このすばShort   作:ねむ井

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 時系列は、『祝福』3と4の間。


この厄払いのために名案を!

 まだまだ寒い、冬のある日。

 こたつに入ってアイテムを開発していた俺は、ポツリと呟いた。

 

「そういや、今日って節分なんだなあ」

 

 茶を淹れてきてくれたダクネスが、すっかりこたつむりと化している俺たちの前にコップを置きながら。

 

「そうか、セツブンか。……セツブンとはなんだ?」

「節分ってのは……。ええと、豆をぶつけて鬼を追っ払う日だな」

「鬼というのはオーガの事か? カズマは知らないかもしれないが、オーガというのは凶悪なモンスターだ。豆をぶつけたくらいでは怯みもしないと思うぞ」

 

 節分。

 それは豆を撒いて鬼を追い払うという、よく分からない風習の日。

 

「俺も詳しくは知らないけど、俺がいたとこではそういう事になってたんだよ」

「そんな間違った知識を植えつけるのはどうなんだ? 豆ごときでオーガを倒せるなどと誤解する冒険者が増えれば、そいつらはそのままオーガに美味しくいただかれる事になるぞ」

「……俺も子供の頃、鬼に豆をぶつけて追いかけ回したもんだ」

「子供の頃にオーガを? そんなバカな。し、しかし、この目は嘘をついているようには……!」

 

 まあ、その鬼の正体はお面を付けた父さんだったわけだが。

 

「おいアクア、部品をいじるのはやめろって言ってるだろ。なくしたらまた見つかるまで捜させるからな。泣いても許されると思うなよ」

「何よ、けちんぼニート! それが頑張ってバイトしてきたアクア様への態度なの?」

「ふざけんな。ここんとこお前が働いてるのは、賭け事で負けて小遣い超過したからだろうが。こっちは金稼ぐためにせっせとアイテム開発してるんだよ」

「待ってくれ、セツブンとやらについて詳しく……!」

 

 ダクネスが動揺した様子でなんか言っていたが、俺は手元の作業に集中していき……。

 

 ――しばらくして。

 

「ならば実際にやってみせろ!」

 

 突如として、激昂したダクネスが声を挙げた。

 

「……何を?」

「何をだと! セツブンだ! そこまで言うなら、その超パワーを得た豆とやらでオーガを追い払ってみせろ!」

 

 何言ってんだこいつ。

 

「やっぱり適当に言っていましたか」

 

 こたつテーブルに頬をくっつけ、だらけ切った様子のめぐみんが、横からこそっと教えてくれる。

 

「あなたはさっきから、鬼なんて豆をぶつければ追い払える、俺の地元では子供でもみんなやってると、ダクネスに向かって大ボラ吹いてましたよ」

 

 そうだっけ?

 いや、作業に集中して気付いていなかったが、何を言っても信じるダクネスが面白くて、節分についてある事ない事語っていた記憶があるような……?

 チラッと見ると、ダクネスは激おこな様子で。

 

「マジかよ。……どうしようコレ」

「知りませんよ。ダクネスを煽ったのはカズマなんですから、自分でなんとかすればいいと思います。さっさと本当の事を話して、ごめんなさいをしたらいいのでは?」

 

 無意識だとしても俺のせいかもしれないが、自分でも何を言ったのか覚えていないのに謝らないといけないのか?

 というか、これって俺が悪いのか?

 あんな嘘を信じるほうがどうなんだって話だ。

 

「……しょうがねえなあー、これは俺が元いたとこの秘伝なんだけどな?」

 

 引き続きダクネスに嘘を吹き込んでいく俺に、めぐみんが呆れた視線を向けてくる。

 

「本来なら他人に教えるような事じゃないんだが、まあ俺とお前の仲だからな。でも秘伝は秘伝。これを授けている間、俺の事は師匠と呼ぶように」

「わ、分かった。……よろしく頼む、師匠」

 

 適当な事を言い出した俺に、ダクネスが真剣な表情でそんな事を……。

 

 …………。

 

 ……師匠、か。

 ちょっと悪くないかもしれないと思う俺はダメなのだろうか?

