思い付いた話のショートストーリーです。
基本的に一話完結。


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原作11巻の後の話です。
ありきたりな話ですがどうぞよろしくお願いします。




ダンまち・ショート

「雑魚が!」

 

ロキ・ファミリアの幹部であるベート・ローガは供も連れず一人ダンジョンの奥深くでモンスターを蹴り殺していた。いつもと変わらない口の悪さだが、彼はいつもより機嫌が悪かった。

というのもほんの数ヶ月前まで見るに値しない新人冒険者(ルーキー)だった少年が駆け足でランクアップし、ベートですら手間取った黒いミノタウロスと白熱した闘いをしていたからだ。もちろんミノタウロスは自分と闘った時よりも満身創痍だったが、それでも自分があそこまで闘えるようになったのは冒険者になってからどれだけかかっただろうか。

 

「クソッ!」

 

思わず暴言が出てしまう。ビキリッ、ダンジョンの壁が罅割れる聞き慣れた音が聞こえた。狼人(ウェアウルフ)のベートにはその音がよく聞こえる。フサフサの耳が音のしたほうを向く。数は多い。思わずベートは口角を引き上げた。トレードマークの頬にある雷の刺青も歪むほどだ。

 

「さあ、今度は楽しませてくれよ!」

 

 

───────────

 

フゥ、ベートはルーム一帯に転がる魔石を見渡しながら一息ついた。周囲が見渡せる部屋の中央で岩に腰を掛ける。因みに魔石を拾うつもりは無い。あんなものを持っていたらキリがない上に、安全階層(セーフティーポイント)にあるリヴィラの街で売るなど面倒臭くてやってられないからだ。

ベートはにやけながらポケットに入れておいた試験管を取り出した。ダンジョンに潜る前にディアンケヒト・ファミリアでポーションを買ったついでに貰った試供品だ。万能薬(エリクサー)にさらに活性化が促されるアイテムを付け足して効果を高めたらしい。

本来なら高くて勿体ないがタダで貰った上に試供品の為、量も少ない。疲れた体を癒すには丁度良いだろうとベートは一気に飲み干した。

 

甘ったるい味に顔をしかめるが疲れている体には丁度良いくらいだ。少し岩の上で休んでいると、ドクンッ、と心臓が大きく鼓動した。次第にその鼓動の間隔は短くなり、汗まで大量に出てくる。体が熱くなり汗が熱で蒸発するくらいだ。

 

ベートは朦朧とする意識の中、ダンジョンで倒れないよう必死に抗い続けた。数瞬、意識を飛ばしたがなんとかモンスターに襲われずに済んだベートは一先ず安心をする。しかし、ベートは直ぐに違和感に気付いた。目線が明らかに低い。自分の武器でもあるブーツは膝に留まらず太腿すら覆い尽くしてハイブーツになっている。もちろん足を曲げることすらできない。

その時、再び壁が罅割れる音が聞こえた。

 

「うそ、だろ・・・」

 

ダンジョンは冒険者に等しく牙を剥く。それが例え小さくなるという前代未聞の事態でもだ。

 

ベートは直ぐに音とは逆の方向に走り出した。せめてお気に入りのブーツは持っていきたかったが、この状況では荷物になることはあっても武器になることはない。

 

試しに襲ってきたモンスターを蹴ってみるが、筋力が大きく落ちているのかまともに効いていない。武器も無く筋力が大きく落ちた今の姿ではベートが訓練していた階層では太刀打ちできなかった。逆にカウンターを喰らい簡単に吹き飛ばされてしまう。

 

「クソッ、レベルは落ちてないだろうな」

 

思わず愚痴が出てしまう。頭から流れた血を拭いながら倒すことを諦め撤退することに決めた。

しかし、簡単にモンスターが逃がすわけもなく、またダンジョンも容赦なく弱ったベートを襲い続けた。

 

幾度目かの階層を登ったとき遂にベートは足が止まった。目の前に迫る普段なら相手にもしないバグ・ベアーの群れに思わず笑みが出てくる。

 

「まさかこんな所でくたばるとはな」

 

ベートは静かに目を閉じた。

 

『ファイヤー・ボルト!!!』

 

目を閉じていても眩しく感じる幾重もの激しい炎雷がバグ・ベアーを飲み込んだ。すぐさま漆黒の軌跡が残ったバグ・ベアーに止めを指す。目の前の光景に思わず呆然とする。

 

