蒼穹のファフナー ~The Bequeath Of Memory~   作:鳳慧罵亜

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2週間振りの更新。
何とか上手く書けているといいのですがね。

それでは、どうぞ。


崩壊

夢を、見ている。

 

暗い海の底に、僕はいた。

 

何も無く、何処までも広がる暗い海底は虚無感を強く感じさせる海底に僕は立っている。

 

生き物は僕以外に存在せず、生き物どころか岩も、何かの残骸すらも存在しない。

 

ただ、踏んでいる場所が砂で、それがただ無限に広がっているであろうと言うだけの、それだけしかない、虚ろな海の底なのだ。

 

いや、一つだけ、一つだけ確かに存在するものがある。それははるか遠く暗い闇の深奥、その先にーー一条の光が差し込んでいた。

 

その光を目指し、独りでにこの足は歩を進めた。進んでも進んでも、一向に近づく気配の見えない光を目指して何時迄も、何時迄も、決して立ち止まることなく進んでいる。

 

そうして進み続ければその果てに、あの光の下に届くと信じてそして信じながらも届くことは無いと理解して、それでも永劫進み続けるんだ。

 

いつかは、やがていつかはと。

 

そう、これが僕の「心象の海」。何も存在しない、1人孤独の中を虚無の先に見える光を目指して永遠に歩き続けている。そんな光景が僕の心象なのだ。

 

ファフナーのパイロットに行う検査の一つ、メディテーションの結果には以下の種類がある。

 

1. 陸地や船があって「海の上」に立っている。

2. 「海の表面」を泳いでいる。

3. 「海の中」にいて水面を見上げている。

4. 遥か「海の上空」を飛んでいる。

5. 恐ろしく深い「海の底」に沈んでいる。

 

以上5種類あるカテゴリ。この中で4番、及び5番は特殊なパターンで、滅多に該当する人間はいないそうだ。そしてその中で僕だけがこの、第5のパターンを示した。

 

このパターンを示す人物は、主に強迫観念等の何かしらの強い、それこそ人格形成にまで影響している感情を抱えている人間が示すもの。僕は、自身に対してある種の強迫観念を抱えていたことがある。これはその名残り、そして癒えることのない疵である。

 

僕は自身に対して、存在の価値を持っていない。何かの為に生きることでしか価値を見出すことができなかった。だから他人と距離を置きながら、自分に価値が有るのだろうかと、探していたんだ。

 

その結果がこの心象の海。自身に価値があるか無いかすら判らないのでは、自分を肯定する事も、まして否定することすらできずに、ただ水流に流される枯葉のように生きていた。何時までも流れの赴くまま、やがて流れの勢いに負け無残に砕かれ朽ち果てるまで、そうして生きて死ぬ。そんな生き方しかできなかった。

 

幸運にも枯葉は砕けることなくこの島に来て、皆と触れ合い、カノンと想いを重ねることができたから、今の僕は既に自分の価値を定めることができたけど、この心象は変わらなかった。それは結局の所、定めた価値は、本当に僕のものだと言えるのか、それが判らないからだろう。

 

つまる所、何も変わっていない。

 

自分に価値を定めた結果が、本当に自分に価値を認めるようなものでない限り、この水底は変わらないだろう。

 

ああ、でも―――

 

もし、この僕の心象を根底から破壊するような、そんなことが出来るとしたら―――

 

それは、なんて―――

 

――――

 

「ん―――」

 

トトト、と言う細かく何かを叩くような音で、目が覚めた。どうやら仮眠のつもりが結構深く寝入っていたようだ。やや重い頭を持ち上げながらそう感じた。

 

少なくとも、夢すら見ない(・・・・・・)程度には深度は深かったのだろう。

 

時刻は16時。時間にしておよそ2時間弱寝ていたことになる。流石に徹夜するにはだいぶ不足気味だが、夜までなら十分思考精度は保つことはできる。今日は、早いところ寝たほうがいいかもしれないけれど。

 

「お、起きたか」

 

