1年ぶりなんで全く見られないかもって不安でしたが、おかげさまでランキングにも載りました。
あらためて、ありがとうございます!
感想や評価ってやっぱりモチベーションに繋がるんですね。
では、本編をどうぞ。
「お、八雲ちゃん。 夕飯にウチの魚を買っていかないかい?」
「あの……もう、買った後なので」
「そりゃあ残念だ! なら次には買っていってくれ」
――ま、ベッピンさんを拝めただけで良しとするか!
声と心の両方とも明るく、そして陽気な魚屋のおじさんに頭を下げ、彼女―塚本 八雲はまた歩き出した。
八神商店街。
八雲はバイトが終わり、夕飯の食材を購入して帰宅している最中であった。
学校に通い、バイトまたは部室に顔を出し、夕飯の材料を買って帰宅する。
八雲の、普段通りの変わらない日常。
しかし、彼女の内心は普段と違う様子を見せていた。
その心の内で考えるのは、とある一人の男性について。
――播磨さん……大丈夫、なのかな。
播磨 拳児。
同じ高校に通う先輩であり、姉のクラスメイト。
それだけであれば、他の男子生徒と変わらないだろう。
彼は八雲にとって初めて会った、心が見えない異性。
そして――姉である塚本 天満のことが好きなひと。
八雲と播磨の関係は知り合い程度でしかない。
いや、八雲と播磨は何回も顔を合わせているが、播磨は八雲の顔を覚えていないだろう。
それを考えれば、知り合いとも呼べないかもしれない。
でも、八雲にとっては気になってしまう男性であった。
――姉さんのことで、泣いてた。
思い出すのは、数日前のこと。
エアコンの修理依頼で呼んだ業者のひとりが播磨であった。
播磨が居たこと自体には驚いたが、その後に心に浮かんだのは少し話してみたいという想い。
心が見えない異性だから?
姉と同じように、真っ直ぐな人だから?
自分は知ってるのに、相手は知ってくれてないから?
どれも正解なのか、それとも違うのか。
八雲自身、それは分からなかった。
ただ、話してみたい思ったのだ。
だから八雲は、業者の方への差し入れとして飲み物、そしておにぎりを作った。
その差し入れを渡し、そこから播磨と会話しようと思ったのだ。
しかし。
『すみません、俺ァもうショックで何も出来ねぇ……』
『おいっ、バイトっ!』
泣きながら去っていく播磨。
『は、播磨さんっ!』
八雲は播磨の名前を呼んだ。
ただ呼ぶことしか、彼女には出来なかったのだ。
その後、姉から話を聞いて、
播磨が何故泣いて去っていったのかを知った。
――姉さんが烏丸さんを好きなことを知った。
好きなひとが、他の人を好き。
それを窓越しで知ってしまって、どれだけ悲しかったのだろう。
異性を好きになったことがない。
そんな自分が播磨の心を理解してあげられてるのか。
播磨さんの心を見れない、私が。
――私はなにか、でき……っ!
思いの外、没頭してしまったらしい。
八雲は気付いたら目の前から歩いてきた人物とぶつかってしまった。
目の前の人物を見る前に、彼女はすぐ頭を下げる。
「す、すみません!」
「いや、俺も不注意だったぜ」
スマンな、と。
怒る様子を見せない様子に安心しつつ、八雲は男性の声がどこか聞き覚えがあるのに気付いた。
その途端、顔を上げて相手の顔に視線を向ける。
そこには――。
「――播磨、さん?」
サングラスを掛け、髪をカチューシャで上げた男性。
自身が先程まで考えていた人物、播磨が目の前に居たのだ。
思わず、八雲は凝視してしまう。
「えっと……あんたは」
そんな彼女に戸惑った様子を見せる播磨。
八雲はそれに気付き、彼の言葉に返答する。
「あの……塚本、八雲です」
「えっ…あぁ、天満ちゃ……塚本の妹さんか!」
物覚えが悪くてスマねぇ、と頭をかきながら播磨は謝る。
それを見て、播磨が自身を覚えてなかったのを改めて認識した。
きっと好きな姉をずっと真っ直ぐ見ており、自身には意識が向かなかったのだろう。
そんなに姉を心から好きでいてくれる播磨に、八雲は嬉しい気持ちを抱いた。
覚えてなかった。
そんな寂しい気持ちも、少しだけ抱いたが。
ただ、そんな気持ちよりも気になることが今はあった。
――播磨さん、大丈夫なのかな?
