚術式を記す用のチョークを持った手は忙しなく床の上を走らせ、そのチョークに注がれている目は不気味な程血走っており、その焦点は某聖処女厨程ではないが若干ずれているように見える。口は相変わらずブツブツと呪詛のような言葉を吐きだし続け、その言葉に合わせて術式とは関係なさそうな模様を刻まれていった。

 

 

 これが、あの時のマスターと同一人物なのかのぉ。個人的には全力で否定したが、現実は非情じゃ。

 

 

 

「マスター、やってき――――」

 

「ノッブぅぅぅ!!」

 

 

 術式の改造に没頭して儂に気付かないマスターに声をかける、一瞬チョークを走らせるその手が止まったかと思ったら、次の瞬間奇声染みた声を上げて儂に飛び掛かってきよった。それに対して、儂は特に驚きもせずただ両手を広げた。

 

 次の瞬間、両手を広げたことでがら空きになった儂の胸にマスターが躊躇なく『抱擁』と言う名の殺人タックルをかましてくる。まぁ、『人』じゃない儂にとっては特に意味はなく、難なくその衝撃をいなしつつその身体を抱き留めたんじゃが。

 

 

「ノッブ、ノッブぅぅ!! 今回は……今回こそは絶対来るよね? 絶対来てくれるよねぇ!? 来てくれるよねぇぇえ!? 俺、今回でリリースした諭吉さん5枚超えたよ!! 5枚だよ!! 俺の家賃一か月分払ってもまだ余るよ!! それが、俺の家賃一か月分相当がついこの間一瞬にして水泡に帰したんだよ!! もう、もう後がないんだよ!! これで『爆死』したら俺は自己破産と言うパンドラの箱に手をかけかねないんだよぉ!!」

 

 

「分かっておる、分かっておるから少し落ち着くのじゃ」

 

 

 抱き留められたマスターは悲鳴のような『呪詛』を叫びながら儂の胸にグリグリと頭を押し付けてくる。その姿に目眩を覚えながら、ぐりぐりと押し付けてくるその頭を撫でて落ち着かせる。あまり認めたくはないが、儂もこの役割がすっかり板に付いてしまったのぉ。

 

 

 まぁ、マスターが『がちゃ』と呼ばれる(マスター曰く)人類の敵に何度も『ばくし』と自己破産を繰り返す惨劇の片棒を儂が担いでいる手前、どうしようもないのじゃが……。

 

 

「あれじゃ、この前言っていた『物欲せんさぁ』とやらのせいじゃろう。それさえ切ってしまえば簡単に来ると聞いたぞ?」

 

「そう簡単にオンオフ切り替えれたら苦労しないよぉ……と言うか、俺にとってノッブが『オン』なんだけど」

 

「うつけ者、お主の我欲を儂に押し付けるではないわ」

 

「……じゃあノッブは望んで無いのかよ」

 

「ハッ、今更何を言うのじゃ」

 

 

 儂の胸に顔を押し付けながらボソリと呟くマスターに失笑を浴びせ、すぐに儂の身体から引き剥がす。突然のことに対応できないマスターの顔をむずんと掴み、勢いよく儂の顔に近付けた。

 

 

「”そなたのわしは一心同体”そう申したであろう? 『お主の願いは儂のモノ、儂の願いはお主のモノ』、つまり儂の願いは『お主が望みを叶えること』じゃ。だから、ゆめゆめ忘れるな。お主の後ろにはこの『第六天魔王 織田信長』が常に立ち、粒さにその一挙手一投足を見ていることを。もし、立ち止まったらそのケツを蹴り上げてやろう、力なく頭を垂れようものなら無理矢理上を向かせてやろう、目の前の現実に逃げ出そうものなら後ろを向いた瞬間抱き締め、頭を撫でてやろう。だから、安心しろ、欲望に従順であれ、己の道を真っ直ぐ突き進め、儂のマスターであることをこの上なく誇りに思え」

 

 

 そこで言葉を切り、マスターに笑いかける。マスターは儂の顔を呆けた顔で見つめてくる。何じゃろ、マスターと言い愚弟と言い、儂が顔を近づけたらこんな顔になるんじゃろうか。

 

 

 

 

「だから、安心して『ばくし』しようぞ!!」

 

 

「是非もないよネ! 畜生ぅ!!」

 

 

 ペロッと舌を出して爆弾を投下し、それが致命傷になったのか大声を上げて儂の手を振り払い発狂するマスター。

 

