姪っ子は同級生!? そんな作品です。

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説明なし!
興味ある方はどうぞ!


くらす姪と

 薄暗い部屋に漂うカーテンの隙間から淡い光が差し込む。今は何時だろうか。俺は手元に置いてある液晶携帯の時計を見る。

 「はぁ……まだ早いじゃないか」

 時計は五時を指していた。高校に行く時間にはかなりの余裕があった。

 「…………」

 二度寝しても問題はないが、体が許してはくれない。体は早く動かしてくれと言わんばかりに軽かった。

 俺は布団から出て朝の行動を開始する。

 「ん? 強盗か、最近は物騒だな」

 小牧悠斗(こまきゆうと)の朝は新聞を取ることから始まる。次に顔を洗い、歯を磨き、朝食を作る。

 「塩、入れすぎたなぁ……」

 料理は人並み以下だが食べられるレベルだ。昼はコンビニで買うので作らない。夜は作る方が多い。

 俺は両親の提案で一人暮らしをしている。高校も近いので案外苦労はしていない。

 「よし、行くか」

 気が付けば八時、今回は早かったので洗濯もできた、これは夜干しをしなくてもすむので儲けものであった。

 俺は荷物を持ち、靴を履こうとすると。

 「――っと、電話電話!」

 急にポケットに入っていた液晶携帯が振動する。

 俺は慌てて液晶携帯を取り出して、確認する。

 「知らない番号……誰からだ?」

 友達のでも家族のでもない。俺は出るのを数秒ためらったが、何も始まらないと思い着信ボタンを押す。

 「はい、もしもし」

 誰かもわからないので少々弱腰で電話にでる。

 「もしもし、ゆー君ね!」

 「え? だ、誰ですか?」

 聞こえてきたのは若い女性の声。 俺はいきなり愛称で呼ばれて驚く。

 「やぁだ、ゆー君忘れちゃったの?」

 「いえ。俺の知る限り少なくともゆー君と呼ぶ人はいないもので……」

 物覚えには自信があるが、知りうる限り周りでゆー君と呼ぶ人はいない。

 「愛しいお姉ちゃんの存在すら忘れたの?」

 「お姉ちゃん……?」

 そういえば、一人暮らしする少し前に前に両親から写真を見せてもらった時があった。その時写真には母以外の金髪の女の子が写っていた。確か名前は……。

 「雪……姉?」

 「せーかい! ゆー君のお姉ちゃんこと、小牧雪菜(こまきせつな)よ!」

 思い出した。子供の頃、家の電話で喋ったことがある。両親からは結婚して家を出たって聞いた。

 「雪姉。一体どうしたの?」

 「いやー旦那と別れちゃってさ、今からゆー君のところに行こうかなって思ってね」

 軽いノリで爆弾発言をする雪姉。

 「えっ!? なんで俺の家知ってんの⁉ しかも俺はこれから学校なんだけど……」

 「あ。うちの娘もその学校に来るからよろしくね。それじゃ」

 雪姉は言いたいことだけ言って一方的に通話を切る。

 「…………」

 俺は聞きたいことが山ほどある電話の内容を片隅に入れて学校に向かった。

 

 

     ◆

 

 