声が聞こえ、その方向へ振り向くと、夜の営業の準備をしている一騎がいた。こちらに顔を向けているが、作業は中断することなくその手は包丁を動かしている。どうやらあの包丁がまな板を叩く音で目が覚めたようだ。

 

「おや、邪魔をしてしまいましたか?」

 

「平気さ。なんなら開店まで寝ててもいいぜ?」

 

一騎の言葉に僕は首を振る。流石にまだ仕事も終わっていないので、このままぐっすりと言うわけにはいかない。まだまだ仕事が残っているんだ。

 

一応僕も社会人。仕事を不用意にサボるわけには行かない。

 

「お気持ちは嬉しおですが、そうもいきません。カノンにもまだ教えないといけないことが有りますしね」

 

そう言って立ち上がり、店を後にする。そしてドアノブに手をかけた時、一騎が「なあ」と声をかけてきた。

 

「なんでしょう?」と応えながら振り向くと、そこには先程とは打って変わり、深刻そうな表情を浮かべた一騎がいた。

 

作業の手も止まっているあたり、真面目な話をする気だろう。僕はドアノブから手を離し、体を一騎に向けなおす。

 

「お前の作ってる新型のファフナーだけど」

 

そう切り出した一騎。その言葉の先はある意味予想通りだったといえるだろう。

 

「それが完成したら、俺もまた、ファフナーに乗れるか?」

 

「無論です」

 

対する僕の、その答えは即答だった。考える必要もなかった。

 

「僕のファフナーの設計思想は『1秒でも、長く戦い続けること』。そして其れには、もう現在のノートゥングモデルに搭乗出来ない僕が乗れる事を前提にして設計して有ります。当然貴方も乗ることはできるでしょう」

 

これは疑いようのない事実。シナジェティック・コードの形成がノートゥングモデルに搭乗が出来ないほどに劣化している僕と違い、一騎は未だパイロット達、候補生を含めた全員の中でも最も黄金律に近い。

 

マークザインと言う唯一性に加え、視点を世界規模に広げてもトップクラスのファフナーの戦闘技術を持っている一騎。既にマークザインは封印が決定しているが、引退したとはいえ、彼自身の能力は非常に高い。マークエルフを再建造してもコストに対してお釣りが来るほどの戦力になるだろう。

 

これをみすみす捨て置いてしまって良いのだろうか。確かに部隊を預かり、運用する身としては、そう思っている。

 

「ですが―――」

 

しかし、否だと自分に言い聞かせるように今までの僕の言葉を否定する。今のは軍人としての僕の意見。そしてこれは人としての、僕の意見。

 

「以前も申し上げた通り、貴方の引退は部隊、及び医療部の総意です。貴方はもう少し、戦い以外の自身を見つけるべきだと、皆に言われたでしょう?」

 

「あ、ああ……」

 

そんな僕の言葉に対し、一騎は不承不承と言った形で相槌を打つ。が、僕は僕自身の為に一騎に追い打ちをかけるべく言葉をつなげた。

 

「タイムリミットを気にしているのでしたら、そう悲観したものでは有りませんよ」

 

「え?」

 

図星を突かれたのだろう。一騎の表情が固まった。僅かに沈黙が場を支配する。やっぱり、と僕は内心でため息をついた。

 

「なんで……」

 

「どうせさっきも皆城総士と似たような会話をしてたんでしょう?でなければ貴方が僕にファフナーの事を聞くはずがない」

 

その指摘に、一騎はハットしたように表情を変えた。僕は今度は実際にため息を吐いて、言葉をつづける。

 

「3年もあれば技術は躍進します。現にノートゥングモデルも今は第4改良型が建造されています。医療技術もまた同じ。今は千鶴だけじゃなく剣司も携わっていますからね。皆城総士は可能性はある程度に言葉を留めたかもしれませんが、そう遠くないうちに新しい治療法も出来ますよ」

 

最後に「これは楽観的な見かたではなく、客観的な意見です」と付け加えておく。そう、これは事実だ。

 