 と、俺がこっそりジーンとしていると、横からアクアが。

 

「ねえダクネス、ジャパニーズセツブンの秘伝なら私も知ってるわ! 私の事も師匠と呼んでちょうだい!」

「分かった、師匠」

 

 ダクネスが素直に頷く中、俺はアクアに顔を寄せ。

 

「おいやめろ、二人も師匠がいたら紛らわしくなるだろ。お前はおとなしく、その辺の部品でもつっついてろよ」

「ほーん? 私にそんな事言っていいのかしら? こっちはいつでもダクネスに真実をバラせるって事を忘れないでちょうだい。あの頭カチコチなダクネスに尊敬の目を向けられるなんて、そんな羨ましいシチュエーションを独り占めするのはどうかと思うわ」

「よし分かった。それなら俺の事はカズマ師匠、こいつの事はアクア師匠で行こうか」

 

 こたつに入ったまま、腕を組んで師匠風を吹かせる俺とアクアに、ダクネスは戸惑いながらも頷いた。

 

「節分にやる事、か。そうだなあ、まずは……」

 

 ……?

 そもそも節分って、何をやるんだっけ?

 

「まずは豆を買ってきてちょうだい」

「お、おお。そうだな、節分と言えば豆がないと始まらないよな」

 

 アクアのナイス提案に俺も乗っかる。

 ……というか、ダクネスは以前、買い物に失敗して塩を大量発注していたわけだが。

 俺もアクアもこの寒い中出掛けたくないし、ダクネスひとりで買いに行かせるのもなあ。

 せっかく師匠キャラでダクネスをからかえると思ったのに、早くも企画倒れが見えてきた状況に、俺がガッカリしつつも少しだけ安堵していると。

 

「豆なら倉庫にありますよ」

「分かった。倉庫だな」

 

 めぐみんの言葉に、ダクネスがこたつから出ていった。

 

「……お前、ダクネスをからかうのに反対してたんじゃないの?」

「真面目なダクネスをからかうのはどうかと思いますが、倉庫に豆があるのは事実ですからね。しかし私にも黙っていてほしいのであれば、何かしらの対価があってもいいと思います」

「お、お前……。ひょっとしてダクネスを倉庫に行かせたのって、この交渉のためかよ? どうしてその賢さを普段から活かせないんだ?」

 

 普段は爆裂爆裂とばかり言っているくせに、こんな時だけ賢そうな事を言い出しためぐみんに、俺がドン引きしていると。

 アクアがすかさず言った。

 

「掃除当番を代わるわ! カズマの事はバラしてもいいけど、私の事は黙っといて!」

「大切な仲間であるダクネスを裏切るのですから、掃除当番一回くらいでは割に合いませんね。トイレ掃除一か月で手を打ちましょう」

「えー? 私もいろいろと忙しいんですけど……」

 

 こいつ、足元見やがって……!

 

「カズマはどうするんですか? 早く決めないとダクネスが戻ってきますよ」

「分かったよ、俺の分までアクアが料理当番も一か月代わるよ」

「はあー? どうして私がカズマさんの分まで対価を支払わないといけないのかしら? 自分の分は自分で払うのが筋ってもんじゃない」

 

 アクアの真っ当だが現実が見えていない意見に、俺はキッパリと。

 

「もしもめぐみんが俺の事をバラすなら、俺がアクアの事もバラす」

「……!?」

「いいかアクア。お前が口を封じないといけないのはめぐみんだけじゃない、俺もだ。そして俺もめぐみんの口を封じないといけない。だからお前が俺の代わりにめぐみんへの対価を支払うのは、何もおかしな事じゃないんだ。これでお前がダクネスをからかおうとしてる事をバラす奴はいなくなっただろ」

「そ、そう……? 言われてみるとそんなような気もしてきたわ?」

 

 一瞬何かを納得しかけたアクアは、すぐに首を傾げ。

 

「ねえ待って! おかしいんですけど! どうして私ばっかり損しないといけないの? カズマも少しは損してもいいんじゃないかしら! カズマだってダクネスを……」

 

 そんな事を言いかけたところでダクネスが戻ってきて、不満そうにしながらも口を閉じた。

 

 

 *****

 

 

 テーブルの真ん中に置かれたひと袋の豆を前に、俺は話し出す。

 

「節分で鬼にぶつける豆は、当然ただの豆じゃ駄目なんだ。この特別な日に、特別な儀式を執り行った豆だけが、鬼を退ける超パワーを得る。お前には、その方法を教えてやろう」

「あ、ああ、頼む」

「お願いしますカズマ師匠だ」

「お、お願いしますカズマ師匠……」

 

 気分が良くなった俺は、うむ、とうなずくと先を続ける。

 

「じゃあ早速だが、ザルを二つ持ってきてくれ。それと……」

「それと、なんですか? カズマ師匠」

「……いや、やっぱりザルだけでいい」

 

 少しだけ迷ってからの俺の要求に、ダクネスがザルを取りに行った。

 

 

