蒼穹のファフナー ~The Bequeath Of Memory~   作:鳳慧罵亜

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いつになく短くなってしまった。

アニメ第4話もこれで終わりになるのかな?いや、もう少し続くか。
にしても4話でこのペースか……まだまだ完結までの道のりは遠いなー

では、どうぞ。


通達

時刻は9時を回ったところ。

アルヴィスを後にしたレイと真壁史彦、遠見千鶴の3名は海岸線沿いを歩き、竜宮島本島の南端にある港に訪れていた。港から街道を上り、例のファフナーパイロット新候補者3名の両親へ通達に行く手筈になっている。

 

港に入ると、漁は既に終わっている様子で、船が戻り既にロープでつながれている。漁師は漁で揚げた魚を籠に入れ市場に運び入れ、業者がそれらを引き取る交渉を行っていた。

 

市場と言っても、立地的には小さい島なので、そう大した建物ではなく木組みにトタン屋根の簡素な造りだが、この島の人たちには丁度いい物だろう。

勿論、いい意味で。報告によると、現在航行している海域に入ってから、魚の漁獲量が減っているらしい。この海域は深度は浅くはない。海流も悪くはないはずだが、敵の襲来と関係があるのかまでは不明。現在調査中と言う状態だ。

 

中を進むと、漁師の一人がこちらに気付き、こちらに近づいてきた。

 

「真壁指令」

 

「すまない。水鏡君はいるか」

 

「有子さんですか。あの人ならあっちに……」

 

史彦が用件を伝えると、漁師の人は3人を先導し市場の中を通っていく。史彦等3人も市場の屋根の下へ入っていった。距離的には全然近い、港の船着き場。車止めに片足を乗せて、堂々と言った風情で海を眺めている人がいた。

 

「―――チッ……この辺の海は収獲が悪いね」

 

「有子さん!」

 

「あーん?」

 

呼びかけられた人物はこちらにふり返った。つなぎ姿にその立ち振る舞いから初見の人は男性と間違える事も多いだろうが、歴とした女性である。

 

彼女は水鏡有子。新型ファフナーのパイロット候補生水鏡美三香の母親だ。

 

「真壁指令と遠見先生たちが」

 

 

そう彼女に呼びかける漁師の後ろには、市場の日陰に入る場所に真壁史彦、遠見千鶴、そして漁師の陰に隠れて見えないが確かにもう1人いた。遠見千鶴もそうだが、普段は自宅で陶工の仕事かアルヴィスの総司令を務めている真壁指令がこのような場所に来るのは非常に珍しい。

 

何事かと思い、首を傾けて自分を呼んだ漁師の影になっている人物の陰になっている人物を見る。

 

「―――っは!?」

 

その人物を見た瞬間、彼女の中でピースは繋がった。

 

レイ・ベルリオーズ。元人類軍に所属していた、5年前島にやってきた少年。その柔らかな容姿と物腰から様々な人からも信頼の厚い人物だ。そして、ファフナー部隊の部隊長をしている事を聞いたことがある。

 

その人物と、島の総司令がやってきたと言うこと。それが意味する事とは―――

 

「水鏡君。話があるのだが、いいかね」

 

「……はい」

 

彼女の娘、水鏡美三香がファフナーパイロットに選出されたと言うことを、市場にいた誰もが察した。

 

――――

 

4人はトタン屋根の下、日陰に入っていく。その様子を市場にいた誰もが心配そうに見つめていた。その誰もが、真壁指令等がここにやってきた意味を等しく理解している。特に水鏡有子の家庭環境を知っている人物は、顔を伏せた者までいた。

 

「既に、実地訓練に入っている」

 

そう言って、史彦から渡された娘の顔写真の入った赤い電子プレートをゴム手袋をつけたままの、震える手で受け取る有子。それだけで、彼女の気持ちを推し量るのには十分だった。

 

震える手のままでプレートを一瞥した有子は「でも……」とその胸中を明かす。

 