 俺はチャイムの鳴る寸前に教室に着く。

 「おっ生真面目君が珍しいね」

 「うるせ。色々あったんだよ……」

 軽快に俺の背中を叩いてくる友人にため息をつきながら喋る。今度、電話で時間を取られることを前提に動かないといけないようだ。

 「悠斗、今日うちのクラスに転校生が来るんだよ」

 転校生? 珍しいことがあるもんだな。

 「そうか、実はうちの姪っ子も入ってくるんだよ」

 うちの学園は中高一貫なので時期も時期だが転校生自体が珍しい。細かい話は聞いていないが、姪っ子もこの学校に来るということは中学生ぐらいだろう。

 「へー。で、どんな子? 可愛いの?」

 「いや、電話で聞いただけだし……」

 俺は友人と喋りながら席に座り、その転校生とやらを待つ。

 「お? 来たみたいだぜ」

 時計の針が少し進んだ頃、担任が申し訳なさそうに入ってきた。

 「いやー、すまない。ちょっと話が込み合ってしまってね」

 「転校生だろ? 早く紹介してよ先生」

 隣の席の友人がそわそわしながら言う。

 「ああ、そうだね。入っておいで」

 「…………」

 その少女は静かに、長くきれいな黒髪を揺らし、控えめに入ってくる。歩幅は小さくちょこちょこと歩く姿は愛くるしい小動物のようだった。

 「今日、引っ越してきました――」

 その声はどこか聞き覚えのあるような安心感を纏っていた。

 「小牧春菜と申します。あの……よろしくお願いします」

 「小牧?」

 その名字に俺のロマンスは一気に冷めた。

 「じゃあ、春菜さんは悠斗君の隣の席が空いているから、そこに座りなさい」

 「わかりました」

 彼女は俺の隣の席に座る。

 「あの……悠斗さん、よろしくお願いします」

 「あ……よろしく」

 彼女は深くお辞儀をする。

 「それじゃあ、授業しようか」

 先生の一言でいつもの風景に戻る。

 「…………」

 彼女は何者なのだろうか? 仮にも雪姉の子供だとしても年齢が一緒なのだ、それに雪姉には似ていない。

 「あー……」

 少し考えすぎかもしれない。しかし先生の話が頭に入ってこないほど気になることがあるとは……まあ、この先生の授業の大半が雑談なので問題は無い。

 「で、あるからして……」

 気が付けば今日の授業も終わりに近づいてきた。俺は先生の話に耳を傾けながら教材をカバンにしまう。

 「あ、今日は雪姉と姪っ子が来るんだったな……」

 家の食料は確認済みだ。今回は早めに家に帰って夕飯を作ろうと思った。

 「悠斗さん、お帰りですか?」

 「え、ああ。今日はちょっと夕飯を作らないといけないんで」

 やはり女性と喋るときは緊張する。

 「自炊しているのですね。私も今日はお夕飯の買い物をしないといけないので。では……」

 彼女は近所にあるスーパーへと続く道に足を向ける。そこまで遠い距離ではないので問題ないだろう。

 「「また明日」」

 互いに軽い挨拶を交わし、その場を後にする。

 

 

     ◆

 

 

 「ふぅ……ただいま……」

 油の切れたブリキのような音を出しながらドアを開ける。

 「おぉう! おっかえりぃ!」

 二十四時間以内に聞いた覚えのある声が部屋の奥から聞こえた。

 「はぁ……」

 「なんでため息つくのよ」

 「聞こえるようについただけだよ、雪姉」

 雪姉は部屋を分けるドアから頭をひょっこりと出す。

 「もう飲んでるのか……雪姉」

 「良い酒屋が近くにあったからそこで買ったのよ」

 雪姉の顔は出来上がる寸前だった。

 「ほら、ご飯作るからお酒はやめて」

 「えー、お酒は命のガソリンなのよ?」

 「そんなガソリン燃やしてしまえ」

 今日イチの真顔だった。

 「ところでうちの娘に会った?」

 「いや、会わなかったけど」

 そもそも中等部の奴には会う機会は全くない。

 「まあ……そろそろ帰ってくる頃よ」

 直後、インターホンがあるのにも関わらず、ドアを静かに叩く音が聞こえた。

 「はーい」

 俺は鍵を回してドアを開ける。

 「こ、こんばんは」

 その時、入り口からは聞き覚えのある声が響いた。

 「き、君は確かうちのクラスの――」

 「おっ! ハル、こっちこっち!」

 ハル? いや、それよりもなぜ彼女が……?