「なんでお前が───「君、大丈夫?」」

 

返事がないベートにベルは困惑していた。

 

「なんでこんな所に子供が?」

 

「ああぁ、誰がガキだ!」

 

「えっ!?え~と君だけど・・・」

 

死にかけの少年を助けたにも関わらず逆に脅される白髪の少年、ベル・クラネルは冷汗を流しながら手を差し出した。正に子狼に脅される白兎のようだ。

 

「とりあえずここは危ないし、怪我をしているみたいだからリヴィラに連れていくよ」

 

差し出された手をはねのけたい所だが、体がいうことをきかないため仕方なくベルの手をとった。

 

「じゃあ、おんぶするね?」

 

「はぁ!?ふざけ・・・」

 

ベートが反発しようとしたところでまたモンスターが近づいてくる気配がする。このままではベルまで巻き添えにしてしまう。

 

「くそったれ、勝手にしろ!」

 

ベルは恐る恐るベートをおんぶすると持ち前のスピードで一気に街まで駆け出した。背中で風を感じながらベートは改めて最初に見たベルの姿と今の姿に舌打ちをする。

 

 

 

「ベル様!()()は一体誰なんですか?」

 

リヴィラの緊急ミッションに参加させられたベルを待っていたリリ達から再び冷たい目を向けられた。特にリリは少し羨ましそうにベートを睨み付けている。ついこの間、ベルが竜女(ヴィーヴル)のウィーネを助けてから日も経たない内に、次は目付きの悪いウェアウルフの子供を拾ってきたのだ、無理もない。

 

「ごめん、僕も良く分からなくて。モンスターに襲われていた所を助けたんだ」

 

「はぁ、いいですかベル様。いくら人助けでもこんな目付きの悪い子供の親は録な親じゃありません。また厄介事に巻き込まれてしまうに決まっています」

 

「ああっ!!誰が目付きが悪いだ、コラァ!」

 

「はぅ」

「春姫殿、安心して下さい。私の後ろに。こら、君、話し方はちゃんとするべきだぞ」

 

柄の悪いベートに春姫は怯え(みこと)の後ろに隠れる。礼節に厳しい命は言葉を正すようベートに訴える。

 

「ところでこいつの名前は聞いたのか?」

 

「あっ、まだ聞いてなかった。ねぇ、君、名前はなんて言うの?」

 

「俺だ、俺!ロキ・ファミリアのベートだよ!」

 

「「「・・・・・・・」」」

 

長い沈黙がベル達に訪れる。

 

「えっ、えーー!ベートさんの子供?」

 

「うそだろ、俺と殆ど歳変わらない筈だろ?」

 

「全く、これだから冒険者は嫌いなんです」

 

三者三様の答えが出てくるなか、ベートは直ぐに反論する。

 

「おいっ、違うって言ってるだろ。俺がベート・ローガだ」

 

「はいはい、分かりました。それでお父様はどこですか?ベル様、リヴィラの冒険者の方々に聞いてみてはいかがでしょうか?」

 

「ウーン、そうだね。じゃあ行こうか」

 

体の言うことがきかないベートはベルに連れられリヴィラの街を訪れた。

 

「あっ、すいませんーーん。モルドさん~~」

 

「おう、どうしたベル・クラネル!ん、なんだこのガキは?」

 

「あっ、えっとロキ・ファミリアのベートさんを探してるんですけど、見なかったですか?」

 

「あぁ、あいつなら大分前に一人で下に潜ってったぞ。まだ帰ってこないんじゃないか」

 

「そうなんですか・・・」

 

「それよりこいつは・・・まさかあいつの隠し子か!?───プッ、ワッーハッハーーー、おいっ、みんな見てくれよっ」

 

「ん、どうしたモルド?」

「なんだ、なんだ?」

 

興味本位でベートを見て笑う冒険者達にベートは凶悪な目付きをさらに極悪にし、元に戻ったときに復讐することを誓った。

 

「あ、ありがとうございました。じゃあ僕はこの子をロキ・ファミリアに連れていきますね」

 

背中から感じる殺意に冷汗を感じながらベルは冒険者達の元を去った。

 

「本当はもっと中層に居る筈だったのに、全くだらしのない親のせいでいい迷惑です」

 