現在、竜宮島では新型の同化抑制剤(アクティビオン)や、より安定させたフェストゥムゲネなどが開発されており、ニョルニア(真壁紅音)により齎された膨大なデータの解析が、今なお続けられている。

 

現在解析されたデータの中でも、未だその大半が実用域に至ってはいないものの、実用化されたものによる技術の発展が、その解析を後押しする循環柄形成されつつある。いずれ近いうちに新たな治療法が発見され、3年も経つ頃にはパイロット用の正式な医療として役立つ時が来る。

 

最後に一騎が自身のタイムリミットを気にするのもわかるが、その為に頑張って居る人達をもう少し信じてみてはどうでしょうか?と言うと、一騎は少しだけ表情を崩した。

 

「いつも、手厳しいよな」

 

「歯に絹を着せた言葉では薬にもなりません。辛辣でも事実を語らねば、為にはならないでしょう?」

 

僕の発言に苦笑いする一騎。

 

勿論、これで彼が納得し現役復帰を諦めてくれるとは思ってはいない。タイムリミットは刻一刻と迫っており、日に日に彼の焦燥は増していく。「何かをやり始めて、けど、それがやり残したことになるのは嫌なんだ」と、かつて彼はそう語った。喫茶店の店員をしている理由も、単に料理が向いていると言うだけではない。自分の残り少ない時間で、何も思い残しをしたくないのだ。

 

やり残しがあったまま、時間が尽きてしまうのは、辛いから。

 

だから積極的に何かを始めようとはしなかった。皆城総士にファフナーパイロットの教官も勧められたが、断ったこともある。

 

全く、悲観に過ぎますよ―――貴方は。

 

言葉にはしなかったが、そう思ってしまうのは、けっして僕だけではないはずだ。

 

「それでは、また」

 

そう言って、再び喫茶店のドアノブに手をかけた時だった。

 

……ブ……ン

 

普段は使用されていない筈のテレビが、ひとりでに起動した。

 

「え?」

 

「まさかっ」

 

テレビが起動した音に驚き、振り返る2人。

その画面を見た瞬間、一騎とレイはまるで時が止まってしまったかのように硬直した。

 

何故なら、それはーー

 

『Alvis』

 

そう記された紅い画面は、平穏の終幕を意味していたから―――。

 

 

――――

 

 

その画面を見た島民の行動は素早かった。

 

例え今日の漁を終え、皆で団欒を楽しんでいた漁師達も。

 

定食屋で顔馴染みの店員と談笑していた男達も、店員も。

 

自宅で漫画を手がけていた作家と、アシスタントも。

 

誰もがテレビに、パソコンのモニターに、突如表示されたその画面を見た瞬間、立ち上がり移動を開始した。

 

とうとう、この日がやってきてしまったのだ。

 

何時迄も続くと、続いて欲しかったと誰もが願ってやまないこの平穏が音を立てて崩れたこの瞬間を、誰もが理解したのだ。

 

大人達は周囲の人たちと一緒に、子連れの親は子供の手を引き、或いは抱えながらでも移動していた。

 

そしてそれは、彼らも同じ。

 

「姉ちゃん、行ってくる!!」

 

「あ……広ちゃん!」

 

少年は姉に手を振り決意に満ちた表情で、でも何処か軽快に走り出す。

 

「お婆ちゃん、あたしいってくる!」

 

少女は、店内の椅子から飛び上がり、そのまま店に振り返らずに走り出す。

 

そう、彼らは島を守る戦士達。財宝を守る為、竜へと変貌した巨人の乗り手。今まさに訪れる危機を救うのが彼らの役目なのだから。

 

そして、役目は違えど彼らもまた―――。

 

「剣司!