「でも美三香はあたしの宝物なんだ!」

 

彼女の左手、先程まで被っていた帽子を握る手が強くなり、彼女の心を表すように帽子はひどくゆがみ、ゴム手袋はこすれ合いいびつな音を立てる。

 

「国も失って……もう、あの子だけ」

 

「有子さん。お気持ちは、わかります」

 

有子の言葉に千鶴が応える。千鶴もまた、自身の娘が5年前から今なおファフナーで戦場に出続けている。竜宮島ファフナー部隊の中でも、最高クラスの実力を誇る真矢ではあるが、戦場と言う極限の場において実力は生存の物差しになるが絶対ではない。彼女もまた、すぐ後ろに迫る「死」を振り切り続けているだけのだ。それを見守る千鶴もまた、水鏡有子と同じなのだろう。

 

「戦闘の生存率……過去、最高だってね?」

 

そう言う有子の声は恐れを感じさせる、震えた物だった。

 

「前回も全員無事だった……絶対、大丈夫だろう?」

 

声は震え、その表情は無理をした悲痛な笑顔を浮かべ、訴えるように身を乗り出した有子。2年前の、皆城総士を取り戻す戦いを挙げて、その事実に縋る言葉。親として、娘を戦場に送り出さなければならないその悲嘆は、胸に刺さるように感じた。

 

ですが、僕はその想いを切り捨てなければならなかった。

 

「戦いに、絶対はありません」

 

例え、それが残酷な物だとしても。僕はそこから目を背けるわけにはいかなかったから。

 

「誰であろうと、常に死のリスクを背負うのが戦場です。ですが―――」

 

でも、それでも。有子さんの言葉を真実にするために、この後に続ける言葉には、僕自身の願望と、祈りを乗せた。

 

「退役したパイロット達全員を含む、考えうる限り最高のバックアップは約束します」

 

「おかしいだろ……」

 

僕の言葉に、彼女は眼に涙を浮かべ、顔を逸らす。

 

「……子供に守らせるなんて」

 

涙を流すのを必死に堪え、それでも目じりに浮かんだ涙を含んだ声は、その場にいる全員の耳に、深く浸透していった。ファフナーは未発達な脳を持つ子供にしか動かすことができない存在。だが、その前提こそが何よりも破綻してしまっている。

 

未来を預けるべき子供を、戦場に送り戦わせている。その事実が、誰の胸にも突き刺さる棘となっていた。

 

――――

 

 

「大丈夫かね。レイ君」

 

水鏡有子への通達が終わり次の両親へ向かう中、史彦はレイに尋ねる。

 

「『ファフナー隊の隊長として、パイロットを戦場に送る。その責任は果たさなければ』と言う君の意見を尊重したが、本来ならば私たち大人がすべきことだ」

 

そう、本当ならば、この仕事は真壁指令と千鶴さんの二人で行うはずのものだった。それを僕が無理を言って参加させて貰ったのだ。この仕事は、いわば汚れ役に近い。パイロット候補生の親の中には、怒り我々を罵倒する者もいるかもしれない。それらを甘んじて受けとめ、それでもパイロットの安全を可能な限り約束する。その理由は今真壁指令が語ってくれた通りだが、もう1つ理由は存在している。

 

「いえ、やはりデータ以外にも、両親の反応を直に見なければ、パイロット達のメンタル面でのカバーが出来ませんから。それに……」

 

僕は1度言葉を切り、後ろを振り向いた。

 

「子供を心配する親の姿を見るのは、僕は少し嬉しかったりするんです」

 

子を守るのは親の役割。それが逆になる事はない。在ってはならない。

 

既に両親のいない僕にとって、子供を心配し涙を流してくれる親見て、思ったことが1つある。罪悪感と、少しだけ救われた気分。

 