 

 うむ、良いオチがついたついた。この流れるようなフリと容赦なく叩き落すオチの威力、流石の沖田でもここまでうまく決まらじゃろうな。 

 

 

 と、思っていたら、不意に横から手が伸びてきて、あろうことか儂の手を掴んで引き寄せた。

 

 

「ちょ―――」

 

 

「もう自棄(やけ)だ、男らしくスパッと行ってやる」

 

 

 いきなりのことに声を上げるも、それは目の前にマスターの横顔が迫ってきたことで引っ込んでしまう。マスターは召喚術式に視線を走らせ、不備がないかを見ている。その作業の片手間に儂は引き寄せられ、隣に座らされてしまったのだ。

 

 ほんの少し、ブツブツ呟いていたマスターであったが、何かに気付き儂に視線を向けてきた。

 

 

「……どうしたの? ボケーっと俺ばっかり見て?」

 

「……毎回思うのじゃが、この『触媒』とやらは本当に意味があるのか?」

 

 

 向けられた視線からすぐさま顔を背け、マスターが顔を覗き込んでくる前にいつも考えていた疑問をぶつけた。

 

 

 儂が口にした『触媒』。これは、英霊と縁が深い物を指し、英霊を召喚する際に『触媒』を用意することで本命の英霊を召喚することが出来ると言うモノだ。例を挙げるなら、弱小人斬りサークルの吠える方は『沢庵』じゃ。

 

 たまたま夕食のおかずにたくあんが出て、その数切れをマスターがノリで『触媒』としたら奴が召喚出来たと言う、なんとも間抜けな話だが。

 

 

 しかも、召喚された第一声が『沢庵2つ、樽で』。何処ぞの居酒屋じゃねぇんだよここは、ってマスター共々突っ込んだのはいい思い出だ。

 

 

 まぁ、『触媒』があるからと言って必ずお目当ての英霊が来るわけでない。『ばくし』を繰り返しているうつけが今目の前にいるし……ん? 儂の『触媒』はなんだって? 面白いことを言うな、蜂の巣にするのは最後にしてやろう。

 

 

 と、冗談は置いといて、ともかく少しでも特定の英霊を召喚したいなら『触媒』を用意せよ、と言うわけじゃ。そして、その『触媒』に選ばれたのが儂。もう一度言おう、英霊を召喚するための『触媒』として、英霊()が選ばれた。

 

 うん、色々とツッコミどころがあるのは勘弁じゃ。何せ、その英霊とやらに関係するモノが……あるにはあるのだが、その中で最も効果的なモノが儂であると言うだけだ。あの、これでも一応『第六天魔王』なんて名乗らしてもらっている『儂』なんじゃが。

 

 

「ま、是非もないよネー」

 

三千世界(さんだんうち)をご所望かのぅ? マスター殿ぉ?」

 

 

 儂の言葉に、したり顔で、しかも儂のセリフで返してきおったから、『笑顔』でそう言いながら宝具を展開し始める。すると、マスターは兎のようにその場から飛び退き、空中で土下座体勢、そのまま勢いよく床に着地した。

 

 

「す、すみませんでしたぁ……」

 

 

 声が若干震えているのは、脛でも激しく打ち据えたからであろうか。その姿に溜飲が下がった儂は小さく笑いながら、今なお土下座を続けるマスターに近付き、その横に腰を下ろしてその手を取った。

 

 

「さっさと支度せい、マスター。今日こそ、絶対に来るのであろう(・・・・・・・・・・)?」

 

 

 儂の言葉に、マスターは弾かれた様に顔を上げ、呆けた顔で儂を見つめる。しかし、その表情も柔らかい笑みに変わった。

 

 

「あぁ、今日こそ、絶対来る(・・・・)

 

 

 そう言って、マスターは掴まれていた儂の手を改めて掴み直し、そして床に書かれた召喚術式に触れた。その瞬間、部屋は青白い光に包まれ、術式に光が走る。やがて、術式の形を模した召喚サークルが目の前に現れた。

 

 

 ふと、儂は目の前の召喚サークルからマスターに視線を向ける。マスターは、何処か縋る様な顔つきで召喚サークルを見つめ続けてる。

 

 

 次に、儂はマスターから下に視線を下す。そこには、儂の手を掴むマスターの手が。儂よりも一回り大きく、男らしくゴツゴツしていながら、儂の手を優しく包んでいる。

 