「…………」
「……えっと、どうかしたか?」
言葉もなく見つめられ、若干困った様子の播磨。
そんな播磨を見つめていたが、
八雲には彼があの出来事から立ち直ったのかを読み取ることが出来なかった。
心が見えない。
そういう相手だと自身は分かってあげられない。
播磨の気持ちが、わからない。
わかってあげられない。
それを認識した途端。
八雲は無意識に口を開き、言葉を紡いでいた。
「大丈夫、ですか?」
「えっと、何のことだ?」
「あの……エアコン修理の際に、姉さんから聞いたって――」
自身が喋っていた内容に、思わず口をおさえる。
本当に自身で驚いてしまう程、意識せずに言ってしまったのだ。
――わたし、なんで。
戸惑ってしまいながらも、八雲は慌てて播磨を見る。
播磨は顔を俯かせていたのだ。
サングラスを掛け、顔を俯かせている播磨の様子は伺うことが出来ない。
八雲はそんな彼に心配した表情を向ける。
「……あの、播磨さん?」
「―――」
「あ、あの……」
「――が――と―――なんて」
つぶやき程度の小さな声。
播磨は目を瞑り、何かを思い出しながら呟いているのが分かった。
八雲はそれを聞き取る為、空いていた播磨との距離を詰める。
そして聞こえる程に近くなった瞬間、播磨は顔を思いっきり上げた。
播磨は、サングラスを掛けていても分かるくらい、悲しい表情をしていた。
というか、男泣きしていたのである。
「くっ、天満ちゃんが烏丸の野郎とチューだなんて!」
「えっ……あ、あの」
「それに、ヤツの裸を見る関係だなんて!」
播磨が男泣きしている様子に、八雲は固まってしまっていた。
「ぐおぉぉ、思い出さないようにしてたのにっ!」
「――あっ、は、播磨さん!」
そして、その間にも播磨は泣きながら走り去ってしまったのであった。
追いかけられず呆然としてしまう八雲。
ただ、彼女はそのまま疑問が口から出ていた。
「姉さんと烏丸さんが……?」
#16「決意する彼女たち(前編)」
「俺は、何でこんなにツイてねぇんだ」
彼―播磨 拳児は、肩を落としながら歩いていた。
通りすがりの人が全員落ち込んでると分かるくらいに、思いっきりである。
播磨は、すこぶる調子が悪かった。
今だけでなく、ここ最近ずっと。
――ぐあぁぁ、天満ちゃん!
エアコン修理バイト時に聞いた、天満の話。
テンションがだだ下がり所か、出家して坊さんになろうかと考えるくらいに。
その時点でもう播磨からしたら絶望であったが、漫画に現実逃避するという対処法があったのだ。
これぞ、というくらいに嫌な記憶の棚上げであった。
何も解決していない。
それでも単純な播磨は漫画を書き、出版社で褒めてもらったことで調子を若干戻したのだ。
だが、その後すぐのこと。
原稿を素で持ってるタイミングでクラスメイトである天満の友人である沢近 愛理に遭遇。
原稿を見られたくない播磨は全速力で逃げたのだ。
そして、走ったまま家に逃げてきた播磨。
荒い息遣いのまま自宅に戻ると、同居人からモデルガンにて思いっきり撃たれた。
同居人曰く、はぁはぁ言いながら近付かれて危機を感じた、とのこと。
播磨からしてみれば災難でしかなかった。
もう色々と疲れて気晴らしに散歩してたら、天満の妹に遭遇し、忘れたかった記憶をあらためて思い出してしまう追い打ち。
播磨は、落ち込むしかなかった。
――散歩しても落ち込むし、大人しく帰ってマンガ描くか。
そうして、トボトボと力なく岐路に着こうとした。
その矢先のこと。
目の前から、誰かが歩いてくる影が見えた。
播磨は視線した下に向けたまま、逆側から歩いてくる二人組とぶつからない様、退いて擦れ違おうとした。
しかし、その二人組は自身が歩こうとする道に態々歩き、通せんぼの状態にしたのだ。
――なんだ、喧嘩でも売ってんのか?