やっぱり、親は子供が愛しいのだと。昔、僕をフェストゥムから逃がす為に僕の手を引っ張ってくれた母と、その母と僕を庇いながら走っていた父親を、思い出したのだ。

 

「……そうか」

 

真壁指令はどこか納得した様子で頷いた。次の候補者の両親の居る場所まで、もうすぐそこだ。

 

油蝉の鳴き声が響き渡る住宅街の一角にある竜宮警察署。そこに、パイロット候補の父親がいる。

 

駐在している1人の警官。鏑木充は突然の訪問者に、驚いた様子だった。

 

「真壁指令!出撃命令ですか!?」

 

真壁指令は懐からプレートを取り出す。

 

「お前ではない。鏑木」

 

そう言って、取り出したプレートを彼の座っている席の机に置く。それを鏑木充は、少し怪訝そうな表情でそのプレートに視線を落とす。その直後、更なる驚愕と共に、眼を見開いた。

 

「――――っな!?」

 

鏑木彗。彼の息子の写真名前が、赤いプレートに記されていた。

 

――――

 

その後、真壁史彦と鏑木達は、自身の妻が経営する自宅兼美容室の『鏑木美容室』を訪れ、勤務中であった妻の鏑木香奈恵を連れ自宅スペースとなっている2階へ訪れていた。

 

「命令さえあれば、何処へでも行きます」

 

リビングのテーブルに対面するように座る司令達と、鏑木夫妻。鏑木香奈恵は真っ直ぐに指令を見据えて語る。

 

「戦いに出て還らなかった、娘のように」

 

部屋のリビングの壁には、波打ち際で撮られた、娘と思わしき写真が飾られていた。

この2人。特に母親の方はまるで、息子の事を考えて居ないようだった。プレートを目にした時に、父親と違い眉一つ動かすことなく、

出て来たセリフが息子の事ではなく、自身が戦場に赴くという趣旨の発言をしたことからも、それがうかがえる。

 

「香奈恵さん。私達では、勝つ術がないんです。ファフナーでなければ」

 

千鶴は、飾られている娘の写真を見ながら、説得するように言葉を紡いだ。それが彼女たちの耳に届いているかは疑問が付くが。その証左が、鏑木充の口から紡がれていく。

 

「要隊長は、通常兵器で戦って死んだ。私達も、訓練を受け続けています」

 

「通常兵器では、誘導と時間稼ぎしかできません。敵と"戦闘"をするのは、あくまで鏑木"彗"君です」

 

レイは、「戦闘」と「彗」を強調して夫妻に言った。その口調は柔らかな物ではあるが、戦闘の後に態々「を」を入れたことからも、通常兵器は戦闘の役には立たないと言うことを述べている。そして、史彦がレイの言葉に続けるように言う。

 

「お前が彗君の支えになれ。鏑木」

 

鏑木充は、顔を伏せ、伏し目がちになりながらも、息子の写真と名前が入ったプレートを見ていた。だが、妻の香奈恵はどういうわけか、そのプレートを見る事はない。その態度はまるで、初めからプレートなどないと言っているようにも取れた。

 

鏑木家を後にした3人。そして、3人目の場所へ向かう途中、レイは戸惑うような声で口を開いた。

 

「真壁指令。あまりプライベートに干渉するのは好ましくありませんが、あの写真の娘はいったい……?」

 

レイの質問に指令は、静かに語り始めた。

 

「彼女は鏑木早苗。7年前、『L計画』で島を守るために戦ってくれた戦士だ」

 

「『L計画』……それをあの人たちは今も引きずっているの」

 

「……なるほど」

 

史彦と千鶴の言葉に、レイは一言つぶやくと、少し考えるそぶりを見せてから「有難う御座います」とお礼を述べる。3人目、御門家までは少し遠い。

 

 

――――

 

御門昌和はプレートを見た時、眼を閉じて深く深呼吸をした。覚悟はしていた。と言う風に感じたが、それでも辛いという感情は隠しきれず、震えた声で、「息子を、よろしくお願いします」と頭を下げたのが印象的だった。