 「貴方は確か悠斗……くん、でしたよね?」

 「そういう君は……春菜さんでしたっけ?」

 驚きしかない。普段から名前を覚える気のない俺が名前を覚えていること、そしてこの状況に俺は冷や汗をかいていた。

 「なに? 知り合いなの?」

 酔っている雪姉はこの状況に、頭に疑問符を浮かべている。

 「雪姉、この人は今日知り合った人で……」

 「お母さん、この人は席が隣の人で……」

 俺と彼女はは互いの言葉に息を詰まらせた。

 「んー……?」

 「お、お母さんって言ったのか?」

 「貴方こそ今、雪姉って呼んだの?」

 互いに確認をとる二人、お酒を隠れて飲んでいる雪姉。俺は今起きていることがようやく理解できた。

 「姪っ子って君のことだったのか……」

 「貴方がお母さんの弟だったんですね……」

 彼女は同じクラスにいた。つまり彼女は俺と同い年か月違い。こうなると言いたいことは一つ。

 「雪姉、一体いくつで産んだんだ?」

 「ゆー君が産まれた再来月よ」

 雪姉の年齢は三十四歳、つまり十七のときに産んだことになる。

 「言うのが遅くなったわね。この子は春菜、正真正銘私の娘よ」

 「…………」

 まて、納得できた部分とそうでない部分があるぞ。

 「そして、こちらが私の可愛い弟のゆー君です!」

 あだ名で紹介すな。

 「改めましてよろしくお願いします。えと……」

 「あー、好きに呼んで構わないよ」

 とりあえずそわそわしている彼女にお茶を渡す。

 「では、悠叔父さんで――」

 「ごめん、ちょっとくらいは考えて」

 流石に同い年に叔父さんと呼ばれるのは心にくるものがある。

 「じゃあ……悠兄さん?」

 心に引っかかるものはあるけど叔父さんよりマシである。

 「アッハハハッ! 悠兄さん、だって!」

 「笑うな」

 俺は笑い転げる酔っ払いに括をいれる。

 「で、どういうことか説明してもらおうか雪姉」

 「実はね……」

 雪姉は一度沈黙してから話し始めた。

 「離婚しちゃったの、旦那の浮気が原因でね」

 「母さんたちは知ってるのか?」

 「いや……」

 おそらく母さんたちには内緒でここに来たのだろう。

 「母さんたちが許してくれると思う?」

 雪姉は母さんたちに結婚すると言って、家を出て行っている。勿論、母さんたちは反対している。それは子供のころに聞いた。

 「それでも話はするのが筋だろ」

 「ハルも前の学校でいじめられててね、これを機に実家に帰ろうと思ったんだけど……」

 「話す勇気がなくて幼馴染に頼んで電話したと?」

 「うぅ……」

 図星をつかれた雪姉は顔を俯かせる。

 「母さんたちには俺が何とか言っておくよ……」

 そんな姉の姿を見ると全てがどうでもよくなってきた俺は、とんでもないことを言ってしまった。

 「え……?」

 「だから俺が頼んでみるって言ったんだ。 俺なら少しぐらい聞いてくれる筈だからな」

 父さんも母さんもそこまで厳しい人ではない筈だ。

 「とにかく善は急げと言うし、電話してくるね」

 俺は電話をするために一旦、外に出る。

 「ありがと、悠斗」

 

 

     ◆

 

 

 「お金は工面してくれるってさ雪姉。ただ当分は俺の家に住めだってさ……」

 うちの家系はどうもクレイジーな人が多い気がするのは何故だろうか。

 「本当にありがとね、ゆー君」

 「ありがとうございます」

 「あー、感謝は程々にして。明日も学校だから食事にしよう」

 俺は献立を考えつつキッチンに向かう。

 「じゃ、じゃあお姉ちゃんも手伝うよ!」

 「座ってなさい。刃物飛ばされたらたまらない」

 「ひどい……」

 母親に聞いた話なので不確かだけど、この性格からして事実だろう。

 「あの、お手伝いします……」

 「あ、いや! 座ってて」

 「そうはいきません、私も家族の一員なんですから。 料理もできます!」

 「え? あ、はい」

 この子、意地の通し方は雪姉にそっくりだな……。

 「まあ、これからよろしくな。えーと……」

 「ハルでいいですよ、悠兄さん」

 春菜の笑顔はちょっと母親の面影がある。無邪気で優しく、親子三代同じ顔をしていた。

 「じゃあハル。早速……」

 「何でしょうか!」

 春菜は子供のように背筋を伸ばして聞いた。

 「そこで既に三本目を空けている君の母親を止めて欲しいんだ」

 「え!? ああっ! お母さん飲みすぎだよ!」

 世の中には空から女の子が降ってくるとか、宇宙から来た少女とかが珍しいって言う。それは非現実的であるからだろう。

 でも、この状況こそが一番珍しいと思う。非現実的とは言い切れず現実的とも言えないこの状況こそが、一番珍しく、一番ファンタジーだ。同い年の姪と一つ屋根の下、俺の心は新作ゲームを予約する直前のように昂っていた。




作品をご覧くださり、ありがとうございました。
この作品はボケっとしているときに天から「クラスメイトと姪っ子を合わせたクラス姪トを書きなさい」と言われたことが始まりです。
設定にはかなり難がありましたがそれなりの作品になったなと思っています。


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