未だにプリプリと怒るリリを尻目にベル達一行はダンジョンを後にした。

 

「じゃあ、僕この子を連れていくね」

 

ベルはリリ達と別れ、ロキ・ファミリアのホーム、黄昏の舘に向かった。

 

「おいっ、止まれ。お前は──ヘスティア・ファミリアのベル・クラネルか?何か用か?」

 

ベルは門番の団員達が他団員のベルを引き止める。慌ててベルは用件を伝えた。

 

「あのっ、この子をダンジョンで見かけたんですけど・・・」

 

門番は背中に抱えられたウェアウルフの子供を覗きこんだ。

 

「うわっ」

 

凶悪な目付きに思わず悲鳴をあげてしまう。恐る恐るもう一度見てみるとどこか見たことのある顔の刺青と凶悪な目付きにある人物を思いついた。

 

「おいっ、お前。さっさとフィンの所まで連れていけ」

 

子供のくせに偉そうな態度に益々想像の人物だと確信する。

 

「おいっ、直ぐに幹部の方達に連絡しろ!ベル・クラネルッ!今回の件、礼を言う。だが絶対に他言無用だ。いいなっ!」

 

「は、はぁ」

 

門番達がベートと名乗る子供を抱え、慌てて中に入っていくなか、ベルは閉められた門の前でポツンと立っていた。

 

 

──────────

 

「ねぇねぇ、誰、この子?」

 

「この顔見れば分かるでしょ。あの糞狼の子供に決まってんじゃない」

 

「え~~~~~、いつの間に!?ってか相手は誰よ?」

 

「さぁ、でも物好きな奴も居たもんよね」

 

「おい、バカゾネス!俺がベートだって言ってるだろうが!」

 

「ほんっと、あいつに似てるわね。この口調と良い、この憎たらしい顔つきと良い」

 

「だ~か~ら、俺がベートだって言ってるだろうがっ!」

 

ボロボロの体に鞭打ちティオネに飛びかかる・・・があっさりと捕まってその豊満な胸に抱き締められる。

 

(はなぁせぇ~~)

 

流石の第一級冒険者のベートも小さくなった体にボロボロの体では同じレベルのティオネ達には敵わない。

 

「所でベートはまだ帰ってこないの?」

 

「またいつものあれでしょ。全く鍛えるよりも先に子供の世話しなさいよ。どうせあんな性格だから母親にも逃げられたんじゃない?」

 

「~~~プハァ、うるせぇ!ち、ちげーよ!───それよりフィンはどうした?」

 

「あ、そう言えば団長はどこに居るの?」

 

「団長ならこの前の事件での後処理でリヴェリアとガレスを連れて出掛けてるわ」

 

「くそったれが」

 

「ねぇ、それよりこの子汚れてない?」

 

「あぁ、なんかアルゴノゥト君が連れてきたみたいなんだけど、ダンジョンで死にそうになってたらしいよ」

 

「全く子供の面倒くらい見なさいよね」

 

「じゃあ団長が帰ってくる前にお風呂入れちゃえば?」

 

「あら、良いじゃない。せっかくだから私たちも入りましょうよ」

 

「賛成~~~」

 

「ちょ、バカゾネス!一人で入れるってのっ!」

 

「何、この子?照れてるの?可愛いところもあるじゃない?」

 

「ふざっ──!おい、ロキッ!丁度良いところに来た。俺だ、ベートだ。背中のステイタスを見れば分かるだろ!」

 

広間で騒いでいるベート達にロキが面白そうな事を察知して入ってきた。

 

「なんや、この子は?」

 

「ベートの隠し子みたいです」

 

「ほぉ~~、あいつも見掛けによらずやりよるな。てっきりアイズ一筋かと思ってたわ」

 

「ふざっ!違うつってんだろ!おいっ、ロキ!背中だよ、背中!」

 

「背中がどないしたん?」

 

「ステイタス見れば、俺が誰か分かるだろ」

 

「背中見て何が分かるねん。ウチ、お前さんに恩恵なんてやってないで?」

 

「良いから見ろ!」

 

ベートはロキに背中を見せ、やっと誤解がとれたことに安心をする。

 

「───何も書いてないがな。それよりティオネ。この子汚れてるし風呂場に連れてったって」

 

「は~い」

 

「ちょっと待てぇー!!!」

 

ベートはロキに訴えようとした。しかし、ベートは気付いてしまった。ロキのあの嫌らしい笑みに。

 

(こいつ、俺の事に気付いていながら黙ってやがる。多分、廊下で俺が風呂に連れていかれそうなのを聞いていやがったな!)