 

そうだ、僕は彼ら3人のパイロットの命を預かる立場だ。その意味を言葉だけでなく体で理解するには、通達に同行して正解だった。

 

2年前の西尾姉弟達の様に、ある程度の進行があった時とは違う。彼らとは、1から繋がっていくのだからと、部隊長としての責任がいつになく重く感じられた。

 

今はもう夕刻。偽装鏡面によって作られた太陽が鮮やかな夕日を描く。真壁指令と遠見先生の2人と別れ、1人街道を歩く。海岸線に浮かぶ綺麗な夕日とは、中々のシチュエーションである。いい空気になるであろう2人の邪魔をしたら悪いので、

1人になったというわけだ。

 

1度自宅へ戻ると、何やら向かいの羽佐間家の書斎の明りがついていた。不思議に思い、

羽佐間邸の門を開け、呼び鈴を鳴らす。すると、10秒ほどたったころだろうか、慌てた様子で走る音がドア越しに聞こえてきた。

 

「はい!今開けます」

 

中から出て来たのは、意外なことにカノンだった。あれ、まだブルグにいると思っていたのだが……。

 

「レイ!通達は終わったのか?」

 

「ええ。今しがた終わったばかりですが、貴女はどうされました?訓練が終わって、機体の整備をしていると思っていたのですが……」

 

ドアを開けて居るのが僕と解った瞬間、慌てていた顔がパッと明るくなり、僕が質問をすると眼を泳がせ「それはだな……」と戸惑う表情へ、コロコロと変化する彼女を見てやっぱりかわいいなあと、何処か他人事のような感想を抱いたが、それはそれでもう一度訪ねると、機体コードが不評だったらしく、しかも「仮コードだから、本登録の時にはもっといい名前つけてくれるはず」と変に期待されてしまったらしく、その期待に応えるため書斎の本を開いてあれやこれやと機体コードに相応しい物を探しているところだったという。

 

「ところで、仮登録の名前はなんっだったんですか?」

 

「……マークエルフ改『フェート・フィアダ』」

 

「トゥアハ・デ・ダナーンが用いる隠形の能力ですか」

 

カノンはどうやら故郷たるアイルランド神話から名前をとっていたらしい。

 

「マークゼクス改『フラガラッハ』……」

 

「ルー神が振るう報復の剣ですね」

 

「…………マークフュンフ改『リア・ファル』……」

 

「エリンの4秘宝の一つ、フォールの聖石ですか」

 

どれもこれも僕らにとってはなじみ深い神話の物ではあるが、日本人である彼らにはなじみの薄い物であるし、独特の言語からくる名前は言い辛いし、人によってはカッコ悪くも移ってしまうだろう。

 

そして、何より……

 

「何とも、面白いチョイスですね?」

 

「煩い!!」

 

カノンは顔を赤くして悲鳴のような声を上げた。神話から名前を取るのは戦意高揚とモチベーション、精神的な観点から見ても割かしよくある話ですが、もうちょっとこう、もっとメジャーな所から引用しても良かったのではないでしょうか?

 

「メジャーどころじゃいけなかったんですか?」

 

「お前がさんざん自分の機体に使っているだろうが……!」

 

と、恨めしそうに上目ずかいに睨まれても反応に困りますが……あ、ちょっと涙目になってるところが可愛い。

 

「と、言われましても精々がアルスター関係しか引用していませんけれど?」

 

「とにかく!本登録には日本神話を使う!もう決めたんだ!!」

 

そういってカノンは机に開かれている時点のような分厚い本を読み始める。折角なので、僕も手伝うことにした。彼女の机に積まれている本の1冊を手に取り、

開く。漢字はあまり読めないけれど、語感がよさそうなのを引っ張ってみようと思う。

 

こうして、僕とカノンは夜遅くまで、機体コードについての議論を続ける事になったのだ。




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