 

「ああ!!」

 

学校の保健室で談笑していた近藤剣司に要咲良。剣司は咲良の手を引きながら学校を後にする。

 

そして、喫茶店も同じ。

 

「レイ!」

 

「はい」

 

2人もまた、喫茶店を出るとすぐに走り出した。短距離走選手のような速度で道を走る彼らの表情は、他の人たちと同じ、決意に満ちたものだった。

 

――――

 

竜宮島。レイと一騎は剣司達と合流し地下に存在する緊急用移動設備バーンツヴェッグを用いて慶樹島に移動する。その内部で、レイは内部の通信装置で中央管制室第1CDC『パーシバル・ルーム』と通信を試みていた。

 

「―――状況は?」

 

『現在防衛圏外に人類軍大型輸送機が接近中。また、ヴェルシールド圏外にて質量不明のワームを観測しています。ソロモンに反応はまだありません』

 

応答に応じたのは女性で、彼もよく知っている人物だった。ベラ・デルニョーニ。元人類軍ファフナーパイロット。僕と同じ境遇で人類軍からアルヴィスへ帰属した。現在はCDCでオペレーターを勤めている。

 

「輸送機の機種は?」

 

『機種はC-300SG(スーパー・ギャラクシー)です』

 

ファフナー専用の長距離輸送機……戦闘部隊か、補給部隊か。どちらにせよ、相手は戦闘力を持っているなら。

 

「了解。ファフナー部隊の出撃準備に入ります。指令につなげてください」

 

『解りました。』

 

彼女の声が聞こえた後数秒のコール音が鳴ったあと、今度は男性の声が聴こえてくる。

 

『私だ』

 

声の主は真壁史彦。現竜宮島総司令を勤めている。真壁一騎の父親だ。

 

「レイです。人類軍ですが、恐らくファフナーを4、5機は抱えていると推測、進言致します」

 

『判るのかね?』

 

「スーパーギャラクシーは大型の輸送船ですが、ファフナー部隊の輸送専用機です。従ってファフナーが複数機存在しているものと推測できます」

 

『なるほど、了解した。ではレイ君は部隊の出撃準備に入ってくれ』

 

「了解しました」

 

通信が切れ、今度はもう1機、パイロットが搭乗しているバーンツヴェッグへ通信をかける。

 

数コールの後、出てきたのは西尾暉だった。彼の声以外に複数の声が聞こえてくる。どうやら割とリラックスした状況のようだ。なにやらメットがどうのと聞こえてくる。メットとは、あのゴウ何とかのアレですかね?

 

『はい。ファフナー部隊です』

 

「暉君ですか。ちょうどそこのモニターも出撃要請が入ってきていると思います。到着次第、出撃準備を」

 

『はい!』

 

「それと、水鏡美三香、御門零央、鏑木彗の3名は待機です。到着次第第2ブリーフィングルームに向かうようにお願いします」

 

「はい。解りました」

 

そう言って通信を切断、振り返るとそこには一騎と剣司、咲良の3人が沈痛な面持ちで椅子に座っていた。

 

「もう、か……」

 

「よりにもよって、ね……」

 

「……ああ」

 

まるでお通夜の様な雰囲気で、あちら(パイロット組)とはだいぶ違うなと思い、溜息を吐いた。

 

確かに招かれざる状態だ。だが、パイロットたちがリラックスしているのにこちらがお通夜でどうするのか。バックスがお通夜だと現役の向こうにまでいらぬ不安を与えかねないというのに。

 

仕方ないので、ちょこっと発破でもかけてみますか。

 

「みなさんこれからお葬式にでも行くつもりですか?」

 

「なっ」

 

「れ、レイ!」

 

「うっ」

 

三者三様の反応で実によろしい。その調子でパイロットたちを笑って見送ることが、一番なのです。無事、バーンツヴェッグが到着し、出入り口の扉が開く。3人よりも一足先に扉に手をかけ、振り返った。

 

「僕らは引退して、現役が後輩たち何ですよ?その僕らがこんなに暗かったら彼らに余計な心配と不安を与えます。「僕らで本当に島を守っていけるのか」なんて、思わせたら守れるものも守れません。そこのところ、しっかりしてください」

 

と、言ってから走り出す。これから向かう先はパーシバル・ルーム。ファフナー部隊の隊長として、務めを果たしに行く。その姿を見た3人は顔を見合わせてそれまでの雰囲気から、多少は明るい表情を作った。

 