喧嘩を売られたのかと思い、苛つきながら顔を上げる。
そこには、奇妙な男性の二人組がいた。
片方は老齢であり、モノクルの片眼鏡を掛けた男性。
もう片方は背が低いがガタイが良く、かなり強面な男。
そこは、そこまで気にならなかった。
問題なのは、服装だった。
その服装は時代劇に出てくるよう着物である。
しかも、模造であるのか刀を下げている。
その姿を見て、苛つきや怒りも収まってしまっていた。
「なんだ、アンタ達? 撮影でもヤってんのか?」
あまりに珍しい姿だったので問い掛ける播磨。
しかし彼等から返答はなく、モノクルの男性が播磨に向かって白い物体を放ってきた。
播磨は飛んできた白い物体を取り、その物体の正体に思わず目を丸くする。
「あん、果たし状だと?」
放るように渡された白い封筒には、堂々とした筆文字で果たし状と書かれている。
あらためて彼等に視線を向けるが、特に何も語らず、ただ播磨と果たし状を交互に見るのみ。
――果たし状の中身を見ろってことか。
播磨は果たし状と書かれた封筒の中にある紙を取り、中身を読む。
そこには、明日の日付と時刻、場所だけが記載されていた。
――果たし状なんて、天王寺くらいだと思ってたぜ。
播磨は、よく喧嘩を売ってきた男を思い浮かべる。
喧嘩場所を指定する為、果たし状を下駄箱に置かれたことがあった。
果たし状ということから、同じく喧嘩する為に渡してきたのだろう。
ただ、果たし状に相手の名前がなかった。
目の前で渡してきた人物だから、名前がなかったのだろうか。
播磨が疑問を感じた瞬間、目の前の男性が口を開いた。
「この果たし状は、去る御方からのだ」
「去る御方、だぁ? 誰だよそいつは」
相手は目の前の人物じゃないらしい。
播磨は聞くと、モノクルの男性は肩を竦めた。
「おいおい。 お前さんは相手がどんなやつかも分かってないんじゃ、果たし合い一つ出来ない腰抜けか?」
どうやら腰にあるモンは飾りなようだ、と。
目の前の二人は共に播磨を見ながら笑い始める。
「なんだとっ……――いや、待てよ」
一瞬、頭に血が上がりそうになった播磨であったが、あることに気づく。
――おい、こりゃあ「三匹が斬られる」の"第一ニ五話 無名の果たし状"のセリフ……っ!
時代劇風の服装。
そして、聞き覚えのある台詞。
播磨は、「三匹が斬られる」という時代劇ドラマの大ファンである。
毎週見ているし、好きすぎて細かい台詞すら暗記しているくらいに。
だからこそ播磨はこれが「三匹が斬られる」のあるシーンだと気付いたのだ。
気付いた時には播磨は意識するまでもなく、自然と口を開いていた。
「おい……俺がいつ、この果たし合いを受けないと言ったよ」
それは、「三匹が斬られる」の主人公である万石が彼等に放った台詞だ。
「コイツをテメエらに持ってこさせたヤツに言っておきな」
――明日、会うまでに覚悟を決めておきな、ってな。
播磨はそう述べると、そのまま去って行った。
ちなみに、去るのも含めて時代劇のシーンと同じであった。
「どうやら上手くいったようだな」
「ムッ!」
【次回予告】
果たし状の場所へ向かった万石は、そこで驚くべき光景を目する。
そこには、刀を携える町娘の姿があったのだ。
彼女は何者であるのか。
また、何故万石に果たし状を渡したのか。
次回、『三匹が斬られる』
"第一ニ六話 町娘との果たし合い"