 

 そんなマスターの手を見て、儂はいつの間にかため息を漏らした。

 

 

 別に、儂は『触媒』になること自体が嫌なわけではない。儂が『触媒』になることで、少なからず確率が上がるのなら、喜んで協力しよう。マスターが無理をしているのも、儂が原因でもあるし。

 

 

 

 ただ、何故、英霊を『触媒』として扱う条件が、『マスターの手に触れる』なんじゃろうか……。

 

 

「来たぞ!!」

 

 

 そんなことを心の中で吐露する儂を尻目に、マスターの声が響く。儂も召喚サークルに目を向けると、ちょうど中央の火柱が消えて一つのシルエットが現れた所であった。

 

 そして、そのシルエットを見て、儂は思わず目を丸くした。多分、隣のマスターも、同じような顔をしているだろう。

 

 何故なら、そのシルエットに見覚えが、そしてシルエットの向こうから久しぶりに(・・・・・)聞くあの声が飛び出してきたのだから。

 

 

 

 

 

「サーヴァント、アサシン、織田信……あぁ、これはアレだ、えっと……『三度目の正直』ってやつですね。()――――」

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああやったぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」

 

 

 

 召喚サークルから姿を現し、儂らに笑い掛けながら自己紹介をしようとした、そいつの言葉をマスターの絶叫が掻き消した。そのことに呆気にとられる儂に、マスターは勢いよく抱き付いてきおった。

 

 

「やったよ!! やったよノッブ!! ついに、ついに来てくれた!! 来てくれたんだよノッブ!! これで、もう寂しくないよね? これで、もう『独身英霊』なんて新選組コンビ(主に沖田さん)にいじられなくて済むよね? これでもう夜中に俺のベットに潜りこむことも泣きつくことも無――――」

 

 

「黙れうつけ者がぁ!!」

 

 

 覆いかぶさるように儂を抱き締めてピョンピョンと跳ね、そして変なことを口走るマスターの声を掻き消す様に叫び、そしてその下腹部に拳を叩き込む。同時に、マスターの声が呻き声に変わるも、それに変わらず儂は更に捲し立てた。

 

 

「何を阿呆なことを言っておるのじゃ!! 儂は大英霊『第六天魔王ノブナガ』じゃぞ!! そんなことをするわけが無かろうに!! 寝言は寝て言えこのうつけ者がぁ!!」

 

「だ、だって本当のこ――――」

 

「よぉし、今ここで選ばせてやろ!! 儂の宝具で蜂の巣か!! それともそこの新しい英霊のための種火をかき集めてくるか!! さぁ、選べ!!」

 

「全力で種火をかき集めさせていただきます!!」 

 

 

 般若も裸足で逃げ出すであろう形相でマスターに選択を迫ると、マスターはすぐさま土下座体勢になってそう宣言し、次の瞬間には風のように部屋を飛び出していった。

 

 

「起きろ、アンデルセン!! 今から種火集めに行くぞ!! 20秒で支度しな!!」

 

「元の半分で支度が出来る訳ないだろうマスター。それに、俺は昨日まで戦いっぱなしでこれ以上働かせたら座に還るとお前を脅……説得(・・)して、休日を勝ち取たばかりだ。悪いが、今日は是が非でも休ませてもらうぞ。 と言うか、いつまで俺みたいな三流サーヴァントに縋り付く気だ。いい加減、孔明やマーリン辺りを召喚したらどうだ?」

 

「それが出来たら苦労してないんですよキャスター筆頭様ぁぁぁああああ!!!!」

 

「こら、何をする!! 何勝手に仕事場に入り込んで―――」

 

「はい、キャスター筆頭様確保!! 既に過労筆頭エミヤオカンと、いい加減うちに来てくれませんかね孔明先生をサポートに呼んでいるんで、張り切っていきやがれ下さいませぇぇぇええええ!! そして休みたければ孔明先生の『触媒』持ってこいやぁぁぁああああ!!」

 

「とっととイスカンダルを呼べは良いだろうが!!」

 

「残念、うちには既にライダー筆頭牛若丸様がいらっしゃるのでイスカンダル先生は必要ありません嘘ですごめんなさい早く来てくださいお願いしますぅぅぅぅうううう!!」

 

 