 

「いいかダクネス。これから俺がする動きをよく見ておけ」

「あ、ああ」

 

 俺はザルを構え、その中で豆をザラザラと前後に揺らしながら、軽快なステップを踏んだ。

 

「ま、待ってくれ! 意味が分からない! これは、その……。本気か……?」

 

 俺の素晴らしいステップを前に、ダクネスがなんかうろたえていたが、俺は堂々と。

 

「……あのなあ、異文化の風習が奇妙に見えるのなんて当たり前の事だろ。俺はお前が教えてくれって言うから、本来は秘伝である節分の儀式について教えてやってるんだぞ? まあ、お前が疑いたくなる気持ちも分かるし、俺ももう寒い。この話はここまでだな」

「悪かった! 確かにお前の言う通りだ。今のは私が悪かった! 謝るから、もう一度やってみせてくれ!」

 

 こたつに戻ろうとした俺は、ダクネスに引き留められ、再びザルを構える。

 

「……で、こうやってザルに豆を入れて振るんだ」

「こ、こうか?」

「違う! まったくお前はどうしてこんな簡単な事も出来ないんだ? それだと豆が飛び出しちまうだろうが! 上下じゃなくて前後に動かすんだよ。ほら、膝はこう! で、腰はこうだ!」

「す、すいません! 不器用ですいません!」

「おっ、いいぞ。そうだ、そんな感じでやってみろ」

「はい、カズマ師匠!」

 

 覚束ない動作で踊るダクネスをその場に残し、俺はこたつへと戻った。

 俺が教えた通り、豆を入れたザルを構えたダクネスが、そのザルを前後に振りながら奇妙な振り付けで踊り出す。

 

「そこで、あーら、えっさっさー、だ!」

「は!? あ、あら、えっささー?」

「「ブフォ」」

 

 俺たちのやりとりを見守っていたアクアとめぐみんが、同時に噴き出し顔を背けた。

 

「ちょ……! 待って、ねえ待って? お腹痛いんですけど! ダクネスがあんな……、あんな真面目に……!」

「ダ、ダメですよ。ダクネスは真面目にやっているのですから、笑ったら可哀想ではないですか」

 

 ダクネスをフォローするような事を言いながら、めぐみんはプルプル震えているし、決してダクネスのほうを見ようとはしない。

 

「あ、あーら、えっさっさー!」

 

 やけくそ気味に声を大きくするダクネスを眺めながら、俺は小声でポツリと。

 

「ちなみにアレは、本来はドジョウ掬いの踊りだ」

 

 めぐみんがこたつテーブルに顔を突っ伏し、しばらくそのまま震えていた。

 

 

 *****

 

 

「――カズマ師匠、私はいつまでこうしていればいいんだ!」

「んあ?」

 

 こたつの暖かさに眠りそうになっていた俺は、そんな怒鳴り声に起こされた。

 ダクネスが、ちっとも上達していないドジョウ掬いを続けながら。

 

「これ以外にも、豆を鍛えるための儀式があるのだろう? そろそろ次の段階に移ってもいいと思うのだが」

「そんなもん好きな時にやめれば……」

 

 いやダメだろ。

 あ、危ねえ、普通にネタ晴らしするとこだった。

 恥ずかしい踊りを踊らされた挙句、実はからかっただけでしたなんて知られたら、ダクネスがマジ切れしても文句は言えないと思う。

 

「……こほん。そうだな。そろそろ豆にパワーも溜まっただろうし、踊るのやめてもいいんじゃないか?」

「えー? 私はもうちょっとダクネスの愉快な動きを見ていたかったんですけど」

 

 愉しくなってしまったのか、ダクネスの隣で堂に入った安木節を決めていたアクアが、バカな事を言っていた。

 

「まあいいわ。最初はカズマが言い出した試練をやったんだし、次は私の番ね」

「私の番……? なあアクア、その言い方だと」

「私の事はアクア師匠と呼んでちょうだい」

「あ、ああ。アクア師匠。……それで、次の試練というのは?」

 

 アクアはダクネスが構えたザルへと手を伸ばすと。

 

「つ、冷た!? おいアクア師匠、こんなところで水を出すな!」

「えっと、それもそうね。それじゃあ場所を替えようかしら? 次はこの豆を、冷たい水でざぶざぶ洗うっていう試練よ。冷たい水で研ぎ澄まされた豆には、鬼をも退散される超パワーが宿るわ」

「そうなのか? そういう事なら、風呂場へ行こう」

「仕方ないわね、このアクア師匠が聖なる水を出してあげるわ!」

 