 

ベートはこれまでにない笑顔で親指を立て見送るロキを見つめながら風呂場に連れていかれた。

 

 

 

「おいっ、嘘だろっ?」

 

「何~?一丁前に照れちゃって?」

 

「早く脱がないとお風呂に入れないよ?」

 

さっさと服を脱いだティオネとティオナに対し未だにベートは必死に衣服を守っていた。

 

「あぁ、めんどくさいっ!」

 

ベートの必死の抵抗も虚しくティオネに服を剥がされた。

 

「何隠してるの?あはは、小っちゃくて可愛い~~」

 

ティオナの何気ない言葉にベートは今までで一番傷付いた。頬に一筋の水滴が溢れる。これは涙じゃない、汗だ、そう自分に言い聞かせベートは浴室に引っ張られていった。

 

 

 

「あれ、レフィーヤ帰ってたの?」

 

「あ、お疲れ様です。ティオネさん。ティオナさん。はい、先程アイズさんに稽古をつけててもらって帰ってきたところです。夕飯の前にお風呂に入っちゃおうと思って」

 

「へぇー、じゃあアイズも居るんだ?」

 

「はいっ────って、えええぇぇぇぇえぇぇぇーーーー!!!!誰ですか、この子っ!!!」

 

ティオナの後ろに居る男の子に慌ててレフィーヤは体を隠す。

 

「ほらほら、見てみなよ。この顔、分かんない?」

 

「え?───うーん・・・」

 

タオルで体を隠しながらレフィーヤはマジマジとベートの顔を覗きこむ。ウェアウルフで人を噛み殺しそうな目付き、特徴的な刺青───レフィーヤは同じファミリアで苦手な男性を思い浮かべた。

 

「まさかベートさんのお子さんですか?」

 

「へっへー、当たり!」

 

「当たってねぇつってんだろ、バカゾネス!」

 

「うわっ、口調まで同じですね」

 

「でしょ、全くあんな馬鹿の血継いじゃって、あんたも可哀想ね」

 

「うるせぇ、余計なお世話だ!」

 

ベートはティオナの手が弛んだ隙にすぐさま脱衣所へと走り出した。

 

「あっ、こら!」

 

しかし、直ぐにベートの計画は破綻した。ティオナに気をとられ、前をたまたま歩いていたアイズにぶつかってしまったのだ。衝撃でベートが尻餅をついた。

 

「───大丈夫?」

 

体を手で隠しながらアイズは首を傾げベートを見つめる。ベートはその光景に思わず身を固くした。

 

「なになに?この子、アイズの裸見て顔を赤くしたんじゃない?」

 

「あはは、ホントだ。トマト見たいに真っ赤になってる」

 

「ちょっ、いくら子供でもアイズさんの裸を見るのは絶対に駄目です!」

 

「何言ってるのよ、レフィーヤ。まだ子供だよ」

 

「駄目ったら駄目なんです!ほら、この子、アイズさんを見て鼻血出してますよ!アイズさん、早く出ましょう!」

 

「えっ、あ、うん」

 

レフィーヤはアイズの手を引っ張りながら浴場から出ていった。その姿を見ながらベートは鼻を抑え、元に戻るまでベートだとバレないようにしようと誓った。

 

──────────

 

地獄の風呂をなんとか切り抜けたベートは可愛い羊の着ぐるみのパジャマを着せられ廊下を歩いていた。子供用の服などホームにあるはずもなく、ティオネが団長にプレゼント用で買った服を苦渋の決断で渡されたのだ。

もちろんベートも断ったが、ティオネが本気でブチキレそうになったためやむ無く着ることになった。モフモフだ。

ベートは一息つく間も無くロキに呼び出された。

 

 

「おいっ、ロキ!どういうつもりだ!」

 

「───」

 

「おい、聞いてるのか?」

 

「見たんか?」

 

「ああっ?」

 

「見たんかって聞いてるんや?」

 

「何をだよ!?」

 

「決まってるやろ!?アイズたんの裸や!」

 