 扉の向こうからうちの年齢詐称筆頭キャスターの妙に艶っぽい声と、その言葉に更に発狂するマスターの絶叫が聞こえてくる。それを、儂は未だに肩で呼吸をしながら、新たに召喚された英霊は未だに何が起きているのか分からないと言いたげに目をパチクリさせて、その茶番劇を聞いていた。

 

 

 やがて、その茶番劇が聞こえなくなった時、儂は改めて此度召喚された英霊に目を向ける。

 

 

 

「騒がしくすまんのぉ、信勝。お主が来たことが相当嬉しかったのじゃ」

 

 

「え、ええ、喜んでいただけたのなら別に良いんですが……。姉上、僕ら(・・)のマスター……なんかあの時とキャラが変わっていませんか?」

 

 

 儂が声をかけると、その英霊―――織田信勝は苦笑いを浮かべる。それも、『僕らのマスター』、か。そうじゃな、お主は儂でも、金色魔太閤でもない、『儂のマスター』の英霊なのだからな。

 

 

「取り敢えず、いまから此処を案内してやろう。本来は、マスター(阿呆)も引き連れたかったのじゃが、あの調子だったしのぉ、今回は儂自らじゃ。そして、その後は宴を催そうぞ」

 

「それは非常に楽しみですね。あ、前回と同じように僕専用に『黄金の杯』はあるのですか?」

 

 

 信勝の言葉に、思わずその顔を見るも、当の本人は悪びれる様子もない。ただ、悪戯っぽい笑みを儂に向けてくる。

 

 

「……そうじゃな、とっておきのモノをやろう」

 

「それは本当に……本当に楽しみですね、姉上」

 

 儂の言葉に、信勝は顔を綻ばせる。嫌味かと一瞬疑ったが、本当にうれしそうなその表情に杞憂であったと悟るり、そっぽを向く。全く、儂も随分疑り深くなったものだ。歳は取りたくないのぉ。

 

 

 

「でも、その前に一つ」

 

 

 不意に、信勝がそう言った。その言葉に顔を上げると、いつの間にかそこで胡坐を組んで座る信勝の姿が。

 

 

「な、何を……」

 

「不肖、信勝。僭越ながら、我が姉であり、英霊の先人でもある、大英霊『第六天魔王ノブナガ』に申し上げたきことがございます」

 

 いきなり、堅苦しい言葉遣いでそう言うと、信勝は『織田』の名に恥じぬ見事な拝礼をし、儂に平伏した。そして、そのまま言葉を続ける。

 

 

「拙者は、己の愚鈍なくせに調子に乗って当主である『ノブナガ』様に反抗し、ボコボコにされました。そんな拙者を慈悲深い『ノブナガ』様は助命をお図らいになりますが、大うつけな拙者はそれを払いのけ、ドヤ顔で死んでいきました。そして、儂が残した嫌がらせともとれる我が儘で『ノブナガ』様を大層苦しめ申した。本来なら、今この場に存在すること自体、おかしな話でございます。しかし、今拙者は此処に居る。それは何故か、貴方様のお蔭でございまする」

 

 

 そこで言葉を切り、信勝は平伏していた頭を上げ、『笑顔』を向けてきた。

 

 

「貴方様が、拙者を認めて下さった。愚鈍で分からず屋で我が儘な拙者を認め、そして拙者に感謝して下さった。当代きっての大英霊に拙者は、愚弟『織田信勝』は感謝されたので。そして、それを受け取った織田信勝は、己の行ってきたことが正しかったことを、そして報われたことを知りました。己の行いが大英霊を生み出したのだと、偉大なる姉『第六天魔王 織田信長』の弟として、その名に恥じぬ生き様を貫けたのだと自覚することが出来たのです。そう織田信勝自身が自覚したことが、『英霊 織田信勝』として座に召されることに繋がったのです。つまり、姉上が認めて下さったから、感謝してくれたから、僕は再び貴女の前に居ることが出来たのです。つまり……」

 

 

 信勝は、そこで言葉を切った。何故なら、その瞬間にその目から涙が零れたからだ。

 

 

 

「僕が姉上を英霊にしたように、姉上が僕を英霊にしたんですよ。姉上のお蔭で、僕は貴女の隣に居られるようになったのです」

 

 

 その言葉、その表情、そしてその涙に、儂は己の胸が締め付けられるのを感じた。それは熱となり、やがて全身に広がっていく。そして、最終的にそれは目から零れるモノに変わった。

 

 