「レイのああいう切り替えは軍人て感じだな」

 

「ホント、ああいうところはカノンとそっくりだよね」

 

「ああ、俺たちもちゃんとしないとな」

 

そう言い合い、彼よりも少し遅れてバーンツヴェッグを飛び出す。彼らが向かう場所は第1ミーティングルーム。これから起こる戦いの様子を見て、後輩たちが命をかけて戦い、自分たちは見てるのみというその歯がゆさに耐え、かつて戦場で戦った先達として助言やアドバイスをすることが、彼らの戦いなのだ。

 

それは大人たちでは行えない。かつてファフナーに乗り、戦士として島を守り続けた彼らにしかできない、辛い戦いだ。

 

――――

 

「遅れました!」

 

CDCへ駆け込むレイ。バーンツヴェッグから走り通しできたためか、少し息が上がっていた。既に正面の大型モニターには多数の映像が映し出されており、偽装鏡面も解除され、ヴェルシールドが展開されているのが見える。さらに中央の表示には「バード」と呼ばれる海猫に酷似した無人観測機が撮影したと思わしき竜巻のようなものが見える。また、防衛圏外で演習を行っていた戦闘攻撃機「ケストレル」からの映像も映し出されている。

 

「かまわん。それで、どう思うね?」

 

史彦は振り返ることなく言って、レイに尋ねる。レイは、各種の映像を見て数秒考えた後、口を開いた。

 

「C-300は今は何とも言えません。ただ、輸送機1機のみというのが気にかかります。おそらく、特殊部隊かと。それなら以上の戦力はあると思います」

 

「うむ。それと、日野家の美羽君から「輸送機を助けて」と通信があったが、どう思うかね?」

 

「……考えにくいことですが、美羽ちゃんと同じ、または近しい能力を持った人物が、輸送機に搭乗している可能性があります。その人物と美羽ちゃんが何かしらの交信をしていたら、ここへ正確にくることも可能でしょう」

 

「……なるほど」

 

レイの意見を聞いた史彦は思案するように右手で顎を支えるようにした。対するレイは、今判明している現状から人類軍側の思惑や、これからの部隊運用について考えていた。

 

もし特殊部隊だとすると、どのような部隊が来ている?輸送機単機でこの海域に来ているというのは明らかに不自然だ。ここは太平洋のど真ん中。機体の輸送にしても護衛機が着くはずだし、そもそも太平洋を横断、もしくは縦断するような航路を取るはずはない。この島を目指している線もあるが、だとしたらどのようにして島の所在を知った。

 

偽装鏡面は強力なγ線(ガンマ)以外は全て遮断するからレーダーでは発見することは不可能。目視は論外。赤外線でも不可能。熱探知も遮断する。

 

ならば、美羽ちゃんがここまで呼び寄せた?だとしても一体どうやって……やはり、彼女と同質の力を持った誰かが輸送機に乗っている……?

 

『飛行中のC-300へ。こちらFSE。コード『アロウズ』応答せよ』

 

ケストレルに搭乗している女性。遠見真矢が件の輸送機に接触、通信が試みられた。その通信はこのCDCにまで繋げられている。それを聞いて、レイは一度思考を中断した。相手の声や言葉から、その思考を読み取ろうとしたのだ。

 

『通信に感謝する。こちらC-300、コード『ケートス』人類軍南アジア艦隊所属、特殊航空連隊『ペルセウス中隊』』

 

聞こえてきた相手の声は男性。低いテノールで、落ち着いた雰囲気のある声だった。そしてレイはその声に、どこか聞き覚えがあり一瞬眉をひそめる。

 

『ケートスへ、誘導に従ってください』

 

『アロウズへ、全面的に従う』

 

が、考える暇もなく通信は続く。レイは声の主が誰なのか、考えるのをすぐに止め、当初の目的のために通信お内容に集中する。

 

『代わりに、貴官の指導者に伝えて欲しい。我々の望みは、お互いの『希望』を出会わせることであると』

 

「―――初めからここへ来ることが目的か」

 

「希望、だと……?」

 