 二人はザルいっぱいの豆を持って、風呂場へと去っていき……。

 

「鬼をも退散させる超パワー、ですか」

「……すごいな、豆」

「……すごいですね」

 

 そんな心にもない事を言い合いながら、俺たちはこたつの中でぼんやりした。

 

 

 *****

 

 

 しばらくして、半泣きのアクアが戻ってきた。

 

「ねえおかしいんですけど! この寒いのに冷水浴びるなんて、ダクネスったら何を考えているの? 頭の中が温かいから寒くても平気なの?」

 

 こたつへと飛びこんできたアクアが、こたつの中に入れた手をこすり合わせ……。

 

「何それ」

 

 俺とめぐみんが食べているものに、ふと目を留めた。

 

「豆だよ」

「豆です」

 

 首を傾げながらのアクアの質問に、俺とめぐみんが口々に答える。

 

「ダクネスが失敗したやつを炒ってみました。けっこう美味しいですよ」

「私にもちょうだい」

 

 めぐみんが炒った豆を、三人でもそもそと食う。

 こういうのでいいんだよ、こういうので……そんな風に言いたくなるような、素朴な味わいを楽しんでいると。

 

「……そういや、節分には年齢分の豆を食うってのもあったな」

「あなたはその、思いついた事をなんでもかんでも口に出すのはやめたほうがいいと思いますよ。そのせいでダクネスとこんな事になっているんじゃないですか」

 

 豆を食べながらの俺の言葉に、めぐみんがそんなツッコミを入れてくる。

 

「人を適当な事ばかり喋ってるホラ吹き野郎みたいに言うのはやめろよ。日本に節分って行事があって、豆をぶつけて鬼を退治する日だってのは本当だよ。まあ、あくまでも偽物の鬼だけどさ。でもそんなもん言わなくても分かるだろ? 今回の事はどっちかって言うと、なんでもかんでも信じちまうダクネスのほうが悪いと思う」

 

 そんな話をしていると、廊下を歩いてくる足音が聞こえて。

 

「さあカズマ、次はなんだ!」

 

 濡れたザルを抱えたダクネスが現れた。

 アクアと同じ冷水の試練を耐え抜いたはずのダクネスは、なぜか満足そうな表情でハァハァと荒い呼吸をしている。

 ……これはいけない。

 恥ずかしい系の試練の後で、さらに耐える系の試練まで突破した事で、ドMの本能を目覚めさせてしまったのかもしれない。

 

「この試練はいいな! 寒い冬に冷たい水で責めるなんて、節分とやらを考えた奴はよく分かっている! 次の試練を教えてくれ、今ならなんだってやってみせるぞ!」

 

 と、言われてもな。

 いくら頭が温かいところがあるとは言え、真面目なダクネスが豆を鍛えるためにわけの分からない儀式に挑んでいるのを見ると、正直心に来るものがある。

 もう何もかもぶちまけて、ネタ晴らししちまうか?

 でもなあ……。

 嘘だと知ったらダクネスは怒るだろうが、勝手に勘違いしたのはダクネスのほうなのに、どうして俺が怒られないといけないのか。

 

「なあダクネス、ここまでにしとかないか? えっと、俺が元いたとこじゃ、その年に鍛えた豆は翌年に鬼にぶつける事にしてたんだよ。たった一日で豆を鍛えて、そのままオーガと戦うなんて、そんな大変な事は誰もやってなかった」

「案ずるなカズマ。私は王家の盾たるダスティネス家の人間、頑丈さにだけは自信がある。この手の試練ならいくらでも来てくれて構わん。むしろ来てくれ」

 

 止めようとする俺の言葉に、ダクネスは少しも揺らがずキッパリと言い切った。

 そういう事なら……。

 

「分かった。お前がそこまで言うなら、最後の試練を教えてやる」

 

 

 

 俺が用意したものを手にし、ダクネスが首を傾げた。

 

「こ、これは……?」

 

 二本の棒にしか見えないそれは……

 

「これは箸と言って、本来は食事に使うためのものだ」

「食事に?」

 

 そう、それは箸。

 外国人をイラつかせる、日本が誇る食事道具。

 テーブルには二つの皿が乗せられ、一方には豆があるが、もう一方は空っぽだ。

 俺は箸で豆をひと粒摘まむと、もう一方の皿へと移す。

 

「これが第三の試練! お前にはこれから、この箸を使ってすべての豆を皿から皿へと移動させてもらう。この豆移しの儀は、これまで数々の試練を乗り越えてきたお前がやらなければいけない。……出来るか?」