「バッ、馬鹿か、てめぇは!見てねぇよ!」

 

「神の前で嘘はつけへん!よくもよくもウチのアイズたんにっ!」

 

「お前が風呂に入るよう誘導したせぇじゃねぇか!」

 

「うっさい!まさかアイズたんが入ってるとは思わんかったんや」

 

「知るかっ!」

 

「ええんか?そんな口聞いて。あんたの正体がベートやって言いふらしてもええんやで」

 

「て、テメェ、さてはこのために俺を風呂に入れたんだな」

 

「さて、なんのことか分からんな」

 

「望みはなんだ?」

 

「話が早くて助かるわ。ウチが知りたいのは一つ。どうしてそんな体になったんや?」

 

「あぁ、どうしてそんなこと?」

 

「決まってるやろ!体が小さくなればアイズたんにバレずに近づける。さらにあんなことやこんなことが・・・グヒヒ」

 

涎を垂らしながら妄想する主神に呆れるベートだが、これではさらに墓穴を掘ることになる。

 

「教えねぇよ。それよりロキこそ俺のことを言いふらしたら不味いんじゃねぇか?」

 

「なんでや?」

 

「俺の背中をバッチリと見た上で風呂に勧めたんだぜ。見逃した、とは言わせねぇぜ」

 

「んぐっ」

 

「とりあえず元に戻るまでこの事は隠し通すからな」

 

「しゃあないな~」

 

ドンッ、と扉をおもいきり閉めて部屋を出ていくベートの後ろ姿をロキは細い目を見開いて見送った。

 

─────────────

 

(くそっ、とりあえずさっさとあの店に行って薬を貰うか。戻らなかったら噛み千切るぞ、あの野郎)

 

ベートはホームから逃げ出そうと窓を開け、身を乗り出した。しかしすぐに呼び止められた。

 

「おいっ、君か、ベートの子供というのは?早まった事はするんじゃない。悩みなら聞いてやるぞ」

 

「全くベートと言い無鉄砲にも程があるぞ。まだ体も癒えてないだろうに」

 

げっ、思わずベートから出た言葉は届いてなかった。ベートの前には副団長のリヴェリアとガレスが居た。

 

「先ずは落ち着いてそこから離れろ」

 

「ちっ、違ーよ。ちょっと出かけるだけだろ」

 

「そうか?ならなぜ門から出ていこうとしない?」

 

「いや、それは・・・」

(逃げようとしたなんて言えねぇよ)

 

「まあ、そのことを責めるつもりはない。全ては親であるベートが悪いのだ。あいつめ、全く見損なったぞ」

 

「ガハハッ、あいつも見掛けによらずやるのぅ」

 

「ガレス、笑い事では無いぞ。全くあいつは親の自覚というやつを知らんのか?帰ってきたらしっかりと叩き込んでやらねば」

 

「いや、あいつもちゃんとしてると思うぜ」

 

どんどん自分の評価が下がっている事に思わず自らフォローを入れる。

 

「こら、仮にも親に対しその口の聞き方はいかんぞ。私が君を立派な大人にしてやろう」

 

「いや、いいよ別に」

 

「んっ?」

 

リヴェリアの鋭い目付きに思わずたじろぐ。

 

「─────たくっ、分かったよ」

 

「少しずつ教えていく必要がありそうだな」

 

ベートはリヴェリアに連れられリビングの一角で細かく指導されていた。その様子を微笑ましそうにアイズ達が見つめている。ちなみにロキもその中でニヤニヤしながら見ていた。

 

「おう、じゃない。はい、だと言っているだろう」

 

「ハイハイ」

 

「はい、は一回でいい」

 

「──はい」

 

「やればできるじゃないか。ベートも見習って欲しいものだ」

 

(くそっ、これじゃあいつまで経っても抜け出せねぇ)

 

ベートが逃げるタイミングを伺っていると現在のベートと同じ目線のパルゥムの男性が声をかけてきた。このファミリアの団長、フィンだ。

 

「やぁ君かい、大変だったね?」

 

「あん、団長~~~、見てくださいよ。この子、あの馬鹿狼、いつの間にか子供作って録に面倒も見ないんですよ。代わりに私がしっかり面倒見ましたけど」

 

「そ、そうかい。ティオネ。ありがとう」

 