「ば……何を言っておる、うつけ者め」

 

「ハハッ、また(・・)姉上に『うつけ者』なんて呼ばれてしまいましたなぁ」

 

 

 儂の言葉に、信勝はカラカラと笑う。その姿を見ても、目から零れるモノを抑えることに必死な儂には何も出来なく。いや、何かする前に再び信勝の表情が真剣なモノに変わっていた。

 

 

 

「さて、ではそれを踏まえまして、もう一度(・・・・)『我が儘』を言わせてください」

 

 

 真剣な顔で、信勝がそう言う。その姿、そしていきなり変わった雰囲気に、思わず背筋を伸ばした。

 

 

 

 

「この織田信勝を、どうか姉上の隣に居させてください」

 

 

 そう、信勝は言った。そう言って、頭を下げた。頭を上げる様子はない。ただ、伏して、儂の言葉を待つだけだ。

 

 

 本気で、それのみを懇願しているのだ。

 

 

 

 

 その姿を儂は唖然として見た。衝撃で動けなかったわけではない、返すべき言葉が浮かばなかったわけではない。ただ一言、そう思ってしまった。そう思ってしまい、そしてその一言がその懇願に適当な言葉であると、瞬時に理解したからだ。

 

 

 瞬時に理解してしまったから、身体が追い付かなかっただけだ。

 

 

 

「プッ!!」

 

 

 そして身体が追い付いた時、儂は噴き出した。そのまま、腹を抱えてゲラゲラと笑い出してしまった。そんな姿に、いつの間にか頭を上げていた信勝も、次第に表情を歪ませ。遂に噴き出した。

 

 

 しばらくの間、その部屋は二つの笑い声で満たされた。片方は腹を抱えて床の上に身を投げ出し、もう片方が胡坐をかき、片手を後ろの床に、もう一方を胸に当て、上体を思いっきり逸らして笑っているのだ。床が軋む音、ダンダンと床を叩く音、ヒィーヒィーと言う浅く息を吸う音、トントンと床を歩く音、「わぁ!?」と小さな悲鳴、ズルッと床の上を何かが滑り、ドシンと言う重いモノが床に落ちる音、「痛てて」と言う呻き声など、笑い声の中に様々な音が含まれていた。

 

 

 やがて、その笑い声も止む。

 

 

「のぅ、お勝」

 

「何ですか、吉ねぇ」

 

 

 ふと、儂が声を出すと、信勝も返してくれる。そんな信勝は床にゴロンと寝転がっており、対しては儂はその上に覆いかぶさるように膝を付き、信勝の顔の両脇に手をついている。傍から見たら、儂が信勝を押し倒したように見え様。まぁ、実際に押し倒したんじゃが。

 

 

「先ほどの懇願、あれは一度目(・・・)の意趣返しか?」

 

「どちらかと言えば『三度目の正直』の方が……って痛い痛い!! 頬を抓らないで下さいよ吉ねぇ」

 

「ふん、お勝の癖に生意気なことを申すからじゃ」

 

 

 そう言って、更に信勝の頬を抓り、信勝は若干涙目になる。その顔を見て、儂は『笑顔』を浮かべた。それを見て、涙目だった信勝も『笑顔』を浮かべた。

 

 

 

 恐らく、今儂らが浮かべている『笑顔』こそ、信勝の言った『輝く笑顔』なのかもしれんな。

 

 

 

 

 

 

「『我が儘(そんなもの)』、楽勝過ぎるわ!!」

 

 

 

 そう『笑顔』で言ってやった。すると、信勝も『笑顔』でこう言った。

 

 

 

 

よろしく(・・・・)お願いします、姉上!!」




 SERVANT:織田信勝
   クラス:アサシン

 『第六天魔王 織田信長』の弟。望みもしない姉との家督争いに担ぎ出され、姉を守るために自ら『死ぬ』ことを選び、様々な謀略を駆使する。自分を殺そうとしていると分かっていながら姉の元に赴き、最期の最期まで己を救おうとしたその優しさに心を揺さぶられるも『甘さ』と断じ、それを律するために自ら腹を切った。死の間際、姉に『天下統一』への道のりを示し、それが願いとして託した。そして、信長はそれを叶えようと天下を駆け上がり、後の豊臣、徳川を経て天下を平らかにした。


追記
 た……多少は親しみやすいマスターになったんじゃないでしょうかねぇ?(震え声)
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