「クッ……! しかし本当にこれでオーガを倒せるというなら、私は……」

 

 真剣な顔で俺の問いかけに頷いたダクネスは、真剣な表情で箸を構えると。

 箸の先端同士を合わせる事も出来ず、スカッと交差させた。

 

「わ、私は……!」

 

 カチカチと箸の先端を鳴らす俺を前にして、ダクネスは何度も箸を交わらせ、その状態で無理やり豆を摘まもうとして皿の外へと弾き飛ばした。

 

「あああーっ! 待ってくれ! 本当に待ってくれ! 本来は食事に使うためのものと言っていたが、正気か? こんなもので食事をするのは不可能だ! これは絶対に私が不器用なせいだけではないと思う!」

「俺にそんな事を言われても。俺がいたとこではみんなこれで飯食ってたし、俺にとってもこれを使って食事するのは普通の事だぞ」

 

 俺が箸でめぐみんが炒ったほうの豆を摘まみ、次々と口へ放っていくと、ダクネスが泣きそうな表情を浮かべた。

 ふう。

 不器用なダクネスが、この試練を越える事はなさそうだ。

 俺はそんな風に安心し……。

 

 

 

「――いてっ」

 

 目が覚めると、夕方になっていた。

 いつの間にか眠っていたらしい。

 俺の額にぶつかってきたのは、ダクネスが弾いたひと粒の豆。

 どうやらそれが最後の豆だったらしく、空っぽになった皿を前に、箸を構えたダクネスが肩を落としている。

 

「お、おお……。今までずっとやってたのか? まあ、超パワーの豆が出来なかったのは残念だったけど、試練もなかなか大変だって事は分かってくれただろ? とりあえず今日のところは諦めてだな……」

「ああ、そうだな。超パワーの豆は、アクアが三つの試練を突破したこっちの分だけだな」

 

 内心ホッとしつつもフォローを口にする俺に、ダクネスが疲れた笑みを浮かべながらもそんな事を……。

 ……今なんて?

 

「ちょっと待ってくれ。試練は突破できなかったんじゃないのか?」

「私はこの通り最後の試練で失敗してしまったが、アクアが突破した分があれば、試すくらいなら充分だろう」

 

 嬉しそうな顔のダクネスの隣で、アクアが死にそうな顔をしていた。

 そんなアクアの目の前には、片方にだけ豆の乗った二枚の皿が。

 

「お、おいどうすんだよ! せっかく超パワーの豆がないから今年は無理だね、仕方ないね、って事で誤魔化そうとしてたのに、台なしだよ!」

「だって! だって! ダクネスがいつまで経っても箸を上手く使えなくて可哀想だったから、見本を見せてあげようと思って……!」

 

 こそこそと話す俺とアクアをよそに、超パワーの豆を小さな袋に移したダクネスは。

 

「アクアのお陰で少しだけだが、超パワーの豆が出来た。二人とも、これを持ってオーガ討伐のクエストに行かないか?」

「「すいませんでした」」

 

 俺とアクアは即座に土下座へと移行した。

 

「うん? 二人とも、何を謝っているんだ? 節分とやらが口から出任せだという事なら、途中から気付いていたから気にするな。しかしまあ、二人の言う事すべてが嘘とも思えんし、万が一にもオーガの新しい攻略法が見つかったとしたら、多くの冒険者を助ける事になるだろう。だからこれからこの豆を試しに行こうじゃないか。テレポート屋から王都へ行けば、この季節ならオーガ討伐のクエストがひとつくらいは残っているはずだ。何、心配するな。お前たちの命は私が必ず守ってやる。二人は私の代わりにオーガに豆をぶつけてくれ。不器用な私が投げても当たらないだろうからな。では、行くぞ」

「待ってくれ! 謝る! 謝るから許してください! すいませんでした!」

「いやあああああ! どうしてこうなるの? その豆を育てたの私なんですけど! おかしいんですけど!」

 

 ダクネスに頭を掴まれ、ズルズルと引きずられていく俺たちを。

 

「わ、私は夕食当番があるので」

「ああ、任せる。なるべく早く戻る」

 

 ひとりだけなんの罪もないかのような顔で、めぐみんが見送っていた。

 

 

 *****

 

 

「わあああああーっ! 俺が悪かった! 助けてダクネス! 死ぬ! マジで死ぬって!」

「ふわあああああー! ごめんなさい! おかしな踊りでドジョウを掬うダクネスを見て笑ってた事は謝るから助けてー!」

「ふはははは、来ーい!」

 

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