「やあ、こんばんわ」

 

「お・・・えっと、こんばんわ───」

 

「ふむ、よくできたぞ」

 

リヴェリアがベートの頭を優しく撫でる。ベートは照れ臭そうに払い除けたが、構わずリヴェリアは撫でた。アイズは羨ましそうに、空中で手を左右に振っていた。

 

「あ、あの、アイズさん。代わりに私の頭を使ってください!」

 

「えっ?」

 

「ささっ、どうぞ」

 

すすっとアイズの手の下に頭を潜り込ませレフィーヤは頭を撫でられて満足している。アイズもレフィーヤの迫力に圧され、頭を撫でていた。

 

「君の名前はなんて言うんだい」

 

フィンの質問に何も考えていなかったベートは思わず下を向く。

 

「うん、どうしたんだい?」

 

「ベート・・・じゃなくてビート、ビート・ローガだ!」

 

「何よ、変な名前・・・あいつももうちょっと考えてあげなさいよ」

 

「うるせぇ、お前に言われたかねぇよ」

 

「こら、また口調が戻っているぞ」

 

「はい、すいません」

 

「でもこの子もベートの子ならウチに入れるんでしょ?」

 

「いや、その必要はないよ」

 

「「「えっ?」」」

 

「どういうことですか、団長?」

 

「いや、それがね、帰る途中でこれを渡されたんだ。なんでも薬が間違っていたみたいで、ベートに渡してほしいそうなんだ」

 

「なっ、なんだとーー!あの糞野郎!死にかけたんだぞ、ぜってぇ殺す!」

 

「えっどういうことですか?団長?」

 

「なんでも効果の良く分からない薬をベートに渡したらしい。効果の程はこの通りという訳さ」

 

視線がベートに集中する。

 

「おいっ、糞狼!てめぇ、どういうことだ」

「うっわっ、最低ぇ!こいつと風呂に入ったってこと?」

「ベートさん、黙ってるなんて最低過ぎます」

 

「うるせぇ、こっちだって見たくて見たんじゃねぇよ。おめえらが俺の話を聞かなかったせいじゃねぇか」

 

女姓陣からの非難にベートは反発する。しかし、非難する女姓陣の後ろでじっとベートを見つめるアイズの姿をベートは見つけた。何も言わないがその目線が鋭くなる。

ベートは堪らずその場に崩れ落ちた。

 

 

「まあ、聞いてる限りベートの話を聞かなかった君達にも非はあるかもしれないが、そもそも一人でダンジョンに行って中身も録に確認せず薬を飲んだベートが悪いよ。ヘスティア・ファミリアのベル・クラネルが居なかったら死んでたかもしれないんだ」

 

フィンの正論にベートは口をつぐむ。

 

「それにベートだけが悪いとは思わないよ。子供の振りをするには協力者がいるんじゃないかな?ねぇ、ロキ?」

 

「あっ、そう言えばお風呂勧めたのロキだったよね?」

 

「確かに背中を見ても何も言わなかったし」

 

白い目がロキに集まる。

 

「てへっ、すまんすまん。ちょっとしたイタズラ心やん?」

 

こうしてフィンから薬を受け取ったベートは元に戻ることができた。戻る際に子供用のパジャマをビリビリ破り、衆目の面前で痴態を晒しそうになったり、改めてティオネに殺されそうになったがなんとか収まった。

 

その後、オラリオで体が小さくなるという冒険者には全く必要の無い薬が一部の者達に爆発的に流行る事になった。

しかし、イタズラや覗きをする悪ガキが急増し、事態を重く見たギルドは薬の全面販売禁止を出した。

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、あのエロ狼は?」

 

「まだ暫く大人しく部屋でふて寝してるでしょ。まあそろそろ限界がくるでしょうけど・・・」

 

ティオネは庭からベートの部屋の窓を眺めると、案の定怒声が聞こえてきた。

 

「ベートさん、まだ謹慎中ですよ。団長に起こられますよ~~~」

 

「うるせぇ、いつまでも部屋に籠ってられるか!おい、アイズ!ダンジョンに行くぞ!」

 

「───分かった。でも変な薬飲んじゃ駄目だよ」

 

「バッ、馬鹿野郎!んなもん飲むか!」

 

顔を赤くしながらベートは今日もダンジョンで冒険をする。


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