レイがその発言から目的を察知、史彦はその先にある言葉の意味を捉えていた。

 

やはり、美羽ちゃんと同質の力を持った誰かがあの輸送機に―――けれど、南アジア艦隊は知っているけれど、ペルセウス中隊……?聞いたことがない部隊名だ。

 

ペルセウス……ギリシア神話に伝わるコルゴーンの怪物を倒した英雄の名を冠する部隊。先程のケートスというコード名もペルセウスに関係のある鯨座から取ったものだろう。

 

それにしても、あの声、昔聞いたことがあるが……思い出せない。

 

だが、これだけは言える。あの部隊はへスター・ギャロップ事務総長以下高等幹部の息のかかった部隊ではない。

 

もし、事務総長の息のかかった部隊ならば、フェストゥムと繋がれるあの力。決して見逃すはずはない。異端として排除するか。もしくは秘密裏に人体実験でもするか。少なくとも、こんな小さい島に接触させるはずはない。

 

この島を排除するために寄越したとしても、背後に核攻撃部隊を控えさせているはず。だが、現在はその影は見受けられない。

 

少なくとも、敵ということではないと判断し、通信装置を起動。ファフナーブルグへ繋ぐ。

 

「ブルグへ、ファフナーのスタンバイは?」

 

『すべて完了している。あとはパイロット待ちだ』

 

応答したのはカノンだった。思わず顔に笑みが浮かびかけるが、非常時なのでこらえて、指示を出す。

 

CDCでは今も慌ただしく変化する状況を逐次報告されていく。それを聞きながら、最適な部隊の展開位置を推定していく。

 

「了解しました。ではパイロット達が搭乗次第ナイトへーレ12、13、14、15番を接続してください」

 

質量不明のワームが存在している場所から、戦場となる場所を彦島への最短距離位置を指定する。

 

後ろを振り向くと、既に皆城総士がスタンバイしていた。

 

「やれるかね?」

 

史彦の問いに彼は「はい!」と力強く応える。その目には強い覚悟が見て取れた。

 

「お願いします。こちらも可能な限りバックアップしますが、あなたの指揮が頼りです」

 

「任せてくれ」

 

皆城総士はそう言うと後ろへ振り返り、後ろにあるのような柱へ歩いていく。その先にあるのは、ファフナーの連結型指揮管理システム『ジークフリード・システム』。 シナジェティック・コードによって、ファフナーのパイロットと脳の皮膜神経細胞を通して繋がるシステム。搭乗者はパイロットの精神状態、負傷度合い戦闘形成等を把握し、部隊全体を指揮管理、直接指揮をすることができる。また、その繋がりによって強固な対心防壁を構築し、敵の読心能力に対抗することができる。

 

が、欠点も存在し皮膜神経細胞を通してつながるため各パイロットが受けたダメージを自身がフィードバックしてしまう。それにそもそも各パイロット全員の情報が流れてくるわけだから、それを処理するために搭乗者の脳に多大な負荷をかけることになる。

 

それ故、現状の適合者は皆城総士のみとされていた。現在はもう1人、適合者が居るが、現在メインのシステム担当者は変わらず、皆城総士だ。

 

「ファフナー全機、出撃準備完了!!」

 

ちょうどいいタイミングで、出撃準備が整ったようだ。ジークフリードシステムも、既にクロッシングの用意が完了している頃合だろう。

 

「出撃!」

 

史彦の号令が下り、ファフナーが出撃する。正面モニターの端に各ファフナーがナイトへーレの門を通っていく映像が映し出されていた。

 

「輸送機、着水まで後30秒」

 

「グレース及びアロウズ、間もなくワームへ接触します!」

 

「ワーム質量固定、単体密度33、原子量28。フェストゥム、実体化します!」

 

CDCの報告を聞いた瞬間、全体に最高潮の緊張が疾る。守られてきた平和は崩壊し新たな戦いが今、始まった。




感想、意見、評価、お待ちしています。

レイ君。この物語で君の事をかなり抉り出すから頑張ってねー。

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